ダンジョン
夜が明けて再びミリオネックに向けて歩き出した。
天気が良いのが救いだな。
魔物の気配もないし、のんびりと歩くか。
「トウヤさん、一つ聞いてもいいですか?」
「俺が知ってる事ならな」
「トウヤさんは……私の両親に会ったの?」
これぞまさに、ギクッ! ってやつだな。
しかも俺が知ってるならいいと言った手前、答えない訳にはいかねぇし。
「まぁ、なんだ……会ったと言えば会ったな」
「……何を話したんですか?」
さて、何て言おうか。
フォルネが思ってた通りだった事もあるし、知らなかった事実も浮上したしな。
だが一編に話すのは無しだな、あんま混乱させたくないし。
「何故フォルネを売ったのかを問い詰めてきた」
そして判明したのがフォルネは側室の娘だったという事実だな。
「何て答えたのです?」
ここまで来たら、素直に話すしかないんだが、フォルネの母親に関しては、まだ黙っていよう。
「既に後継ぎが決まった以上、フォルネは必要無くなったとか言ってたな」
「そう……ですか」
それから会話が途切れたんだが、正直やりずらい。
何て言えばいいのか分かんねぇし、寧ろそっとしとくのが正解か?
なんだか今なら魔物を相手してた方が楽な気がしてきたな。
それから会話がない状態が暫く続いたんだが、昼飯時になって漸く口を開いてくれた。
「トウヤさん、そろそろお昼にしましせんか?」
「お、おう、そうだな」
予め買っておいた干肉を、火魔法のファイアで炙る。
飲み物は、腰に下げてる水袋の中だ。
そして炙ってる干肉を見ながらフォルネが呟いた。
「私は……何のために存在するのでしょう」
「フォルネ?」
なんだかネガティブな思考だな。
それにこういう空気は苦手なんだ。
俺とて心理学に詳しい訳じゃないしな。
「私は……このまま生きていてもいいのでしょうか。家族に捨てられ、行く宛もありません」
不味いな、一見大丈夫そうに見えたが、かなりショックだったか?
このまま何も言わないってのも変か。
「まぁ、あれだ。俺は上手く言えねぇが、行く宛が無いんだったら探すしかねぇよ」
「行く宛を探す……ですか?」
「ああ」
行く宛が無い俺が言っても説得力が無いんだけどな。
「なんせ俺も探してる最中だしな」
なんだかこれじゃあ傷の舐め合いだな。
事実を言ってるだけなんだが、余計むなしくなってきやがる。
「そうですね、無いなら見つけるしかありませんよね」
お? どうやら立ち直りそうか?
「トウヤさん、私「あそこに居たぞーっ!」
「やべぇ! 行くぞ、フォルネ!」
「はい!」
くそ! まさかもう追い付いたってのかよ!
このまま森の奥に逃げ込むしかなさそうだな。
「すまんな、もう1度走るから掴まっててくれ!」
「はい、私は大丈夫です!」
俺は例のごとくフォルネをお姫様抱っこで抱えて走り出した。
本当は街道に出たいところだが、間違いなく待ち伏せされてるだろうしな。
ん? 前方に誰か居やがるな、冒険者か?
「…………」
いや、冒険者って感じじゃないな。
なにより森の奥に人が1人でいる事の方がおかしいってもんだ。
だがそんなもんに構ってる隙は無い。
なんせ今の俺は逃亡者だからな。
「とまってくれ」
っと、この野郎、俺の前に立ち塞がりやがった!
「追われてるのだろう? 付いてこい」
付いてこいだと?
こんな怪しさ満天の奴に付いて行くなんざ、余程のお花畑だな。
それにコイツのせいでもう追いつかれそうだぜ。
「漸く追い付いたぞ! 観念するんだな!」
ほーら来やがった。
ったく、どうしてくれんだよ! 止まった俺もバカだが、呼び止めたからには手を貸してくれるんだろうな?
「む? 追っ手か――消えろ」
俺の前に立ち塞がった男が何やらブツブツ言ってるなと思ったら、そいつの手から何かが飛んでいった。
「ギャア!」「グワァ!」「グボォ!」
「魔法師だ! 気を付けろ!」
ヒューッ、やるねー♪
よく分からんがコイツは強そうだな。
「さぁ、早くいくぞ。今ので魔力の大半を消耗したからな」
燃費悪過ぎだろ!
だが手を貸してくれた事だし、一応付いて行ってみるか。
っと、その前にキッチリ止めを刺さないとな。
勿論ドローも忘れないぜ!
