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本気を出さない戦記  作者: 波奈 貴史
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第5話 神様

古龍種の治療という依頼を受けて、早速勇者宅にお邪魔することになった。

勇者宅は王都の中心も中心、王城の隣にある。

大きさは王城の半分くらいで、ただ住むだけの土地としては異常な程に広い。

ただ、住んでいるのは人間だけでなく、古龍種とかいう化け物も住まわせていることを考えるとその位の土地の広さは必要なのかもしれない。


勇者宅の門をくぐると、一際大きな建物が2つ見えた。1つが勇者やその他の関係者達が住まう家で、もう1つが今回治療することになるであろう古龍の住処らしい。


あ?トカゲの進化系が人間様と同じでかさの家を持ってるだって?ふざけんな。


という訳で、お役御免と言ってこの場を退いた常連さんを除く4人はトカゲ宅に向かう。


そして広大な敷地を歩かされた後、ようやくそれの前に到着した。


「......でけええ」


ラディがぽつりと呟く。

確かに、間近で見るとすごい威圧感だ。


特に門。高さが15mはあるだろう。これだけないと体が通らないということか。

いやしかし古龍種ならば本来、大きさはこんなものでは無いはずだが......。ここのはまだ子供なのだろうか。

......はあ、俺の知ってる奴と条件が一致してきたなあ。鬱になるぜ。


「では入りましょう」


そう言うとミーシアリアは門にそっと手を触れた。すると、巨大な門が音を立てることも無く、ゆっくりと開いていく。

魔導式か?まあいいや。


門の隙間から差し込む光が徐々に奥のシルエットを浮かび上がらせていく。

そして、門が完全に開いた時に姿を表したのは巨体を小さく縮こまらせた漆黒の龍だった。


「でけええ」


再びラディが呟く。体を小さく縮こまらせているので正確な大きさは分からないが、起き上がれば頭から尾までゆうに30mはあるだろう。


「クルル。あなたを診てくれる人を連れてきたわよ。

ええと、彼女の名前はクルルと言うの。この龍が毒に侵された龍よ。

彼女はこの勇者の一族に代々仕える龍なの」


ミーシアリアは、他にもいくつかこの古龍の説明をしてくれた。


どうやらこの龍は、古龍種と呼ばれる龍の中でも最高位で、神竜と呼ばれる龍らしい。

というのも、この龍が1匹いれば国ひとつくらいは簡単に壊滅するらしい。


「けっ!トカゲの分際で神を名乗るなど不敬な」


「どの口が言ってるのさ。不敬の塊みたいな存在なのに」


ラディが俺の言葉に返してきた。

コイツは俺をなめてやがる。


「クルルにトカゲって言ったらものすごく怒るの。彼女の前で言ったらダメよ」


とミーシアリアが俺に諭してくる。

うむ、肝に銘じておこう。


「おい、トカゲ!元気か!?」


「ちょちょちょ、ちょっと!何言ってるの!?」


「貴様、殺されるぞ!」


「流石兄貴。命を投げ打っていく姿、惚れ惚れするよ」


俺の言葉に対する、ミーシアリアとシガレスの反応とは裏腹にクルルは頭を少しばかり持ち上げて、こちらを一瞥し、おろしただけだった。


「こいつは相当に弱ってんな......」


てっきり、ブレスのひとつでもうってくるもんかと思ったがそれもしてこなかった。


「なんでコイツがこんなことになってんのか心当たりはないか?」


俺の質問にミーシアリアは表情を曇らせる。


「それが、全然わからないの。最初は体調が悪いって言ってただけだったのに、だんだん酷くなってきて、今や生体変化も出来ない状態で......」


「龍って別の生き物に化けられるってこと?」


「ええ。普段は女性の姿をしているわ」


ラディの質問に、ミーシアリアは律儀に答える。

そう言えば、彼女の口調はだいぶん和らいだな。最初は敬語が入り混じったチグハグな話方をしていたが。

まあ、俺は気にしねえけど。おっと、話がそれたな。


「話の腰を折るなクソガキ」


俺はラディにでこぴんをくらわせる。

「いってえ!」などとほざいてデコを押さえているが気にしない。


「当然、処置はしたんだろ?」


「ええ、もちろん。国の高名な魔法使いを呼んで治癒や解毒もしてもらったし、色んな薬も試したわ。でもどれも効かなくって......。私、どうすれば......っ」


ミーシアリアは形のいい唇を結んで、無念に顔を歪ませていた。


「ばかやろう。だから俺が来てんだろ?」


俺は泣きそうなミーシアリアの頭にぽんと手を置く。

彼女は少し驚いた表情をしていた。


「よし、一旦は俺に任せてお前らこっから出てけ。ちょっと色々みてやんよ」


俺はトカゲとゆっくり話をすることにした。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




