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ほらほらホラー

夢の話

作者: うどん

 人間は寝ている間に何度も夢を見るという。

その夢を全て覚えていることは難しい。いや不可能というほうが近いだろう。

生物の体の仕組みは不思議なようで極めて合理的だ。

思い出せないことには思い出せない理由がある。

思い出せないのなら、思い出さない方がきっといい。

 これは私の夢の話です。






 夢の中で私は塾の合宿にいました。

最初の時点で夢だと気が付きました。だって私は塾の合宿に参加したことは無いし、

参加するつもりも無かったからです。

何を好き好んでリゾート地のペンションにまで出かけて、

ワイワイガヤガヤとウルサイ同年代たちと高密度でしかも勉強をしようと思うのでしょうか?

完全に優雅な休養と、同年代とのコミュニケーションと、意識の高い取り組みをコラボレーションした結果互いの味を殺しあっています。


 それにおかしいのは私は何度も転校をしてきたのですが、それぞれの学校の学生が混じっていること。

皆が皆、各地の同じ系統の塾にやってきて、それらの塾全てが同日付で合宿している為に各地合同で取り組むことにした。

…なーんて話は可能性が低すぎて私にも嘘だとわかります。


 極めつけは、同学年なのに見たこともない学生がたくさんいて、そして彼女たち彼らたちと何故か知り合いなんです。

私は表面だけの薄っぺらいお付き合いをすることはありますが、流石に相手をそれっきりで忘れてしまうほど薄情ではありません。


 まあ、それはいいんです。それは。

問題は授業内容です。基本的には自習時間と授業時間を交互に重ね合せた構成です。

周りに同じ志を持って努力する人たちがいる中、サボることは気が引けるので自然と自習効率が上がる。

それ自体は、せっかくだから合宿代の元を取りたいと長い授業を希望する親御さんの目を気にせず断行できるところは素晴らしいです。


 ですが、ここからが私が夢だと気が付けた最大の理由です。

自習場所自体は各人ごとバラバラでした。そして、私の机は―――――――――――――――――巨大なアリ塚の目の前でした。

アリ塚に開けられた大穴の中でアリ達が忙しなく働いているのが見えます。

アリ達も頑張っているんだからお前たちも頑張れと?

――――流石に夢だと気が付ける案件ですよね。

因みに、少し離れたところではハチの巣の目の前で勉強している人や水槽の目の前で勉強している人たちがいました。

水槽はともかくハチの巣の前で勉強している人はよく勉強に集中できるなと不思議に思います。


 授業も完全に吹っ飛んでいます。リアルでは恐らくないでしょう。

何故か講師がいつの間にか何処にもいなくなっていて、生徒の一人が教鞭をとっていました。

テレビから流れるアニメソングをBGMに。

その上、生徒の一人が私を含め周りの生徒に教育しているというのが、

その教育者の生徒と私の間にそれだけのレベル差が感じられて凄まじい劣等感を感じさせます。

因みにアニメソングがうるさいのでテレビを消したら、その生徒に泣き付かれて私が悪者にされてしまいました。

もしかして先程から敢えて無意味なコラボレーションが続いていたのには意味があったのでしょうか?

と真面目に考えてしまいそうになったのですが、結局は夢だから仕方がないと思うことにしました。


 そしてその日は自習と授業を繰り返して終わりました。

微妙な環境だとはいえ、夢の中でも勉強しているとは何なんでしょうね? 自分でも意識が高いと思います。

夢は起きている間の記憶の整理だと聞いたことがありますが、だとしたら既に知っていることしか学べずに、

それ以外の内容は想像上の事であるはずです。

私がエジソンやアインシュタインなら夢の中のイマジネーション溢れる発明や公式を思い浮かべたでしょう。

ですが、悲しいことに私はゲームの攻略方法程度でしかその恩恵を受けたことはありません。


 夜中にリゾート地だというのにタコ部屋で寝ているこの状況は何なのでしょうね? 当然性別でこそ分けられてはいますけど、

逆に言えばそれだけです。しかも異性の目が無い分だけ騒がしくなっています。

アピールのためのワザとらしい騒がしさが何のが唯一の救いでしょうか?


