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彼は絶対に将棋に向いている

ついにやってきた商店街祭り。

この椿通り商店街は駅と椿木神社を結ぶこの街のメインストリートだ。

今日は、椿木神社の縁日もあるのでこのあたり一帯は大変な賑わいになる。


 私と島崎さんはビルの下にフリー対局用の将棋盤を3つ懸賞対局用のオセロ盤を5つ設営した。


 懸賞対局のルールを書いたポップボードを設置。

でも、ルール本当に大丈夫かな。2、3回負けただけでも結構な負担になるけど……

と思考を巡らせていると


「オセロで勝ったら本当に1万円分の商品券貰えるんですか?」


2人連れの青年の1人が声をかけてきた。大学生くらいだろうか。


「はい。ハンデなしで勝てたら商店街で使える商品券1万円を。

僕に負けても石の差が3枚以内なら5千円、7枚以内なら千円分を贈呈します。

料金は高校生以上が200円、中学生以下は100円です。」


「おもしろそう。やってみようぜ!」


「俺はいいよ。ボードゲーム系苦手だし。」


「じゃあ、俺だけやるよ。ちょっと待ってて。」


そう言って席に座る。


「では、よろしくお願いします。」


 縁日の余韻か、お手ごろな価格設定もあってか挑戦者が断続的に訪れた。

島崎さん多面打ちで手際よく打っていく。

 

「いや~負けた。」


最初に来てくれたお兄さんが島崎さんに負けたようだ。


「ありがとうございました。少しでも将棋に興味あるのでしたら青葉将棋道場をお願いします。

あと、参加賞がありますのでそちらの箱から好きなものをお取りください。」

 

 私は常連さんと縁台将棋を島崎さんは懸賞オセロ対局で忙しい時が過ぎていった。

9時前になって縁日から帰ってくる人が少なくなり、お客さんがいなくなって小休止。


「どうですか?私が見た時は全勝でしたけど。」


「まだ、一度も負けてないよ。仲間内でもオセロは強い方だったんだ。今でもたまにネット打っているよ。」


「棋力どれぐらいなんですか?」


「えっと、六段だったかな。」


「ろ、六段!? ネットオセロで六段なら多分、全国大会出場レベルですよね。将棋界でもそうだから」


「リアル大会には出たことはないけどね。」


「でも、縁台オセロではどの対局でも接戦でしたよね?」


「流石に大差で負かして青葉将棋道場が敬遠されるのは避けたいから勝ち方にも気を使わないとね。」


 ははっと笑う島崎さんに悪魔を見た気がした。

これは周りより強いレベルでは到底勝てないよ。


 ふと、視線を感じ視線の先に目をやると小学校1、2年生ぐらいの男の子がこちらをじっと

見ていることに気付いて男の子に笑顔を作る。


すると男の子はお母さんと何やら会話して終わるとこっちに近づいてきた。


「あの……僕もオセロで対戦したいです。」


「どうぞ、どうぞ! でもあのお兄さん結構厳しいけど」


 男の子がオセロ盤の置いている椅子に座る。


「こんばんは。お名前は何と言いますか?」


「こんばんは。高井田将翔たかいだまさとといいます。」


「何年生ですか?」


「小学1年生です」


「しっかりしていますね。ハンデ、えっと、ハンデってわかるかな?」


 島崎さんがルールの説明をするが高井田くんはいまいち要領を得ないようだ。


「すみません。お金払うのを忘れていました。」


 高井田くんのお母さんが盤の前までやって来た。


「ありがとうございます。」


 島崎さんはお母さんにルールを説明して高井田くんにわかるように代わりに説明してもらった。


「ハンデいらないです」


「いらない。本当にハンデはいらないですか?」


「はい。」


「わかりました。では、よろしくお願いいたします。」


 じゃんけんの結果、高井田くんが黒(先手)となった。

対局が始まりお互いに長考することもなく手際よく打っていく。

そして、5、6分で決着がついた。


「えっと、僕の3個差勝ちですね。」


「もう1回やります。お母さん僕の財布出して」


自分の財布から100円を出して島崎さんに渡す。


「ハンデはどうします。」


「いりません。」


「……わかりました。ではお願いします。」

 

