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私の愛するアリエスタ

作者: 柚木

 アリエスタ。


 誰もが振り返らずにはいられないほど美しく、それ以上の輝きを全身から放って私の上っ面だけの日常に押し入ってきたアリエスタ。


 アリエスタ。


 誰もが惹かれた、誰もが彼女を知っていた、けれども誰にもその心の深淵を悟らせなかったアリエスタ。


 アリエスタ。


 才女という表現が霞むほど賢く、運動が得意で、花を生ければ賞を取り、授業で歌えば聖歌の独唱を任されたアリエスタ。



 ――……アリエスタ。


 余りにも眩く、綺羅星のような彗星のようなアリエスタは、儚い流れ星よりもあっけなく、彼女のモノであった賞も聖歌の独唱も、他の様々な名声も得る前に私の日常から消えていった。



 アリエスタは殺された。通り魔だった。

 非現実的で幻想的な存在だったアリエスタは、現実的でありふれた出来事によってその輝きを潰された。


 犯人はまだ捕まっていない。もしかしたらただの通り魔ではなく、美しいアリエスタを自分のものだけにしたいとか何とか考える下卑な男の一人かもしれない。


 ……無理もない、と思う。


 アリエスタ。


 誰からも愛され望まれ、けれども決して誰のものにもならないアリエスタ。それは媚びないという表現によって彼女の魅力の一つとなったが、同時に執着を周囲に抱かせた。



 アリエスタ。美しいアリエスタ。私だけが親友だと私だけを瞳に映して私だけに笑いかけたアリエスタ。そしてただの一度も心の内側を明かさなかったアリエスタ。


 犯人は、まだ捕まっていない。


 ねぇ……アリエスタ。


 誰よりも長く、近くにいたのは私だったけれど、私は貴女のどれほど近くに行けたのだろう。貴女の心に、ちゃんと私はいたのだろうか。最後に、貴女は私のことを思い出してくれただろうか。


 それを、私が知る術はない。

 全てはアリエスタの中に。誰も知らない彼女の真実の中に。


 アリエスタ。アリエスタ。私の愛するアリエスタ。


 貴女の瞳に映るのは、貴女が最後に見るのは思うのは、私でありたかった。私であるはずだった。



 アリエスタ。美しい、アリエスタ。

 貴女の輝きも美しさも、誰かか傷つけるなど許されない。そう、だから私は貴女を殺すつもりだった。貴女の殺すのは私であるはずだった。それなのに貴女を別の者に奪われた。貴女の最後を、全てを得たのは私ではなかった。


 アリエスタ。アリエスタ。私だけのアリエスタであったはずなのに。貴女は私のものでもあり得なかった。


 ねぇ、アリエスタ。


 貴女を私から奪った犯人を殺せば、貴女の一番近くにいるのは私になるだろうか。


 犯人はまだ捕まっていない。有力な情報を警察は得られない。直に捜査は打ち切られる。何の結果も挙げられず。


 最後の記憶は死化粧をしたアリエスタ。やはり美しかった。


 ねぇアリエスタ。犯人を殺せば私の心は晴れるだろうか。こんな、背も低く醜い外見の、とるに足らない、この男を殺せば私の心は晴れるだろうか。


 ねぇアリエスタ。アリエスタ。死では生温いだろうか。早々に安らぎを与えては物足りない。けれど生かす価値はない。アリエスタ。貴女を汚した。私のアリエスタを侮辱したこの男。アリエスタ、貴女は何を望むだろう。アリエスタ、処分の仕方はもう少し考えようか。アリエスタ、アリえスタ、アりえスた…






 ある冬の夜、一人の少女の惨殺死体が発見された。目撃証拠がなく、捜査は難航した。

 その一月後、捜査は完全に打ち切られた。

 被害者の少女は街でも有名な美しさで、あまりにも悲劇的なこの事件は多くの人々の記憶に残った。犯人が見つからなかったことを街中が嘆いた。

 そして更に十年後。少女の家族友人を除くほとんどの人の記憶から、一人の美しい少女は消え去った。この年で事件は時効を迎える。


 犯人は、結局捕まらなかった。

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