トウヤVSクソ勇者
クソッ、何てこった! この街の勇者が殺られたとあっちゃ、プラーガの奴等が攻め込んで来るじゃねぇか!
「ふぁぁぁ……あら? ここは……」
おっと、フォルネが目を覚ましたか。
寧ろよく今まで眠れたもんだと不思議な気がするが、一応心の準備をさせとくか。
「フォルネ、少々マズい事になった。プラーガの連中がここへ攻めて来るかもしれねぇ」
「……え?」
「この街の勇者が殺られた。この機に乗じて攻め込んで来る可能性があるんだ」
まだ半分寝てる感じのフォルネに対し、一方的に伝える。
また抱き抱えて逃走しなきゃならねぇかもしんねぇしな。
フォルネは目を擦りながら慌ただしさを感じる周囲を落ち着いて見渡してるが、今はこの落ち着きようが有り難い。
「プラーガだ! プラーガ帝国が攻めて来たぞーーーっ!」
チッ、やっぱり来やがったか! 出来れば逃げたいところだが、それは最後の手段だ。
「落ち着け皆の者! 守備隊は守りを固めて街への侵入を防げ!」
不安な表情で見つめてる住民達が居る中セリオスがテキパキと指示を出してるが、勇者が死んだ事が伝わってる今は兵士達の士気は低い筈。
最悪は街を棄てる事になるか?
「セセ、セリオス様ァ! ゆ、勇者です! プラーガの勇者が攻めて来ました!」
「何だと!?」
血相変えた兵士が広場に駆け込んで来た。
その後ろの方じゃミリオネックの兵士達が上空へ吹き飛ばされてるのが見える。
それをやった奴が勇者に違ぇねぇ!
「フォルネはここに居ろ。ちぃとばかしヤバイ奴を倒してくる」
「トウヤ……さん?」
まだ寝惚けてるようだが……まぁいい。
どのみち勇者相手に背中向けるのは危険だし、こっちから仕掛けてやる!
「グァァァッ!」
「な!?」
突然背後に居た兵士がぶっ飛んでいった。
後ろからも来てるってのか!? と思ったが、どうやら前に居た勇者が後ろに回り込んだらしい。
「おぉう、ここの領主はどいつだぁ?」
気だるそうに剣を担いだ青年がそこにいた。
見た目からして間違いない、コイツぁ俺と同じ日本人の転移者だ。
なおも気だるそうにアクビをかましてる青年の前に、セリオスが出て行く。
「私が領主だ。本来なら勇者トモノリ様が領主であられたが、残念ながらお亡くなりになられたのでな……」
「へぇ、そいつはかわいそうに。街をほったらかした挙げ句、少数で攻めてきて勝手に死んだザマァな勇者が領主だったかぁ。まぁ身勝手な勇者様に有りがちな事だよなぁ」
「貴様ぁ……」
セリオスが勇者を睨み付ける。
気持ちは分かるが堪えろ。
お前の手に負える奴じゃねぇ。
まずは鑑定だ、そこからヤベェスキルをドローしてやりゃ勝機はある。
名前:村上悟 レベル:115
HP:2568 MP:857
力:2265 体力:1840
知力:598 精神:1230
敏速:1642 運:25
【ギフト】勇者への祝福
【スキル】剣Lv6 格闘Lv2 短剣Lv3 相互言語 変幻自在
【魔法】火魔法Lv3 土魔法Lv1
ステータスがヤバイ事になってるな。
対抗出来るのが素早さくらいしかないってぇのか……。
しかも勇者専用のギフトを持ってるようだ。
「…………よし」
まずはギフトをドローしてやろう。
食らえ、アビリティドロー!
バチバチバチバチバチ!
「うぐ!?」
な、何だいったい? ドローが失敗しただと!? おいおい、冗談じゃねぇぜ。
コイツが善人な訳ねぇだろうが!
