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9.カジノ その2

 ベルナール・マクラーレンは、ブランデーグラスを傾けながら、

「貴艦がアスケルに入港したときから、気が付いておったよ、キャプテン・ジョーカー。だから、武器店サバイの店長にカジノのチケットを渡すように指示しておいた。君ならたぶんポーカーを選ぶと思って、あの席に陣取っていたんじゃよ。心配しなくてもいい。連邦警察に突き出すことはない。連邦警察とは仲が悪いからな」

「参りました」

 レオンは、素直に頭を下げた。全部お見通しだ。

「君の活躍はいろいろと聞いている。今回はわしの孫娘のためにひと肌脱いでくれんか。謝礼は1億クレジットでどうだ?」

 食えない爺さんだ。しかし、このまま引き下がるのも癪にさわる。

「わかりました。引き受けましょう」


「あらあら、バレてたのね」

 アルテミスは、帰ってきたレオンにコーヒーを差し出しながら言った。

「この艦は宇宙に1つだけのどこにも登録されていない船だから、特殊な艦と認識されるのよね。一応シールドはずっと張りっぱなしだから、艦内までスキャンされることはないけど、視認されればバレることもあるかも。偽装の仕方をもっと考えないといけないわ」

「バレてしまったものはしかたない。とりあえず、爺さんの孫娘を探そう」

 レオンはその孫娘の写真と個人情報をアルテミスに渡した。アルテミスは惑星アスケルのネットワークに侵入し、孫娘の足取りを追った。


「見つかったわよ。彼女はクロード・バルローのカジノにいるわ」

 アルテミスは、艦橋のモニターに彼女を映した。そこに表示されたのは、写真とは別人のような派手な恰好をした女の子だった。真っ赤な口紅に、濃いアイシャドー、肌を露出させた服にミニスカートだった。

「これが孫娘?」

「ええ、骨格、顔認証、瞳の色、すべて一致するわ。98%の確率で同一人物よ。名前はナターシャ・マクラーレン。5歳で両親が離婚。10歳で引き取った父親が事故で他界。その後、祖父のベルナール・マクラーレンのもとで育てられている。年齢は18歳で、商業大学の学生ね」

「ふうん、ド派手なナターシャちゃんねぇ。とりあえず救出に行きますかね」

「気を付けてね。バルローのカジノには用心棒が20人くらい雇われているわ」

「まあ、なんとかなるでしょ」

「なんともならないときはすぐ連絡ちょうだい。飛んで行ってあげるわ」

「了解!」


 レオンは宙港のハイウェイスターで、街の中心部に戻り、クロード・バルローのカジノに入った。

 最初に入ったベルナール・マクラーレンのカジノに比べて、客層のレベルが低い。タバコの煙も充満していた。労働者らしき者や成金親父などが多く見受けられ、一緒にいる女性も品がない。

