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本気を出さない戦記  作者: 波奈 貴史
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第4話 正体を明かせ

「こんちには」


今日ももちろん商売だ。あの、ラディが光まくるというちょっとした事件からもう幾ばくかの時が過ぎていた。

あれから、特になんの変化もなかった。

そう。隣ではラディが何かの商売をやってるし、俺は今もいつもどうり座って頬杖をついている......精一杯商売中です!

そんな時、俺に向けて挨拶がかかってきた。

俺は客かと思って顔を上げる。


「いらっしゃい......ってああ、常連さんじゃねえですか」


体型は標準よりがっしりしている、中年のおじさんだ。

いつも、綺麗な身なりに身を包んでいる数少ない俺の常連......というか、常連さんはこの人だけかもしれない。

名前は......なんと言ったか......まあいいか!


「やあ、久しぶりだね。何か良いものは仕入れているかな?」


俺は自分の仕入れたものを一瞥する。

まあ?俺は良くないものなんて仕入れない訳だが?お得意様がせっかく来てくれたからにはその中でも1級品を売ろうじゃないの。


「そうですね......これなんかどうです?」


そう言って俺は拳大位の大きさの石ころを持ち上げてみせる。


「何かなこれは?君の売るものだから、ただの石なんてことはないだろうけれど」


「もちろんです。ちょっと顔を寄せてください。

......こいつは、ちょっとやべえ代物なんですが」


俺は、その岩に魔力で魔法陣を描く。無論、魔力はそのままの形では視覚化出来ないので、俺以外には石をなぞってるようにしか見えないだろう。

魔法陣を描き終えた時、その石の表面の部分がボロボロと崩れ落ち、中から透明感のある歪な石が出てきた。


「これ見て、なんだか分かりますかい?」


「こ、これは......召喚獣の召喚石」


「さすが常連さん、正解だ」


俺が最初に見せたのは非活性化した召喚石で、あのままでは本当にただの石だ。

恐らく、遺跡から持ち帰ったはいいが使い道が分からずに結局骨董屋でゴミ同然の値段で売られてたってわけだ。

笑いがでたぜ。骨董屋の主人が、『これは太古の遺跡から出土された有難い石じゃ』なんて説明してきたのを聞いてな。

そこで、俺が活性化させたってだけの事だ。


「こいつの使い方は分かりますね?」


「ああ、何度か見たことはある。それでいくらだ?」


「そうだな、普通なら1000万マサリはぜってえくだらねえ商品なんだが......よし!100万マサリで売りましょう」


どうせ、仕入れ値はほとんど無に等しいわけなんだから、利益としては十分だ。

俺の言葉に、常連さんは驚いた顔で言う。


「いつも言っているけど、いいのかい?そんなに安くして」


「構いませんよ、アンタ......常連さんのおかげで食いつないでるようなもんですし」


「よし、じゃあ買った」


そう言って、彼は金貨の袋をひょいと出す。

それを俺は有難くちょうだいする。ぐひひ、最近は儲けがいいぞ。


「毎度あり〜」


そこで、常連さんは去っていくと思ったのだが、まだ何か用があるようだ。


「ちょっと質問していいかい?」


「ええ、なんですかい」


「君はなんで、人には価値の分からないような商品を見つけ出せるんだ?」


「それ、そんなに大事なことですかね?」


本来であれば、この質問は無粋な物でしかない。お互いに利益のある関係でありさえすれば良いのだから。

しかし、そんなことはこの人なら分かっているだろうし、何か意図があるのだろう。


「ああ。とても大事な事だ。どうか答えて欲しい」


まあ、真剣に答える義理はないし適当に答えておくか。


「まあ、知識ですかね。それが取り柄なもんで」


嘘はついちゃいない。


「そうか。......どうしたものか」


俺の返答に常連さんは何やら悩んでいるようだ。

はて、どうしたのだろうか。


常連さんはしばらく悩む素振りを見せていたが、腹を決めたようで、こちらを見据えていた。


「よし。あのね、わらに縋るような思いで頼みたいんだが.......」


