捕らわれの……
雑魚はもう居ないはずだ。
恐らくは、盗賊の親玉が1人だけ。
だが、あれだけ騒がしたのに、出て来ないのは不自然か?
本来なら何事かと飛び出して来てもおかしくはない。
となると……
「部屋の中で待ち構えている……か?」
おかしくはない。
むしろその可能性が高いのではないか?
ならば、口先だがちょいと試してみるか。
このまま突撃するよりは、物は試しとばかりに扉へと近付き……
「お、お頭ぁ……侵入者が、襲って……来やして……」
俺はわざと苦し気な声で、扉の中に向かって弱々しく叫んだ。
「……それで、侵入者はどうした?」
中から割と若い声男の声が聴こえてきた。
こいつが頭だろうが、少々意外だ。
「へ、へぃ。何とか……仕留め……やしたが、殆どの野郎が……殺られやした」
「うむ、わかった。すぐ行くから暫し待て」
「へい……」
さて、警戒を解いて来るなら有り難いが、もしこちらの企てがバレてたら、扉が開いた瞬間にいきなり……って事もありえる。
つまり、勝負は扉が開いた瞬間!
ギイィィィ!
ゆっくりと扉が開き、中から何者かが出てきた瞬間!
ザクッ!!
「グゥワアァァァーーッ!!」
懸念した事態もなく、俺の剣はあっさりと親玉の脇腹に突き刺さる。
「キ、キサマーーーッ! キサマが侵入者か! この卑怯者めーーっ!」
何となくだが、気品がある気がする男だ。
だがそんな事は後回しだ。
もし切り札的な物があるとも限らないので、アビリティドローでコイツの得意な攻撃を奪う。
【魔法】火魔法Lv1
お? コイツ魔法つかえるのかコイツ!?
とはいえ、今のドローで使えなくなったがな。
「――グウゥゥ、ふざけおってぇ!」
得意の魔法を放とうとするが、予想通り不発に終わる。
「な!? 何故だ! キサマァ……私に何をした!?」
どうやら魔法は使えても、肉弾戦は出来なかったらしいな。
魔法が使えなくなったとわかると、俺に対して怯え出した。
セリフだけは好戦的だが。
「お前が知る必要はない。それより、ここの盗賊共の親玉はお前だな?」
「……だ、だったらなんだと言うんだ?」
この反応、間違いなくコイツが親玉だな。
もし俺が、親玉なら殺すと言えば、コイツは親玉じゃないと言い張るつもりだ。
「賞金が懸かってるだろうから、街まで連れてく」
俺の目的が親玉を殺す事ではないと伝える。
金目当ての企てに見せて、相手の反応を見る。
「……グフッ、か、金なら有る、そこの棚の裏側に大金を隠してある、だから助けてくれ!」
そういや俺、コイツの脇腹に突き刺したんだったな。
辛そうだが、出血量を見る限り、命に別状なさそうだな。
と、今はそれどころじゃねぇ。
「ならお前がそこから取り出せ」
男は何かブツブツ言いながら、部屋の隅に設置してある棚の裏側を漁り出した。
しかし、見れば見るほどコイツは盗賊には見えない。
どちらかといえば、貴族側の人間ではないかと思えてくる。
それにこの部屋だ。
日本式に言えば、8畳間くらいの広さがある。
この薄暗い洞窟の中にな。
それに家具も高級感があるが、もしかして他人から奪ったのではなく、元々コイツの私物だっのではないか?
だとすると、コイツは跡を継げなかった貴族の息子、もしくは没落した――っ!
俺は思考をやめ、すぐに真横へと跳んだ。
棚の裏側を漁っていた親玉が、魔法放ってきたからだ。
一応警戒してて良かったぜ。
この野郎、金を取り出すフリをして、詠唱してやがったな!
「くそ!避けられたか!」
魔法スキルは奪ったはずだが、他にも使える魔法を持ってたのか、魔法道具のような物か不明だが、今はコイツを黙らせよう。
「この野郎!」
次の魔法を詠唱してる最中に、親玉の元まで加速し、剣でブッタ斬る。
「うギャアァァァッ!!」
これでもう、コイツは助からないな……。
だが仕方ない。仕掛けたのは俺の方だとはいえ、黙って殺される程お人好しじゃあない。
コイツが俺の予想通り貴族だったなら、もっと別の生き方があったろうによ……。
「……さて、物色させてもらおうか」
気を取り直して、役立ちそうな物がないか部屋中を物色する事にした。
金目の物もそうだが、この貴族だったっぽい男の情報も欲しいところだ。
この男の身元等がわかれば利用価値が出てくるかも知れねぇ。
部屋中を物色した結果、金貨が4枚と銀貨が11枚見つかった。
残念ながら、それ以外は大した物はなかった。
いや、有るには有るが、さすがに家具を持ち出すのは無理だって話だ。
見た目からして高そうだから、売れるとは思うが仕方ない。
後は……、
そろそろ部屋を出ようとしたところで、先程の男の亡骸が目に止まった。
「こういう事はしたくないが……」
俺は最後に、男の持ち物を調べた。
すると、男が身に付けていたブレスレットを発見したため、それを男から外す。
「……日本語じゃないのに読めるな」
そのブレスレットには名前が刻印されており、エンドリュー・ニルズスキーニと彫られていた。
何故異世界の文字が読めるのかわからんが……あ、成る程……スキルか。
確か俺のスキルに相互言語ってのがあったな。
そしてこの名前は、装着者か製作者のどちらかって事になると思われる。
ただ、このブレスレットが奪われた物なら、その限りじゃないが。
この男がエンドリューである可能性があるって事は、一応覚えておこう。
