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必中のルドム

 レイドレックの追手がマリオンのダンジョンに侵入して来たので、これを撃退するために出口に向かって進んだ。

 そんな俺の案内役はスケルトン達なのだが、魔物と一緒に歩くとか実にシュールな感じがする。

普通なら安心出来いだろうが、レイドレックのステータスを見た後だとスケルトンなんざ雑魚もいいとこだ、危機感なんぞ感じない。

 仮に今襲われたとしても余裕で回避が間に合うと思う。


「……この先から剣や盾を打ちつける音が聴こえるな。もうすぐか」


 スケルトン達も侵入者を見付けたらしく、そこへ向かって駆け出した。


「おっと、先を越されるのは不味いな。死んだ相手からじゃドロー出来ねぇし、まずは俺がドローをかけてからにしてもらわないとな」


 俺はスケルトンを追いかける形で侵入者の元へ急いだ。

そして戦闘が行われてる場所に到着すると、壁に隠れて様子を伺う。


「パッと見で10人以上はいるな……」


 侵入者達は盾を構えて徐々に前進してるようだ。

このダンジョンはマリオンの言うように防御に特化してるようで、罠とスケルトン達の弓攻勢により侵入者の行く手を阻んでいる。

 だが先頭に立つ重装備の兵士も防御力は高いようで、ここを突破されるのも時間の問題のように感じた。


「こういう時こそアビリティドローの出番だな」


 俺は視界に入った侵入者に片っ端からドローをかけまくった。

 NEW→盾Lv3

 HP272→HP294

 知力75→知力98


 まずは先頭集団からは盾スキルを奪ってやった。

正直盾は使わないが無いよりはマシだ。

残りは知力とHPを交互に奪ってやったんだが、HP同様知力の延びはイマイチだな。

 って事は、コイツらは頭があまりよろしくないって事か?


「俺が言うのもなんだが、今度から知力をドローする時は、賢そうな奴にするか」


 そうこうしてる内に先頭で盾を構えてた連中は、盾スキルを失って隙が出来ていた。

当然スケルトン達がその隙を逃す筈はなく、前線は後退していく。


 だが奴等もバカじゃない。

後退しつつも弓矢で応戦している……というか、弓矢でスケルトンに応戦するのはどうなんだ?