 起きると部屋に何人かいないことに気が付きました。

異性と外で落ち合っていたりするのでしょうか? なんて破廉恥なんでしょうね。

私も折角なのでリゾート地の夜の風景を満喫することにしました。

起きた時にはトイレに行こうと考えていましたが、

『夢』+『トイレ』の組み合わせってとても嫌な予感がするので止めておくと波が引いたので予定を変えました。


 リゾート地の夜だというのに明るい夜道をひたすら私は歩き続けていました。

夜目がここまで聞く人間であったことに自分でも驚きでした。

ひたすら歩いていた私は何処まで歩いたのか判らなくなった時、一つの恐怖に襲われました。


 私、朝までに部屋に帰れるでしょうか?



 流石に、朝私が帰ってきていなければ色々と問題になりそうです。

そう思っていると、森の中に入る道が横にあって、

その入り口の先に『ご自由におとり下さい。』という看板と自転車がありました。

何故、『ご自由に』と『下さい』だけが漢字を使われていて、『おとり』には『お取り』が使われていないのか不思議ですが、

これも神の助けか、悪魔の罠か、リゾート地のサービスの一環か、夢の中特有のご都合主義です。

クイズ番組なら間違いなく私はDの夢の中特有のご都合主義を選びます。

ファイナルアンサー? ええ、ファイナルアンサーで。


 次の日もまた劣等感だけを刺激される授業と、小さな生物を励みにしながら自習をする一日が始まりました。

自習をしていると、パキポキパキという音がしました。

何だろうと思ってその音源であるアリ塚を眺めていると、アリの蛹が一斉に羽化していました。

成程、この音か。私、アリの羽化なんて初めて見ました。

羽が生えていない働きアリの羽化を羽化と呼んでいいのかは疑問ですがそれは置いておきましょう。

ついでに、強い乾燥に晒され続けていた蛹が全て羽化したのですが、それも置いておきましょう。

更に言えば、アリの羽化ってこんなに音が出る筈もないのだろうけど、それも置いておきましょう。


 その羽化したばかりのアリ達がネズミ花火程度の速度を持って一斉に襲ってきたので私は逃げ出すことにしました。

この所、悪夢と呼べる夢を見たことは無かったのですが、久々に嫌な夢でした。


 その後は、こういう時にだけ無駄に発揮されたご都合主義で、合宿なのに最後くらい遊ぶかという適当さで、

それ以降は帰る日までリゾート地での観光という事になりました。

今気が付いたのですが、講師達一度も授業していない。

オフシーズンのリゾート地で、生徒達によるセルフ授業と自習をさせてお金を貰おうなどとは良い身分です。

想像で人を貶すのは良くないとは思いますが、一人だけ何かあった時の連絡要員兼ねて応急対処要員として残して、

残りは少し離れた歓楽街に行っているのではないでしょうか?

下手をすればその残りの一人さえ、部屋で酒盛りをしているような気がします。

もしそうだとしたらきっと年齢=彼女いない歴の竹山先生でしょう。

佐伯先生は竹山先生に面倒を押し付けて三山先生といちゃついている最中のはずです。

どうせ室内でもできることを残留を押し付けてするあたり、リア中とボッチの力の差が感じられますね。

あくまでもこれは想像ですが、夢の世界なのでそのまま反映されてしまいそうなのが怖いところです。


 さて、因みによくよく考えるとその3名の先生は塾ではなく学校の先生だったはずなのですが、

いつの間にか塾の先生として成り立っているあたり、夢特有の適当クオリティーです。

塾の講師でも大手でなければ学校の教師の方が安定しているので、繋ぎとして使う人もいるというのに。

まあ、教師になれば僅か数パーセントの手当てが付く代わりに、

ありとあらゆる残業に参加させられて残業代が出ないという大きなデメリットがあるので、

必ずしも教師の待遇がいいとは限りませんから、敢えて講師でいたいという人もいる筈です。

フレキシブルな勤務体系とは、経営者側の言葉になった途端恐ろしい物に変わるという良い例です。

お隣の種田さんちの長男は勤務時間が『お客様のご都合に合わせて』という事になっているのですが、

それはいつでも連絡が取れるようにしなければならず、遠出することもできず、

更に言えば夜中であっても叩き起こされて、勤務時間が完全にパンクしていても詰め込まれるという悲惨さがあることは、

未だ社会に出たことが無い私でも解かります。

どうして、勤務時間『お客様のご都合に合わせて』業務内容『お客様のご依頼しだい』その他の条件『近所の方』社の目標『お客様第一』という、

目に見える地雷を踏みに行ったのでしょうか?

