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VSブラックウルフ

2月5日

第5部のタイトル変更と、本文の加筆を行いました。

「……美味いな」


「あ、有難う御座います!」


 フォルネには悪いが、正直味の方は期待してなかった。

レプス村での軽食は味気無いものだったので、この世界の調味料は開発されてないと見ていたためだ。

 しかし、塩と……恐らく酒だけで、これだけ美味いとはな……。


「料理は得意なのか?」


「いえ、嗜む(たしなむ)程度です。元々料理をするのが好きだったので……」


「そうか……ご馳走さま」


「はい?」


 ん?何か変な事を言っただろうか?


「……その……今のゴチソウサマ……というのは何でしょう?」


 ああ、そういう事か。

この世界には「いただきます」や、「ご馳走さま」という風習はないんだろうな。


「俺の故郷の言葉で、いただきますと、ご馳走さまと言う風習があってな、いただきますは動物や植物をこれから「いただきます」と言って食べる。そして食べ終わったらご馳走さまと言って、感謝を込める。って事だ」


「珍しい風習ですね。プラーガでは聞いた事が有りません」


「っ! プラーガだと!?」


「ひっ!?」


「あ、す、すまん。国名に驚いただけだ」


 くそっ、なんてこった!

今の今まで失念してたが、ここが森の東側に近いって事は、プラーガ帝国に一番近いじゃねぇか!


「……あの……アナタはプラーガはお嫌いですか?」


 嫌いっつーか、相性が悪いっつーか、何れにしても、関わりたくない国なのは間違いないが、フォルネの前では言わない方がいいな。


「まぁ、少し……な。色々あるんだよ」


「そうですか……」


 それよりも、これからどうするかを聞かないとな。


「フォルネさんはどうしたい? モルネデートなら一番近いから、送って行けると思うが」


「……出来る事なら真相を知りたいです。本当に両親に売られたのか……」


 まぁそう思うよな。

だがその場合は危険が伴う事になる。

何せ売った相手の元に本人が居ないんだからな。

 しかもあの盗賊の頭目だ。

身形は貴族を思わせるものだった。

売った相手があの頭目だったのか、別の誰かに売ったのを奪ったのかはわからんが。

 何れにしても、プラーガの貴族が絡んでるのは間違いないって事だ。

そしてその渦中にこれから飛び込まなきゃならないとか、自分の運の悪さを呪うしかない。


「トウヤ様。無理を承知でお願いします。モルネデートの街に私の家族が居ますので、そこまで御送りいただけませんでしょうか」


 貴族令嬢とも有ろう御方が、平民の俺に対して頭を下げるとか、中々出来ない事だよな?

