友よ、今宵もぼくはきみの夢を見る
久也は今日も朔の夢を見た。
場所は明け方近いキッチンソルトの店内で、二階から下ろしてきたポータブルのレコードプレーヤーでストーンズの「悪魔を憐れむ歌」を大音量で流しながら、二人はカウンターの中でお皿を壁に向かって投げつけている。壁に当たって砕けたお皿の破片を見てはキャッキャッキャッキャッと笑い合い、時折ウィスキーのストレートを煽っては煙草を吸い、ミックの声に負けんとばかりに声を張り上げてサビを歌う。会話はない。曲が終わり、レコードは静かに止まって、お皿が割れる音だけがいつまでも店内に残響している。
そこで夢は終わった。久也はベッドから身を起こし、薄暗い寝室の中を見回し、それからため息をついた。枕元のスマホで時間を確認すると午前四時半。あのときとだいたい時刻は一緒だった。
夢に見た光景を久也はちゃんと憶えていた。あれは1998年のストーンズの東京ドーム公演の前夜で、翌日の前哨戦と称してストーンズのレコードを片っ端から聞いていたらだんだん興奮が抑えきれなくなってきて、気がついたときにはカウンターの中に入ってお皿を壁に向かって投げていた。最初は久也がやり始め、それから朔も力ウンターの中に入ってきて、しばらく一緒になって投げ続けた。どれくらい続けたかまでは憶えていない。ただ気がついたときにはもうお昼過ぎで、二人揃ってお皿の破片が散らばったカウンターの中で目を覚まし、周りの散々たる状況にお互い頭は真っ白だったが、それでもとりあえずライブに行く準備をせねばと朔は二階へと上がり、久也はお店をあとにし、一時間後には駅前で待ち合わせして東京ドームに向かった。ライブのことはあまり思い出せないけど、終わったあとに水道橋駅のホームで声をかけた女の子二人と呑みに行き、それぞれ好みの子を連れて帰っていった。ミック好きの久也とキース好きの朔の好みが被ることは決してなかった。
久也は再びベッドに横になり、真っ直ぐに天井を見据えた。それはまだ見慣れない天井だった。シミも汚れもなければ黄ばんでもいない、じつに新築のマンションらしい天井で、見ているうちにだんだん自分がどこにいるのかわからなくなってきた。なぜ、いま僕はこんな真新しいマンションの寝室に一人で寝ているのかが。それはまるで終わりのない悪夢でも見せられているような気分だった。