弓Lv2→弓Lv3
HP266→HP272
相変わらずHPの効率が悪いが地道に上げるしかないな。
さて、そんな事より追っ手を蹴散らしてから行くとするか。
今の俺は風魔法ならそこそこ使える筈だ。
――成る程、ウィンドカッターか。
「ウィンドカッター!」
俺は頭の中に浮かんできた魔法を追っ手に向かって放つため手を前に突き出した。
そしてキーとなる呼び名を叫ぶと、風の刃が追っ手に向かって飛んでいく。
「ガフッ」「ゴバァ!」「ゲボォ!」
よし、追っ手全員を切り刻んでやったぜ!
風魔法はレベル3だから威力も強かったんだろう。
「邪魔者は居なくなった。案内を頼むぜ」
「ああ、分かった」
コイツ、あんま驚いた顔しねぇな。
それになんだか人間っぽくないな、どちらかというと人形といった方がしっくりくる。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「こんなところに洞窟?」
「ああ。ここが我等が主人の住まうダンジョンになる」
ダンジョン? ダンジョンって、アレか?
侵入者を拒む魔物や罠を掻い潜って進んで行くと、そこにはお宝が有ったりするダンジョンの事か?
「トウヤさん、ダンジョンにはダンジョンマスターが居る筈です」
「ダンジョン……マスター?」
ダンジョンマスターねぇ……。
ダンジョンの管理者ってこころか? これに関しちゃ俺よりフォルネの方が詳しそうだな。
「ダンジョンを知らぬようだな。ならば教えよう。ダンジョンとはダンジョンマスターの住まう城のような物だ」
城ねぇ……城とはまた大きく出たな。
要は城みたいに矢鱈とデカイって事か。
「大きさはダンジョンによって様々だ。ダンジョンマスターが強者であれば、ダンジョンも必然的に大きくなるだろうな」
そういうものか。
となると、当然このダンジョンの規模が気になってくるが……
「このダンジョンはどうなんだ?」
「それほど大きくはないな。我等が主人は冒険者を誘い込むような餌は撒いてないのでな、侵入者が現れたら徹底的に拒む作りにしてるため大きさは控え目にして迎え撃つような作りにしてるらしい」
防衛特化型ってやつか。
だが侵入者を拒むダンジョンマスターが、俺に何の用があるんだ?
って考えても分からんな。
理由は直接ダンジョンマスターとやらに会って聞く事にしよう。
そしてやや大きめの扉の前で止まると、男が中に居るものに声をかけた。
「失礼します、マリオン様。例の盗賊共を皆殺しにした男をお連れしました」
「ご苦労様、ここに通してもらえる?」
「畏まりました」
中からは女の声が聴こえてきた。
どうやらコイツの主人とやらは女性らしい。
というか、俺の事を殺人鬼みたいに言わないでほしいんだがな。
「ご主人様の許可が下りましたので、中へどうぞ」
通された部屋は、明るい色合いで装飾された
広い部屋だった。
その部屋の真ん中にあるソファーに1人の女性が座ってるのだが、恐らく先程の声の主だろう。
「私はマリオン。ここのダンジョンのダンジョンマスターよ。ようこそ私のダンジョンへ。」
思ったよりもフレンドリーな感じだな。
それに見た目は普通の人間と変わらないように見える。
「俺はトウヤ、こっちがフォルネだ」
フォルネは緊張してるのか声は出さず会釈のみだ。
ダンジョンマスターが目の前にいる……なんて事は、普通の貴族なら有り得ない事だろうしな。
そして俺は、挨拶をしながら軽く鑑定してみる。
名前:マリオン 種族:魔族
レベル:64 職種:ダンジョンマスター
HP:597 MP:1460
力:475 体力:437
知力:937 精神:858
敏速:651 運:25
【魔法】火魔法Lv3 水魔法Lv4 光魔法Lv2 闇魔法Lv2
【スキル】体術Lv3 短剣Lv2
【ギフト】
あの辺境伯とは違うベクトルで強いな。
そして試しにドローをかけてみたが不発だった事から、一応は信用してもよさそうだ。
「それで、何故俺達をここへ連れて来たんだ?」
「あら、いきなりね。もっと雑談を楽しむ余裕を持った方がいいわよ?」
そんな余裕はねぇっつうの、こっちは追われてる立場だからな。
本当ならさっさとミリオネックに行きたいところだ。
それに……
「ん? 何かしら?」
どうしても視線がある1ヶ所に集中してしまう。
このマリオンという女、素なのか確信犯なのか知らないが、胸元が妙に緩くなる着こなし方をしてるようで、まるで誘惑されてるような気もしないでもない。
「いや、何で――イテェ!!」
何故かフォルネにあしを踏まれた。
つーか俺が何したってんだよ!