ここで常連さんが口にした言葉を要約すると、

君のその不思議な知識を頼って君に依頼したい人がいる。翌日、ぜひその人に会って欲しい。

というものだった。


俺は、自分の知識をひけらかすのは望むところではなかったが、上手く行けば報酬は弾むと言うし、その人に会うだけならということで要求を受け入れた。

そして、何故かラディもついて行くことになった。

あいつが『僕もついて行きたい』と言って聞かなかったから、常連さんが渋々承諾したのだが、俺としてはこいつから目を離したくは無かったので好都合だった。


という訳で翌日、俺はラディと共に常連さんに連れられてとある飲食店に連れていかれることになった。

「依頼人の方がね、機密情報が漏れないような形でお話がしたいと言っていたからここの店を使うことになったんだ。じゃあ入ろうか」


店に入り、さらに仕切られた部屋に入ったところで驚きの人物を目にした。

「変なおっさん......に、イケメンの兄ちゃん」


俺の出現に、向こうの御二方も相当に面食らっているようだ。口をぽっかり開けている。

そして、おっさんはラディをすごい形相で見つめていた。


「なんだい、お二人と君は知り合いだったのか。なら話しは早い。私は席を外させてもらうよ」


そうして瞬く間に場が作られていき、今は俺とラディが並んで座り、その対面にあの2人が座るといった構図を取っていた。


しばらくの間、静寂が場を支配する。

先に口を開いたのはおっさんだった。


「貴様にまた会うことになろうとはな。驚いたぞ」


「はっ!こっちのセリフだってんだ」


おっさんはしばらく考える素振りをし、そして口を開いた。


「正直俺は悩んでいる。貴様にのような軽率な男に機密情報を話していいものかどうか」


「ああ?馬鹿かおまえ。今から依頼する相手にそんな態度取ってどうすんだよ」


「貴様もその態度を改善した方がいいな」


交渉が進まないどころか始まらない。まだ、互いの信用が無さすぎる。

そもそも、正体を晒さない謎のおっさんに、得体もしれない男。互いの間に信用なんてあったものでは無いのだが。


「そういえばだ、その隣の男は何者だ?」


おっさんは忘れていたというふうに問う。

当然忘れていたということはないと思うのだが.......あ、やられた。

今回の交渉、多分負けだわ。

俺は決定的なミスに気づき、交渉の決着が見えてしまう。

ラディめ、ゆるさん。

が、それを表に出すことはない。


「ああ?俺の連れだよ連れ。じゃあ、そっちの兄ちゃんは何者だよ」


「ああ、コイツか。コイツは護衛のようなものだと思ってもらえればいい。俺はそこそこ偉いのでな」


あーあー。こっからは茶番だなあ、などと思いながら俺は話を進めていく。

あくまでも内心を見透かされないように。

まだ相手がこちらのミスに気がついてない可能性もあるからだ。


「もう腹の探り合いは十分だろ?なんなら、魔法の契約書にサインしてもいい。

ここで聞いたこと見たこと、一切口外しませーんってな」


魔法の契約書とは、それによって本人の行動を直接縛ることの出来る契約書の事だ。

それにサインした場合、まあ例えばその内容が喋るなとかであれば、自分の意思に関わらず喋ることすら出来なくなる。


とまあ、極端な交渉条件を出したのだが、おっさんの返答は


「出来ればそうしたいところだが、あれは高価なうえ入手が困難だ。......まあ、こちらも相応の危険性を背負わなければなるまい」


ようやく交渉が進みそうだ。

ここらで、俺は1つ条件を切り出すことにする。


「じゃあまず1つ条件がある。そろそろてめえの正体晒せや。依頼をする上でどーせバレるんだろ?さっさと変装を解いてもらおうか」


かなり踏み込んだが、相手の本当の素性を知らないままというのも気持ちが悪い。

隣ではラディが「変装?何それ?この人が?」と呟いていた。

流石に状況を飲み込めず、目を白黒させていたようだ。


俺の切り出した条件に、おっさんは再び考える素振りを見せそしてうむ、と頷いた。


「まあ、どの道バレるということに間違いはない。ただ......」


「ただ?」


おっさんは恥ずかしそうに頬を赤らめ、視線を横に背ける。

やめろ!その姿で恥ずかしがってんじゃねえ!


