自声3
「ねぇ。ご飯行くでしょ?」
「ああ、うん。行くよ」
人当たりの良さそうな笑顔、それでいい。当たり障りない返答。それでいい。人に紛れる様に、グループの中にいて少し目立ったとしても、当たり障りない立ち位置にいれば、一人になった時誰も気に留めない人物でいれば、目をつけられる事もなく、グループから排除される事もない。そんな手段を身につけていた。
「あ。これ美味しいよ」
同僚から受け取ったお皿に、食べ物が乗せられている。食欲は湧かない。空腹が分からない。お腹がすく?腹が減る?満腹?それらの感情が全て麻痺。いつの間にか、食べても食べても何も感じなくなった。食べなくても何も思わない。飲み会や、学校のお昼ご飯、に合わせて自分の意志なく食べていた僕は気がつくと、モノを口に含まないと落ち着かない時と、何一つ口にしたくない時が自然と生まれた。それは、食欲と関係なく。それすらも、摂食障害か僕はいまだわからない。
「ははは、そうなんですか」
「本当に面白いよね」
その時は笑えても、思い出し笑いなんてしない。その時は笑えても、ふと我にかえると面白いか分からない。ケラケラと笑う目の前の人物に周りの人間に「この話のどこが面白いの」何て聞いたら、温かい空気が瞬時に冷め、僕は空気の読めない人のレッテルを貼られるであろう。それは、よく聞く化粧室の魔の会談もそうであろう。
「マジあの子、本当嫌いムカつく」
お化粧を直しながら、この台詞を二、三人で話す。嫌われるあの子は、その女子会のメンバーに加われていて、四人で開かれる女子会に、二人は化粧室、もう二人は席で待機。化粧室で言われる言葉は、嫌いな女の子への暴言ばかり。せっかくの綺麗なお化粧も吐かれる言葉で醜いものへと姿を変える。大抵は、一方が暴言を吐き、残りの人は賛同しつつ内心では「なら何で連んでんの?」何て思ってる。そして、一歩化粧室を出るとニコニコと笑みを浮かべ、何事もなかった様に、嫌うあの子へ話しかける。
男は上司の顔色を伺い、縦の社会を築いていく。
女は同僚の顔色を伺い、横の社会を築いていく。
そんな中に、少しづつ積もっていく小さな重荷。下すことが上手な人と、苦手な人で、日常が大きく変わる世の中。そんな中で「辛い」と言うと、今の世界は「甘え」と言われ、ますます鎖が増えていく。そして身体を蝕みついには動けなくなるのだ。