6.古代遺物 その2
レオンとアルテミスは、ホテルが手配したエアカーに乗って、アマノミヤの村に向かった。
女将さんが言ったとおり30分ほどで、アマノミヤに到着した。
山間の村で、村の後ろにはこんもりとした山が聳えていた。
村の入り口には木製の頑丈な大きな門があり、門番が立っていた。
レオンは大きな槍を携えている門番に挨拶をした。
「こんにちは。スコッティという冒険者です。こちらは妻です」
門番は、いかめしい顔して、
「ここは部外者は立ち入り禁止だ。立ち去りなさい」
レオンはポケットからペンダントを取り出すと、
「ちょっとこのペンダントの件で、村長さんにお聞きしたいのですが・・・」
門番は、ペンダントを見ると顔色を変え、
「そこで待て」
と言って、門の中に消えた。
しばらくすると、門番が入れと合図をした。
「村長が会うそうだ」
レオンとアルテミスは門をくぐった。
大きな道があり、その両脇には家が整然と並んでいた。また道の先には、さきほどの山が聳え立ち、そのふもとには大きな屋敷が見えた。
門番は、二人をその屋敷に案内した。
「おばば、客人を連れてきたぞ」
玄関を入ると、奥から若い女性が出てきて、
「弦さん、ありがとう。いらっしゃいませ。さあ、お上がりください。村長がお待ちです」
と、告げた。
奥の部屋に通されると、年配の女性が正座をして座っていた。珍しいキモノとかいうジャポニカ特有の服装をしていた。
「どうぞおかけください。私は村長をしている天守潔子と申します」
レオンは女性の真似をして正座をした。
「何か私に聞きたいことがあるとか」
「ありがとうございます。その前に『アマモリ』というファミリーネームは、ジャポニカでは一般的ですか?」
「いいえ、珍しいほうだと思います。とくに天を守ると書くあまもりはこの村くらいでしょうか?」
「ケイコ・アマモリという名前に聞き覚えはありますか?」
「ええ、私の姉です。遠く異国に嫁ぎましたが、すでに亡くなっております」
レオンは、思わず驚きの声をあげそうになった。
「ケイコがどうかしましたか?」
「いえ、知り合いからケイコ・アマモリという名前を聞いたことがあったので」
「そうでしたか。何かご存じなら教えてください」
「いえ、会ったことはないので・・・」
ここは祖母の故郷だ。そして、目の前にいるのは、祖母の妹なのだ。
レオンは、気を取り直してポケットからペンダントを取り出すと、
「本日お伺いしたのはこのペンダントのことです。このペンダントには、こちらの場所の座標が示してありました」
村長の天守は、
「これは!」
と驚きを隠せないようだった。
「これをわざわざ届けてくださったのですか?」
「え!ええ、まあ」
届けたというか、座標通りにやってきただけだけど・・・
「この石はどこで手にいれたのでしょうか?」
「リリアス星系のルカディンで、女の子を救出したときにお礼にもらいました」
「そんなに遠くから・・・ニニギ様の思し召しだわ」
「ににぎさま?」
「我々が神とあがめているこの世の創造主です」
村長の天守はペンダントを握りしめて、感激しているようだった。
「詳しいことは明日お話します。本日はこの村にお泊りください。ささやかですが宴を設けますので、ご参加ください」
そう言うと、村長の天守はペンダントを大事そうに胸にしまい、立ち上がった。
「誰か客人をご案内してください」
夜になると、村の中心に篝火が焚かれ、机や椅子が並べられた。
レオンとアルテミスは、民族衣装であるキモノを着せてもらった。
「アルテミス、とってもきれいだ」
「レオンも似合ってますよ」
二人は村長の天守の隣の上座に案内された。
村長の挨拶で宴が始まった。
見たこともない料理がたくさん並べられた。米の上に生の魚が乗ったもの、根菜を湯がいたもの、四角いプリンのようなものなど、これまで食べたことがないものばかりだった。
宴の途中で、門番をしていた弦さんが酒を注ぎにやってきた。
「阿修羅さまの魂を届けてくださったとのこと。本当にありがとうございます」
「アシュラ?」
「この村の守り神です。いつか魂が宿り、本当に守り神になってくれると思っています」
守り神ねぇ。
翌朝、まだ日が昇りはじめたくらいに、レオンとアルテミスを呼びに来た。
村長の天守、お付きの若者が2名、それに弦さんがいた。
弦さんは槍を担いでいた。そして、レオンに向かって、
「おはようございます。スコッティさん、奥さま。これから裏山に上ります。ご一緒しますか?」
「裏山に何があるのでしょうか?」
「お持ちいただいた魂を阿修羅さまに捧げるのです」
「ええ、冒険者ですから、何が起きるか見てみたいです」
「それではこれをお持ちください」
弦さんはそういうと、レオンに剣を差し出した。その剣を鞘から抜いてみると、片刃で反りが入っていた。
「それは先代が使っていた刀です。裏山は気の荒い獣が多いので、もしもの時にはそれをお使いください。
「ありがとう」
レオンはお礼を言って受け取った。アルテミスはすぐさまその剣を分析し、横から小声で、
「その剣は強度が8あります。通常の剣は4~5くらいなので、非常に硬いようです」
