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島崎さんのとっておきな話

 

 今日は雪野将王が青葉将棋道場に来る日だ。1時から来るみたいなので早めに12時に道場に着く。


「おはようございます! 島崎さ……んん?」


 道場にいたのは島崎さんではなくて、やわらかい雰囲気の美青年が座っていた。


「おはようございます。はじめまして。雪野冬馬ゆきのとうまと申します。よろしくお願いしますね。青葉蜜柑さん。ですよね?」


「は、はい。青葉蜜柑です。よろしくお願いします。雪野将王にお会いできて光栄です。」


 初めての場所のはずなのに優雅にリラックスしている雪野将王にびっくりする。


「あの、島崎さんは?」


「杏介なら買い出しに出かけましたよ。」


「そうなんですね。島崎さんがいなくて、雪野将王だけが居たので少しびっくりしました。」


「君の話は杏介からいつも聞いていますよ。元気で明るくて可愛らしい。まだ、中学1年生なのに自分をしっかり持っていて将棋愛に溢れた女の子だって。」


「いやぁ、なんだか照れますね。島崎さんにそんな風に思っていただいて嬉しいです。」


「感謝の気持ちや誉め言葉には謙遜せずに受け取れ。とよくおじいちゃんが言ってますので。」


「杏介をとても信頼しているのですね。そうだ。青葉さんに杏介のとっておきの話いたしましょう。」


「とっておきの話……?」


「ええ。でも杏介にはくれぐれも内密に。僕と青葉さんのここだけの話です。」


 ふふっと笑う雪野将王。

でも、いいのかな? 島崎さんのとっておきの話聞いてしまって。

と考えているうちに雪野将王は話し始めた。


「あれは、今から10年ほど前。僕が五段で杏介が奨励会の三段だったころ。

杏介は奨励会の傍ら大学にも通っていて、そこである女性に恋をしたんです。」


 

 ……ええー! いきなり恋バナ!? 本当に聞いて大丈夫なのだろうか。


「えーと。その話本当に私が聞いても大丈夫なんでしょうか?」


「大丈夫です。青葉さんは安心して聞いてください。」


 と雪野将王は微笑む。


「……はい。」


 雪野将王はとても穏やかな雰囲気を身にまとっているが、何故だか有無を言わせない迫力がある。


「修行中の身で恋愛なんて。と悩みつつも女性と仲良くって行く杏介なんですけど、ある日近くのカフェで2人きりでお茶をしようと呼び出されたらしいんです。杏介はウキウキ気分で向かったそうです。そして、先にカフェで待っていた女性としばらく和やかに雑談していた。が会話がひと段落とき、女性が聞いて欲しいことがあると言ってきた。」


 いけないと思いつつもついつい聞き入ってしまう。


「杏介は胸の高鳴りを抑えつつ、聞いて欲しいことってなにと言ったそうです。すると女性は笑わないで聞いてくれると杏介に問いかけてこう言ったそうです。私、宇宙飛行士になりたいの。と。」


「え!? 宇宙飛行士?ですか。」


 あまりに想定外すぎる言葉に拍子抜けする。


「女性曰く、他の人には恥ずかしくて言えなかったけど、島崎君は誠実で優しい。それに真剣に夢を追いかかけているから笑ったりしないと思ったらしい。」


「確かに島崎さんなら絶対笑ったりしなさそうですもんね。」


「女性に杏介はこう言ったそうです。夢を叶えるのは簡単じゃない。でも、宇宙飛行士になりたいんだよね。だったら、すべてを自分で背負ってやってみたらいいじゃないかな。と言ったそうですよ。」


「あの、その女性は今どうなっているんですか?」


「最近、聞いた話だと相談をした翌年に海外に留学して今でも、海外の研究所で宇宙の勉強や研究で充実した生活を送っているみたいですよ。恋には破れたが彼女の夢は守れたって。杏介が言ってました。」


「島崎さんの言葉がなかったら夢をあきらめていたかもしれない。その女性にとって島崎さんはヒーローですね。」


「僕は感謝しているんですよ。杏介が将棋の世界に戻るきっかけと新たな夢を持たせてくれた君に。就職した会社で上手くいってなさそうで日に日に自信を失っていく姿を見るのは辛かったし、だんだん疎遠になっていくのが僕は悲しかった。でも、今は輝いている。2人で夢を追いかけていたあの頃のように。」


「島崎さんが居なかったら青葉将棋道場にはなくなっていました。島崎さんは私にとってもヒーローです。」


 雪野将王と島崎さんについての話をしているとガラリと扉が開き、島崎さんが大荷物を抱えて戻ってきた。


「おかえりなさいです。島崎さん。ずいぶんと大荷物ですね。」


「イベントの小道具や飾りつけの画用紙と、色紙の買い足しあと、ところどころ壁にひびが入っているから補修道具とDIY用品と買ったら大荷物になってしまったんだ。」


 買ったものを見るとおもしろいグッズを見つけた。


「熱い漢の瞳。このアイマスクですね!」


「目隠し将棋で使おうと買ったんだ。雪野がつけるとお客さんも沸くと思ってね。」


「えー。これをつけるの? 僕のキャラじゃないんだけど。」


 雪野将王が若干、不服げに言う。


「協力してくれよ。雪野のおもしろアイマスク姿を見れるのは青葉将棋道場だけとなれば、知名度もアップルすだろうし。」


  島崎さんは雪野将王の肩に手を置いて笑った。


  雪野将王にも手伝っていただいて、ワイワイと準備や当日のイベント運び、簡単なリハーサルを行った。午後7時過ぎにお開きになって、島崎さんと雪野将王はこれから飲みに行くらしい。


 準備はほぼ完了したしあとは、イベント当日を待つばかり。



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