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自声無色  作者: 天王寺 要
未完成な風景
2/6

自声2


小学生の頃、僕の自我は少し今よりはっきりとはしてなかった気がする。なんて言ったらおかしいかな?でもそんな感じがするんです。でも、あの時の僕は生きていた。今よりもずっと。


低学年の頃の記憶は一切覚えてないんです。何一つ。そんな中にはっきりとは覚えているのは兄に疎まれていた事ぐらい。僕が低学年の頃には兄は最高学年の6年生。きっと恥ずかしかったんだと思う。おそらく、その時の事をきっかけに、今でも中が良いわけでもなく悪いわけでもない、同じ空間にいても一言も喋らない、そんな血縁関係になっていました。


うっすらと覚えている学校生活は中学年ぐらいだった。1日に一回転んで、叩かれていた。その頃からかはっきりとしないが、クラスの子達からは嫌われていた。ハッキリとしない自我が幸いしてか、不登校などにはならなかったが、今思うと既に、心の悲鳴は出されていたのかも知れない。


覚えてないがら理由はきっと大人からしたら馬鹿げた理由。そんな阿呆らしい理由で叩かれて、泣いて学校を過ごしていた。その中でもクラスの人は嫌いにならなかった。好きでもなかった。そんな学校の通信簿はそこそこで、先生からのコメントも礼儀正しく、挨拶ができて静か。保護者面談では、「1人でいても大丈夫な子」と言われていた様だ。叩かれていることも、泣いていた事も何一つ触れられていないらしい。小学校の先生からしたら子供のじゃれ合いの延長線上。そんな風に考えられていたのかも知れない。


その中で、ハッキリと大人を絶望したことがあった。保護者会が開かれたある日のこと、いつもの様に、からかわれていた、生徒からすると、楽しんでいたのかも知れない。遊びの延長線上。みんなとの共同作業。休み時間の少しの間、気がついたら僕は鉛筆のお尻で肩を力一杯押されていた。力尽くでひたすらに、肩のツボ、首の付け根。クラス生徒が、僕の周りに集まり鉛筆を片手に右の肩を押してくる。


「痛い。止めて。痛い」

「ここ、肩のツボなんだよ」


クラスで一番博学な子が言っていた。「痛いんだって」そうわかってるなら、止めてくれ、止めて、止めてよ。痛い痛いと泣いて訴えても、笑って楽しむ。小学生って、残虐だなって今改めて思う。痛くて、辛くて、泣いて助けを求めても、誰も助けてはくれない地獄の時間だった気がする。


休み時間が終わり、いつも通りに授業を始めた先生に絶望した。一番後ろの席で右の肩を押さえて泣いている僕と、授業参観だからいつもは閉まっている扉が開いていて、通りがかりの親たちと目があったのに、無関心に通り過ぎて行った大人に絶望した。



その事があってから、おかしな事を言っていた。


「夢なのかみたい」


頭が痛い、気持ちが悪い。そんなものではない、感覚的な何かが時々僕を蝕んでいた。保健室の先生は、「おかしい子」としか思えないだろう。今思うと、僕も同じことを思う。だけど、幼い僕は、今の自分自身のことを説明するには、それしか無かった。目の前に少し濁った、不鮮明のフィルターを通して見てる。映画を見ている様な、その感覚的な事を説明するには、まるで夢の中にいる様な感覚。としか言いようがなかった。そしてその感覚は、長い時間は続かず数時間で、「普通」に戻る。



そんな学生生活を送っていた。


「あいつ、泣いてないよ」

「泣くかと思ったのに」


卒業式は涙なんか流さずようやく終わる事に安堵した。



中学校は、学区域外のところに行ける事になった。みんなと少しでも違う所に。そこで初めからやり直す。僕は眉間に皺を寄せ、校舎を睨みつけていた。苦しい思い出が残る学校を。


小学生、初めて集団で過ごし、同年代の子と過ごし遊び、少しづつ親元を離れ、自由になる時間が増える。その時に、こんな小学生時代を送り、取り敢えず大人になり、出来損ないのものばかりになった。人との関わり方。集団行動。人との繋がりを持つことの大切さ。楽しさ、嬉しさ。すべて出来損ないに。未完成に。


中学校は、学区域外のところに行ける事になった。みんなと少しでも違う所に。そこで初めからやり直す。僕は眉間に皺を寄せ、校舎を睨みつけていた。苦しい思い出が残る学校を。


小学生、初めて集団で過ごし、同年代の子と過ごし遊び、少しづつ親元を離れ、自由になる時間が増える。その時に、こんな小学生時代を送り、取り敢えず大人になり、出来損ないのものばかりになった。人との関わり方。集団行動。人との繋がりを持つことの大切さ。楽しさ、嬉しさ。すべて出来損ないに。未完成に。


この時既に、人間不信になりつつあった。





小学生の頃から家に帰っても、ろくな事がなかった気がする。詳しくは覚えていない。父親は仕事から帰ると寝ていて、イラつく事は全て子供に当り散らしていた。僕の兄も、僕も、叩かれた回数は数え切れないだろう。兄はその事もあって家の中で喋るのをやめた。家の中で喋ってもろくな事が無いと思ったのだろう。母親は僕が中学年になる頃には仕事に出ていた。夏休み、お昼頃まで寝てリビングに出ると、腐らない様に冷やされたご飯をレンジで温めて食べていた事、うっすらと覚えている。



兄と僕は徹底的な差がある。見た目、頭の良さ、友人関係。全てにおいて負けていた、ボロ負けだ。細身で高身長。世で言ういい顔。休みの日は外に行き友達と遊ぶ交友関係。僕は殆ど、した事が無い片手で事足りるほどだ。そんな兄と僕は周りが違うと言っても、勝ってるモノと比べてしまう。出来損ないと出来る人。そんな得のない比べ事は高校時代まで続いた。


小学生が終わり中学生になってから、小学生で欠落したものヒビ入り、修復出来ないものが目に見える様になった。


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