冒険者ギルド
木々の隙間から射し込む朝日に照らされつつ起き上がる。
時計を見ると朝の7時になっているが、この世界と地球の時間が同じかどうかまでは不明だ。
結界石を使用したのが昨日の夜20時のため、後1時間くらいで結界が切れるはずだ。
結界が切れる前に動く必要があると判断し、周りを見渡して敵がいないか確認するが……
「――なんだこりゃ!」
結界の外には、ゴブリンが4匹、狼が6匹、猪が2匹が血溜まりに沈んでいた。
更には、1匹の熊とオーラみたいなのを纏った鹿が闘っていた。
「結界石が無けりゃヤバかったな……」
恐らく、昨日倒したゴブリンの血の匂いに誘われた狼や猪が集まったんだろう。
4匹のゴブリンは、帰って来ない仲間を探しに来たってとこか。
熊と鹿はしらん。
「ま、俺にとっちゃ好都合だ。さっそくアビリティドローで……あれ」
発動しねぇな……何故だ?
何度かやってみたが、やはり発動しなかった。
おいおい勘弁してくれよ。
このスキルが使えなきゃマジで……いや、そうか!
ふと思い付いた事があり、いまだに戦闘を行っている熊と鹿を見た。
戦況は鹿が優勢のようなので、鹿のまとってるオーラみたいなのを奪うため、スキルを発動しようとすると……
【スキル】身体強化Lv3
「しゃあ!上手くいったぜっ!」
どうやら対象が死んでると発動しないようだ。
っと、喜ぶのは後だ。
鹿のスキルを奪った事で、熊が鹿を殴り飛ばしたようだ。
かなり致命傷をうけたらしい鹿は弱々しく立ち上がる。
だがこのまま熊に勝たれると、今度は俺が熊と闘うはめになるため、直ぐに熊の力を奪うため、再びスキルを発動する。
「アビリティドロー!」
力:39→力:159
へ、上出来だぜ!
力が大幅に上がった今なら……。
俺はゴブリンが持ってた棍棒を握りしめて、ゆっくりと熊の背後に近づき……
「くたばりやがれっ!!」
ドグヂャッ!!
おもいっきり棍棒を振り下ろしてやった。
脳汁をぶちまけて倒れ込んだが、恐らく即死だろう。
そしてそのまま驚いている鹿にも棍棒を叩き込んで、辺りに立ってるのは俺だけとなった。
直ぐに移動しようと思ったが、金になるかもと思い直し、熊と鹿の手足と頭部を道具袋につめてから北へ向かって歩き出した。
2時間程歩いたところで気付いた事がある。
「昨日の夜から何も食ってねぇ……」
食料が無い今、出来るだけ早急に村なり街なりに、立ち寄る必要がある。
それとも木の実でも採集しようかと周りを見渡すと、東側の森が途切れて道が出来てるのを発見した。
「あの道を北に向かって歩くか」
それから道なりに北へ進んだところで、前方に村らしき物が見えてきた。
時間にして1時間程度だったので幸先よさそうな感じだな。
村の入口まで来ると、門番?のような老兵が立っていたので話しかけてみるか。
いきなり村に入ろうとして、不審者扱いは御免だ。
「すいませーん」
「なんじゃお主、旅の者か?」
「はい、少々道に迷ってしまって。ここは何という村ですか?」
「ここはレプス村じゃ。それで、お前さんはどこに向かおうとしちょる?」
レプス村か。
特になにかする訳じゃないが、一応覚えとくか。
こういった些細な情報は後々役立ったりするもんだ。
「とりあえずミリオネックを目指してるんですが、食料が心許ないので売ってもらえませんか?」
「ミリオネックに行くなら、ここから北に1日歩いて行けばモルネデートの街につくから、その街から西に何時間か歩けば、国境線を引いてる検問所があるぞぃ。それから食料品なら村の中央に店が集まっとるから、見てみるといいぞぃ」
「親切に有難う御座います」
えらく滑舌で親切な爺様だったな。
ああいう人には是非とも長生きしてほしいもんだね。
一応この爺さんにアビリティドローを使ってみたが、やはり発動しなかった。
寧ろ発動したら、この村に後ろめたい事がある可能性が出てくるから、これはこれで良しとしよう。
しかし検問所かぁ……絶対に通るべきじゃないよな?
余計なイベントが起こりそうな雰囲気がプンプンするぜ。
で、村の中央ってのは……お、この先に密集してる建物があるからそこだな。
兎に角、入手した熊と鹿の素材を売却出来るか確認しなきゃならねぇ。
適当な店に入るか。
「あらいらっしゃい。何か入り用かい?」
店に入ると、人の良さそうな婆さんが出てきた。
「実は素材を買い取ってほしいんですが、可能ですか?」
「それなら向かいの建物が冒険者ギルドだから、そこで買い取ってもらいなさい」
おおぅ、出たよ冒険者ギルド。
何となく在りそうな気はしてたけどな。
「有難う御座います。買い取り終わったら、食料品買いに来ますんで」
「あら有難うね!」
しっかしいい人ばかりだなこの村は。
田舎だとこんなもんか?