 あたりを見回すと、確かに目つきの悪い用心棒らしい男たちが何人かいる。

 レオンは、1000万クレジットをチップに替えた。それを見た店員の黒服の男が、

「お客様、当店は初めてですか?あと1000万クレジットを両替いただければ、特別室で遊べます。いかがですか?」

「じゃあ、そうさせてもらおう」

 レオンは、2000万クレジット分のチップを手に、奥の扉に案内された。そこでは、もう少し上品な客がゲームに興じていた。

「なかなか、いい雰囲気だな」

「ありがとうございます。こちらの特別室は、お客様のような上品な方々が遊べる場として提供させていただいております」


 そのときひときわ高い女性の嬌声が聞こえた。そちらに目をやると、ナターシャがルーレットで遊んでいるようだった。レオンは、そちらに近づいて行った。

 先ほどモニターで見た通りド派手な格好をしていた。

 先ほどの嬌声は、ナターシャがルーレットで当てたかららしい。

 ナターシャの隣にはイケメンが二人侍っていた。

「こんどはRedよ」

 はしゃいだナターシャの声が聞こえた。

「では、Blackに100万」

 とレオンは、Blackの上にチップを重ねた。

「3回続けてBlackだったのよ。次はRedだわ」

 ルーレットが回った。

「黒の15」

 とディーラーが声を上げた。レオンの手元に200万が戻ってきた。

「おじさん、やるわね。次は負けないわ。Redに10万!」

 隣にいたイケメンが、

「お嬢様もうチップがありません」

「すぐに持ってきて、あと200万」

「かしこまりました」

 イケメンはチップを持って戻ってきた。こうしてナターシャは借金漬けにされているらしい。


「おじさんじゃない。アラン・スコッティだ。ではもう一度、Blackに200万」

「アラン、もうBlackは出ないわよ」

 ディーラーがルーレットを回した。

「黒の29」

「えー!」

 ナターシャは悔しがった。

「わかったわ。5万、10万と掛け金がすくなすぎたのよ。次よ。Redに100万」

「ムキになっては、カジノは勝てないよ」

「いいのよ。バルローのおじさまから、いくら遊んでもいいと言われてるから」

 ナターシャは自分が誘拐されているという意識はないらしい。

 おそらく、そばにいるイケメンの二人もクロード・バルローに雇われた用心棒で、ナターシャが逃げないように監視しているんだろう。


「それでは、オレは赤の36にストレートアップ」

 レオンは、100万を賭けた。

「え?そんな1つ数字に賭けて大丈夫?」

「これが博打の楽しいところさ」

 レオンは、ディーラーのいかさまを見抜いていた。このディーラーは自分の思うところに玉を落とせる。

 そして、ナターシャに遊ばせながら借金を作らせるつもりだ。

 そのため、こんな賭け方をしたレオンに一度勝たせて、ナターシャにも真似をさせるはずだ。


「赤の36」

「すごーい!」

 100万が3600万になって戻ってきた。

「さて、勝ち逃げをするかな」

 そういうとレオンは立ち上がった。

「おじさん、もっと遊ぼうよ。次の目を教えて」

 ナターシャは自分の1点賭けをやりたくてうずうずしていた。

「いや、きみはオレと一緒にベルナールおじいさんのところに帰るんだ。おじいさんに頼まれて迎えにきたよ」

 とたんにナターシャは厳しい目つきになった。

「嫌よ。私はバルローおじさまのもとでもっとカジノについて勉強するんだから。おじい様はカジノについて、まだ早いって何も教えてくれないもの。将来私がおじい様のカジノを継ぐのに」

 ナターシャが上目遣いに、生意気な口を聞いた。


 横にいたイケメンが口を出した。

「聞こえただろう。お嬢様は帰らないと言ってるんだ。お前だけさっさと帰りな」

 はてさてどうしたものか。

 そのとき、用心棒の一人がレオンの肩をつかんだ。

「さっさと帰るんだ」

 レオンは、用心棒に涼しい顔で、

「死にたくなければその手を離せ」

「なんだと!痛い目にあわないとわかからないようだな」

 その瞬間、レオンは、用心棒の腕をつかむとドスンと床に叩きつけた。

 用心棒は呻いて立ち上がれなくなった。

 そして、レオンはナターシャの腕をつかむとその場から連れ去ろうとした。

「何をするの!離して!」


 バルローのカジノは騒然となった。

 その場にいた客たちは次々に出口の扉に向かった。

 用心棒らしき屈強の男たちが5人、レオンに近寄ってきた。手には警棒のようなものを持っていた。

 ひとりの男が警棒を振り上げて、レオンに殴りかかってきた。

 レオンは左手でナターシャの手首をつかんだまま、右手で警棒を振り上げた男の腕をつかみねじり上げて背中を蹴り飛ばした。

「何をしやがる!」

 男たちが殺気立った。

 ナターシャはレオンの手を振りほどこうともがいて、男たちに、

「助けて」

 と叫んだが、男たちはナターシャを無視した。

 レオンを取り押さえるために、2人の男が飛びかかってきた。一人は顎を、もう一人は鳩尾を殴られて昏倒した。

「こいつ、なめた真似をしやがって」


 この騒ぎを聞きつけて、クロード・バルローが現れた。顔は浅黒く、がっしりした体格だった。

「おじさま、助けて!」

「うちの店で騒ぎを起こすとは、なかなか度胸があるやつだな」

 と、レオンを睨みながら言った。マシンガンを構えた男が2人後ろに控えていた。

「悪いな。騒ぐつもりがなかったんだが。このお嬢さんをベルナール・マクラーレンのもとに届ける約束なんだ。そこをどいてくれ」

「それはできない。その子を渡すわけにはいかない」

 その時、後ろの男が殴りかかってきた。レオンは足を引っかけて、クロードのぶつかるように転がした。クロードは男を避けきれず転倒した。

 その隙にレオンは、出入口の扉を蹴破り、ナターシャを連れて、エレベータで最上階に向かった。

「追え!」

 クロードは用心棒たちに指示した。

 レオンは、エレベータの中でアルテミスにレディホークをこのビルの屋上に持ってくるように指示した。

 エレベータを降りると、屋上への階段を上り始めた。そこへ用心棒たちが追いつき、マシンガンを発射してきた。

「危ねえな!」

 レオンは、マシンガンを避けながら階段を上った。

 クロードは、大声をあげて、

「馬鹿野郎!娘は大事な人質だ。殺すな。野郎だけを狙え」

 ナターシャの動きが止まった。え!人質?どういうこと?


