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お説教

「聞いてるんですかトウヤさん!」


「う、ああ、まあなんだ……すまん」


「すまないじゃありません! 下手すると死んでたかもしれないんですよ!?」


 見ての通り、俺は今フォルネに説教されている。

 何でかっつーと、まぁ、腕の肉が抉れて血塗れで寝てりゃ、誰だって何事かと思うわな。

さすがに疲労の限界だったから、血を洗い流す事も傷の手当てをする事もなく寝ちまった訳だ。

 で、次の日になってフォルネの悲鳴で目が覚めちまったんだが、そこから傷の応急措置、血を洗い流す、説教の順番でカリキュラムは進んでるようなんだが、そのカリキュラムには朝飯が含まれてないらしい。

 腕の悲鳴が収まった変わりに、さっきから腹が悲鳴をあげてやがる。


「その……フォルネ。そろそろ……朝飯をだな……」


「ダメです! トウヤさんがキチンと反省するまで、朝御飯は抜きです!」


 マジかよ……。


 結局フォルネの説教は、約2時間近く続いた。

しかし説教はされたものの、不思議と不快な感じにはならなかった。

なんつーか、人情味?みたいなものを感じたって言えばいいだろうか。

本気で心配してくれてるっつー感じが伝わってきたような気がする。

 こりゃあ責任もってフォルネを街まで送り届けないとな。

 だがその前に……


「ゥオッグ!」


 痺れた足が朝飯が出来るまでに戻ってくれる事を祈ろう。




 あの説教の後、無事朝飯にありつけた俺は、荷物を纏めて盗賊のアジトを後にした。

勿論フォルネも一緒だ。


「トウヤさん、どちらに向かっているのでしょう?」


 とりあえずアジトを出るとだけしかフォルネには言ってなかったからな。

疑問に思うのは当然か。


「まずはレプス村に向かう。それからモルネデートの街に行って情報収集だな」


 レプス村に行くのはアリバイ作りの為だ。

取り越し苦労になる可能性も否定出来ないが、慎重に行動するのは間違ってはいない。

 それにあの黒い狼の素材を売却出来れば、当分は路銀の心配はいらなくなる。

 あの鹿でも大金だったみたいだし、期待出来るだろ。


「レプス村に向かってるのですね。――ところで、先程からトウヤさんは何かを探してらっしゃるのですか?」


「ああ。ちょっと()()()()()()()()をな」


「お金に成りそうな物……ですか?」


 昨日はアジトに帰ってくるだけでギリギリだった。

とてもじゃないが、狼の素材をかっ捌いて持ってく余裕なんぞ無かったからな。

 だからこそ、今日はキッチリとその素材を持ち帰るつもりだ。

さすがに金にでもしなけりゃ割りに合わねぇかんな。


「お、有った有った! コレだよコレ。この黒い狼に昨日は襲われちまってな」


「こ、コレって……」


 ん?なんかフォルネが狼の死骸を見て固まっちまったんだがどうしたんだ?


「ブラックウルフじゃないですか! トウヤさん、いくらなんでも無謀過ぎます! ブラックウルフを単独で倒す冒険者なんて、殆んどいませんよ!?」


 そうなのか、どうりで強い訳だよ……。


「トウヤさん、村に着いたらもう1度お説教です!」


 マジかよ……。

出来れば足を労ってほしいんだがな。

 まったく、聞けば正座を広めたのはプラーガに召喚された勇者達だって話じゃねぇか。

 その勇者達は絶対ぇ日本人だろ!

余計なもん広めやがって!




 暫く歩いてると、ようやく村が見えてきたので、少し気が楽になった。


「レプス村が見えてきましたね。村に着いたらお説教ですからね?」


 そういや説教されるのは確定だったな。

今ので一気に気が重くなったぜ……。


 村に着いたので、まずは冒険者ギルドでブラックウルフの素材を売却する。

って事で、冒険者ギルドにやってきた。


「あらいらっしゃい、バーネットさーん! 出番ですよー!」


 俺が何かを言う前に、ドワーフのオッサンを呼びやがった。

違う用件だったらどうするつもりなんだ?

まぁ合ってるからいいが。

そして冒険者は1人も居ない……っと。

前にも思ったが、ここの冒険者ギルドの依頼は誰が処理してるんだろうか。

 そんなくだらん事を考えてたら、ドワーフのオッサンが出てきた。


「また素材の売却か?」


「ああ、そうだ。コイツを頼む」


 ブラックウルフの死骸をその場に出す。

それを見てバーネットのオッサンは驚いてたが、それは一瞬だった。

前にもブレイブガゼルという同ランクの魔物を狩ってるからだろう。

 このオッサンからは、俺が相当な手慣れだと思われてんだろうな。

 今回に限っては死にかけたが。


「お前さんは相当な強者だな。見た目じゃそれを感じさせんが」


 だろうな。

元は結して強いなんて事はなかったしな。

 だが見た目で相手が騙されてくれるってんなら大歓迎だ。

俺としちゃあ見た目の評価より、少しでも傷を負うリスクを下げる事の方が重要だ。


「終わったぞ。ほれ、17000テルだ」


 うぉ、たっけぇー!

