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本気を出さない戦記  作者: 波奈 貴史
6/8

第6話 ぼっち

翌朝。まだ日が地平線から顔を出し、空がようやく明るみじめた頃に俺達は屋敷を出た。


見送りだけということで、シガやラディも屋敷の表まで来てくれた。


「ミーシアリア様、お気をつけて

.....貴様はくれぐれも粗相をするなよ」


シガが俺をにらみつける。

ひー、こわいこわい。


「へーい」


「兄貴も気をつけてね。すぐ死にそうだから」


「うっせ」


そして、ラディの軽口を聞き流す。


「では行きましょう」


彼女はにこやかに微笑みながら声をかける。

うん、美人の笑顔はいいもんだな。


「ああ。そんじゃ、俺はどーすりゃいーんだ?」


「それが......」


彼女は恥ずかしそうに顔をそむけ、そのまま背中をむけて片膝をついてしゃがんだ。

そして、心無しか赤くなった頬を少し覗かせて、こちらの様子を伺っている。


はて、これはいったい......。

もしかして俺におぶされと?


「早く乗って」


と催促する。

......そっちがその気なら甘えさせてもらうぜ。

でもさ、普通逆じゃね?


「まあ、ほんじゃ遠慮なく」


そう言って俺が彼女におぶさろうとすると


「ちょっと待て!ミーシアリア様、お年頃のあなたがこのような男とそのような事をするのは見過ごせませんっ!」


シガが声を大にして抗議する。

何としても、俺がミーシアリアにくっつくという事態を避けたいようだ。


「ばーか。今更ガキを襲いやしねえよ」


「私を子供扱いするのは頂けないけど、きっとこの人なら大丈夫よ。

それに、そのような事って言ったってただおんぶするだけじゃない」


ミーシアリアはおんぶの準備の体制から1度立ち上がり、大したことはないというふうに言う。

ただし、シガが引き下がる様子はない。


「いやしかし、長時間その男を背負ったままというのも大変でしょう」


「いいえ、私はへっちゃらよ」


「俺もへっちゃらよ。......ぷふっ。なんだよへっちゃらって」


「もうっ!からかわないでよっ」


「貴様!ミーシアリア様に......っ!

ミーシアリア様、お考え直しください」


シガは声を荒らげる。

どうせ失礼だとかなんとか言おうとしたのだろうが、礼儀に関してはなにも言わないということになっていたのでとどまったようだ。


ただミーシアリアがおんぶをするだけなのに、シガはこの世の終わりのような顔をして、無念に表情を歪ませていた。

ただ、おんぶするだけなのに。


「でも、これが1番安全で簡単な方法なの。時間が無いから10秒以内に代案を出してもらわないと出発するわね」


シガは腕を組んで、ムムムと考え始める。


「カゴに入れて運ぶというのは?」


「男の人1人が入れるようなカゴがどこにあるの?」


「うぐ......。そうだ、飛龍に乗せていくというのはどうでしょう?」


「私が飛んだ方が早いし、飛龍を呼んでこないといけないから却下」


お前が飛んだ方が早いのかよ。


「うぐぐ......。おんぶひも、というのは」


舐めてんのかてめえは。


「10秒たったわ。では行きましょうか、乗って」


「お待ちをぉぉぉぉ!」


俺はシガの雄叫びを無視してミーシアリアに肩に腕を回す。


「お兄さん、諦めなよ」


後ろではラディがシガを宥めていた。

年下に宥められる男ってどうなのよ。


「じゃあ飛ぶよ。しっかり捕まっていてね」


俺は彼女の方に回した腕に込める力を強める。


ふわりと浮遊感がしたかと思うと、俺達は空へと吸い込まれ、シガの雄叫びがだんだんと遠ざかっていった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