 今度は10分ほどで終局し結果は島崎さんの4個差勝ち。


 驚くことに高井田くんは再び財布から100円を取り出した。


「……もう1回お願いします。」


「わかりました。」


 三度は対局が始まった。

結果は……島崎さんの5個差勝ち。


「もう……1回」


 ボソッと呟く。よく見ると高井田くんは涙目になっていた。


「もう、止めなさい」


 お母さんが高井田くんを制止する。


「僕のお金でやってるんだ。お母さんには関係ない。」


「いい加減になさい。9時よ。お父さんだって帰って来てるだろうし、心配してるよ。」


「……あと1回、あと1回だけいいでしょ。お母さん。」


 高井田くんはお母さんに目に涙をいっぱいにためてお願いする。


「酷いことを言うけど何回、何十回やっても僕には勝てないですよ。

君は本当に強い。これまで来た人の中で1番だ。

だから、7枚差以内のハンデをつけましょう。いいですか?」


島崎さんは高井田くん目をじっと見て諭すように言う。


「……わかりました。」


「では、よろしくお願いします。」


 最後の対局が始まった。

先までの対局としがってスローペースで進行している。

高井田くんは今度こそ絶対に勝ちたいと表情に書いてある。


「あの子、オセロをほとんどやったことがなかったのに

学校のオセロ大会で低学年の部で優勝して強いと自信を持ってたみたいで……そうでなくても頑固で

負けず嫌い。ああなっちゃったらいさめるのに苦労するの。」


 ご迷惑をおかけごめんなさいね。とお母さんは私に言う。


「いえいえ、とんでもないです。こちらこそ容赦なくてすみません。」


「ははっ。確かに容赦ないけど、あの子にはいい薬になるわ。」


 など世話話をしていたら終局が間近のようだ。


 手番は高井田くんだ、右上隅の角打てば5つ返せる。

最後の左下は2個しか返せないから、接戦に見える。


 島崎さんが最後の手を打ち石の数を数える。


「僕の6個差ですね。高井田君の勝ちです。」


「良かったじゃない。将翔!」


「すごい! 島崎さんは全国レベルだから誇っていいよ!!」


「……」


 喜ぶお母さんと私とは裏腹に納得いってない様子の高井田くん。


「高井田君はボードゲームのいや、将棋の才能があると思う。だから是非青葉将棋道場に来てほしいです」


「でも、将棋はしたことがないし」


 お母さんとの言葉に島崎さんはすかさずに返答した。


「無料の入門コースを用意しています。それで、合うなら続けていただければ嬉しいです。

ですが合わないなら無理強いしません。」


「僕、将棋やってみたい。で、いつかお兄さんに勝ちたい」


「来てくれるのを楽しみ待っています。」


 賞品である千円分の商品券と道場のチラシを渡して高井田くんとお母さんは帰って行った。

商店街祭りが終わり騒がしかった辺りは静かになり、撤収作業を行っている十数人が見えるだけになった。


「高井田くん道場に来ますかね?」


「彼は来ますよ。絶対に。」


「じゃあ、大成功ですね!」


「ふふ、そうですね。」

 

 島崎さんは嬉しそうに笑う。


「青葉さんは帰っていいですよ。撤収作業は僕がやっておきます。」


「いや、やります。1人じゃ大変だし、私も道場の責任ですから!」


「でも、もう午後22時を過ぎています。」


「逆に10時過ぎてるのに1人で帰らせようとするのはどうかと思います!」


「うう、わかりました。家まで送っていきますから、一緒に撤収して早く終わらせましょう。」


「はーい!」



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