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8.カジノ その1

 ガートランド少将は必ず殺す。必ず復讐する。しかし、今ではない。連邦軍の基地の中にいるのでは、手も足も出ない。急ぐことはない。用意周到に準備して、必ず殺す。レオンは久しぶりに復讐心が燃え上がっていた。その気持ちを静めるために、ソル星系をいったん離れた。


 ソル星系を後にしたレオンは、ケンタウルス星系の第5惑星アスケルに来ていた。

 このアスケル星はほとんどの国が連邦警察の介入を認めていないので、連邦警察の目が届きにくい無法者が集まる場所になっていた。

 レオンは連邦軍との戦闘で手持ちのミサイルが乏しくなったので、このアスケルにミサイルの補充のために立ち寄った。今回は破壊力が多少弱くても追尾能力の高いミサイルを入手するつもりだった。

 アルテミスは、いつも通りクラリス・ルナを偽装して管理局に着陸の許可を取った。

 レオンは、タンカレスで使った武器商人のアラン・スコッティの偽名で入国した。足元を見られないようにジャケットとスラックスで、それなりの恰好をして、一人で武器市場に向かった。

 アルテミスは、クラリス・ルナの点検のために残った。


 宙港から近い武器市場の一番大きな『サバイ』という店で、レオンはベテランと思われる店員とミサイルの購入の交渉をしていた。それなりの店構えの商店で、在庫も豊富のようだった。

「スコッティさん、このミサイルはお買い得ですよ。どうですか200発まとめ買いで、1発500万クレジットで?」

 武器商人と思われているから、まとめ買いを勧めてくるんだろう。ふつうこのミサイルは巡洋艦級で、30発ほどの装備が普通だ。200発では、艦がミサイルで埋まってしまう。とはいえ、レオンの艦はそれなりに格納庫は広い。

「いまは50発あればいい」

「50発なら1発800万クレジットで」

「いいだろう。不良品は混じってないだろうな?」

「大丈夫ですよ。連邦軍の型落ちですから」

 多少の不良品が混じっていても、アルテミスが直すから心配はいらないのだが・・・

 レオンはその場で4億のクレジットの支払いを済ませた。

「宙港の11番埠頭に係留している深紅の船に運んでおいてくれ」

「ありがとうございます。スコッティさん、お礼にこれを」

 店員はレオンにチケットを渡した。

「うちではカジノも経営しています。これは無料の招待券です。ぜひ遊んで行ってください」

 大金をポンと払うレオンをいいカモと思ったのかもしれない。チケットを受け取るとその店を出た。

 レオンはアルテミスに連絡をした。

「ミサイルはもうすぐ艦に届くからチェックしてくれ。オレはちょっとカジノで遊んでくる」

「行ってらっしゃい。困ったことがあればすぐに連絡くださいね」


 レオンはカジノがある街の中心部に向かった。無料招待券をもらった店は、何軒かあるカジノの中でも大きなほうだった。

 店に入るとなかなか賑わっていた。

 カード、ルーレット、スロットなどいろいろと楽しめそうなものがあった。客層は上品な感じだった。一番人気なのはルーレットだった。たくさんの人が興じていた。しかし、ルーレットやスロットは店側次第でいかさまができる。逆にアルテミスと一緒に来たら、いくらでもいかさまで稼げそうだと苦笑した。

 レオンは特務工作員時代に3か月間カジノに潜入捜査をしたことがある。その時にいかさまのやり方も一通り覚えた。

 チップは入場時に2000万クレジット購入した。レオンはカードのポーカーを選んだ。このゲームは店には場代だけが収入として入る。勝負はプレーヤー同士の駆け引きだ。

 レオンの卓には、3名の客が座っていた。一人目はでっぷりと太った老紳士、二人目は実業家風の若者、3人目はドレスを着た美しい女性だった。実業家風の若者はどこかで見たことがある気がした。

「アラン・スコッティです。お手柔らかに」

 ルールはテキサスホールデムだった。手元に2枚、場に5枚のカードで役を作るルールだ。レオンに最初の2枚が配られた。スペードの2とハートの7だ。手としては最悪だか、かまわず50万クレジットをベットした。フロップで3枚場にオープンになった。クラブの10、ハートの2、ダイヤの7だった。これでレオンは2ペアとなった。ここで老紳士が降りた。実業家と女性は場の札が良くないことに渋い顔をしながらもコールをした。


 さらにターンとなり、場に1枚札が追加された。スペードの9だ。ここで、実業家が机を2回トントンとたたいた。すると、女性がレイズした。30万クレジットの上乗せだ。30万も載せてくるのだから、スリーカード以上の役ができたと思われる。このままでは負ける可能性が高い。しかし、レオンはコールした。実業家もコールした。最後のリバーでもう一枚場に追加された。スペードの2だ。

 レオンは表情を変えなかった。実業家がさらに20万クレジットをレイズした。妙だ。スペードの2でレイズをするならフォアカードくらいあるはず。しかし、2はレオンの手元に一枚あるので、4カードにはならない。また、場のカードから見てフラッシュもない。考えられるのはストレートくらいだ。それもすでにターンの回で出来上がっていたはずだ。ターンでレイズしたのは女性なので、女性の手札がいいと思わせるための芝居か。つまり、実業家と女性はグルの可能性が高い。さっき実業家が机を2回叩いたのはレイズさせる合図だろう。掛け金を引き上げて、降りるのを待っているのだ。

 ここまで考えるとレオンはさらに30万クレジットをレイズした。さあ、降りるか、それともコールか。

 実業家がコールして、ショーダウンとなった。手札をオープンすると、やはり7,8,9,10,Jのストレートだった。レオンはフルハウスなので、レオンの勝ちだ。


 二人がつるんでいることがわかると、やり方はいくらでもあった。このあとのゲームは、時にはブラフで、A一枚でレイズして相手に降りてもらうこともやった。老紳士は非常にわかりやすく、いい札の時はたくさんレイズし、悪い札のときはすぐ降りた。