もしそれしか就ける仕事が無かったというのなら一生懸命勉強して、良い大学に入り、

それなりの就職先を選べるように頑張らないといけないという気になります。

『お客様第一』という会社の過剰なサービス目標達成の為に、従業員は第百くらいに扱われて疲れを誤魔化すために、

毎日仕事終わりにカップラーメンをドカ食いしては寝るだけという種田さんちの長男さんは、

荒れた肌と不健康な顔つき、そして僅かなお金を決して単価が安くはないカップラーメンにつぎ込むために貯金もなく、

一見太っているので悲惨さが伝わりにくいという貧困のスパイラルに落ち込んでいるそうです。

特に聞こうと思ったわけではないのですが、近所のスピーカーおばさんが言いふらしていました。

…あのおばさんに致命的な弱みを握られたら引っ越すしかなさそうです。

少なくとも私は日本のサラリーマンが敢えて自分の弱みを話して相手を信頼しているポーズをしたり、

自分を弱く見せて相手に親しまれやすくしようとする行為は最終的には自分の首を絞めるのだという事を、

おばさんに自分の息子の事を話してしまった種田さんちのお母さんを見てしっかりと理解しました。

…きっと、平日の昼頃に家にいる息子の姿を見られてニートだと言いふらされる前にと余計な事を喋ってしまったのでしょう。

口は災いの元です。

精々、女子会の会話であまりやっかまれない為に、少々どうでもいい不満を混ぜてグレードを落として自慢をする程度で止めておかないと、

芸能界入り前のヤンキー写真や彼氏とのラブラブ写真が出回ったアイドルの様になりますので気を付けたいものです。


 さて、特に私は独り行動が苦にならないので独りでサイクリングをしようかと思っていたら、

他の徒歩以外にはタクシーしか移動手段を持たない生徒達の何人かが行くという、

観光スポットに誘われました。

お断りしても角が立つので、後で寄れたら寄りますと言っておきました。

…ええ、こういう事を言う人は大体においてこないものですが、私は一応いく予定ですよ?

只遅れてはいくつもりです。

リゾート地に行ってまで周りとペチャクチャペチャクチャとやることがお喋りしかなかったなんてのは残念すぎますので。


 リゾート地を自転車で軽快に飛ばします。自転車は現在は車両扱い? あーあー聞こえない。

超気持ちがいいです。

しばらく行くと以前自転車を拾ったところに付きました。徒歩だと遠いですが自転車だとそんなに時間はかからないですね。

そこには看板がやはりあったのですが、

書いてあることが違いました。場所を間違ったのかもしれません。


 『笹熊に注意。切れます。』


 うん、どうみても熊笹の間違いだよね。目の前に生い茂っていて最近健康食品にもなってるイネ科ササ属クマザサの。

笹の熊じゃ只のパンダじゃないか。パンダ以外の何物でもない。大熊猫よりもよっぽどパンダらしくていい。

勿論、普通の熊も笹を匂い消しの為に食べるけれどさ。

別に同種間でキスする前のエチケットとかではなくて獲物に口臭で気が付かれたくないって理由だけど。

パンダはその習慣から食糧難の時、アレ?獲物が無ければ笹を食べればいいんじゃない?