……いや、まてよ? 今までなら失敗しても、今みたいに電撃みたいなのが走る事は無かった筈だ。
という事はだ、コイツのギフトが原因か、勇者として転移した時の特権みたいなのが有るって事か。
だったら試しにギフト以外をドローしてやれば……
バチバチバチバチバチ!
「くっ……」
やっぱりダメだ。
何らかの抵抗を受けて上手くいかねぇ。
「……おい、そこのお前」
チッ、クソ勇者が俺の方を見てやがる。
まさか俺が仕掛けてるのがバレちまったか!?
「そうそう、お前だよお前。さっき俺に何か仕掛けただろ?」
やっぱバレてるようだな。
こうなりゃ腹を括るしかなさそうだ。
「よく気付いたな。テメェがどれ程クソ野郎かを見てみたくてな、チョイと鑑定させてもらったぜ」
「鑑定だぁ? ……んだよ、心配して損したじゃねぇか。もっと厄介なバッドステータスでも掛けられたかと思ったぜ」
やや顔をしかめただけで随分と余裕だな。
それだけ勇者っつうのが能力的に優遇されてるって事なんだろうが。
「まぁいいや。俺をクソ扱いしやがったし、とりあえずお前
……死んどけや!」
クソ勇者が一気に間を詰めてくる。
素早さは向こうがやや上って事もあり、俺は慎重に加速で対抗した。
その結果クソ勇者の敏速値を上回り、首目掛けてなぎ払われた剣を弾く事に成功する。
「チッ、やるなテメェ。まさか防がれるとは思ってなかったぜ」
「そいつぁどうも」
だが決して褒めてる訳じゃなさそうだな。
唇を噛んでるところをみれば、防がれた悔しさの方が上なんだろう。
しかし、マズいな。
アビリティドローが効かないんじゃ倒すのは難しい。
「トウヤ殿、我等も加勢致します。如何に勇者と言えど数の暴力には敵いますまい」
「けどな……」
セリオスはそう言うが、数でどうにかなる相手じゃねぇ。
「いいぜ? 何人でもかかってこいよ。力の差ってやつを教えてやらぁ!」
当然コイツは負ける気なんて更々ないだろう。
だから俺はセリオスに耳打ちした。
「俺が正面から仕掛ける。他は死角に回ってくれ」
「承知した」
「いくぜ! ファイヤーボール!」
まずは挨拶代わりに火の玉をくれてやる。
爆煙で目眩ましをしつつ……な!?
ボンッ!
「グアッ!」
ちきしょう、正面からファイヤーボールが飛んで来やがった! 俺の火の玉を消し飛ばして突き抜けてきたのか!
「ゲホッ、ゲホッ、くそ……」
「バカが。んなもん食らう訳ねぇだろう。言ったろうが、力の差を教えてやるってなぁ!」
確かに言ったな。
だがそんな余裕をぶっこいていられるのも今の内だぜ。
ちょうど死角に回った騎士達が……
「ケッ、ぬるいんだよ!」
「ギャッ!」「グハァ!」「ガフッ!」
な!? コイツ、死角に回った騎士を斬り伏せやがった! 身体中に目が有るってのか!?
「そんなに不思議か? まぁいい、教えてやるぜ。死角まで見えるのはギフトのお陰さ」
「ギフトだと?」
「おうよ。俺は勇者として召喚されたからよ、当然勇者としてのギフトを授かったのさ。お前は見ただろ? 俺の持つ【勇者への祝福】ってギフトをよ。そいつぁな、基本ステータスを上昇させる以外にも、罠や奇襲を無力化するんだとよ。だから不意打ち気味に放ったファイヤーボールや、死角に回り込んだ連中に対応出来たって訳さ」
クソが! とんでもねぇチートじゃねぇか!
