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3.誘拐犯 その2

 アルテミスに連れられて、オデットが戻ってきた。顔のあざはきれいになり、お嬢様の姿に戻っていた。

「女の子の服はなかったから、私のドレスのサイズを補正して着てもらったの。どうかしら?」

「なかなか似合っているよ」

「アランさん、ありがとうございました」

 オデットは丁寧にお礼を言った。

 レオンは頭を掻きながら、

「アランは偽名なんだよ。オレはキャプテン・ジョーカー。カルティエお嬢様よろしく」

 レオンは本名を名乗ることは避けた。

 オデットは驚いた顔をして、

「キャプテン・ジョーカー?あの宇宙義賊の?」

「お嬢様にまで名前が売れているとはね・・・」

「キャプテン・ジョーカーって良い宙賊なんでしょ」

 レオンは苦笑いをした。良い宙賊なんていない。宙賊は悪い奴に決まってる。

「きみはどうして奴隷に売られたんだ?」


 彼女の話によると、学校の帰り道に3人の友達と歩いているところを攫われたらしい。それから貨物船に閉じ込められて、気が付いたら奴隷として売られていたらしい。いっしょにいた友達はどこに連れていかれたかわからないということだった。ほとんど手がかりらしいものはない。

 アルテミスは惑星ルカディンの警察ネットワークに潜り込んで、オデット・カルティエの捜査状況を調べていた。

「何かわかったかい?」

「オデット嬢の昨晩身代金の受け渡しがあったみたい」

「誘拐犯の奴らは行方不明の捜索でオデットの素性に気が付いて、奴隷として売りさばいたあとに、身代金を吹っ掛けたな」

「おそらくそうね」

「しかし、身代金?そんなものクレジットで送金してしまえば終わるだろう」

「送金先を知られるのを嫌がったのではないかしら。あなたみたいに簡単に口座を開いたり閉じたりは、普通はできないものよ」

「アルテミスの処理能力のおかげだよ」

「お褒めにあずかってうれしいわ」

「とりあえず、オデットをカルティエ氏のもとに届けよう。離陸して第六惑星ルカディンに向かってくれ」


 レオンは、第六惑星ルカディンにいつもの通り偽装して着陸した。夜の7時を回っていた。

 そこで、オデットの父親のマクシミリアン・カルティエ氏に連絡を取った。正規のルートではない。アルテミスに頼んで、カルティエ氏のリビングルームのモニターに直接映像をつなげてもらった。アルテミスならこんなこと朝飯前だ。