と、囁いた。
「すごいな」
「通常両刃の剣は相手を突き刺して倒すのですが、この片刃は切り裂くことに特化した武器のようです」
「なるほど」
全員がそろったところで、村長の天守が、
「では参りましょう」
と言い、一行は高くそびえる山に向かって出発した。
裏山に入ると道が細くなり、人が並んで歩くのがやっとだった。
アルテミスは、レーダー探知を張り巡らしあたりを索敵した。
「レオン、500m先に四つ足の獣が3匹こちらに向かってきます」
「了解」
レオンとアルテミスは、一行の先頭に出た。
村長の天守が声をかけた。
「どうしました」
「この刀の切れ味を試してみようと思いまして」
向かってきたのは狼だった。こちらに気づくと唸り声をあげて向かってきた。レオンは刀を構え、そして、左右に切り払い、3匹の狼をあっという間に切り裂いた。
村長の天守を始め、弦さんもあっけにとられていた。
「すごい!」
「さすが、冒険者!」
「もう大丈夫ですよ。しばらく私たちが先頭を歩きますね」
と、レオンは一行に声をかけた。
それから、巨大な熊にも出くわした。体調は3メートルくらいあるだろう。鋭い爪で引っ搔こうとしたが、レオンはその腕を刀で切り落とした。そして、刀を心臓めがけて突き刺した。いくら巨大な熊でもレオンの相手ではない。
そのまましばらく歩くと、一行は大きな洞窟にたどり着いた。
入り口には朱色の鳥居が設置されていた。一行が一礼をしてその中に入っていくと、中は広い空間になっていて、その中心に像が祀られていた。
像は金属性だった。高さは5メートルほどであろうか、手が左右に4本ずつで8本あり、上半身は裸で、腰には布を巻いているようだった。
「阿修羅さまじゃ」
よく見ると、額のところに小さなくぼみがあった。
村長の天守はペンダントを若者に渡し、
「あの額のところに納めよ」
と言った。若者はペンダントを口にくわえ、その像を身軽によじ登った。そして、額に水晶を埋め込んだ。
カチリと音がして、何かが起動し、それからブーンという音が聞こえた。阿修羅さまの瞳が光り、腕が動いた。
「阿修羅さま」
「阿修羅さまが動いた!」
一行は手を合わせて拝んだ。しかし、その阿修羅は怒ったような形相になって立ち上がり、よじ登った男を一本の腕でつかむと、地面にたたきつけた。
「阿修羅さま、何をなさいます!」
阿修羅は、村長の天守に迫った。
「危ない!」
レオンは素早く、天守を抱えて後方に飛んだ。阿修羅の強烈なパンチが空を切った。握りこぶしが人間の頭くらい大きい。
そのときすーっとアルテミスが前に出た。そして、飛んできた阿修羅のパンチを片手で抑えた。
アルテミスに片手で抑えられると阿修羅は全く動けなくなった。アルテミスは目を瞑り、何かをつぶやいていた。阿修羅は攻撃をやめ、その場に座り込んだ。そして、額をアルテミスに差し出した。アルテミスは額の水晶をさわった。一瞬スパークしたような火花が散った。そして、阿修羅は穏やかな顔つきになった。
「アルテミス、大丈夫か?」
レオンが声をかけた。
「大丈夫です。一部の回路に不具合が発生していたようです。いま修復しましたので、阿修羅さまは、これからは村の守り神となってくれるでしょう」
アルテミスは、村長の天守に近づくとそう言った。
「ありがとうございます」
村長の天守はアルテミスの手を握り、心から感謝した。
地面に叩きつけられた若者も、大きなケガはなく大丈夫のようだった。
阿修羅さまは再び立ち上がった。さきほどとは違い、穏やかな顔つきになっていた。守り神の顔だ。
阿修羅様は洞窟を出て、一行とともに山を下った。歩くたびにどしんどしんと振動が伝わった。そして、村の中心にある広場にドカッと腰を下ろした。
子供たちが家から出てきて物珍しそうに駆け寄った。阿修羅さまは、子供たちを優しい目で抱き上げていた。
この光景を見たレオンは、そろそろお暇すると村長の天守に告げ、借りた刀を返した。
「よろしければ、その刀は差し上げますよ」
「よろしいのですか?」
「我々のお礼です」
村長の天守はレオンとアルテミスに本当に感謝しても仕切れないと何度もお辞儀をしていた。
そして、またいつでも訪ねてきてくださいと伝えた。
レオンは帰り道のリニアカーの中で、アルテミスに、
「あの阿修羅はアンドロイドだったのかい?」
と尋ねた。アルテミスは、
「アンドロイドというよりは、古代のロボットのようなものでしょうか。製作者は1万年くらい前の、アンドロメダ星雲から来た人のようです」
と答えた。
「アンドロメダ星雲?人類がまだ未踏の地だね。我々にはまだまだ、知らない世界もあるんだな…」
「それより、あなたのおばあさまが親戚であることを名乗らなくてよかったのですか?」
「いいんだよ。オレにも故郷があったことがわかっただけで十分だ。もし、オレのことを伝えると、良からぬ奴らがあの村に悪さをしそうだから」
レオンはこの村が阿修羅さまにずっと守られ続けることを願った。
「今回の儲けは刀1本でしたね」
アルテミスはそう言うと、クスリと笑った。