勿論、この婆さんにもアビリティドローは発動しなかった。
さて、いよいよ冒険者ギルドに入るわけだが、こういう場合、中に入るとガラの悪い連中に絡まれるらしいんだが、本当だろうか?
ゲーセンでヤンキーが絡んでくるようなもんだろ?
まぁ今どきヤンキーなんぞに絡まれる事はないだろうが。
ギイィィィ……
静かにギルドの扉を開けて、中を覗いて見ると……
「いらっしゃいませ冒険者ギルドにようこそ!」
20代前半くらいの元気のいい受付嬢が居た。
だが、受付嬢しか居なかった。
「人が全くいない?」
「田舎ですからね、こんなものですよ?」
「そうなのか……」
田舎なのでと言われれば、そうですかとしか言えんよな。
「素材の買い取りをお願いしたいんだが」
「買い取りですね、畏まりました! バーネットさーん? 買い取りお願いしまーす!」
すると奥からズングリムックリな体型の……あ、ドワーフってやつだな。
「おぉう、買い取りだって? ここに出してくれ」
いや、ギルドのど真ん中なんだがいいのか?
他に人が来たら確実に邪魔くさいと思われるが……
「ん? あぁ、場所なら気にせんでいいぞ? どうせこんな田舎じゃ誰も来やしねぇしな、ガッハッハッハ!」
まぁそうだろうとは思った。
酒飲んでる奴すら1人も居ない時点で、人が来る事は殆どないんだろう。
依頼とかどうやって処理してんだろうな?
「じゃあ出しますね」
とりあえず、熊と鹿の素材を全て床に出して並べた。
さて、少しでも金に成るならいいが……
「こいつはクラッシュベアだな。こいつの爪は買い取り出来るな。頭部はいらんが」
クラッシュベアね。
素材になるのは爪か。
「クラッシュベアの胴体はどうです?」
「いや、クラッシュベアは爪くらいしか素材には成らんな」
ちぇっ、マジかよ……胴体はデカイくせに使えねぇな。
「……おい、こいつはお前さんが狩ったのか?」
鹿を指さして尋ねられたので、素直に頷く。
「こいつはブレイブガゼルだ。Dランクだから1人で狩るのは少々危険な魔物だ。あんたは強いのかも知れんが、注意した方がいいぞ?」
「いや、見つけた時は既に弱ってたんで、楽に倒せました」
「そうか。それは運が良かったのだな」
この鹿は、身体強化スキルがあるから見た目以上に強いってこった。
実際に俺が倒した時は、身体強化スキルを奪った後に、クラッシュベアに一撃入れられてたから楽に勝てたんだよな。
「査定が終わったぞ。クラッシュベアの爪と、ブレイブガゼルの頭部で10800テルだ」
金銭的な価値は正直わからん。
だが、金貨1枚と銀貨8枚で、10800テルって事はわかった。
これは今後、街で買い物する時の支払いで役に立つな。
「内訳は、爪が800で頭部が10000な」
ブレイブガゼル高ぇな!
今度見かけたら積極的に狩ろう。
ギルドを出る時に、冒険者登録しないかと言われたが断った。
足が付くような真似は避けるべきだしな。
その後、酒場で軽食を摘まみながら近くの村人全員にアビリティドローをかけるが、全て不発だった。
平和な村だな……。
最後に冒険者ギルドの向かいの店で、食料品や雑貨を購入してから村を出た。
「モルネデートって街に向かうと、検問所を突破しなきゃならねぇが、街に行かないと食料が直ぐに尽きちまう。どうすっかなぁ……」
悩んだ末、再び森の中を北へ進む事にした。
森に入って5時間くらい経つと、辺りも暗くなりはじめたので、適当な場所で野宿する事にした。
夜までの間に数回魔物が襲ってきたが、何れも難なく撃退……というか殲滅した。
襲って来たのは、狼10匹と、羽虫が3匹くらい。
いつのまにか狼に周りを囲まれてるのに気付いた時は、流石に肝を冷やした。
だが、身体強化とアビリティドローでの狼を弱体化してからの力押しで倒しきった。
羽虫の方は、動きが遅かったんで問題なく瞬殺した。
んで、そん時の戦闘のお陰でステータスアップした結果がこれだ。
HP:103→HP:109
力:173→力:183
体力:55→体力:311
敏速:135→敏速:185
どうよ?生まれ変わった気分だぜ!
まず羽虫は体力10ポイントくらいだった。
しかも3匹でな……。
だが狼の方は強さが上のためか、上昇値は高かった。
実際に敏速を奪ったのは1匹だけだが、上がった数値は1番高い。
逆にHPは2匹で6ポイントって、ショボすぎだろぉ……。
これは多分あれだな。
魔物によって奪える適性が違うな。
HPに関しては、昨日よりもレベルが上がってるため、そこそこ上がった様にみえるが。
多分HPは生命力だから、命に直結する物は直接奪うのは難しいんじゃないかと見ている。
先ずはHP以外を奪っていく方向でやってみるか。
ちなみに運は奪えないようだ。
つー訳で、明日に備えて今日は寝る!