「あの、俺......いや、私の姿を見て引かないでほしいのです」


「へ?」


今こいつなんつった?私?ちょっと待て、もしかしてこいつ.......


俺の目の前で、おっさんの変装のベールが剥がれていき、中から出てきたのは.......


「こいつ女じゃねえか!!うわー、女があのおっさんやってたのかよ。びびるわあ」


「だから引かないでっていたのにっ!」


中から出てきたのは天使と見紛うほどの美少女。

どこかスレンダーな印象を受ける、完璧な容姿だった。

そして、その女の髪の色は......青色だった。


「......青色の髪?お前は、まさか」


俺がひとつの疑問にたどり着いた時、ラディが驚いた口調で話し出す。


「兄貴!僕でもこの人の事知ってるよ!超有名人じゃないか!」


やばい。先程この交渉はもはや茶番などと言ったが、あれは嘘だ。

こっからは俺の流儀に関わる。


「この人は今代の勇者様。ミーシアリア・レイエス・スタッドご本人じゃないですか!

この目で直接見られるなんて......感動です!」


「やはり、勇者の一族なのか......」


勇者は世襲制だ。というか、勇者という資質が遺伝するため、世襲にしかならない。

不思議な一族であるが、勇者の血を引く人の髪はこの女のように青くなる。


「じゃあ、そっちの兄ちゃんの名前は?」


俺が名前を問うと、この場で彼は初めて口を開いた。


「シガレスと言います。ミーシアリア様の護衛をしております。と言ってもミーシアリア様は私など必要ないほどお強いので形だけですが」


......仕方ねえ。この先の話の進み具合を考えるに、ガキは放り出すしか無さそうだ。


「おい、ラディ。席を外せ」


途端、ラディは表情を曇らせる。


「え!?兄貴、そりゃ無いよ。せっかく勇者様とお話ができるってのに!」


「ラディ、お前の目的はこの女と話すことなのか?だったら後でいくらでも機会をやる。とにかく今は席を外せ」


「嫌だよ。ここまで来て除け者なんて」


まだ食い下がるか。仕方ない。


「いいから席を外せ!理屈じゃねえ」


「兄貴......」


ラディは不安そうな顔を見せている。

俺がここまであいつに真剣な態度を取っているのは初めてだから戸惑っているのだろう。


「......大丈夫だ。悪いようにはしねえ」


「......分かったよ」


そう言って、ラディは渋々と言った表情で部屋を出ていく。

悪いが、あいつのためだ。状況に振り回されて不満だと思うが我慢してもらおう。


俺達の様子を見かねて、ミーシアリアが声をかける。


「良かったの?あの子を追い出して」


やむを得んだろう。だって、どうせお前ら、交渉材料にあのガキのこと使うだろうが。先に追い出すのが吉ってことさ。


と心の中で呟く。

口に出したら、まだ相手が見落としている可能性を摘むことになるからな。


「いーんだよ。あんなガキがいようがいまいが何も変わんねえからな。

ところでよ、やっぱり気が変わったわ。今回の依頼断る」


ミーシアリアは、突然の俺の心変わりに少し驚いたふうに問う。


「なんでですか?」


「俺は決めてんだ。お前ら勇者の一族には関わらねえってな」


「それも意味がわかりません」


ミーシアリアは食い入るようにこちらを見つめている。こちらから少しでも情報を逃すまいとしているようだ。


「悪いな、嬢ちゃん。勇者一族とはちょっとした因縁があってな。もう俺は決めてんだよ」


「貴様!ミーシアリア様を勇者と知ってのその発言、無礼であるぞ!」


俺の言葉にシガレスが叫ぶ。


「シガレス、やめなさい。非公式の場です。多少の無礼など気にしないわ。それに、この方に礼儀を求めることが難しいのは分かっているもの」



「ぬあはは。お年頃のお嬢ちゃんが『俺はおっさん』とか言ってんだもんなー。ひーっ今考えたら腹が痛えや」


「もうっ!それはやめてって言ってるじゃないですか!って言うかそんなこと言ってないし」


「貴様ァ!もう我慢なりません!ミーシアリア様、こいつを切らせてください!」


そう言ってシガレスは剣を抜く。

ほんと短絡的なやつだなあ。こんな奴が護衛で嬢ちゃんは大丈夫なのか?