 1時間ほどで、2000万クレジットを稼いだ。潮時だ。

「悪いが勝ち逃げさせてもらう」

 そういうと、レオンは席を立ちあがった。老紳士が、

「あなたが来てからしょぼい札ばかりだ。疫病神だな」

 本当のあだ名は『死神』なんだけどな。レオンはにやりと笑うと換金に向かった。


 カジノの正面を出ると、先ほどの若い女性が追いかけてきた。

「スコッティさん、私はオルスタンス。せっかくだから1杯おごってくださらない?」

 オルスタンスと名乗った女性は、レオンに腕を絡ませてきた。

「せっかくだが、これから船に帰るところなんだ」

「じゃあ、無理やりでも連れて行くわ」

 そう言うと、オルスタンスはカバンから銃と取り出した。

 女性から銃を奪い取るのは簡単だが、どこへ連れていかれるのかが気になる。多分さっきの実業家風の若者のところだろう。賭け事に負けたからといって、こういうやり方はよくない。カジノにとっても営業妨害だ。

 レオンが裏口に連れていかれると、やはり実業家風の若者がそこにいた。さらに鉄パイプやバールなどを手にしたいかにもチンピラ風な若い男が3名にやにや笑っていた。

「カール、連れてきたわよ」

「スコッティとか言ったな。おいぼれから巻き上げるつもりが、貴様に邪魔をされた。痛い目を合いたくなければ、有り金を置いていけ」


 レオンはカールという名前を聞いて思い出した。

「カール・・・、カール・ランドルスキー。指名手配犯だったな。罪状は恐喝だったかな。それで見たことがあったのか」

 レオンは納得した。

「オレのことを知っているのか。ならば生かして帰すわけにはいかないな。おい、こいつを痛めつけろ」

「ほう?」

 チンピラ風の男たちが勢いよく殴りかかってきた。レオンは距離とスピードを把握した。特務工作員時代に格闘技はもっとも得意としていた。特に相手を殴る蹴るではなく、相手の力を利用して、最小限の動きで地面にたたきつける武道が彼の真骨頂だ。

 あっという間に3人のチンピラを地面に転がした。あっという間に決着がついた。チンピラが敵う相手じゃない。

 慌てたカール・ランドルスキーは、懐から銃を取り出し、

「この野郎!」

 と銃で狙いを定めた。それと同時にレオンはオルスタンスの手首をつかみ、彼女の銃をカール・ランドルスキーに向けさせて、彼女を盾にした。

「カール!撃たないで!」

 彼女の銃の引き金をレオンが引いて、カール・ランドルスキーの肩を貫いた。

「今度喧嘩を吹っ掛けるときはちゃんと相手を見てからにしたほうがいい」

 そう言うとレオンは、彼女をカール・ランドルスキーに向かって突き飛ばし、

「しっかり手当をしてやれ」

 と言い残すと、正面の入り口に戻った。地面の転がされた男たちはウンウン唸っていた。


 レオンが宙港までのエアタクシーを拾おうとしていると、そこに豪華なリムジンが停車し、助手席から降りてきたスーツ姿の男が、後部座席のドアを開け乗るように勧めた。中を覗き込むと、先ほどの老紳士が乗っていた。

「スコッティさん、ぜひ依頼したいことがある。乗っていただきたい」

 胡散臭いが、いざとなれば老紳士を盾にして逃げればいいと考えた、レオンが乗り込むと、リムジンはひと際大きな高級ホテルの前で停まった。それから、その老紳士にその最上階にあるバーに連れていかれた。

 そのバーラウンジは大きな窓から、目の前に街の夜景が広がっていた。

 客と客の間も広いスペースがとってあり、密談をするにはもってこいの場所だ。

 老紳士の後ろには先ほどリムジンを運転していたリムジンの男が直立不動で立っている。

 さきほどのカール・ランドルスキーに比べればかなり強いとレオンは感じた。

「スコッティさん、ブランデーはどうかね?」

「いただきます」

「先ほどの若造とのやり取りはスパイ・アイで、すべて見させてもらった。君は度胸もあるし、腕も立つ。うちから50発のミサイルも購入している。その辺にいる雑魚ではない。そこを見込んで頼みがある。わしはベルナール・マクラーレン。先ほどのカジノのオーナーじゃ」

 レオンは黙って聞いていた。

「わしは、この星のカジノ協会の理事長をやっている。しかし、最近勢力を拡大しているクロード・バルローから理事長の席を譲れと執拗に迫ってきておる。もういい年齢だから理事長を降りるのは、やぶさかではないが、クロードはいかん。あいつは暴行、傷害、脅迫、恐喝など何でもありだ。初めてカジノに来た客を身ぐるみ剝いで放り出すようなことを平気でやる。そのおかげで、一般の観光客が激減しておる。麻薬に手を染めている噂もある。だから、理事長の席はやらんと答えた。これは私ひとりの問題ではない。この星のカジノ界全体の問題なのだ。そしたら、私の孫娘を攫ったのだ」

「お孫さんが攫われた?」

「そうだ。昨日のことだ」

「それなのに、ポーカーを?」

「理事長の選挙が3日後に実施される。それまでは、クロードも孫娘に無茶はせんじゃろう。ポーカーをしながら、孫娘の奪い返してくれる人物を探していたんじゃ」

「それが私ですか?」

「スコッティは偽名じゃろ。キャプテン・ジョーカー」

 レオンは、大きく目を見開いた。なんでバレた?


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