こうして飛ぶこと15分。

最初は高速で流れていく眼下の景色に興奮していた。

そりゃあもうものすごいスピードで景色が動いていく。

でも15分もすりゃ、この光景もな......。


「飽きたぁ」


俺はあくびをしながらぼやく。


「退屈かもしれないけど、我慢して」


彼女は首を少しだけひねって答える


うーむ。この時間は有意義に過ごしたいもんだ。


「そうだ、せっかく2人きりになったんだ。

ここじゃないと出来ない話でもしようか」


「2人きりって、変な言い方しないでよ」


そう言って、彼女は少しばかり身をよじらせる。


「なに恥ずかしがってんだよ。別にそんな意味で言ったんじゃねえよ。かーっ!頭お花畑の若者には叶わねえ」


「そうやってすぐからかう」


ミーシアリアは頬を膨らませた。


「それで、2人きりじゃないと出来ない話ってなに?」


「ああ、それはな、ラディの事についてだ」


せっかくの場だ。ここで、あいつの処遇について話を詰めておきたい。


「彼のことね。先に聞かせてもらうけど、あの子いったい何者なの?」


「知るか」


そんなもん、俺が知りたい。


「そう言えば、それを言うと、あなたも何者なのという話になるわね」


「俺か?俺は天才商人だ」


「ふうん」


おいこら、適当に流すんじゃねえ。


俺がまた口から吐いたでまかせに対して、送られてくる視線が痛い。


「分かった分かった。俺はどこにでもいる商人ですよう」


「本当にそれだけ?」


「それだけだ。他にはなんもねえよ。まあ、本気出してないだけだがな!」


俺はガハハと笑う。

そんな俺に彼女は至って真剣に答える。


「本気を出してない、って言うのは本当なのかもしれないね。だって、あなたの底の知れない知識なら色んなことが出来るはずだもの」


「......」


「その知識、どうやって得ているのかしらね」


問い詰めてくるミーシアリアに、俺はどう答えるかを考える。


......普通にはぐらかすか。

俺が、誰にも解き明かせなかったクルルの病気の原因を当てたが故に、少し過大評価されている部分はあるだろう。

しかし、実際に俺が彼女に開示している知識は極ひと握りだ。

言い様はいくらでもある。


「たまたま本で読んだりとかしてんだよ、多分。お前のイメージとは違って、俺は結構記憶力がいいんだよ」


彼女はこちらにひねっていた首をもとに戻す。

この動作が示すところは、あっそ、と言ったところだろうか。


「ふうん。今はそれで納得してあげる。そのかわりに」


「ただし?」


「あなたの名前を教えて。ずっと聴けていなかったから」


「ぷふっ。おまえ、そんな聞き方しないと人の名前も聞けねえのか。おっさん、しっかりしろよ」


「もうっ、おっさんって言わないで!簡単に言うけど、変装するのは本当に疲れるし、すっごく恥ずかしいんだから。

それに、名前を聞く機会を1回逃しちゃうとなかなか聞けなかったのよ」


そんなに人の名前を聞くのが難しいかね。

そうか。もしかして、こいつ......。


「お前、友達いないだろ」


ミーシアリアの肩がピクっとはねる。


「い、いる」


「何人くらい?」


「......2人?」


......は?2人?


「ちょっと待て、お前今いくつだ」


「16歳」


16年生きて......友達が2人?

友達1人作るのに8年間かかるのか?


「ぶわっはっはっはっ!お前、友達の作り方まんまに習わなかったのか?勇者様は孤高ってか。」


「.......」


「お前、お前ぼっちなんだな!!」


「......」


ん?何だかこいつの様子がおかしいぞ?

かたをプルプルと震わせている。


「ぐすっ」


こいつ、まさか.......。ちょっと言ったくらいで......?

いやまさか......まさかな。


「そんなこと言わないでよう、気にしてるんだからあ!ぐすっ」


「お、おい、泣いてんのか?」


「泣いてないっ。ぐすっ」


思いっきり泣いてんじゃねえか。

後ろからだと泣き顔こそは見えないものの、泣いているのは明確。

ご丁寧に、ぐすって言ってるし。


「だって、私は勇者なんだもん。

一国の王様と同じくらい偉い人みたいに扱われて、私と同じ目線で話してくれる子も全然いなくて......。友達なんて、簡単に出来るわけないじゃない!」


やっぱりまだこいつガキじゃねえか。

まあそうか。ラディと同い年だもんな。

もうちょっとしっかりしてくれてもいいとも思うが。


しかし、16歳の女が勇者とはな......。


でも、どうしよう。女を泣かせちまった。

慰めようにも慰め方がわからねえ。


「おい、泣くな。俺が悪かったよ。大変だよな、勇者」


うげ、らしくもなく同調してしまった。


「でも、やっぱり友達はなかなか出来ないの。私、どうすればいいの......?」


そう言って、しゅんと肩を落とす。

ちょっと待て、俺のお尻を支えている手を離すな。


俺は暴風に飛ばされないように必死に木にしがみつく小動物のような様相を呈する。


落ちる落ちる落ちる落ちる落ちる落ちる!


「ばかっ、手を離すな!」


彼女は両手で顔を押さえて泣いていた。

友達が出来ないことを余程気にしていたらしい。

こりゃあ深く傷を抉ってしまった。

しっかりしろよ、16歳!


