多摩丘陵のスケッチ
聖蹟桜ヶ丘駅からのつづら折りの車道を直登する階段はアニメでお馴染みの光景そのものであった。アニメ放映から20年以上も経過しながらも、聖地巡りとおぼしき若いカップルや年配の旅人達と頻繁にすれ違う。住宅地の中心にあるロータリーもアニメそのものの姿で目の前に現れる。ロータリーは丘陵の頂点を過ぎてもう下り坂なんだと分かる。地球屋はない。代わりに小さな魚屋があり、その目の前の道路には不釣り合いな高級車が二台横付けされている。持ち主はその小さな魚屋で買いをしている高齢の女性だ。
歩き続けると道の正面から道路幅と勾配には相応しくないほどの大きな路線バス上って来ており、過ぎ去った後に目に飛び込んできたのはやはりアニメの中に出てくる雫のアパートの隣にある水道の給水塔であるが、それが想像以上の高さと大きさだったために大変驚いた。
ずうっと緩い坂道を下りながら目につく幾つもの町内を知らせる住宅地図の看板には、今の時代には珍しくと思うのだが、それぞれの家の家主の名字が一つ一つ丁寧に示されていた。
多摩川からの丘陵はロータリー手前から下り坂は乞田川まで適度な勾配で続いていくが、乞田川を越えるとまただらだらとした上り坂となりながら京王電鉄の線路を横切る。永山駅は程よい大きさのちょっとしたアミューズメントのビルが立ち並ぶ。近くには総合病院もある。パチンコ屋を覗くとずらっと並んだ人で一杯であったが、ほとんど高齢のご老人達ばかりだ。
永山団地は緑の丘のなかにたたずむ静かな風情が印象的的だ。ただ、行き交う人々は制服の女生徒も少しは居るものの、大概は杖を付いたご老人達で、この自然の勾配のある団地群の間を歩く生活スタイルは長寿の秘訣になるのか負担になるのか、少し微妙な心持ちである。
永山団地から西に向かうと、さらに今度は下り坂となる。丘陵の勾配差が大きいため、道路にも宅地にも公園にも出来ないのり面が大きく取られ、のり面を下る階段はまるで非常階段のような狭さと急勾配とで目が廻りそうになる。
尾根と谷がまるで葉っぱの葉脈ように尾根と谷を交互に繰り返すように広がった開発なのだろう。鎌倉街道まで下り。そこからまた、上り坂。アパートと一戸建住宅と公園と坂道と学校配置のコラボレーションの人工の街並みは、エレベーターとスーパーのない生活の不便さを越えたアミューズメント的な魅力で溢れていた。ふと、夕張の鉱山の街並みを思い出す。
歩き疲れも忘れひたすら歩いた。
多摩の丘陵は緑に溢れていた。
多摩の谷は緑なりき、そう心に滲みた。