「トウヤさん、ドコを見てるんです?」
視線は仕方ないだろ!?
俺だって男なんだからな!
つーか何でフォルネは分かるんだよ!
「あらら、もしかして、私が原因? だったら御免なさいね、別にそういうつもりはないんだけど」
本当かよ?
大抵の男なら勘違いするんじゃないか?
まぁ、襲ったところでコイツのステータスなら返り討ちだろうけどな。
――それは兎も角。
「俺達は先を急いでるんでな、用件を伺ってもいいか?」
「あ、急いでたの。御免なさいね? 別に手間はとらせないから」
そういうとマリオンの配下と思われる人形が何かを運んで来た。
それは一見宝箱のように見え――いや、宝箱そのものだな。
その宝箱を俺の目の前で開けると、中から出てきたのは1本の剣。
その剣を俺に差し出してきた。
「あの盗賊共はね、度々このダンジョンに魔物や冒険者を誘導してくる面倒な奴等でね、凄く目障りだったのよ」
あの盗賊共……つまり、エンドリューとかいう貴族が纏めてた奴等だな。
俺が壊滅させてやったが。
「だが、何故その盗賊共はそんな嫌がらせをしてくるんだ?」
「私にレイドレック辺境伯の部下にならないかって誘いに来たから断ったのよ。それからこのダンジョンを攻略しようと躍起になっちゃったみたい」
成る程な、味方じゃなけれゃ敵だって事か。
だが奴等の活動拠点は潰したからな、もう軍を動かして来る以外方法はなさそうだが、そうなったらこのダンジョン危ないんじゃないか?
「あ、もしかしてこのダンジョンの心配をしてくれてる? でも大丈夫よ、攻め込むのは苦手だけど、守るのは得意だから」
ならいいが。
さすがに他人がとばっちりを受けるような事はしたくないしな。
「それで、この剣は?」
「その剣は盗賊共を蹴散らしてくれたお礼よ、受け取ってちょうだい」
俺は剣を受け取ると、さっそく鑑定をかけてみた。
名前:ミスリルソード 種類:長剣
耐久力:1000
【エンチャント】火属性 水属性 光属性 闇属性 豆矢専用(豆矢以外装備不可)
コイツぁ良いもん貰っちまったな!
これなら道中も今まで以上に楽になるだろう。
「どうかしら?」
「おう、助かるぜ!」
情けは他人のためならずってやつだな。
とは言っても、盗賊共には情けをかけてないがな。
貰った剣の具合を確認してると、突然アラームのようなものが鳴り響いた。
ビー!ビー!ビー!ビー!
「な、なんだ!?」
「どうやら侵入者が現れたよね」
これってもしかして、俺とフォルネを追ってきた連中じゃないか? 等と、多少の罪悪感を感じていると、壁にスクリーンのような物が出現し、ダンジョンの入口が映し出されていた。
「なんだこれ!?」
思わず声をあげちまったが、それよりも映し出されてる連中の方が問題だった。
そこに映ってるのは、昨日も今日も世話に成りっぱなしの見たことのある連中だ。
「またレイドレックか……リック、戦闘準備を急がせて」
「了解しました」
先程の男は、マリオンの指示を受け部屋を出ていった。
「さて、お2人には申し訳ないんだけど、戦闘終了までここに居てもらえる?」
そりゃあなぁ?
俺がフォルネに視線を向けると、フォルネは頷いてくれた。
この常態で出て行ったら、巻き添えをくらうだけだしな。
だが折角貰った剣がある事だし、1つ試し切りをしてみたいもんだな。
「なぁ、俺も手伝っていいか?」
「トウヤさん?」
出来れば止めてほしいと言いたげなフォルネだが、試し切り以外にもドローを使用するためでもあるし、ここは納得してもらおう。
「少し馴らしておいた方がいいんだよ。別に無茶するつもりはないぞ?」
「そういう事でしたら」
フォルネは納得してくれたな。
後はマリオンの方だが……
「私は別にかまわないわよ? 手伝ってくれる方が有り難いし」
よし、決まりだな。
敵の数はそれなりに多そうだし、精々俺の糧になってもらおうか。