 オデットをカメラの正面に座らせて、レオンは髑髏の仮面をつけて後ろに立った。

「お父様!」

「オデット!無事か?」

「大丈夫。奴隷として売られるところをキャプテン・ジョーカーに助けていただきました」

「キャプテン・ジョーカー?」

「宇宙義賊のキャプテン・ジョーカーですわ」

「いまはどこにいるんだ?」

「キャプテン・ジョーカーの船に保護されています」

 そう言うと、オデットは後ろのレオンを指さした。カルティエ氏は髑髏の仮面をつけたレオンを見て、ギョッとした表情をみせたが、すぐに気を取り戻し、

「キャプテン・ジョーカー、ありがとう。大変感謝している」

 レオンは一礼をすると、口をはさんだ。

「お嬢様は無事です。お宅にお届けしますが、お宅には警察の方がいますよね?」

「いや、身代金を奪った犯人を追いかけて出払っている。身代金として支払った金塊に発信機を取り付けてあるから、それを追いかけている」

「それは好都合です。では、これからお宅までお嬢様を届けます」

「キャプテン・ジョーカー、娘を助けてくれて本当にありがとう」

 レオンは無言でお辞儀をした。

「お父様、キャプテン・ジョーカーは奴隷商から私を買い取るために1000万クレジットを支払ってくれました。お父様から差し上げてもらえますか?」

「もちろんだ。そんなはした金じゃなく、ちゃんとした謝礼を払うよ」

 レオンはオデットの頭をポンとたたいた。人助けだからお金はいらないと言った。

 もっとも、レオンはこれまでの義賊の仕事で、大富豪なみの財産を築いていた。

 カルティエ氏との対話のあと、オデットは首から下げていたネックレスをレオンに渡した。

「これでは、1000万クレジットにはとても足りませんが、私の祖母からもらったものです。それなりの値段がつくと思いますので、差し上げます」


 レオンはスカイスクーターを格納庫から取り出し、フルフェイスのヘルメットをかぶってオデットを後ろに乗せた。

「少し飛ばすけど、しっかり捕まっているんだぞ」

 オデットはレオンの背中にしがみついていた。

「カルティエ氏の自宅の地図は、スカイスクーターにインプットしておいたわ。戻ってくるまでに誘拐犯のことを調べておくわ」

 とアルテミスが連絡してきた。

 15分でカルティエ氏の自宅についた。インターホンを鳴らすとカルティエ氏が飛び出してきた。

「オデット!」

「お父様!」

 抱き合う二人を見て、レオンはクラリス・ルナに戻ろうとした。それをみたカルティエ氏は、

「キャプテン・ジョーカー、本当にありがとう。あらためて謝礼を・・・」

「謝礼は結構です」

 そう言うと、レオンはフルフェイスのヘルメットのまま手をあげて、スカイスクーターにまたがった。

 そこにオデットが駆け寄り、

「キャプテン・ジョーカー、お願いがあります。私といっしょに攫われた友達も助けてもらえませんか?」

「わかった。できる限り努力しよう」

 オデットは、よろしくお願いしますと頭を下げた。


 レオンはクラリス・ルナに戻った。

 アルテミスは、出航の準備をしていた。

「ちょうどよかったわ。誘拐犯が逃げるわよ」

「懲らしめてやらないと!」

 この場合の懲らしめるとは、もちろん殺すことである。いたいけな少女を売り飛ばすなんて非人道的なことは許さない。このまま放っておけば、被害はさらに拡大する。


 レオンは義賊になるときに誓ったことがある。それは、『自分の正義を貫く』ということである。

 強さは武器だ。弱ければ殺される。強いからこそ正義を貫ける。自分の正義がすべての法律に優先する。その正義に反するものは処刑する。

 目の前の人を救うということは些細なことかもしれないが、自分の目の届く範囲は救えるものは救いたい。それは、最愛の人を目の前で救えなかったことへの罪滅ぼしかもしれない。

 アルテミスはクラリス・ルナを離陸させた。

「今回の犯人は、人身売買の罪で指名手配されているマードックね。5000万クレジットの賞金首だわ。いま連邦警察が追跡中よ」

 アルテミスはクラリス・ルナの偽装を解き、漆黒のキャプテン・ジョーカーの装いに変更した。

「いま誘拐犯の船をモニターに映すわ」

 艦橋の大きなモニターに、貨物船と思われるでかい図体の宙賊船が映った。その後ろを連邦警察の2隻の駆逐艦が追いかけている。


 宙賊船から一筋の光の束が発射された。巡洋艦並みの20インチのレーザー砲だ。貨物船の恰好をしているが、中身は宙賊船だ。それなりの武装はしている。発射されたレーザー砲は連邦警察の駆逐艦のシールドを砕き1隻を大破させた。

「なかなかの威力だ」

「マードックは跳躍するつもりだわ」

「そうはさせない。アルテミス、操舵をこっちに寄こせ」

「了解」

 レオンは操舵を操ると、猛スピードで宙賊船に接近した。操舵を操るとは、クラリス・ルナはアルテミスを通じて動かすので、アルテミスと一体化することになる。アルテミスはレオンを受け入れた。レオンは  アルテミスの能力を120%引き出し、クラリス・ルナを操舵する技術を持っていた。

「あなたが操舵すると、私は別人みたいになるの」

 とアルテミスはよく言っていた。


 宙賊船がキャプテン・ジョーカーのクラリス・ルナに気づいた。

「お前は死神!」

 マードックは歯ぎしりをした。連邦警察なら振り切れると思っていたが、相手がキャプテン・ジョーカーなら話は別だ。早く跳躍しなければならない。しかし、停止しないと跳躍はできない。そうかと言ってじっとしていると砲撃の的になってしまう。相手は死神だ。宙賊船は逃げながらレーザー砲を撃ってきた。

「宙賊船をスキャンしたら、奴隷に売られる女の子たちが10名くらい囚われているわ。オデットさんから救出をお願いされたお友達もいるわ。撃墜しちゃだめよ」

 と、アルテミスが言った。


 レオンは、宙賊船から発射されたレーザー砲を紙一重でかわすと一気に接近し、すれ違いざまにミサイルを1発発射した。ミサイルはシールドをすり抜け、推進機関部分に命中した。宙賊船は停止せざるを得なかった。

