01●はじまりに……秘められた伏線の謎
※本稿は必ず、劇場アニメ作品『太陽の王子ホルスの大冒険』の本編を、
DVD等でご覧になってから、お読み下さい。
●はじまりに……秘められた伏線の謎
西暦2018年4月、高畑勲監督、逝去。
2013年に公開された、スタジオジブリ制作の『かぐや姫の物語』が、高畑監督の遺作……生前“最後の”監督作品……となりました。『火垂るの墓』(1988)とともに、高畑監督の代表作とみてよろしいでしょう。
しかし、もうひとつ、見落としたくない代表作があります。
それは、高畑勲氏の“最初の”劇場アニメ監督(実質的な監督)作品。
氏が他界される、ちょうど50年前のこと……
1968年に公開された、東映動画制作の『太陽の王子ホルスの大冒険』です。
当時、劇場アニメは“天然色長編漫画映画”などと呼ばれ、あくまで子供向けの、マイナーなジャンルでした。
そこに、大人の鑑賞眼にも耐えうる高度な内容をめざして登場したのが、『ホルス……』です。
21世紀の今からみても驚異的な作画枚数、破格の制作費と製作期間。
そして、当時30歳代前半であった高畑勲監督に率いられ、20代であった宮崎駿氏をはじめ、アニメ界のリーグ・オブ・レジェンドが惜しげもなく注ぎ込んだ、若き情熱。
それが、わずか82分という上映時間に凝縮されています。
ぜひ、もう一度、ご覧になってください。
ただし、なんとなく受身で観るのではなく、頭の中に「なぜ?」という疑問符をつけて。
「悪魔グルンワルドは、実は、弱いのではないか?」
「悪魔グルンワルドは、本当の悪なのか?」
「“なりたくないわ、人間なんかに!”……ヒルダはなぜ、そう言ったのか?」
「ヒルダはどのような動機で、“悪魔の妹”になったのか?」
「ヒルダの生まれ故郷は、どこなのか?」
「なぜ、グルンワルドはヒルダを悪魔の側にリクルートしたのか?」
「一瞬、ホルスの男性器を見せたのは、どのような意図が?」
「“太陽の剣”は、何を意味しているのか?」
「岩男モーグは、なぜ人類の味方をするのか?」
「ヒルダとホルス、二人の出会いは偶然だったのか? 初めてだったのか?」
「ヒルダがホルスを“兄妹ね。双子よ”と言った意味は?」
「ヒルダはなぜ、ホルスを殺さなかったのか?」
「ホルスはなぜ、無抵抗のグルンワルドをあえて処刑したのか?」
「ヒルダがホルスへの愛を悟ったのは、いつなのか?」
「ヒルダはなぜ、グルンワルドを“裏切った”のか?」
「ヒルダはなぜ“生き返った”のか? それとも?」
「ホルスは、行方不明となったヒルダの救出に赴いたのか?」
「あの幸せそうなエンディングは、どこか不自然ではないか?」
「劇中の歌に登場する“神様”と“お日様”の意味は?」
思えば、謎の多い、いや、多すぎる作品なのです。
さらに付け加えるならば……
その後の所謂“宮崎アニメ”や“ジブリアニメ”……その中でも、特に『未来少年コナン』『風の谷のナウシカ』『もののけ姫』、そして『崖の上のポニョ』『かぐや姫の物語』に通底する共通要素とは何か? また、ちらりとですが、『コクリコ坂から』にも関係する要素が見えるのでは?
そのようなことを頭のどこかに置いて観れば、おそらく、数多くの新しい発見があり、同時に疑問も生まれることでしょう。
なぜならば……
驚異的にして破格の時間と労力と製作費を注ぎ込み、超天才級ともいうべきスタッフ陣の、たぎるばかりの情熱を結集して制作された『ホルス……』なのです。
それが、月並みな、ただの子供向けアニメであるはずがありません。
しかも……
当時、劇場アニメは中短編とりまぜて三~四本立てが普通の時代。
使用できるフィルムの尺に、過酷なまでの制限が課されます。
高畑監督のもと、ストーリー、キャラクター、世界設定が徹底的に練り込まれ、濃厚なまでの完成度を誇る作品が、わずか82分に凝縮されねばならなかったのです。
当然、徹底的に、内容の無駄が省かれます。
削れる限り削って、どうしても落とせないぎりぎりの場面だけを残した作品になったはずです。
たとえ1秒とて、余分なカットは無いのです。
それどころか、おそらく1980年代以降の、2時間クラスの劇場アニメなら、丁寧に描き込まれたはずのサイドストーリーが、大幅に省略されていると考えてもよいでしょう。
そこに、宿命的な“説明不足”が生じます。
本来なら描かれるべき巨大な伏線が、ストーリーの水面下に隠されてしまったのです。
先に掲げた数々の疑問は、意味のない愚問に見えるかもしれません。
しかし、天才の技でつくられた『ホルス……』のストーリーです。
シナリオの行間の、ふと見落としてしまいがちな空白の奥底には、その答えがしっかりと用意されているはずなのです。
作品の中で起こる出来事を「なぜ?」という疑問符の視点でながめれば、この作品の、目に見えない、いわばステルス化されてしまった根幹の部分が、浮かび上がってくることでしょう。
おそらく、それが本当の、『太陽の王子ホルスの大冒険』なのです。