第3話 ナイフ
悪は忍び寄る。
頭がくらくらしてきて意識が朦朧として行くのが解る。
男はもう一発僕の腹に拳をめり込ませた。
息が出来ない。
恐怖と痛みで全身が震える。
口からは血の混じった胃液のような液が大量に出ている。
男の足元に体を丸めて蹲る僕。
半分意識がとんだ僕の頭を黒い革靴で踏みつける男。
意識が遠のく中、山根君達を横目で見た。
愕然とした。
はっきり歯茎を見せる程大きな口で笑う山根君の姿がそこにはあった。男が僕を見下ろして言った。
「ざまぁねぇなぁ白澤君、どうだ気に入っただろ?これからも犬として可愛がってやるからよぉ」
その言葉を聞いた途端、僕の中で何かが生まれたのが分かった。
男は僕の頭を踏みつけながら笑みを溢す。
男が唇を舐めた。次の瞬間、僕の心の奥底で眠っていた何かが爆発した。
「足どけろよ…」
低い声で僕は言った。男はキョトンとした顔で僕を見下ろした。
「その臭い足をどけろっつってんだよテメェ」
荒々しい口調で言う。
男の顔がみるみる苛立ってくるのが解った。男は強く僕の頭を踏みつけて
「今何いったテメェ」
と細い口を曲げて言った。
僕は男の足を思い切り掴んだ。爪が肉に食い込み、そこから血が出始めている。
「いっ…何してんだコラ…」
男は赤い顔をして僕の襟を掴んで立たせた。男は足を見た後に
「何してんだよ、あ!?犬が抵抗してどうなると思ってんだよ」
僕は男を睨みつけてこう言ってやった。
「うるせぇんだよ筋肉、脳味噌まで筋肉に侵されてて可愛そうだなぁ。俺が鍛え直してやるよ」
男はその後、三秒も絶たぬ間にキレて近くにあったガラスの灰皿で僕の頭を殴りつけた。
頭から血が吹き出して、顔に流れた。
少しくらっと来てたじろいだが、男を鋭い眼で睨みかえした。
男は僕の頭を蹴りあげて、倒れた僕の上に乗ってきた。
僕はとっさに腕で顔面を守ったが、男は胸に拳をめり込ませて来た。
「かはっ」
血を吐き出した。
男は何度も僕の腹を殴ってきて、段々意識が遠のいてしまっていた。
そんな僕を見るなり、山根君が制服のポケットからバタフライナイフを取り出して男に渡した。
男はぐるぐるバタフライナイフを回し始める。
もう終わりだと思った。
男がナイフを両手で掴んで、振り上げた。
僕は眼を閉じた。
僕の人生はここで終るのか。
男が店の中を揺らす程大きな声を出して僕に向かってナイフを振り下ろした。
「ズブッ」
ナイフが僕の胸に刺さっているのが解る。
山根君は自分でナイフを取り出しておきながらビビってその場から逃げ出してしまった。仲間達もその後を追う。
死ぬのか、死んでしまうのか。