ブレスレットは男の手に握らせ、部屋を出た。
「でだ。こっちの捜索してない方には、捕らわれてる女がいるらしいが……」
というのも、盗賊の1人がそう言ってただけで、俺はまだ確認してないからだ。
だからもしかしたら女じゃなく、人形の可能性も有るか。
――なんてくだらない事を考えたりもしたが、さすがにあり得んか。
まぁ……あれだ、日本に居た時に、人形を着飾って恋人と称してた換わった趣味の奴がいたからなんだが。
元々捜索するつもりだったので、入口からみて右側の方を進んで行く。
少し進んだ所に檻になってる部屋があり、檻の中で倒れ込んでる人らしき存在が確認できた。
「おーい! 生きてるか!?」
とりあえず、檻の外から大声で叫ぶ。
近くで揺すると、俺も盗賊の一味と思われかねないからな。
「………」
――反応がないな。
寝てるのか、衰弱してるのか不明だが、もう一度叫んでも反応しないなら、直接揺すり起こしてみるか。
「おーーーい!!聴こえてるかーーー!?」
お、もぞもぞと動きそう出したな。
「……誰……ですか?」
見たところ、特別命の危機って事はなさそうたな。
ひとまず落ち着いて大丈夫そうだ。
「俺は通りすがりの旅の者でトウヤって者だ。道中で盗賊を見かけたんで、アジトを潰しにきたんだが」
こちらに敵意が無いって事は伝わったと思うんだが、問題は信用してくれるかどうかだな。
「……それは本当ですか?」
「ああ、盗賊共は全滅したと思うんだが、今アジトを捜索してる最中にキミを発見した」
「ここから出られるんですね?」
「勿論だ。もし希望するならキミを最寄りの街まで送ってもいいが……どうする?」
「あ、有難う御座います! 多分1人では帰れないと思うので、是非お願いします」
とりあえずは信用してもらえたようだ。
だが問題は、今から街に行くと夜になっちまうから、今日だけはここに泊まるしかないって事だな。
この女が了承してくれれば……そういや名前を聞いてなかったな。
「ところで、名前を教えてもらえると助かるんだが?」
「す、すみません、私ったら。私はフォルネーティス・ルディアンガルフと申します。フォルネとお呼び下さい」
やや長めな名前からして……貴族か?
もし貴族だとしたら、何故盗賊に捕まっている?
普通、貴族を襲おうものなら、報復は免れないんじゃないか?
いや、ここは本人に聞くべきだろう。
ここにいる理由を聞くのは、不自然な事じゃない。
「失礼だが、何故ここに? 捕まってここに連れ込まれたのか?」
「……はい、実は私、つい最近婚約が決まったのですが、その婚約者のいる街へ行く途中だったんです」
ほー、婚約ねえ。
いきなり自惚れ話かよ!と思っちまったが続きをほどこす。
「つまり、その婚約者のいる街へ移動中に盗賊に襲われたと」
「いえ、違います」
違う? どういう事だ?
「途中で馬車が止まり、護衛していた冒険者が、私を盗賊達に引き渡したのです」
なんだその話は?
つまり、その冒険者と盗賊はグルって事だよな?
「なぁ、フォルネさんは貴族だよな? 普通そんな危険な事を、冒険者がするとは思えないんだが……」
勿論絶対ではない。
危険を省みずにって事も十分ありえる。
だが余程の事がない限り、一冒険者が盗賊と通じるのは……
「もしかしたら……両親に売られたのかもしれません」
フォルネの表情は暗い。
そりゃあ家族に売られたとか考えたくもないわな。
だが、その例えを出すという事は、その可能性がかなり高いって事なんだろうな。
しかし、こういう雰囲気は苦手だ。
こういう時ってのは、どんな顔して話しかければいいのかわかんねぇ。
だいたい他人を慰めるとか柄じゃない。
「まあ……なんだ、とりあえず、今から街に向けて移動すると夜になっちまうから、今日はここで泊まるって事でいいか?」
「はい、大丈夫です」
「とりあえず、今後どうするかは今日1日考えるといい」
今はこれくらいしか言えねぇな。
特別親しい訳じゃねぇし。
「そんじやあ飯にでもするか。干し肉とパンしか無いがかまわねぇか?」
元々野宿する事が前提の荷物だから、日保ちしない物は持ってきてない。
「それでしたら私が作りましょうか?ここでは何度も料理係として作らされてましたので、材料の有る場所もわかります」
「そいつは助かる。味気無い物しか持ってきてないんでな」
「では私が作りますね」
そう言ってフォルネは、部屋から出ていった。
しかし厄介な事に首を突っ込んだのかも知れねぇ。
下手すりゃ貴族共に追い回される可能性も出て来「キャーーーーッ!!」
「何だっ!?」
くそっ!まさかまだ生き残りが居やがったのか!?
急いで部屋を出ると、盗賊の死体のすぐ近くで、へたりこんでるフォルネが居た。
「す、すみません。……その……人の死体を見るのは初めてで……」
「あーすまん。死体かたずけるの忘れてた」
そうだよな。
普通は冒険者でもない限り、死体なんて見る事はないもんな。
「出来れば火葬した方がよろしいかと。死体は放っておくと、アンデッドになると聞いた事があります」
アンデッドか……そいつは笑えないな。
ならついでに火魔法の練習でもしてみるか。
「わかった。死体は俺が片づけるから、フォルネさんは料理を頼む」
「はい、わかりました」
フォルネが呼びに来るまでの間に、ひたすら魔法の練習をした。
これで戦術の幅も少しは広がっただろう。