しかもあれだ。
本人は気付いてねぇが、強奪系スキルも防ぐときたもんだ。
だがここで諦めちゃあもう終わりだ。
奇襲が効かないってんなら、堂々と一騎討ちでけりをつける以外はねぇ。
俺は剣を地面にぶっ刺すと、短剣を構えて突撃する。
短剣を選択した理由は、少しでも素早く動くためだ。
「ケッ、いい加減しつけぇぜ!」
ガキッ!
「くっ……」
だが数回打ち合うと、ステータスの差もあってか根元からポッキリと折れちまった。
「オラオラァ! 折れた剣なんざ気にしてる隙が有るってのかぁ?」
「ヤベ!」
クソ勇者の攻撃が大振りだった事もあり、辛うじて転がりながら避けると、地面に刺した剣を抜き取る。
「ウィンドカッター!」
そして透かさず風の刃をクソ勇者目掛けて飛ばすと、向こうは上半身を捩って避ける。
さすがに殺傷能力の高い魔法は避けるらしいが、それも予想済みだ。
「もらったぜぇ!」
敢えて俺はウィンドカッターを奴の右半身に撃ち込んでやったんだ。
すると予想通り左側に捩ってきたところを、一気に加速で接近する。
これなら奇襲にはならねぇ筈だ。
ガキン!
「クソが! これでもダメなのかよ!」
奴の首目掛けて放った剣撃だったが、しっかりと剣を縦に構えて防ぎやがった。
「危ねぇ危ねぇ、今のは中々良いコンビネーションだったぜ? だが俺に挑む際に使ったスキルはマズかったなぁ。お前のスキルはよく分かんねぇけどいきなり速くなったろ? それが奇襲とみなされたのさ」
マジかよクソが! まさか加速まで奇襲扱いにするたぁムリゲーもいいところだ。
この様子じゃ飛翔転移も無駄になるだろうし、防戦に徹する以外方法が思いつかねぇ……。
「でもあれだよなぁ、テメェは目付きも悪くて悪人面してやがるし、善人って訳じゃねぇんだろ? なんだってコイツらに手を貸してやがるんだ?」
そんなに不思議がるなよ。
だが今は会話に付き合って時間を稼ぐか。
その間に何とか方法を見つけないとならねぇしな。
「ああ、確かに善人って訳じゃあねぇな。だがプラーガと敵対してるってだけで、こっち側に手を貸す理由にはなるだろ?」
「なんだテメェ、まさか帝国に喧嘩吹っ掛けたのか? そいつぁバカな事をしたもんだな。テメェにどんな事情があったか知らねぇが、皇帝陛下はかな~りプライドが高い奴だぜ? きっと地獄の果てまで追い回されるだろうな!」
あの辺境伯にしてその皇帝ありってか。
本当にろくでもないなプラーガ帝国ってやつぁよ。
「ま、しぁ~ねぇな。テメェは面白そうだから迎え入れてやろうと思ったが、既に敵対してるんじゃ無理ってこった。残念だったな?」
「ああ……お前がな! ウィンドカッター!」
会話中で油断してるであろうクソ勇者に向けて、もう一度風の刃を放つ。
ただし狙ったのは奴自身じゃなく……
バシィン!
「クソッ、俺の剣が!」
フッ、思った通りだ。
奴にはギフトで奇襲が出来ないが、装備品は別って事だ。
「こいつで終わりだ!」
MP107→MP97
ここが勝負どころって事で、一気に飛翔転移で背後に転移し、剣を振り下ろした。
「グワァ! ……このクソ野郎がぁ!」
思ったほど深い傷にはならなかった。
恐らく基本ステータスに差があったためなんだろうが、俺が焦っちまったばかりに首や心臓を狙う事を忘れてたぜ、クソッ!
「テメェ……よくも俺に怪我を負わせたな。ぜってぇ後悔させてやらぁ!」
折角勝機が見えたってのに、倒れた兵士の剣を手にしやがったか。
名前:村上悟 HP:2286
振り出しに戻った感じだが、一応はダメージを与えた分、少しはマシな状況になったと思いたいぜ。