 マードックは部下に叫んだ。

「畜生!戦闘機を出せ。俺も載る」

 宙賊船の格納庫が開き、戦闘機が15機発進した。

「ほう?戦闘機でこのキャプテン・ジョーカーを狙うつもりか。ではこちらも戦闘機でお相手させてもらおうか」

 レオンはアルテミスのほうを向き、

「操舵は返す。レディホークを出してくれ。援護を頼む」

「いってらっしゃい」

 アルテミスは笑顔でレオンを送り出した。レオンの戦闘機の飛行技術に宙賊程度がかなうはずがない。

 レオンは、搭載している戦闘機『レディホーク』に乗り込むと、格納庫から滑り出た。

 美しい流線形の機体は、クラリス・ルナと同じように漆黒だった。

 この戦闘機は通常の戦闘機の3倍のスピードが出せる。レディホークはあっという間に15機の宙賊の戦闘機に接近し、宙中戦になった。

 1機だけ戦闘に加わらず、最初から別方向に逃げる戦闘機がいた。レディホークはまず戦闘体勢にある14機の撃墜に向かった。全く相手にならなかった。レディホークはひらりひらりと敵弾をかわし、戦闘機の後ろを取ると、1機また1機と撃墜していった。14機をすべて撃墜するのに5分もかからなかった。


 それから、レディホークは、逃げた戦闘機を追撃した。コックピットに人影が見えた。レディホークを見て、顔が引きつっている。レオンはその映像をアルテミスに送った。

「アルテミス、こいつがマードックか?」

「ええ、そうよ」

 レオンは、レーザー砲の収束率を引き上げ、細く強いレーザーをレディホークから撃ち込んだ。

 そのレーザーは的確にマードックを捉えていた。コクピットの中でマードックの額を貫き、倒れるのが見えた。

 マードックの戦闘機は慣性飛行となった。

 レオンは、離れた場所でこの戦闘を傍観していた連邦警察の駆逐艦に通信を送った。

「こちらキャプテン・ジョーカー。人身売買のマードックを処分したので確認願いたい。賞金首の賞金は、いずれいただくことにする。また、宙賊船は航行不能にした。囚われていた人々の保護を依頼する」

「こちら連邦警察。キャプテン・ジョーカー礼を言う。それから、貴殿にもいろいろと尋ねたいことがあるので、この場に待機されたい」

 馬鹿なことを言っちゃいけない。連邦警察とお友達になる気なんかさらさらない。こちらだって賞金首みたいなものだ。

 レオンは帰艦すると、この宙域からの離脱を指示した。アルテミスは30秒も経たないうちに、光速跳躍を行いキャプテン・ジョーカーは忽然と姿を消した。


「今回は利益はなしね」

 とアルテミスはレオンにコーヒーを渡しながら話しかけた。

「残ったのはこいつだけ」

 レオンは、そういうとオデットからもらったネックレスをポケットから取り出した。ペンダントトップには涙型のキラキラ光る石が下がっていた。

「残念ながら、そのペンダントトップは普通の水晶よ。そんなに高価なものではないわ。鎖のほうはプラチナだから売れば1万クレジットくらいにはなるでしょうけど」

 とアルテミスが言った。

「水晶ねぇ」

 しかし、よく見ると何やら文字と図形が書き込まれている。

「アルテミス、ちょっと調べてくれる?」

 アルテミスがその水晶に刻まれている図形を拡大すると、座標が現れた。

「お宝かな?」

「さあ、どうでしょう?何か文字も刻まれているようですが・・・」

「これは何語だ?」

「古代ムーア語ですね。『我をあるべきところに納めよ。しからば汝らを守らん』と書いてあります」

「よくわからないな。とりあえず向かってみるか」

「レオン。この座標の場所は、ソル星系 第3惑星テラです。あなたの故郷ですよ」

「え!」

 故郷にはいい思い出はない。二度と近づかないつもりだった。しかし、5年経ったいまいい機会かもしれない。

「いいのですか?」

「そうだな。テラの衛星モワはきみと出会った場所でもある。それに、久しぶりに墓参りでもするかな」

 アルテミスは、クラリス・ルナをペンダントトップが示す座標である惑星テラに向けた。


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