第2話 開始
楽しみは一瞬にして奪われる。
「おい白澤、お前暇だよな?今日付き合えよ」
突然の事で、僕は焦ってしまった。
クラスメートに声をかけられたのは入学して初めての事だった。
僕は少し嬉しくなって、首を縦に振った。
「ホームルーム終わったら直ぐ玄関に来いよ」
山根君がそう言った。
僕は初めて学校に来て良かったと思った。
しかし、この後僕にとんでも無い試練が待ち受けていようとは知るよしも無かった。
今日一日の授業がいつもより早く感じた。
ホームルームが終わり、僕は言われた通りに玄関に行った。
玄関には山根君と他のクラスの面々が待っていた。
山根君は僕の肩を抱いて歩き始めた。
何処に向かっているのか無理と聞かなかった。
楽しみが待っている物だと思っていたから。
街中に着いた。
僕の行った所の無い街だ。
近くには洋服店やクラブがあった。
人が多くいた。
それも若者ばかり。
山根君は僕の腕をグッと引っ張ると、奥の暗い細道に連れて行った。
そこには飲み屋や風俗店が立ち並んでいる。
恐い顔をしたおじさんもたまに通りかかった。
一体僕を何処に連れて行くつもりなのだろうか。
山根君は小さな赤いドアの喫茶店に僕を連れて入った。
店の中には僕達に背を向けてソファに座るオールバックの金髪の男がいた。
「高倉さん、連れて来ました」
山根君が言う。
男は後ろを振り返った。
黒いサングラスからは眼が見えない。
鼻にはピアス。
薄く長い唇に、顎に薄い髭を生やしている。
僕は見た瞬間にこの人はヤバいと自覚した。
地面に根がはったように動かなくなる僕の足。
山根君達は不適な笑みを見せている。
僕にはそれがどうゆう意味なのかまだ分からなかった。男は立ち上がり、僕の前に佇んだ。
「お前が今日から俺の犬になる白澤君か…よろしくなぁ…」
舌を出して男は言う。一体何の事なのか言っている意味が分からなかった。
「逃げんなよ?お前はもう俺たちの掌の中なんだからよ」
山根君が眼を大きく開けて言った。
意味が分からない。
僕はその場に居るのが苦になって、逃げ出そうとした。
すると、山根君の友達が僕の腕を掴んで邪魔をした。
「悪い奴だなぁ、お前は犬なんだよ。逃げんじゃねぇよ」
男が僕の眼をじっと見て言った。
恐怖で僕の体は固まった。
男は、僕の髪を鷲掴みにしてグッと首を持ち上げた。
全身が震え始める。
男は僕の腹に大きく一発拳を入れた。
血の混じった唾を吐き出す僕。
山根君達は笑っている。
やっとこの時、あの不適な笑みの理由が解った。
男は僕の鼻の穴に煙草を押し込んで、火を着けた。息が出来なくなった。
白澤孝治十六歳。都立中橋高校二年。身長162cm 体重50? 血液型0型 2月18日生まれ。




