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高井田君の昇段試験


 ただいま3月下旬春休みの真っ只中。

私も4月で中学2年生か。


 島崎さんもアマ名人戦で全国3位になり。

続くアマ将王戦でも全国大会進出を決めた。

この大会でベスト4に入るとプロの公式戦に出場できるので

私も我がことのようにドキドキしている。


 そして青葉将棋道場ももう少しで1周年の節目だ。

イベントも計画中だったりする。


「おはようございまーす。」


「おはようございます。早川さん」


 アマの大会は基本土日にある。これからは島崎さんも道場に来れなくなることも多くなので

大学生の早川さんが土日だけ道場にアルバイトとして手伝ってくれることになったのだ。


「昨日の動画すごかったですね! 五段の方に勝つなんて!」


「はは。ありがとうございます。いやぁ、あの対局は会心譜でしたよ。」


 早川さんは将棋実況動画を動画サイトに投稿しているのだ。軽快なトーク

が人気でチャンネル登録者数は3万人を超える人気配信者だ。


「あれ、島崎さんまだ来てないんですか。」


「はい。今日は私が一番乗りでした。いつもは島崎さんの方が早いのに。」


 と言っていると階段を昇る音がして"ばっ"とドアが開いた。


「すいません。遅れてしまいました。」


「全然。まだ、開店1時間前ですよ。」


 私たちは開店準備をする。


「今日は高井田君の昇段試験ですね。」


「そうだね。青葉さんに過去3回昇段を阻まれているから、今回は絶対にと

気合がかかっていると思うよ。」


「前回は泣いて悔しがっていましたからね。でも私は容赦しませんよ。」


「それでこそ試験管だよ。簡単に超えられる壁ではいけないからね。」


 いろいろ話しているうちに開店時間になった。

そして開店から5分もたたないうちに高井田君がお母さんとともにやって来た。

心なしか面持ちは険しく今日こそは絶対に勝つ!!

という決意に満ち溢れているように思えた。


「こんにちは。高井田君。」


にこやかに挨拶する島崎さんをしり目にまっすぐ私のところに来て


「よろしくお願いします。」


 と私に挨拶と一礼して席に着いた。


「はは。やる気満々だね。」


 早川さんが笑う。


「ダメでしょ。島崎先生に挨拶しなきゃ。」


「いいですよ。お母さん。礼儀正しい高井田君がこんなにも必死になってる。

将棋への熱意の表れで僕は嬉しいです。」


 島崎さんが高井田君のお母さんに嬉しそうに言った。


「じゃあ、始めようか!」


「はい。」


 私は席に着き、駒を並べて対局の準備をする。

駒が並び終わり、私はふぅと一息入れる。

よし、負けないぞ。


「「お願いします。」」


 この対局は私の上手で飛車と香車落ちだ。

なので私が先手。

ハンデ戦は通常の対局と違い飛車角の歩をつかず金銀を動かすことが多い。

私も金銀を動かし玉を固める。


 高井田君は果敢にガンガンと攻めてくる。

私は極力慌てず丁寧に受ける。

高井田君も深追いはせず駄目だと思えば引いて立て直し

また、攻める準備をする。


 対局が開始して1時間ほど経過したがお互いに決定的な流れが作れず膠着状態となった。

攻撃の要である飛車がないので私からは迂闊に攻められない。

ここで受けつぶして勝つ!!


 私は歩を使って受けた。

だが、ここで放った高井田君の手が予想外だった。

銀を見捨てて桂馬を飛んだ!? これは? どういう意図があるんだろう?

私は分からなかった。とりあえずタダ銀を取った。 


 しかし、この手が敗着となった。

まさか、攻め潰されるのなんて思いもよらなかった。

手堅くいったのが悪手だったなんて。

桂馬2枚、角、銀、4枚の攻めで合計9手のコンビネーションなんて想像もできなかった。

凄まじい才能だ。少し嫉妬する。


「負けました。」


 私は頭を下げた。


「ありがとうございました。」


 高井田君も頭を下げる。


「おめでとう。初段昇段だね。」


 悔しさはあるが新生青葉将棋道場になって初めての初段昇段はとても嬉しい。

高井田君はこのまま頑張ればプロになれるかもしれない。

そんな希望さえも抱いてしまう。


「将翔がこんなにも早く昇段できたのは島崎先生と青葉さんのおかげです。

本当にありがとうございます。」


「僕はもっと強くなりたいからこれからもよろしくお願いします。」


 高井田君とお母さんが深々とお辞儀をした。


「高井田君は誰よりも熱心だからどんどん強くなると思うよ。

だからこれからも一緒に頑張ろう。」


 島崎さんが高井田君の眼をしっかり見て言った。

他のお客さんが来るまで高井田君のプチ昇段パーティーを行い楽しんだ。

青葉将棋道場に有望の子がたくさん集まるように私は頑張らないと。


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