という情報操作される前の本来の意味でのマリーアントワネットの発言と似た趣旨の行動原理で進化したとも言われている。

といっても、笹では栄養が不足らしくて、いつも腹下し気味だったり、子供は須らく小さかったり、

中国産というのは実は殆どチベット産だったり、問題だらけの動物だけれども。

しかも、最近は昔ほどパンダの需要がなくなっていて、中国でも持て余し気味の不振物件だ。

とはいえ、熊は熊。可愛らしくキャラクター化されたイメージが先行しても熊だ。

野山に入りて竹を取りつつ、パンダに遭遇したりなんかしたらかぐや姫のおじいさんも手斧を振り回すか逃げ出すレベルだ。

ましてや私はごく普通の一般人。決して修行で山籠もりや熊殺しをするような民族ではない。

本当にパンダが爪で人を切る事案であるのなら既に猟友会が出動しているはず。

死ぬまでに一度くらいパンダを打ち殺してみたいというおじいさんだっていないことは無いと思う。

と言う訳で、私は目の前の笹で切ったりしないようにその奥に進むことにしました。


 途中で変なしめ縄が切れたものが何本もぶらぶらしていましたが、気にすることはありません。

ですが、途中でかかってきた携帯には気にせずに不在着信にするつもりはありません。

こちらからかけなおせば通話料がかかります。

世の中にはそれを考えたうえで敢えて電話を掛けたらすぐに切って、相手に通話料を負担してもらおうという輩は結構います。

死ねばいいのに。


 斎行さんでした。厳めしい苗字ですが下の名前も古風であり将子という名前です。

女子の中では気が強い方なのですが、男子にはその名前から某カードゲームの闇属性のロボットで、

互いの場の罠カードを無効化する人造人間の名前でからかわれており、

その仇名に一々本気で言い返すものだから、最近は女子の間でも弄られキャラに対する蔑みの目で時折見られています。

正面向かっては気が強い相手にその仇名で呼ぶ勇気と蛮勇をはき違えたような女子はいないようですが。


 そうこうしている間に着信が切れてしまいました。

そしてかけなおすのが面倒だなと思う私に休む暇を与える気はないのか、

それとも携帯をしまう前に確認してもらおうという親切心なのか、斎行さんから直ぐにメールで、


 『例の場所に集合♪ 16時までにね。その後皆で食事に行くみたいだから間に合わなかったら置いて行っちゃうよ(笑)』


ときました。あの観光スポットですね。時間指定までされたのが面倒です。

正直なところ♪マーク似合わないなとか、軽く(笑)って付けているくせに確定事項みたいな内容とかにイラッとするなとか、

思うところはありましたが、行かなくても面倒なことになりそうなので、行く旨をメールで返信。

合わせて電話に出れなかったことを謝る旨を伝える当たり、私の小市民さが滲み出てますね。


 と言う訳で、行かねばなりません。

メロスが自分のせいでセリヌンティウスを助けに行かねばと本気で走り込むテンションというよりかは、

もう疲れたし間に合わなくてもいいかなと諦めモードに入っている時のメロスのテンションに近いです。

実際、メロスの走っていた時間や距離などからメロスが走るどころかよくても早歩きであったことが、

中学生によって検証されてもいますので、実際メロスは最初からどうでもよく思っていた節はあるのでしょうが。

邪悪すぎるぞメロス君。モデルである太宰治自身が帰ってこない版メロスと云う稀代の屑なので仕方ないでしょうけど。


 さて、少なくとも羊を飼う事以外においてはメロスよりも知識がある私は、

時間を逆算して考えます。

うん、大丈夫。此処に来るまでは登り道が多かったので帰り道の方向にある目的の場所までは基本下り道です。


 時をかける少女というアニメもかくやという勢いでのらない私の気分とは裏腹に私の乗る自転車のスピードはノリまくりです。

幸いにして道の先には踏切もありません。ですので私が死に怯えることもタイムリープを習得することもありません。

因みに私はラベンダーの香りでトリップする方が好きです。ええ、脱法ドラッグの話ではありません。タイムリープの話です。


 坂を上り終えた後、私を待ち受けていたのは上り坂でした。

こんな上り坂があったかどうかは記憶にはありませんが、あったと言われればあったような気がします。

そんなに急いでもいないので汗をかきたくないので自転車から降りて手押しで行くことにしました。


 リヤカーを牽いて歩く上り坂は酷く大変です。

ありのまま 今 起こった事を話しましょう。