「シガレス、剣を収めなさい!これも相手の挑発です。あんまり感情的に行動するようならあなたにも席を外してもらいますよ?」


「うう、それは......」


主人にそう言われると、流石に何も言えないようで彼はしょんぼりと席に着いた。


「さて、話を戻しましょうか。あなたがこちらに協力する意志を持っていないことは分かったわ。でも、もう引き下がる訳には行かないんです。だって、あなたにこうして正体を見せているんだもの」


やっと話が戻った。さて、どうしたものか。


「俺がお前らの正体を知ったって関係ねえだろうが。俺が黙ってりゃ済む話だ」


まあ、当然これで逃がしてくれるはずもない。


「あなたが、無意味に私たちのことを口外することは無いだろうということに関しては信用することにするわ。けれど、こちらは相応のリスクを追っているのよ

このままあなたを帰すというのは公平では無いわ」


ふむ、理屈としては通っている。


「とは言ってもよお、なんつーの?後出しの情報じゃねえか。それに、俺がお前と話したってのがそこまで重要な情報だとは思えんがね」


「それは違いますよ。この場合、勇者が何やら困り事を抱えているようだと言う情報が盛れることがまずいのであって、それがリスクとなり得るの。

もしも、強引に帰るというのならば.......」



「帰るなら?」


「ラディ君のことを公表して、こちらのいいように使わせてもらうことになるかもしれません」


やはりこう来たか。

ラディを外しといて正解だったな。


「はて、なんのことを言っているかさっぱりだな」


それでも俺はとぼけてみせる。

とにかく、相手に主導権を握らせないように限界まで抵抗するのが俺の主義だ。

まあ、どうせ無駄だがな。


「当然、僭越ながら一応勇者である私には分かりますよ。彼はとてつもない魔力量を保持している。

......なんで気づかなかったのか不思議でしょうがないわ。恐らく、魔力が大きすぎたためにこうして近くで目にしてようやく気づくことが出来たのだと思う」


「その通りだ。ただの人間があれだけの魔力を保持しているのを見たのは2度目だ。

あいつは間違いない、化け物になる。

そして、今は自身の才能にきづいていない。

だからこそ、コントロールできる人間がそばに居なきゃならん」


「......あなたなら出来ると?」


「さあな」


俺ははぐらかす。まあ、実際に出来るかどうかはやってみないと分からないしな。


「話を戻します。出来れば私はそんな手段を取りたくないの。それはきっと、彼の幸せには繋がらないから。だから、あなたは私たちの依頼を受けるしかない」


まあ、そうなるわな。

しかしだ。この女、妙に俺の事を信用し過ぎじゃないか?


「もし、俺が依頼を達成できなかったらどうする?」


俺の問いかけにミーシアリアは首をふる。


「ううん、それは無いと思っているわ。何となく、あなたの知識だけは信用出来る気がするの。これは勇者の勘よ」


「なんだそりゃ。まあ嫌いじゃねえが」


「もし、依頼に失敗した時は......そうね。魔法の契約書を使うことにするわ」


ということで話しは落ち着いた。

俺としては非常に不本意な形で勇者に協力することとなったが、状況が状況なので仕方ない。


そう割り切ることにした。


いったん場を落ち着かせるために俺は席を離れた。

ラディを呼びに行くためだ。もう話しはまとまったので、あいつに隠すようなことは無いはずだ。


そう思って店の表の方に出てみると、ラディと常連さんが何やら食べていた。

.....俺も腹が減ったな。



そういう訳で区切られた一室に5人全員が揃い、話し合いは再開した。


「はあ、しゃあねえ。じゃあ、その依頼の内容とやらを聞こうか」


ミーシアリアはコクリと神妙にうなづいて切り出した。


「それがですね。依頼は、毒に侵された古龍種の治療です」


......勇者んとこの古龍、嫌な予感しかしねえ。

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