骨だけだし、最悪骨の隙間をすり抜けていってしまうと思うんだが……。


「弓矢の放たれる間隔は一定……って事は1人で狙撃してる奴が居るのか?」


 だが俺の予想とは裏腹に、先程から敵の後方から放たれる弓矢は、確実にスケルトンを葬ってるようだ。

もしかしたら特殊なスキルを持ってるのかもしれねぇな。

 そう思い、弓矢の飛んでくる方を凝視してみると、1人の老人のような奴が百発百中という具合に弓矢を次々と放ってるのを見た。


「あの爺か」


 そして俺はその爺を鑑定した。


名前:ルドム  種族:獣人       

レベル:59  職種:レイドレックの部下

HP:532  MP:214      

 力:415  体力:331      

知力:232  精神:395      

敏速:635   運:22       

【魔法】                

【スキル】弓Lv8 短剣Lv3


 どうやら特殊なスキルではなく、弓スキルのレベルが高いだけのようだ。

ならばやる事は1つだな。

 俺はルドムとかいう爺を視界に収めてアビリティドローを発動させた。


 弓Lv3→弓Lv8


 無事成功しましたよっと♪

爺の弓スキルを奪った直後、当然の如く弓の狙いは定まらなくなり、それを見た他の連中に動揺が広がっているようだ。


「ここで一気に攻勢に出るべきだな」


 スケルトン達に紛れて爺達の前に出た俺は、そのまま特注ミスリルソードを振り回した。


「な!? コ、コイツ、手配中の男か!?」


 ん? ああ成る程、どうやら俺は指名手配されてるようだな。

だがもうこの国に留まることはないだろうし関係ないな。


「ひぃ!? コイツ、強すぎるぞ!」

「お、おい、早く援護を!」

「くそぅ! 剣が、剣が折れちまった!」

「ルドム様、早く奴を!」

「お、落ち着けお前達!!」


 そのまま指揮官と思われるルドムとかいう爺を目標に定めて突き進んだ。

俺が隊列に割り込んだ事により隊列は崩れ、最早俺を気にしてる隙はなくなったようだ。

なんせ俺の後ろからスケルトンが迫ってるんだからな。


「派手にいくぜ―― ファイヤーボール! ウィンドカッター!」


 ついでとばかりに攻撃魔法も無詠唱でプレゼントしてやる。


「「「ぎゃぁぁぁ!!」」」


「コヤツ、魔法まで使うのか……」


 ルドムの爺が目を細めて見てくるが、そろそろお眠の時間か?

弓を諦めて短剣を抜いてきた爺を軽く捌くとそのまま剣を突き刺した。


「ゴフゥ……これまで……か」


「ル、ルドム様が! ルドム様がやられた!」


「俺は逃げる! まだ死にたくねぇーっ!」


「お、俺もだ、俺も逃げるぜ!」


 なんだか随分呆気なく抱懐するんだな。

数人は破れかぶれで突っ込んで来ると思ってたんだが、漏れ無く全員退却していった。

元がそれほど統率がとれた連中じゃなかったんだろう。


 とりあえず敵は撃退したって事でマリオンのとこに戻るか。

 だが……


「……場所がわかんねぇ」



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



 俺が迷うのを見越してたのか、スケルトン達が付いてこいという素振りを見せたので付いていくと、マリオンとフォルネが待つ場所まで戻って来れた。


「お疲れ様。おか「トウヤさん!」


 おっと、フォルネが割り込んで抱きついてきた。

俺としては脅威に感じない連中だったんだが、心配させちまったか?


「心配させちまったみたいだな。だがあれぐらいなら大丈夫だ」


「無事で良かった……」


 俺とフォルネが抱き合ってるのを、マリオンが【あらあら】って感じで見てやがる。

軽くイラっときたがスルーしよう。


「お疲れ様。おかげで大分被害が抑えられたと思うわ。それにあの老骨、確か必中のルドムって呼ばれてた筈よ」


 必中のルドムねぇ……弓スキルを奪ったらただの爺になっちまったけどな。


「それよりも疲れたでしょう? 寝室を用意したから休んでちょうだい」


「ああ、すまねぇな」






 マリオンの部下に案内されて寝室についたのだが、ここへきて大問題が発生した。


「トウヤさん、これって……」


「…………」


 ベッド1つに枕が2つの光景が、目の前に広がってたんだ。

 あの女、余計な気を使いやがって……。


「トウヤさん少し疲れてしまいましたね。休みましょうか」


 その台詞は完全に誘ってると思われても仕方ないものなんだが……まさか本当に誘ってる訳じゃないよな?


「トウヤさん、どうしました?」


「いや、何でもない」


 俺は黙ってベッドに横になった。

その隣にフォルネがピタリと寄り添う。

 これじゃ余計に疲れそうな気がするんだがな……。


 ――やばい、疲れてる筈なのに寝れねぇ。

何か別の事を考えるか。


「あのトウヤさん……トウヤさんは後悔してますか?」


 ん? 突然何を言い出すんだ?


「後悔って……何の事だ?」


「私を連れて来てしまった事です」


「…………」


 最初は後悔してたっけなぁ。

確か最悪森に置き去りにしようかと考えちまったし。

 だが今は後悔してねぇな、寧ろ連れて来てかったとすら思ってるくらいだ。


「後悔なんかしてねぇよ。こんな俺を心配してくれる存在なんざ、フォルネ以外にゃ居ねぇよ。だから俺はフォルネに感謝してる」


「感謝……ですか?」


「ああ、居てくれて有難う……ってな」


 そう言い終わると、フォルネの顔が紅くなっていくのが見えた。


 って、ついフォルネの頭を撫でながら話しちまったじゃねぇか!