まあ状況が切羽詰まってるからってのもあるかも知れんが。

 しかし俺の方から関わった以上、放って置く事は出来んよな。


「わかった。モルネデートまで送っていくから、今日はここで休んでくれ」


「あ、有難う御座います!」


 食事が終わると、フォルネには先に寝てもらい、俺はこれからの計画を練る事にした。


 まずは街に行ってフォルネの家族との対面だが、盗賊に襲われて俺以外の護衛は死亡した事にする。

つまり俺は、最初からフォルネの護衛として同行していたって事になる。

 そして本来のフォルネの行き先だが、南方にあるコフォンドーレスの街だったらしい。

南側なのは都合がいい。

レプス村に立ち寄っておけば、一応は南方に向かったと言う事が出来る。


「よし、とりあえずは行動の目処が立ったな。時刻は……」


 まだ夜の21:00だ。

結界石を使ったのが20:00くらいだから、今から()()する時間は十分に有る。

事前にフォルネには結界から出なければ安全だと言ってあるので大丈夫たろう。


「そんじゃ明日に備えて、レベリングといこうか!」


 自分の身体強化のため、強いてはいざとなればフォルネを守ってやるために、俺は夜の森へ足を踏み入れた。




 あれから3時間経過した。

ゴブリンやら狼やらを狩りまくって、大幅なステータスアップに成功した。

 今現在のステータスはこうだ。


名前:海原豆矢(うなばらとうや) レベル:10

HP:225 MP:50

 力:362 体力:321

知力:69  精神:48 

敏速:864  運:20 

【スキル】隠密Lv2 加速Lv2 身体強化Lv3 剣Lv3 弓Lv2 短剣Lv2 相互言語

【魔法】火魔法Lv1


 まずは力を奪取し一撃の殺傷能力を高め、敏速とHPを揚げまくった。

これで死ぬような危機は殆ど無いだろう。

 だがこの時、既に俺の中で満身して浮かれていたのは確かだ。

まさかあのような危機が訪れようとは……。



「時間的にそろそろ戻った方が――っ!」


 盗賊のアジトに戻ろうとした瞬間、俺に対して周囲から殺気が放たれてるのを感じた。

今まで戦った魔物の中で、一番ヤバイ奴かもしれねぇ!

 いざとなれば逃げればいいが、フォルネの居るアジトまで引っ張って行く事になりかねない。

 考えてる間にも、()()は少しずつ俺を包囲しようとしていた。


「走るか?」


 いや、ダメだ!

少しだけ見えたが、奴等は狼形の魔物だ。

引き離しても臭いで追って来そうだ。

 俺は走るのを止め、開けた場所で戦う事を選択した。


「よし、ここなら……イケる!」


 俺は立ち止まり、狼の群を迎え撃つ。

暗がりでよく見えないが、この狼達はグリーンウルフって奴よりデカイ。


「グリーンウルフの上位種か……」


 豆矢の考えは正しかった。

この狼達はグレーウルフといって、グリーンウルフの進化した魔物だ。

 だがランクも1ランク上がっており、Fランクのグリーンウルフの上……つまり、Eランクなのである。


「敏速は俺の方が上だ。ならここは速で――」


 速さでは豆矢に分があるようで、グレーウルフが1体、また1体と数を減らしていく。

 だがこの時豆矢は、致命的な間違いを犯していた。

豆矢の作戦そのものは決して間違ってない。

今の自分の最大の長所である素早さを生かすという考えもいいだろう。

 但しそれは、戦いを回避出来ない場合の話だ。

この時の最善の選択は逃げる事であり、迎え撃つ事ではなかった。

 何故なら彼らグレーウルフには、忠誠を誓っている群のリーダーが居るのだ。

グレーウルフが群れているという事は、その上位種であるブラックウルフが存在するのである。


「何とか4匹仕留めたが、まだ6匹くらいは残ってるな」


 だが豆矢も豆矢で善戦していた。

囲まれてる状況下で、正に孤軍奮闘である。

 しかし、さすがに数が多すぎた。

ただでさえグレーウルフの群と戦う前に、ゴブリンやグリーンウルフを相手にしてたので、スタミナの限界が近づきつつあった。


「クッ、さすがに……しんどいな……」


 少しずつ肩で息をするようになってきた豆矢だが、これこそがグレーウルフ達――いや、ブラックウルフの狙いだったのだ。


「っ! まただ。先程感じたのと同じ殺気!」


 殺気を放ちながら豆矢の前に現れたのはブラックウルフ。

Dランクの魔物だ。

Dランクと言えば、ブレイブガゼルもDランクなのだが、ブレイブガゼルとクラッシュベアを相手にした時と今では状況が全く違う。

 しかも豆矢は悪い方に勘違いをしていた。

前に倒したブレイブガゼルとクラッシュベアは、互いに戦闘を行ってる最中に豆矢によって仕留められたが、それはただ単に豆矢の運が良かっただけの話だ。

いきなり身体強化のスキルが失われたブレイブガゼルに、追い詰められていたクラッシュベアが捨て身で一撃を放ち、ブレイブガゼルは致命傷を負ってしまった。

そこへ豆矢が現れ、漁夫の利を得たのだ。

 対する今は、数で囲まれ、スタミナを減らされ、本来のステータスよりも確実に落ちている状況である。

そこへブラックウルフが現れたのだ。


「待ってやがったのか……俺のスタミナが切れるのを……」


 言葉は通じないが、勿論だとでもいいそうな顔をして「ウォン」と返してきた。


「だが俺は死なねぇぜ? 簡単にはよ!」


 素早さには対抗できると判断した豆矢は、ブラックウルフに対してギフトを発動し、力を奪った。


 力:364→力:486


 よし、大幅に上がったな。

これで奴は力を大幅に落としたは――ん? ぐぁ!!