これなら暫くは金の心配をしなくてすむな。


「ところで1つ聞きたいんだが、お前さんはプラーガ帝国に召喚された人間か? ああ、答えたくないなら答えんでもいいわい」


 このオッサン、俺が召喚されたと気付いたのか?

 いや、そうじゃないな。

強さだけを見ても、それだけじゃ召喚されたとは思わないだろう。

 ならばここはいっそ……


「……何故そう思う?」


「その見た目だ。黒目黒髪はまさに転移者の証と言われるくらい少ない」


 ああそれか。

女神にも言われてたな、そういや。


「まぁ、少々事情が有ってな。詳しくは話せねぇんだ」


「そうか。まぁ、ワシやそこの受付嬢が何かしたりするつもりはないから安心せい!」


 環境のせいか元々の性格なのか、この2人からはまったく悪意が感じられない。

これならこの村から俺の情報が出回る可能性は、低いかも知れねぇ。

ちったぁ安心出来るってもんだ。


 その後、冒険者ギルドを後にした俺とフォルネは、近くの食堂で昼食をとった。

 さすがに食堂での説教は無かったが、宿に入ってからが本番だった。

出来れば説教の事は忘れててほしいと思ってたが無駄だった。

その説教を受けてる時に、キッチリと約束させられた事がある。


「私は家族に売られたんです。信じる事が出来るのはトウヤさんしか残されてないんです」


「…………」


「お願いです。もう……1人にしないで下さい……」


 気付けばフォルネの両目から、涙が溢れていた。

家族に裏切られ、頼れる者がいないフォルネに出来る事は少ない。

涙は女の武器と言われるが、とても茶化す気にはなれない。

 俺がこの日に約束させられた事。

それは……


【1人にしないで】


 結して同情心だけで約束した訳じゃない。

今まで感じた事のない人の温もり。

それを教えてくれたフォルネへの感謝の気持ちだ。

 だから俺はフォルネを守ってやろうと決めたんだ。

少なくとも、この世界に居る内は……。




 その日の夜。

俺は村に1ヶ所しかない酒場――要するに冒険者ギルドに来ていた。

 フォルネは宿で先に寝てる。

1人にしないと言った手前で苦しいが、酒を(たしな)むくらいは多目に見てほしい。

 それに酒だけが目的な訳じゃない。

情報収集の場として、酒場はもってこいの場所って事で、今後の為の布石って訳だ。

 ところでこの村は小さい村だが、夜の酒場となればそれなりに人が集まるようだ。

今もまた、いかにも畑仕事を終えましたと言わんばかりの格好をした中年の男が入って来たところだ。


「マスター、同じのをもう1杯頼む」


「はいよ」


 特に気にしてなかったが、異世界の酒も味は悪くないな。

ただ贅沢を言わせてもらえれば、もうちっと冷えてると有り難いんだが、恐らく冷蔵庫のような物は存在しないんだろう。

 これじゃあ氷も存在してない可能性が高いな――等と考えてる時だった。

 明らかにこの村の住人ではない雰囲気の男達が3人入って来た。


「とりあえず1杯やるか」

「おう!」

「マスター、エールを3杯たのむぜ」


 男達は丁度俺の背中合わせのテーブル席に座ったようだった。

 そして席に着くなり何やら話し出す。


「この村に割りと近いんだよな?」


「ああ、そうらしいぜ?」


「だが妙だよな。2日前に普通に接触出来たのが、昨日になってから急に現れなくなるってのは」


「討伐依頼も出てないし、好き好んで賊を壊滅させる奴とかいないよなぁ?」


 心当たりが有りすぎる内容だった。

()()()()()()なら、間違いなく自分が壊滅させた盗賊だろう。

 この村の様子からして、近隣に盗賊同士がひしめき合っているなんて事は有り得ない。

 豆也は更に情報を得るべく、神経を研ぎ澄ます。


「いや、わからんぜ? もしかしたらミリオネックから流れて来た奴に狩られてる可能性も捨てきれん」


「ああ、それがあるか……」


「何にせよ、明日連中のアジトまで行けばわかるだろ」


「そうだな」


 どうやら今日はこの村に泊まって、明日からアジトに向かうらしい。

 その後も色々話してたが、目ぼしい情報は得られなかったので、宿に戻る事にした。


 そして俺は素早く頭を回転させ、あの3人をどうするか考えるのだった。


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