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本気を出さない戦記  作者: 波奈 貴史
8/8

第8話 強い?

 ......まず、どうしたこうなったんだか。

 俺はこうして目覚めるまでの記憶をどうにか思い出そうとする。


 そうだ。確か、へっぽこ勇者に乗っかって飛んでたら木の中に閉じ込められたんだったな。

 そこからどうにか脱出したと思ったら完全に動きをよまれて紫色の空間の裂け目にズドンという訳だ。


 そんで今に至ると。意味がわからん。

 まあ、間違いなく空間の裂け目というのは人為的に発生させた転移魔法だと思うが、それで飛ばされた先がここだと言うのか。


 相手の目的がよく見えない。まあしかし、ひとつハッキリしていることはある。


「俺は邪魔者で目的はミーシャってことか」


 周囲を見回してもミーシャはいない。

 別の部屋にいると見るべきだろう。

 恐らくミーシャと俺たちをとばした犯人が一緒の空間にいるはずだ。


 おれは今一度部屋の中を見渡した。

 壁、松明、扉、そして植物。この部屋にあるものはそれくらいだ。

 とりあえずあの木製の扉を調べてみるしかあるまい。

 その先に、ミーシャがいるかもしれない。

 俺はよっ、と立ち上がり扉の方に向かった。


「見た目はただの扉だな」


 何の変哲もない扉に見える。

 俺は、ドアノブに手をかけて扉を押してみた。

 .......が、ピクリとも動かない。


「あ?押すんじゃなくて引くのか?でも、ぱっと見は押して開く扉なんだがな」


 俺は扉を引いた。

 ......が、扉はピクリとも動かなかった。


「っなんだよこの扉!」


 ガンと扉を殴る。......手が痛い。


「くっそ、押してだめなら引いてみろ。引いてもだめならぶち壊せだ。......ふんっ!」


 そう言って、俺は扉を蹴りまくった。

 さすがに木製の扉くらい壊せるだろうと思ったのだ。

 しかし、眼前の扉はへこむどころか傷つく様子すらない。


 ......流石に気づいた。


「こりゃ、ただの木じゃねえな」


 俺は眼前のに手を置き、撫でるように手を滑らせる。

 これが木でできていることは間違いない。

 それは手触りからも、匂いからも判断できることだ。

 ただしかし、木で作られたものの強度では無いことも確か。

 何か特別な力が働いているようだ。

 そうなると、この世界でまず疑うべきは魔法だろう。


 ......ちったあ真面目にやるとするか。


 このまま閉じ込められたままってのは気に入らねえ。

 俺をこうしたやつは誰だか知らねえが、見つけてぶん殴る!


 その意気込みをもって、俺は再びドアノブに触れる。

 そして神経を手に、そこからドアノブへと移していく。


「......見えた」


 俺はこのドアから通じる魔力の流れを感じ取る。

 俺は魔力を見て感じ取ったり、雰囲気で感じることは出来ない。しかし、触れれば感じることが、ひいては魔力の流れを意識でおうことも可能だ。


 俺は魔力の流れを辿っていく。


 まず分かったことは、この部屋全体に魔法がかかっているという事だ。

 これはどういうことだろう、と考える。が、すぐ答えは出た。


「この部屋自体が完全に隔離された空間にあるって事か」


 今の状況で俺の中の知識に該当する魔法はこれしかない。

 となると、この扉は物理的な距離を隔てている空間を繋ぐ転移門の様なものだろう。


 更に魔力を追っていく。

 その魔力は、うねるようにしながらどこまでも伸びて行く。

 俺は魔力を追う速度を加速させていく。

 グングンと先へ、暗闇の中に指す一筋の光の元を目指すように先へ......。


 突然、魔力の塊のようなものにぶつかった。

 俺の頭の中に鈍痛が響く。


「ここは......なんだ?」


 俺は目を閉じたまま呟く。

 