私は自転車を手押ししていたらいつの間にかリヤカーを牽いてました。

ええ、何を言っているのか解からないと思いますが私も解りません。

頭がどうにかなりそうです。

催眠術だとか超スピードだとかでこんなチャチな事をされてもする方もアレですが、

今回は夢の中なのでよくある唐突な場面変換だと思うことにしましょう。


 それにしてもこのリヤカーは重たいです。理不尽なほどの重たさです。

タイヤの軸に油挿しているのか、ゴムタイヤに空気入っているのかと思うような牽き難さです。

この装備でならメロスが時間に遅れそうになっても理解できるでしょう。

リヤカーを牽きながら王都に向かう理由は野菜の出荷くらいしかイメージが浮かびませんが、

唯一無二の親友の命がかかっているという割りには気楽な余裕を感じられます。


 ですが、本当に重たいですね。

どんどんきつくなってきます。これが、私の定った運命なのかも知れない。斎行さんよ、ゆるしてくれ。

と呟いたら美味しい炭酸飲料水が差し出されれば私も頑張るでしょうが、

現実は甘くはありません、非情です。夢の中だってそんな私の現実的な思考が反映されたのか、

誰も助けには来てくれません。

途中であったこともないけれど夢の中のご都合主義で顔見知りという設定になっている生徒ともすれ違いましたが、

彼女たちもニヤニヤするだけで助けてはくれません。まあどう助ければいいのかという話にもなるでしょうが?

そもそも、リヤカーを破棄するにも一目があるところでは気が引けます。

そんな中、向こうから歩いてやって来たおじいさんが言いました。







「女の子後ろに乗せて随分と重そうだね。」



 えっ?

私が後ろを見るといつの間にか女の子がリヤカーに乗っていました。

私を見てニヤニヤとしています。

ですが、その笑顔は私の全身から命の危険を感じられるほど恐ろしいものでした。


「ご自由におとり下さいって書いてあったでしょ?」



 直感で解ります。これはこの世のものじゃないと。

あの看板に書いてあったのは、

『ご自由にお取り下さい』ではなく、

『ご自由にお憑り下さい』という意味だったという事が理解できました。


 必死に逃げようとしましたが、リアカーのパイプが縛り紐のように私の固定されて動けません。

助けて助けてと叫びながら逃れようとしても誰も助けてはくれませんし、

どんどんとリアカーの奥の方にいた女の子がこちらに髪の毛を伸ばしてきます。

女の子の髪の毛が私の首に巻き付いて、私の首を引っ張るようにして女の子が、

最早人のものではない血走った表情で私の耳元に顔を近づけてきました。

「逃がさない。」




「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!!!!!!!!!」






 私は絶叫と共に起き上がるとまだ薄暗い私の部屋でした。

そうです、あの一連の出来事は夢の中のお話だったのです。

何も怖がることはありません。

あの一連の流れはもう一度寝てしまえば忘れてしまうでしょう。夢なんてそういうものです。

ですが、喉元過ぎれば熱さを忘れると言いますか、せっかく見た大長編の夢なのでしっかりと詳細まで思い出してみることにしました。

最初の山もなく意味もなく落ちもないどうでもいい前半部分は早めに飛ばして、

最も印象ある部分だけ、つまり女の子のような化け物の周辺を重視して、です。

今思い返してみれば、笹藪の道の途中にあったしめ縄はあの化け物を封印していたのでしょう。

それにわざわざちょっかいを出すようなことをしたから連れてきてしまった、と。

そういう事でしょうか?

夢に理論性を求めるのはナンセンスですが、何事も敢えてしなくていいことをすると、

余計なものを連れてきてしまうという良い教訓にはなりそうです。


 私は今の時間を確認する為と、部屋のライトを探すために照明代わりとして枕元にあった携帯を開きました。

何やらメールが来ていました。どうやら昨日私が早く眠っていた間に来たもののようです。

インフォメーションやダイレクトメールでは無いようなので確認しておくことにしました。

そこに書いてあった5文字が耳元で聞こえました。







「ニ ガ サ ナ イ」






 私は余計なものを連れてきてしまったようです。

思い出さない方がいいと言ったのに。

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