門は閉ざされ、光源が窓から入る陽光のみとなった建物の中はぼんやりと暗くて、ひっそりとした雰囲気が漂っていた。


俺はクルルに近づく。


龍の大きな音だが細やかな息遣いのみが耳に入ってくる。


俺の前にたたずむ古龍は、艶のある黒い鱗に包まれどこか妖艶な印象を俺に抱かせた。

本当に、芸術品のように美し龍だった。

......ただ、その古龍からは力強さは感じられない。本当に弱り切っていた。


俺がクルルの閉じられた大きな目の前にたどり着いた時、クルルは少しだけ瞳を覗かせた。


「よう、トカゲ。久しぶりだな」


クルルは俺の言葉に全く反応せず、直ぐに目を閉じた。

よく分からないことを言うやつは無視、ということらしい。


「おいおい、だんまりかよ。失礼なやつだな」


まあ当然か。今の俺の姿を見て、誰かわかる奴がいる方が不思議なのだから。

しかし、見てくれは当時と変わらねえはずなんだがな。

そっくりさんの別人だと思われているのかもな。


さて、どうしたもんかね。

俺はしばし考えを巡らせる。そして、持ち出す話題を決めた。


「トカゲ。みんなで食った俺様特性シチューのことを覚えてるか?」


クルルはそれを聞いてか、またほんの少しだけ目を開いた。


「あん時はよお、よく分かんねえ食材適当にぶち込んで煮込んで 作ったんだったな。なんだかんだ言って、あれは結構美味かったよなあ」


俺が言葉を紡ぎ出すのに連れて、クルルはが覗かせる瞳は大きくなっていく。


「みんなで焚き火囲んでよ、ワイワイ騒ぎながら飯を食ったもんだったな」


(......あれは全然美味しくなかったです。むしろ美味しそうに食べている神様とホイルさんの味覚が壊れているのでは無いかと.......っ。あなたはもしかして本当に........?)


クルルは閉じていた目を大きく見開いた。


頭の中に直接声が届いてくる。これは 伝達魔法(テレパシー)だな。


「ああ?俺の見た目とか雰囲気とかで分かるだろうが」


(.......本当なのですね?)


「ああ、本当だ」


(.......ご無事だったのですね。良かった)


「あたりめえだろうが」


クルルは開いていた目をゆっくりと閉じていく。


(私、ずっと1人だったんですよ。大戦でマスターも、仲間もみんな死んでしまって......。私、ずっと.......ずっと......)


心無しか、眼前の龍は泣いているように見えた。いや、実際に泣いているのだろう。涙を流さずとも痛いほど伝わってくる。


(できれば......できればあなたにはもっと早く来て欲しかった......)


「すまねえな」


(神様)


「.......なんだ」


俺は一瞬、反応できなかった。その呼び名で呼ばれたのがあまりにも久しぶりだったからだ。


(......もう立ち上がっては下さらないのですか?

私たちの無念を晴らしてはくれないのですか?)


クルルの声が痛いほど頭に響く。でも、俺はもう......。


「すまねえな。もう過ちを繰り返す気はねえ。あまりにも人が、死にすぎた」


(.......)


「おいトカゲ。あれからもう1000年が経った。お前は何故ここにいる」


(私は決めているのです。マスターに受けた恩を、マスターの子供たちがこうして途絶えぬうちは力になろうと)


そうか、それがこいつの出した答えか。


「やらばお前は自分の道をゆけ」


(はい。......神様。私は)


自分が神様と呼ばれる度にドキリとする。

その度に当時の様々な光景がよみがえってくる。


(私は......貴方様が再び立ち上がる日が来ることを心より願っております)


俺は彼女のこえになにも答えることが出来なかった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「トカゲ、話しはおしまいだ。そろそろお前の身体を調べる。いいな?」


(はい.......。でも、次トカゲと言ったら神様でも潰します)


こいつ、最初からやっぱり気にしてやがったな。


俺はこいつの身体をくまなく調べた。

くまなく調べたが、やはり分かったのは毒にやられているという事実のみだった。

そして、状態は想像以上に不味かった。


「クルル。お前このままじゃ死ぬぞ」


(......)


「分かってるとは思うが、相当に毒が回ってやがる。解毒魔法は掛けてもらったんだよな?」


クルルは身動きひとつせずに答える。


(ええ。かけても貰いましたし、自分でもかけました)


しかし一向に良くなる様子が無いと。

何故だ?今の時点ではほとんど見当が付けられそうにない。


「治癒魔法もかけてもらったんだよな」


(そうですね。かけてもらった瞬間はいいんですが、やっぱりいいのはその時だけで。と言うよりもむしろその後の方が酷くなるような気もします)


「ふむ」


治癒魔法をかけると、むしろ酷くなる......?

