運命と星の円舞曲
運命は星をなぞり、流れていくらしい。
星の巡りが運命を作り出す。
運命は星の元で動く。
昔のお伽噺。
語り継がれてきた詩。
運命と星の円舞曲
私にとって今では遠い、一つの思い出。
彼と二人きりで歩く帰り道のこと。
手を繋いだ、帰り道。
私はいつも通り、彼に話題を振る。
今日は、私の好きな詩の話だ。
「ねぇ、運命と星の円舞曲って詩、知ってる?」
「知っているけれど……。
随分とまた、ロマンチックだね」
綺麗に舗装された煉瓦の道の両サイドに並ぶ街灯が二人の道を照らす。
街灯に照らし出された影が長く伸びた。
身長差は影にも映し出されていた。
繋がれた手も。
「そんなにロマンチックかしら?」
「あぁ、とてもね」
街灯に照らされた彼の横顔に笑みが浮かべられている。
歳は私と同じはずなのに、年上のように見えた。
風に吹かれて、彼のさらさらな茶色の髪が風に揺れた。
馬鹿にされた気がして、少し頬が膨らむ。
「もしかして、馬鹿にしてるの?」
拗ねている顔が見えたのか、彼はクスクスと笑った。
それに更に頬が膨らむ。
その様子を見て、彼はニコリと笑い、頭を撫でてきた。
彼は少ししゃがんで、私に視線を合わせた。
ビー玉のような茶色の瞳が街灯の光を受け、光った。
「馬鹿にしてないさ、君らしいと思ってね」
「私らしい?」
「そう、とても君らしい」
「そうかしら……」
真っ直ぐな視線に、目を逸らす。
私らしい、というのは一体なんだろうか。
子供っぽい?それとも――
色んな思いが頭を巡り始めた頃、彼は嬉しげに切り出した。
「その詩は昔よく母に聞かされていたよ」
「そうなの?」
その詩はこの街に語り継がれる詩。
運命と星の円舞曲なんて、とても非現実的。
でも、その非現実なところに私は惹かれた。
「……ねぇ、その詩、今も言える?」
「あぁ、言えるよ。
うろ覚えで、所どころ間違ってるかもしれないけどね」
「お願い、私に聞かせてくれないかな?」
「いいよ」
なんでこのタイミングなのか。
このタイミングじゃなきゃいけなかったから。
私の無茶なお願いに彼は優しく頷いた。
夜空を見上げながら、私の大好きな少し低い声でその詩を語り始めた。
「僕の見上げているこの広い星空には、誰かの運命が描かれているらしい。
僕の目に星は見えているが、それが運命なのかは分からない」
ふと、ある考えが私の頭をよぎる。
彼の目にこの星空はどう映っているんだろうか。
それは、私と同じ星空なんだろうか。
彼と同じ風景を私はいつも、見つめられているんだろうか。
「運命自体に実体はない。
瞬きをする度に運命と星は移り変わる」
彼の言葉に瞬きを繰り返すと、星も瞬いた。
彼の横顔を見ると、私の視線に気付いたのかニコリと笑顔を浮かべる。
私はこの笑顔に弱いのだ。
目線を逸らすと、彼は話を続けた。
「手に掴むことも出来ない。
その運命を読み取ることも出来ない」
話をする彼の横顔はどこか寂しそうだった。
なんで寂しそうなのか、私には分からなかった。
その顔も一瞬で、瞬きをすると元に戻っていた。
「運命と星は円舞曲を踊っている。
だから、僕らの運命は星と共に巡る」
全て読んだ後、風がまた吹いた。
少し、肌寒く感じた。
街灯の光も少し、暗くなっているように見えた。
しばらく静寂が二人の間を包んだ。
「……不思議な詩よね」
そう切り出すと、彼はそうだね、と優しく笑った。
運命と星、二つの関連性は未だ不明。
なのに、私たちはこの詩のように考え、生きている。
それはすごく、すごく不思議なことだ。
「でも、素敵な詩だね」
その言葉に、頷く。
訳は分からないけれど……とても、素敵な詩。
それだけは分かる。
「ステラ」
彼が優しく、私の名前を呼んだ。
星の名前を持つ私が、この詩に惹かれたのは、きっと―
彼の呼びかけに、笑顔が浮かぶ。
「なあに?――ローク」
運命に惹かれたからだろう。
星と運命。
私たちが出会ったのも、星と運命の導きだろうか。
「……僕、円舞曲の練習するね」
「ローク、下手そう」
「頑張って練習するよ」
手を強く握りなおした。
いつの間にか、街灯のないところまで歩いてきていたらしい。
私たちの家まで、もう少しだ。
星の光が、私たちの道を照らした。
運命に導くように。
運命と星の円舞曲は、友人に出されたお題を元に書きました。
ステラとロークが惹かれた理由とかは、脳内補完でお願いします。
もしかしたら、二人の物語をもう少し書くかもしれません。
その時は、よろしくお願い致します。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。