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僕より強くならないと女流タイトルは獲れないよ


 こんなに強く誰かに勝ちたいと思ったのは初めてだ。

今まで勝ち負けより楽しめればいいとモットーだったのに……

やっぱり、全国規模の大きな大会で優勝できる可能性を考えたら、そういかない気持ちになる。


「まもなく決勝トーナメント2回戦を開始します。対局者は席についてください。」



 軽く深呼吸をして席に着く。

すでに席に着いている相沢さんの顔をちらっと見て

私は思わず息を飲んだ。

半年前に練習対局したときとは全然違う。

目が座っていて、伏し目で私を見る目はとても、真剣で少し恐い顔をしている。


 私はどんな顔をしているんだろう?

と考えながら駒を並べていく。


「振りましょうか?」


「はい。よろしくお願いします。」


 相沢さんが振り駒をする。

結果と金が3枚で私が先手だ。


「時間になりました。対局を開始してください。」


「「お願いします」」


 先手だし積極的に攻めたいところだが、この対局はしっかり囲って自陣を安全にしてから動く。

相沢さんの受けは辛抱強く、カウンターは強烈だ。一点の隙も許されない。


「青葉さんは攻め急ぎすぎだよ。陣形を整えてからでも大丈夫。青葉さんの攻めは十分に強いから。」


 島崎さんの言葉を思い出す。

しっかり囲いながらも急戦で攻めるようにしっかり勉強と修行をしたんだ。

大丈夫私ならできる


私が飛車先の歩を突くとほとんど時間を使わず相沢さんは角道を開けた。

相沢さんは振り飛車党だ。

さぁ、どこに飛車をふる。


 数手進み、相沢さんは飛車を4筋に振った。

半年前の対局と同じ四間飛車か……なら、この作戦でいこう。

elmo囲い急戦!!

当然、相沢さんもelmo囲い急戦を知っているだろうが舟囲いに比べて堅い

にもかかわらず鋭い攻めができる、近年将棋ソフトにより生まれた戦法だ。

とはいえ、舟囲いよりは手数がかかるので相手に高美濃囲いにさせてしまうけど。


 お互い駒組を進めていき、ついに駒がぶつかる。戦いの始まりだ。


 局面は流れお互い持ち時間を使い切り秒読みの一進一退の終盤戦になった。

この局面、攻めるべきか受けるべきか……どうすればいいのか。

ああ!! じ、時間が切れる!!

とりあえず、玉の早逃げ8手の得!! 脱出経路を造ろう。


 更に局面が進み私の玉が入玉できるか否かで勝負がつく展開になった。

右辺ががら空きだ。点数はギリギリ足りている。

小駒を使って受ける。

絶対に勝つ。逃げ切ってやるんだから!!


 やった。

玉が敵陣の3段目に入り入玉の条件を満たした。

点数も丁度足りている。王手もない。


 勝った…… やった……

次の手で宣言しようと思ったとき


「…………負けました。」


 小さくうつむきながら相沢さんが言った。


「あの、誠に申し訳ございませんが、時間が押しているのであと7分ほどで

準決勝を行います。」


とスタッフの方が私に告げた。

そうすると。相沢さんはありがとうございました。と言って矢継ぎ早に席をあとにした。


 秒読みになっても相当続いたからな。200手超えたかもしれない。

とりあえずお手洗いに行こう。

相沢さんと熱戦を振り返る暇もなく次の戦いに向かう。


「それでは、準決勝を開始します。」


 準決勝の相手は元奨励会5級の安住聖羅あずみせいらさんという大学生の方だ。

超強敵だが頑張ろう。


 しかし、結果は負け。

強い。疲れていたとか言い訳にならない。完全に実力で負けた。

正直、これまで戦った人たちとは桁違いの強さだった。


 この後、三位決定戦にまわり辛くも勝利したて三位入賞することができた。

表彰式の写真がホームページに載るらしい。なんだか恥ずかしいなぁ。

賞状とメダル、商品を貰った! お母さんにも胸を張って言えるぞ!

優勝は準決勝で戦った安住さんだった。


「三位おめでとう。どの対局も素晴らしかったよ。」


「ありがとうございます。島崎さんの指導のおかげです。」


と話していると


「島崎さん……」


「こんにちは。相沢さん。」


 相沢さんが島崎さんに声をかけて2人が会話をしている。

先程の対局もあってどう、相沢さんと話せばいいか悩む。


「あの……青葉さん」


「はい!」


「とても素晴らしい将棋だった。負けました。」


「……ありがとうございます。」


「島崎さんにお伝えしたいことがあるんです。」


「なんだい。」


「私。来年度から研修会を休会します。」


「え!?」


驚いてつい、声を出してしまう。


「今でも女流棋士になるのは夢です。でも……もう一つ夢ができたんです。

実は高校入学したときから考えていたんです。半端者だと思うかもしれませんが……」


「そんなことないよ。夢がたくさんある方が楽しいと思うよ。」


「どんな夢なんですか」


私は少し緊張しながら聞いた。


「獣医師です。もともと動物好きだったんですが、例えば女流棋士になっても第一線で活躍できる

人間にはなりえない。タイトルなんて夢のまた夢。と悩んでいました。

そんなとき傷ついた猫を見つけたんです。その仔の世話をしていくうちに獣医師になりたい

と思うようになったんです。」


「相沢さんなら女流棋士、獣医師どちらの夢も叶えられる。応援するよ。」


 私もそう、思うと大きく頷いた。


「ありがとうございます。島崎さん、青葉さん。春休みに青葉将棋道場に参ります。そのときはよろしくお願します。では、塾があるので失礼します。」


「うん。来てくれるのを楽しみにしているよ。」


「さようなら。相沢さんの夢、応援しています。」


 相沢さん大会会場から去って行った。



「お疲れさま。三位おめでとう。」


「ありがとうございます。でも準決勝で当たった安住さんとは相当、実力差を感じました。」


「まぁ、彼女は元奨励会員らしいからね。」


 帰りの電車で帰り大会の振り返り。

祝勝会&反省会。


「今の女流棋士のトップの実力どれくらいなんですか。」


相沢さんの言葉が気になり島崎さんに聞いてみる。


「実力か……女流5冠の朝霧舞子あさぎりまいこさんは現奨励会三段だよ。」


「え?」


 正直、戦慄した。奨励会三段ならほとんどプロ棋士と変わらない。

元5級でもあんなに強いのに、奨励会三段なんて、平手どころか飛車落ちですら勝てないよ。


「最低、僕よりも明確に強くならないと女流タイトルは獲れないよ。

僕と朝霧さんなら、朝霧さんの方が強いと思う。」


 その言葉を聞いて相沢さんが悩んだ理由が分かった。

島崎さんに勝ち越すなんて想像できない。無理だ……

 

「……今は大会で成績を残せたことを喜ぼう! 駅に着いたら丁度いい時間だから夕飯も奢るよ。」


「いいんですか! ありがとうございます!!」


 まぁ、将棋は楽しんだもの勝ちだ。考えすぎないようにしよう。



 時は流れ3月中旬


「前夜祭なんて初めてだからドキドキするな。しかも今回は島崎さんがいないし。」


 大きくて奇麗なホテルの前で深呼吸する。

私は隣の市で行われる将王戦第7局の前夜祭に当選して参加できることになった。



今回で女流アマ名人戦編は終了です。

ありがとうございました。

次回からは「将王戦第7局」編です。

よろしくお願いいたします。

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