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2.誘拐犯 その1

 キャプテン・ジョーカーは、すでにライア星系を離れ、となりのリリアス星系を航行していた。

 彼は30歳代前半くらいに見えた。黒髪黒目で、精悍な顔つきをしている。

 この艦、クラリス・ルナに搭乗しているのは、人間ではキャプテン・ジョーカーひとりである。

 彼の隣には、美しい女性の姿をしたアンドロイドAIのアルテミスが座っていた。


 通常のアンドロイドは、どこか機械的な部分を感じさせたが、アルテミスは表情も豊かで、身のこなしも表情も人口皮膚も人間と区別がつかない。見た目ではアンドロイドとはとても思えない。

 アルテミスは、この艦のAIだった。アルテミスがいなければこのクラリス・ルナは動かない。操舵するというよりは、彼女自身がこの艦の一部だった。

 アルテミスは目を瞑ると、この艦クラリス・ルナを旋回させた。流線形の美しい艦である。そして、漆黒の船体を鮮やかな深紅に偽装した。もちろん死神のトレードマークも消去した。アルテミスはこの深紅のカラーが気に入っていた。死神のマークが入った漆黒の船体では、どこの星にも降りられない。


 アルテミスはAIとしては非常に特殊で、あらゆるネットワークや他のAIにハッキングが可能だった。そのためキャプテン・ジョーカーの身分証の偽造や警察情報の閲覧、Bankの口座の開設も自由にできた。

 また戦闘になると敵艦のAIをハッキングして、シールドを無効にしたり、ミサイルの標的を狂わせたり、推進機関を停止することも可能だった。

 もっとも重宝しているのは、光速跳躍である。光速跳躍とは陽子エンジンで、惑星間を瞬時で航行する技術のことである。これは惑星間の座標を特定し、綿密な計算を行って跳躍する必要がある。通常なら、2~3光年、遠くても10光年くらいの跳躍である。1光年跳躍するのに約1分程度の座標の計算時間がかかる。しかも跳躍前は、船は停止しなければならない。これは陽子エンジンを跳躍に使うためである。しかしアルテミスは、1光年は1秒もあれば計算が済んでしまう。

 また、通常の艦では飛べない10㎞のような短距離や、100光年の遠い距離もこのクラリス・ルナは飛べる。そして停止しなくても跳躍ができる。これが、キャプテン・ジョーカーが連邦警察に捕まらない最大の理由である。


 キャプテン・ジョーカーは、隣にいたアルテミスに声をかけた。

「アルテミス、この宙域で今回の金品を現金化できる場所はあるかい?」

 アルテミスはリリアス星系のネットワークに接続して、検索を開始した。

「レオン、近辺には3か所ほど買い取り屋がありますよ」

 キャプテン・ジョーカーは、アルテミスからは本名のレオンと呼ばれていた。

「そうか、じゃあ一番近いところを目指してくれ」

 アルテミスは進路を第4惑星タンカレスの商業都市に向けた。


 アルテミスは惑星タンカレスの運航管理局にクラリス・ルナの着陸許可を申請した。

 もちろん、アルテミスのおかげで船名も偽造し、戦闘記録などは隠蔽している。優秀な相棒だ。

 管理局から返信がきた。

「貴艦の着陸を許可します。乗務員は2名、入国の目的は観光ですね。タンカレスには風光明媚な名所がいくつかありますからどうぞお楽しみください」

 アルテミスはクラルス・ルナを指定された宙港の着陸場所に静かに着陸させた。

「アルテミス、きみも降りるかい?あまり治安がいい星とは思えないけど・・・」

「そうね、どうしようかしら」

「きみのような美人が降りると悪い人さらいがたくさん寄ってきそうだな」

「あら、悪漢の10人や20人ならあっという間に倒してしまいますわ」

 アンドロイドAIであるアルテミスの戦闘能力および防御能力は極めて高い。盗賊の10人くらいは素手で平気に倒すし、おそらく宇宙戦艦の砲撃をまともにくらっても立ち上がるだろう。