 俺はしばらくその塊を調べる。

 ......これが何かはよくは分からないが、ここが終着点だろう。

 それならば、この魔力の塊のどこかに扉を繋ぐ魔力装置があるはずだ。......多分これだな。

 扉から伸びてきた魔力と直接繋がっているから間違いない。


 俺はそこに意識を集中させ、自分の持っている少ない魔力をほんの少しだけ流し込む。


「......これで良しと」


 これでこの部屋を然るべき空間に繋げられたはずだ。

 

 額を汗が伝う感触を感じながら俺は意識を魔力の流れから引き離した。

 そして、ゆっくりとドアノブを捻る。

 すると、何をしても開くことのなかった扉がキーっと音を立てながら開いた。


 扉を通ると、沢山扉の着いた廊下のような縦長の空間に出た。

 俺は、多くある扉のひとつから出てきたようだ。

 そして、右に視線をやると沢山ある扉の中で一際おおきな扉が見えた。

 

「あっちに行ってみるか」


 俺は松明の明かりに照らされながら、おおきな扉の前にたどり着く。


 扉を少しばかり観察するが、特に変わった仕掛けは無さそうだ。

 ただ、俺は痛い目を見たばかりだったので柄にもなく扉を開けるのを躊躇っていた。


 しかしながら、このままここに突っ立っておくという訳にもいかない。

 俺は腹を決めた。

 ドアノブに手をかけて、そっと扉を開く。

 そして、隙間から中の様子を伺う。


 扉の先には広い空間があった。ただ、そこは無数の本棚で埋め尽くされていて中央に机と椅子が置かれてあった。


 そして、その椅子に座っているのはサラリと長く伸ばした青色の髪を持つ美少女、ミーシャがいた。


 その対面には薄い緑色の髪を後ろに長く伸ばしてそれを結んでいる人がいた。 

 ......顔立ちからして男だな。見た目は20代くらいの美青年だ。..... 俺を閉じこめた犯人はこいつか?だとしたら殴る。


 2人は、何やら熱心に話をしていた。

 おかげで、扉の隙間から除くこちらに気づいている様子はない。


 俺はしばらくそのままの状態で2人の様子を伺い続ける。

 しかし、何かを話しているのは分かるのだが距離もあるため話している内容までは聞き取れない。


 ぐあああ、何やってんだ俺らしくねえ。

 やめだやめ。ここは突っ込んでくしかねえ。


 意を決した俺は扉をどんと蹴りあけた。

 その音が話している2人の視線をこちらに向けさせる。


「たのもーう!俺を閉じこめた犯人はどこだ?殴りに来た」


 俺の登場にミーシャも青年も目を見開いた。

 とくに緑髪の青年はたいそう驚いた様子だった。


「ザザンさん......来ちゃったね」


「......あなたは一体どうやってここまで?」


 青年は顔を驚愕に染めたまま問いかける。


「あ?魔力チョロっと流してお部屋の扉を開いただけだ」


「そ、そんな馬鹿な。転移扉を内側から魔力で操作して開けるなんて......。

 ありえないほどの魔力の感知能力と操作精度が必要になることです。信じられません」


 ふうん、俺はそんなにすごい事だとは思わないが、感覚は様々だろう。

 ま、俺様のあまりにも高すぎる一般基準と下々の感覚を比べること自体無駄かな、ふっ。


「別に信じてもらわなくて結構ですう。ただ、事実として俺はお前の前に立っているわけだ」


「......すみません。正直、あなたを侮っていました。魔力も平凡、筋肉量も平凡と、見るべきところがないように思いましたので。

 失礼しました、腐っても勇者様のおともという訳ですね」


 そう言って青年は表情を正す。

 くっそ、どいつもこいつも平凡平凡と並べやがって。許さん。


「ザザンさんって結構凄かったりするの?」


 ミーシャは首を傾げる。


「当然よ。俺は最強の戦士だ」


「最強の戦士は女の子におんぶされてここまで飛んでくるんだね」


 ミーシャは呆れ顔で、額を押さえながら言う。