 決して油断した訳ではなかった。

なかったのだが、この黒い狼は、突然視界から消えたと思ったら、いきなり右横に現れやがった!

幸い骨は問題なさそうだが、腕の肉が抉られて激痛が走ってる。

咄嗟に避けなかったら、腕を食い千切られていただろう。

 だが安心出来る状況ではない。

今が好機とばかりにグレーウルフ達も動き出したからだ。


「くそがぁーーーっ!!」


 迫り来るグレーウルフを力任せに切り伏せ、後から迫ったグレーウルフの首を鷲掴みにし、地面に叩きつける。

「ゴキッ!」っという嫌な音と共に動かなくなるグレーウルフ。

 残りのグレーウルフは、それを見て距離を取った。


 っと、そこへ再び正面から迫ってきたブラックウルフだったが、同じ手は喰わないとばかりに、豆矢は後ろに下がった。

豆矢の予想通り、左横から現れたブラックウルフの一撃は空を切る。

それを見て悔しそうに豆矢を睨み付けるブラックウルフ。


 だが決して状況が改善された訳ではない。

豆矢のスタミナはとっくに限界を迎えており、少しでも気を抜けばそのまま倒れてしまいそうだった。

 このままでは殺られる‥‥そう思った豆矢は、自分から仕掛ける事にした。

 狙いはブラックウルフが再び豆矢に仕掛けてきた時。

そう思った直後、ブラックウルフは動き出す。

そしてそれを見て豆矢も()()した。


「これで決めてやる!」


駆け出したブラックウルフに加速して、一気に目の前まで迫る。

そして見事、すれ違い様に首を切り落とす!




 ーー事は出来なかった。

目の前まで接近され驚いたブラックウルフだったが、すぐに反応し咄嗟に首を逸らしたのだ。

そのせいで、致命傷を避けられ、右頬を抉るだけに止まってしまった。


「ちっき……しょう! クッ……」


 まともに立って居られず、前のめりに倒れ込む豆矢。

ウルフ達にとってはチャンスだったが、さすがに学習し、すぐに迫ることはなかった。

 ほんの少し延命が出来た豆矢だったが、絶体絶命である事にかわりはない。

グレーウルフ達は一定距離を保ち、ブラックウルフのみが慎重に豆矢へと迫っていた。


「何かねぇのか、何か……」


 刻一刻と迫るタイムリミットは、残り20秒程度であろう。

 だがここで豆矢は、自分の腰につけているポシェットの中にあった()()()を思い出した。


「これなら……最後のチャンスか……」


 起死回生の()()()を手に持ち、ブラックウルフとの距離を確め、カウントダウンを始める。



「そうだ」



「まだまだ」



「こんな」



「ところじゃ……」



「終われねぇんだよ!!」


0!

 

 ほぼ零距離の状態まで来たブラックウルフに、切り札のスタンガンを押し当て発動させる。


 バチッ!


「ギャウッ!?」


 動きは止まった!

このラストチャンスをものにする為、すぐさま動きの止まったブラックウルフの首をはね飛ばす。

 首はそのまま1匹のグレーウルフの足元まで転がり、それを見たグレーウルフ達は、リーダーが殺られた事を理解したようで、一目散に逃げ出した。


「終わったか……」


 だが最後まで気が抜けない。

豆矢は腕を庇いながら、フォルネの居る盗賊のアジトへと戻った。

そして結界の中に入ったのを確認し、その場に倒れ込むように眠りについたのだった。


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