「でも、今回は戦闘後の船の点検をやりたいので残ります」

 アルテミスは、点検といいながら新しい技術やノウハウを習得すると、クラリス・ルナが性能アップするように改造していた。そのため、いつも最新艦に負けない装備を整えていた。

 アルテミスのおかげでクラリス・ルナは常に進化している。

「わかった」

「レオン、楽しんできてください。あまり羽目をはずさないように」

 第4惑星タンカレスは人間の呼吸に問題ない大気だったので、ボディスーツを着用せず、ネクタイを締めてジャケットを羽織った。携帯のシールドとビーム銃も持った。銃といえば、ビーム銃が軽くて、チャージをすれば何度でも発射できるので一般的だった。

 レオンは、リボルバーの実包弾も好んで使った。戦闘を想定した場合は実包弾をもつことが多い。実包弾なら、シールドも破ることができるし、破壊力もすさまじい。一度に6発しか撃てないのがデメリットだが・・・


 レオンは、宙港からハイウェイスターを借りて、一人で操縦してタンカレスの中心部に向かった。

 今回のヒルデガルドの戦利品の金品は、宝石、時計、ネックレスなどの品物が20点ほどあった。アルテミスが分別し、リストを作成してくれていた。

 お目当ての買い取り屋は、「ゴットイン」という店で、繁華街のはずれの裏通りにあった。店の入り口の看板には『何でも高く買い取ります!何でも安く売ります!』と大きな文字で書かれていた。

「いらっしゃいませ」

 グレーのスーツを着た若者が丁寧に挨拶をしてきた。レオンは店内の曲がりくねった狭い通路を通って、個室に通された。商談用のスペースなのか、なかなか高級感のあるデスクと椅子だった。レオンの服装を見て上玉と判断したらしい。

「今回はどのようなご用件でしょうか?買い取りですか?それとも何かお求めですか?」

 レオンは、

「両方だ」

 と答えた。スーツの若者はニコリと笑い、

「ではまず買い取りからうかがいましょう」

 レオンは、内ポケットから今回の品物のデータを渡した。そのデータをデスクの機器に投入すると、立体映像が現れた。アルテミスが作成したものだから、まさに本物がそこにあるような映像が映し出された。