道理でフォルネの顔が紅くなる訳だよ。


「トウヤさん……」


 って、おいおい、フォルネも俺の胸に顔を埋めちまうし、この状況をどうしろってんだ。

 煩悩を開放するか? してもいいのか?

俺がフォルネの肩に手を置くと、フォルネは俺を見上げる。

そしてそのまま瞳を閉じた。

 これって要するに心の準備はOKって事だよな?


 い、いいのか? ここまで来ちまったら……いやいや!

ここは他人の(ダンジョン)だ、そこで致すってぇのは……。


 いや、そもそもだ、俺はいずれ元の世界に帰るつもりだ。

その時フォルネはどうする?

やる事やって逃げるように居なくなるってのも酷だよな……。


 あ~くそ!考えが纏まらねぇ……。

どうすりゃいい?突き放すか?

 いや、フォルネと家族との事を考えりゃ、ここで突き放すのはマズい。

 それに据え膳食わぬは……って言うしな。

ここは好意を受け取って……


 細かい事は後で考えようと、意を決してフォルネを抱き寄せたその時!






 ガチャ!


「失礼する。マリオン様の命により、食事を持ってきた」


 扉が開いて男が入ってきた。

コイツは確か、このダンジョンに案内してくれた男だったな。

 それを見たフォルネは慌てて俺から離れた。


「ここに置いておく。何か欲しいものがあれば言ってくれ。では……邪魔してすまなかった」


 最後に余計な一言を加えて出ていった。

いや本当に余計だった!

フォルネが顔を真っ赤にして枕に顔を埋めちまったよ。


「あぁ~とりあえず、飯にするか」


「そそそ、そう、ですね……」


 よく考えたら晩飯も食わずに寝るところだったな。

というか何故かここに泊まる流れになっちまったが……ま、いいか。

外は夜で真っ暗だし、今ここを出るのは得策じゃない。


 そんなこんなで、俺とフォルネはお互い()()()()()()()という顔をして眠りについた。

 そして次の日の朝。


「おはよう御座います、トウヤさん」


「あ、おう、おはようフォルネ」


 フォルネは昨日の出来事をすっかり忘れたのか、いつも通りの雰囲気に戻っていた。

いや、出会って数日でいつも通りというのも可笑しな話だが。


 その後、昨日と同じように男が朝食を持ってきたので朝食にした。

その朝食の時に、時々フォルネの視線が俺の顔に向いてるが気になってフォルネに問い掛けるも……


「な、何でもありません」


 と言って視線をそらした。

やっぱり昨日の事は覚えてるらしいな。

俺もそうだが、昨日のようなベタな出来事は中々忘れないだろう。

そのかわり、晩飯の味はまったく覚えてないけどな。






「おはよう、お2人さん。良く眠れた?」


 朝食の後に部屋を出てマリオンの居る応接室まで来た。

この応接室は昨日最初に案内された場所だ。


「おはよう御座います、マリオンさん。私は良く眠れました。有難う御座います」


 いや、嘘だろ?

俺は中々寝付けなかったぞ?

それでも最終的には寝れたけど。

 まぁそれは兎も角。


「おはよう、マリオン。()()()()()()()()だと中々寝付けないものだな」


「あら、それは御免なさいね、そこまでは気が利かなかったわ」


 その割りにはベッドの数と枕の数が違ってたがな。

だが一応礼は言っとくか。


「一晩世話になったな。俺達はこれからミリオネックに向かおうと思う」


「そう、気を付けてね、あの辺境伯は簡単に諦めたりしない性格だから」


 ……だろうな。

本当に面倒な奴に目をつけられたもんだ。


「そっちも気を付けろよ? 俺とフォルネが居るって知られたから、またやって来るだろうぜ」


「こっちは上手くやっとくから大丈夫よ。それじゃあ気を付けてね?」


「お世話になりました、マリオンさん」


「恩に着るぜ、マリオン。達者でな」


 俺とフォルネはマリオンに別れを告げると、ダンジョンの外へ出た。


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