全てを知った。
お題:「え? ○○って××だったの?」を会話文で用いる。
「僕はね、知らないことなんかないんだよ。これっぽっちもないんだ。僕がこの世界に生を受けてもう数世紀が経ったし、僕は今まで数え切れないほどの本を読んできた。世界を見て回ってきた。世界の謎には独自の解を見出だしてきた。
「だから、知らないことなんてない。わからないことなんて、何一つとしてないんだ。僕が僕としてここに存在している理由さえ、否、どうして人間という種が我が物顔でこの世界をかっ歩しているのか、どうして僕がこんなにも長く生きているのか、その全てを知っているんだ。
「うん? ああ、これから紹介するつもりだったんだよ。
「ここにはもう一人、僕の兄がいる。今ではたった一人の肉親だね。生まれた時から一緒にいる、最高に仲が良い双子の兄弟さ。僕と兄が力を合わせれば、紐解けない謎はなかった。越えられないものなんて、何一つなかった。これが僕の全てであり、誰も否定できないことだ。故に、兄もあらゆることを知っている。全知全能に最も近い兄弟が、僕たち二人だ。
「近い、という表現に違和感を覚えたんだね? そりゃ勿論、僕たちにもわからないことがひとつだけあるんだ。早くも前言撤回だね? でもこれは前言撤回をしなければならないレベルの話ではないと思うんだ。そもそも考えるべきではない話だからだよ。
「神、さ。紙という存在だけは、どうしても僕たちでは証明できないのさ。そこら辺はもう、各宗教に任せるしかないってやつだね。いいのさ。僕たちにとって、神という存在は些事さ。些細なことでしかないわけさ。絶対的に観測できない対象なのだから、いてもいなくても同じ、とまでは言わないけれど、それに近い感覚ではあるよね。研究できない対象は研究のしようがないさ。神が住むであろう神界という異界は見つけたけれど、下手に踏み込んで神罰が下ったらシャレにならないからね。
「でも君たちはこう思うだろう。ほぼ全知全能を語る僕たちが神を知り得ない、その事実は他の事象を全て理解しているという事実を危うくしている、と。まさしくその通りさ。そこで今回はそんな君たちに、ちょっとだけネタばらしをしておこうと思うわけさ。
「そうだね、こういう場合はオカルトな話がいいと思うんだがどうかな? うん、なるほどね。
「おーけー。じゃあ、ネタばらしをしようか。
「まずは幽霊さ。ポピュラーでとっつきやすいだろう? 見たという人はいるのに、誰も研究をしようとしなかった幽霊さ。オカルトの一言で片づけられていた幽霊さ。そう。僕たち兄弟は、幽霊さえも研究の対象にしたのさ。当然だろう? 見たという人間が大勢いるのだから。それはつまり、幽霊の存在を立証しているのに等しいのさ。
「まず僕らは幽霊の存在を僕たちが認識できるアイテムを開発した。G-0123というアイテムでね、名前はただの記号だから意味はないよ。そのアイテムを脳に直接接続する事で、幽霊と呼ばれる存在を観測する事に成功したのさ。勿論、霊能者と呼ばれる人間が複数たちあった実験で、その正確さは実証することができたよ。僕たちが言うのだから、そこは安心して信用してほしいね。
「さて、もうわかっただろう? 幽霊は確実にそこに存在しているのさ。研究を続けていると、そこには俗に霊子と言われる特殊な物質があることがわかった。霊子はそうだね……紫外線のようなものだと思ってくれればいい。つまり、不可視だということさ。だから大勢の人間にはそれが見えないわけさ。ただし、女性が色の違いを男性よりも敏感に見分ける能力を有しているのと同じように、霊子を認識することに長けた人間がいたわけさ。それが霊能者ってやつだね。
「霊子が特殊な物質だと言ったけれど、やはりそれは人間界の物質じゃないわけさ。人間界では存在しえないものであるということがわかった。
「僕たちは人間界の他に、霊界と神界、それから魔界の存在を確認する事に成功した。尤も、実際にはその中には入っていないけれどね。さっきも言ったけれど、いくら僕たち兄弟とはいえ、人の域を出ようなんていう身の程知らずじゃないさ。ただ、その霊子が霊界の物質であるということだけは、研究して立証する必要があったわけだけどね。
「無論、これらの異界の存在を確認できた僕らにとって、霊子が霊界の物質であるという事実を突き止めることは造作もないことだったわけさ。
「霊界の入り口、ここではあえて門と言っておこうか。霊界の門は他の異界と比べて、非常に観測しやすいものだったんだ。そう、例のG-0123を使用すれば、霊がそこにいないのにも関わらず、強い霊子の反応がある箇所がある。そこが霊界の門さ。霊界の門は人間界に点在していて、樹海なんてのは霊界の門が密集していたね。
「否、樹海に関しては異界の門が密集していたよ。やはりあそこは、日本において特別な場所だということだね。
「とまれ、僕たちはG-0123の開発を経て、霊という存在を立証したのさ。これについてもっと詳しいことが知りたいならば、僕たちの論文を読んでみてくれ。たしか三十年ほど前に発表したからね。尤も、あの論文を科学者たちは相手にしてくれなかったけれどね。けれどもまあコアなオカルト好きならば、僕たちが発表したオカルト関連の論文はいくつか持ってるだろうさ。ツテでもたどって見せてもらうといいよ。
「とまあ幽霊に関するネタばらしの、ほんの頭だけを話したわけだけど、僕たちのことを少しは理解してもらえたかな? あらゆる事象は解を得ることができるのさ。科学を超越した科学によって、ね。
「ああいや、勘違いしないでくれよ? 僕たちは別に現実論者ってわけじゃないんだ。科学至上主義ってわけでもない。奇跡を信じないようなロマンのない人間でもないさ。そこだけは理解しておいてほしいね。僕たちはあくまで、あらゆる事象について研究をしたってだけの話なのさ。
「故に、僕たちは知らないことがないのさ。
「ん? もうひとつ僕が知らないことがある? 兄さん、それはちょっと聞き捨てならないね。僕と兄さんは一心同体、同じ研究をずっと行ってきた仲だろう? 同じ釜の飯を食った仲じゃないか。しかも今はほぼ研究をしつくして、新しい研究材料を探している最中じゃないか。もしやもう新しい材料を見つけたって言うのかい? それならば納得さ。僕は喜んで無知であることを受け入れよう。
「で? 僕は一体何を知らないって言うんだい?
「え? 僕たちは腹違いだって?」