 屋上の扉を開けると、強い風が吹いていた。

「観念しろ!娘を渡せ!」

 男たちはマシンガンを構えながら近づいてきた。

「観念するのはどっちかな」

 と、レオンはにやりと笑った。

 そのとき、音もなくいきなりレディホークがビルの下から姿を現し、男たちに銃弾を浴びせた。男たちは逃げ惑った。その隙にレオンはナターシャをレディホークに放り込み、自分も乗り込んだ。

「アルテミス、助かった」

 アルテミスが操縦席からにこやかに答えた。

「どういたしまして」

 それから、アルテミスはナターシャのほうを向いて、大丈夫?と尋ねた。

「私をどこに連れて行く気?」

「おじいさまのところですよ」

「嘘!私どこかに売り飛ばすつもりね。でもきっとクロードおじさまが助けてくれるわ」

「レオン、何か話が食い違っていませんか?」

 アルテミスは不思議そうな顔をした。レオンは、

「おじいさまのところには帰りたくないそうだ。とりあえず、クラリス・ルナに戻ってくれ」

「了解」


 アルテミスにレディホークの操縦を任せたレオンは、警戒する眼差しを向けるナターシャに向かって、

「おじいさまのところに戻りたくないのはなぜなんだい?」

「あなたには関係ないでしょ」

「オレはきみをベルナール・マクラーレンのもとに届ける約束をした。このまま無理やり届けてもいいんだが、またクロードに捕まることはないようにしたい」

「どういうこと?」

「クロードはきみを・・・」

 そのときアルテミスが叫んだ。

「レオン、追手の戦闘機が来たわ。ここにナターシャさんがいるのがバレているわよ」

 レオンは、ナターシャのイヤリングを獲った。

「発信機か」

 レオンは、そのイヤリングを握りつぶすと、

「すぐに上昇してくれ」

 追ってきたクロードの戦闘機3機だった。

 当たるはずもない距離からにいきなり2インチ砲で砲撃を仕掛けてきた。

「おいおい、乱暴だな」

 レオンは、アルテミスと操縦を替わった。

 3機くらいならすぐに撃墜してもよいのだが、眼下にはアスケルの街がある。ここで撃ち落とすと関係ない街の人々に被害が出る。宙港がある山際まで誘い出そう。

 レオンは、追手が付いて来れるようにスピードを少し落とした。案の定3機ともレディホークを追いかけてきた。

 山のふもとまで飛ぶと、このあたりには人家がなかった。レオンは、アルテミスに3機への通信をつないでもらった。

「死にたくなかったら、おとなしく帰るんだ。こっちにはナターシャが乗ってるんだ」

「何を言う。こちらは3機だぞ。撃ち落してやる」

 仲間の機から、

「ボスには連れてこいと言われたぞ。撃ち落していいのか?」

「人質かなんか知らないが、あのじゃじゃ馬は前から気に食わなかった。抵抗したから誘拐犯とともに撃墜したとでもいえば大丈夫だ」


 さっきも聞いた。私は人質?ナターシャは混乱した。

 レオンは、

「聞いたかい?あなたは人質だったんだ。今度のカジノ業界の理事長選挙に、おじいさまに出馬しないようにと脅迫してたらしい」

「バルローのおじさまが・・・」

「さてと、片づけますか」

 追手の3機は、2インチ砲を撃ち続けているが、レディホークはそれをひらりひらりとかわしていた。

 レオンは、機首は反転させると、追手の3機に向かった。それまでのスピードと比べ物にならない2倍以上の速さで3機のそばを突き抜けた。すれ違う瞬間に砲撃し、3機とも撃墜した。それぞれの機体から操縦士が脱出するのが見えた。機体は山のふもとに墜落し炎上した。

 レオンは機首を宙港に向けた。


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