 若者はそれを1つずつ見ながら、

「これはなかなかの品物ですね。早速査定をさせていただきます」

 と評価を初めた。

 レオンは若者を観察した。左利きで、右の胸元からはビーム銃がのぞいていた。まあ、多少胡散臭い店であることには間違いない。

 天井には防犯カメラが設置されている。また個室の後ろのドアからは、別の人間の気配を感じた。通ってきた通路はすべて記憶している。もめごとになっても脱出はできそうだ。

「合計で、520万クレジットでいかがでしょうか?」

 若者は査定を終えるとレオンに尋ねた。アルテミスの査定では600万程度と言っていたので、初対面の取引としてはこんなもんだろう。しかし、レオンは少し渋って見せた。

「600万くらいにはならないか」

「そうですね、ちょっと上司と相談してきます」

 若者は、席を外し後ろの扉を出て行った。しばらくすると若者といっしょに上司と名乗る男が現れた。


「お客様、ここの支配人をしておりますラファエル・クレールでございます」

 少し白髪の混じった慇懃無礼な男だった。

「530万クレジットでいかがでしょうか?ブランドの時計に少し色をつけさせていただきました」

「まあ、いいだろう」

「ではこちらにご署名と身分証をご提示願います」

 レオンは、アルテミスに渡された「アラン・スコッティ」という身分証を提示した。職業は武器商人だ。もちろん、精巧な偽造カードである。

「現物はいつ引き渡していただけますか?現物を受け取り次第、振り込みをさせていただきます」

「了解。いま船からドローンでこちらに運ばせた。15分くらいで来ると思う」

「ありがとうございます。では次にお買い物ですね。どんなものをお求めですか?」

「どんなものを扱っているんだ?」

「どんなものでも。お客様は武器商人でいらっしゃいますので、たとえば銃や爆弾、ミサイル、大きなものでは戦闘機や宇宙船舶などです」

 その時奥の通路から叫び声が聞こえた。

「誰か助けて!」

 そのあと、おとなしくしろというドスの聞いた声が聞こえ、殴るような音がして静かになった。

 支配人のクレールは、

「お見苦しいものをお聞かせしました」

「奴隷か?」

「そうですね。当店では奴隷も扱っています」

「見せてもらうことはできるか?」

「もちろんです」

 そこにアラン・スコッティあての箱が届いた。レオンは、パスワードを解除して品物を渡した。

 支配人は品物を確認して、満足そうに、

「ありがとうございます。これで買い取りの商談は成立です。いま530万クレジットを振り込みました」

 レオンは、ブレスレット型の通信機で着金を確認した。

「では奴隷をお見せしましょう。お気に召すものがいればいいのですが・・・」


 支配人のクレールは、立ち上がるとレオンを通路に案内した。出入口とは反対のさらに奥に進むと、大きな鉄製の扉があった。その扉を入ると留置場のような場所があり、鉄格子の向こうに何人もの奴隷がいた。

「ここにいるのはほとんどが借金奴隷ですね。いわゆる借金のかたに売られるケースです。犯罪奴隷は、当店では取り扱っておりません」

 あまり栄養状態が良くないのか、顔色が悪く痩せた奴隷が大半だった。そのなかに部屋の隅で顔に青あざを作っていた15,6歳の女の子がうつむいて泣いていた。

「あの子は?」

 とレオンがその女の子を指さした。

「あれはさきほど騒いでいた今日入荷した奴隷です。売り物ではありません。こちらで教育をしてからの販売になります」

「あの子がいい。いくらなら売る?」

 レオンは、奴隷制度は理解していたが、あまり好きにはなれなかった。あの子はまだ若い。おそらくこれから教育されて、性奴隷として売られるのだろう。「助けて」という叫び声が耳に残っている。このまま見過ごすのはできなかった。

「しかたないですね。1000万クレジットでいかがでしょうか?」

 支配人はかなり吹っ掛けてきたようだが、レオンは即金で支払った。

 その場で奴隷契約を更新した。

「毎度ありがとうございます。これからも御贔屓によろしくお願いします」

 支配人のクレールは恭しくお辞儀をした。


 レオンはその子をハイウェイスターに乗せるとクラリス・ルナに向かった。

 レオンは女の子に話しかけた。

「名前は?」

「オデット・カルティエ。おじさんが私を助けてくれたの?」

「そうだね。あとで何があったか詳しく教えてくれる?」

 オデットは、殴られた頬を押さえながらこくりとうなずいた。


「あら、早かったのね」

 アルテミスが声をかけた。そして、レオンの隣にいる女の子を見ると、

「この子は?ひどい傷じゃない・・・」

「奴隷で売られているところを買ってきた。傷の手当をして、洗浄してやってくれ」

「わかったわ。行きましょう」

 アルテミスはオデットの手を引いて医療ポッドに連れて行った。医療ポッドなら殴られたケガは15分程度で治療できるはず。

 レオンは、戻ってきたアルテミスにネットワークで「オデット・カルティエ」を調べるように依頼した。

 アルテミスが調べると、リリアス星系第六惑星ルカディンの大富豪のマクシミリアン・カルティエ氏の娘であることが判明した。借金奴隷であるはずがない。行方不明で捜索願が出ていた。

「骨格、顔認証で98%の確率で本人です」

 とアルテミスが答えた。

 買い取り屋ゴッドインの支配人クレールもただの借金奴隷として受け取ったのだろう。1000万クレジットならカルティエ氏の娘であることには、おそらく気づいていないに違いない。わかっていれば、1億クレジットは超える。裏には非合法の人身売買の組織があるのだろう。


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