俺の知る限り、というか間違いなくそのような毒は存在しない。

単なる毒ではないというのは間違いない。

それでは......。


俺は全力で知識を探り、該当する場合を探し出す。


俺は膨大な知識の量を飛び回る。そして探して、探して、探し抜いた果てに

俺の中でひとつの答えが......導き出された。





俺は外で待っているであろうミーシアリア、ラディ、シガ......?なんだったか。

まあいいや。3人を呼ぶために、1度場を離れる。

この扉、確か魔導式だったよな。

俺はそっと扉に触れ、そっと魔力を流す。

すると扉が音も立てず静かに.......


「開かねえじゃねえかっ!」


俺は扉を蹴りまくった。


するとミーシアリアが外から開けてくれた。

結果オーライ。


「どうしたの?」


ミーシアリアが問うてくる。


「病気の原因が分かった。全員集合!」




俺たちはクルルの前で集まって小さな円を作っていた。

これで、話の内容がクルルにも聞こえるはずだ。


「ねえミーシアリアさん。こんなにドラゴンに近づいて大丈夫?」


「大丈夫よ。古龍は人間なんかよりもずっと賢いんだから。

襲ってくることは絶対ないわ」


彼女はラディの質問に答えてから、俺に質問する。


「あの、病気の原因が分かったって言ってたけど、本当に?」


「ばかやろう、嘘なんてつくかよ。

お前ら、耳をかっぽじってよく聞け。コイツを苦しめている黒幕の正体は」


ゴクリと、ミーシアリアが唾を飲み込んだのが分かった。


「寄生虫だ」


「寄生虫!?確かに寄生虫なら治癒魔法も解毒魔法も効かなかったのには頷けるけど......。そんな、古龍に寄生できる種類なんているはずが......」


彼女は驚愕に声を荒らげている。


「いるんだなあ、それが何種類か。

その中でも、今寄生してるやつは特にタチが悪いやつだな。

体内で繁殖して、そんでもって毒を吐き出しまくる。

この寄生虫も古代種だ。

コイツ最近、古代林みたいなところに入らなかったか?」


ミーシアリアはあっ、という顔をする。


「そういえば最近、西の古代林に100m級の蛇が現れたので討伐しに行きました。まさかその時に」


......勇者様ちゃんと働いてんのな。まあいいや。


「寄生されたのがコイツで良かったな。もし嬢ちゃんに寄生してたら1日と持たずに、ぽっくりだっただろうよ」


「それではそれはどうやって治療すればいいんだ?」


そう言ったのはシガなんとか。久々に口を開いたな。


「シガ......?おほん、シガくん。いい質問だ。実はな、生態系ってのは上手くできていて、この寄生虫を殺す生物もまた古代林には存在する。

しかしながら、そいつは目に見えないほど小さな生物なんだよ」


こいつらに細菌とか言っても分からないだろうからな。


「じゃあ、そんなのをどうやってここまで持ってくるの?」


と聞くのはラディ。まあ、当然の疑問だな。


「まあ、心配するな。そいつは時々だが水中に密集して繁殖している時があって、それは肉眼でも見える。だからそいつをまるっと持ち帰る」


「じゃあ、明日には行きましょう」


ミーシアリアの視線が徐々にしっかりしてきたのが伺えた。

解決方法を見つけ、希望を取り戻したという所だな。


「まあ、急ぐに越したことはねえしな。よし、分かった。じゃあ俺も同行しよう」


「それでは私も」


そう言って俺に続き、シガ......も名乗りをあげる。


「ごめんなさい、シガレス。あなたは連れて行けないわ」


「なぜです!この男は一緒なのに」


シガ......は不服そうに声を荒らげる。


「だって、2人も飛んで運ぶなんて無理よ。私は大丈夫でも、飛んでる途中に持ってる腕がちぎれちゃうわ。それに、この人には来てもらわないと、私だけじゃ目当てのものを持って帰れないもの」


「ぐぬうぅ。分かりました」


「まあまあ、任せておけよ。シガくん」


俺はイケメン兄ちゃんことシガくんの肩の上にぽんと手を置く。


「貴様ァ、くれぐれも粗相をするなよ」


「だあいじょうびぃ 。なにもしませんってぇ」


「くっそおぉぉおおおおお!!」


ほんと、騒がしいやつだ。


「それじゃあ、僕もお留守番だね」


「ああ、ラディも大人しくするんだぞ?」


「もちろんさ」



という訳で、俺は古代林に向かうことになった。

俺とラディはその日の夜を勇者宅で明かすこととなった。



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