「ぐぬぬ......。お、俺様は無駄に体力を消費したりしないのさ」


「そういうことにしておくよ」


「それよりだ、この俺をすっ飛ばしたあげく、狭い部屋に閉じ込めたのはお前で間違いねえんだな、青年!」


「はい、間違いありません」


 彼はすました顔で答える。

 罪悪感が全く感じられない。


「そんならだ、てめえを1発殴らせろや。超絶温厚な俺も流石に少しばかりキレてんだよ」


 それを聞いたミーシャは慌てたように俺を止めに入る。


「ザ、ザザンさん。今回彼のしたことには事情があるの。それも仕方の無いような事情が。だから、彼を非難するのは辞めてあげて」


「いえ、勇者様。構いません。今回あなたがたに攻撃を仕掛けて危険に晒し、さらに不躾にも無理やり転移でここまで飛ばして迷惑をかけたのは事実なのですから、然るべき罰は受けましょう」


 改めて罪状を聞くと、こいつは俺たちにでたらめをやっている。

 それを平然とした顔で言うから余計に腹が立つ。


「じゃあ大人しくしてろよ」


 俺は青年の前に立ち、両拳を顎の前あたりに持ってきて構えをとる。


「ただし」


「あ?」


「全力で防ぎます」


「防ぐのかよ!」


 それ、殴られるって言わねえじゃねえか。


「......来ないのですか?」

 

 青年は何食わぬ顔で直立不動の体勢で問うてくる。


 ぐ、こいつ!

 ......やってやろうじゃねえの。

 

──マジで当ててやる


 今の態度で完全にスイッチが入った。


 意識するのは魔力の循環。そして拳に魔力を集中させていく。

 行うのは筋組織の一時的な強化。


 何がなんでも殴ってみせる......!


「シッ!」


 俺は左拳を鋭く突き出す。

 それを青年は右手のひらで受け止め、更に俺の拳を掴む。

 更に右手で全力のパンチ。

が、そちらも捕まれ両腕を塞がれてしまう。


──俺はそれをよんでいた。


 相手の反応を見る前に、俺は回転しながら跳んで俺の拳を掴む手を右膝で蹴り飛ばす。

 そして、一回転したあと、その勢いを利用して青年の顔を殴り飛ばした。


 青年の体は浮き、ずざざという音を立てて背中から着地した。


「はー、スッキリしたぜ。罰は与えた。青年、俺はお前を許そう」


 俺がそう言い放つと青年はムクリと身体を起こし、驚いた表情でこちらを見る。

 

「まさか、この私が殴られるとは本当に驚きました。

 こうして肉体的なダメージを受けたのは1000年振りくらいでしょうか。

 やはり人間の体というのは勝手が悪い」


 そして、ミーシャまでもが俺を驚いた目で見ている。


「私、ザザンさんはせぜ、絶対に口だけだと思ってた。本当に......つつつ、強い、のね」


 驚きすぎだぞ、てめえ。

 ......まあ、ちったあガキの俺に対する評価は改まっただろう。

 ......今の一瞬で俺の魔力の大半が吹き飛んじまったのは内緒だ。


「あなたの罰、甘んじて受けました。改めてあなたを侮っていた非礼、お詫びいたします」


 抵抗してたから全然甘んじて受けてねえけどな。

 まあ、口には出すめえ。


「俺は雑魚は殴らねえ。俺に殴られたことを光栄に思うんだな」


 これで俺はスッキリしたのでもう何も言うことは無い。

 それでだ、


「まあ、ンなことはいいんだよ。俺が知りたいのは、お前が俺たちをここに呼び出した訳だ。つーかお前誰だよ」


 ミーシャは何か知っている様子だったが、俺はハブられてなんも聞いてねえからな。


「ああ、申し遅れました。勇者様には2度目の自己紹介となりますね」


 彼は胸に手を当てて、優雅に一礼して言った。


「私は緑を司る精霊です。パラークという名を授かっております。

 ──以後お見知り置きを」





 ストーリ的にはここからなのですが、しばらく更新しません。

 ゆるりと書いていきます。

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