でも、このままじゃ俺が死ぬ!もう、しがみついた腕も解けそうだ。


かくなる上は......!


「分かった!よく聞け!


......俺が友達になってやるから!」


俺の、その場しのぎでしかなかったその言葉に、しかしその飛行速度はゆっくりと落ちていき、やがて止まった。


「本当に?」


「あ、ああ、本当だ」


俺がそう答えると彼女は腕で涙を拭い、俺のケツをしっかりと支えてくれた。


そして、高速飛行が再開する。


あっちゃー、言っちまった。

まあいいか。俺に友と呼ぶべき存在ができる。とてつもなく不思議な感じだ。


「じゃあ、今度こそあなたの名前を教えて」


「悪いな、俺に名前はない」


「......そうなんだ」


そう言うと、彼女は何かを考えるようにして間をおく。


「じゃあ、私の好きな風に呼んでもいい?」


「何故そうなった」


普通そうはならないだろ。お前が俺の名付け親になるってか?


「だって、あなたの事を名前で呼びたいもの」


「じゃあもう、てきとうに呼べ」


俺はめんどくさくなって、なげた。誰になんと呼ばれようがどうだっていいしな。


「それじゃあ、......ザザンさんって呼ぶね」


「なんだそりゃ?」


「ひみつ」


そう言って彼女は笑ったようだった。

さっきまで泣いてたのに、ケロッとしてやがる。


「まあいいか。そんじゃ、俺もお前をミーシャと呼ぶぞ」


多分、後3日もすればミーシアリアなんて長い名前忘れちまう。

シガ何とかはもう忘れたし。


「うん、私もそれでいいよ。......ミーシャ、ふふ」


「なんで笑ってんだ」


彼女はこちらに横顔を覗かせたながら答えた。


「なんでもないよっ」


初めて見た、太陽のような彼女の笑顔だった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「そんでよ、呼び名はいいとしてラディの事なんだが」


「そ、そうだったね。なんでこんな話になったんだろ」


そうして、俺はラディに対する処遇について希望を述べた。


まずは、ラディを客人として正式に勇者宅に向かい入れること。

彼についての秘密を漏らさないこと。

彼を利用しないこと。彼に才能を悟らせないように努めること。などなどの話をした。


そして、それを今回の件の依頼の報酬にして欲しいとも。


それに対してミーシャは


「きっと大丈夫。うちで働いてる人はみんな信用できるし、私もしっかり呼びかけるよ」


そう応じてくれた。


「そう言えばお前、だいぶん話し方が砕けてきたのな。どうでもいいけどよ」


「そう?私、もともとこんな話し方だったと思うよ?」


「そうか?」


「そうだよ」


前は、そうだよなんて言わなかっただろ。

絶対変わってるけど、そんなことどうでもいいか。



「そう言えばよ、お前16なんだってな」


最初に出会った時は少し大人びていたし、まずその前がおっさんだったので、正直もう少し歳が上だと思っていた。

まあ、今では年齢より下のように見えてしまう。特殊な環境下で育ったが故に、成長しきれていない部分も多いのかもしれない。


「うん。ついこの間16歳になったばかり」


「じゃあよ、なんで16のガキが勇者様やってんだ?それこそ、もっとおっさんが勇者様やっても良くねえか?」


俺はちょっとした疑問をぶつけるつもりで質問する。


しかし、彼女の纏った雰囲気が少し冷たくなったのが分かった。


「それは......私の父が.......」


そこまで言いかけて、彼女は首をふる。

そして、纏っていた良くない雰囲気を霧散させる。


「いいえ、その話は今はやめよ?きっと後で話すから」


なんかあるのかもな。まあ、今ので大凡の想像はつくけど。


「んや、悪かったな......っと、西の古代林。あれか」


俺が詫びると同時、視界が既に、異常な程に鬱蒼とした森林をおさめていることに気づいた。


「うん、もう着くよ。あそこは危険だから、決して気を抜いてはダメよ」


古代林が近づくに連れて、その全容が見えてくる。


まず、馬鹿みたいにでかい。森の終わりが見えない。

そんで、植物も馬鹿みたいにでかい。恐らく、中にいる 魔物(モンスター)もめんどくさいのばかりだろうことは想像に固くない。


森が近づけば近づくに連れて、俺のやる気はどんどん削られて行った。

つーか、この森ん中で細菌を探すのか?


はあー、だりー。


「ピュララララララララ!!」


そして、森からは時折奇怪な叫び声が聞こえてくる。

ああ、これ絶対やばいやつだ。


......帰りたい。


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