表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/16

14.救出

 クラリス・ルナはカシオペヤ星系からリンドン星系に向かった。

 450光年の距離はクラリス・ルナでさえ、5日間くらいかかる。

 アルテミスはその間、クラリス・ルナの改造に余念がなかった。

「もっと早く遠くに行けるようにしたいわ」

 アルテミスは一回の光速跳躍で100光年は飛べる。一般の宇宙船が10光年、連邦軍の軍艦が20光年であることを考えると脅威的である。これはクラリス・ルナを操舵するAIであるアルテミスの演算機能の速さによるところが大きい。

 しかし、アルテミスは動力機関である陽子エンジンをもずいぶん改造している。自分の指示を速く的確に機能させるために、プログラムを改修しているのだ。これによって100光年を超える跳躍を可能にしている。

「何とか120光年くらいまでは飛べるかしら」

 とアルテミスはつぶやいた。


 一方レオンは艦内のトレーニングルームの対人戦闘ホログラムで汗を流していた。

 カシオペヤ星系でのグリフォンとの戦闘で、やはり身体能力は高めておかないといけないことをあらためて実感した。

 もともと特殊工作員時代から格闘技は得意としていた。じっとしていると体が鈍る。

 この対人戦闘のホログラムは、実際の戦闘に近い状況を再現できる。遠方の射撃もできれば、近接の格闘もできるのだ。仮想の敵を30名倒したところで、プログラムが終了した。


「リンドン星系に入りました。通常航行に切り替えます」

 アルテミスからの連絡を受けて、レオンはシャワーで汗を流して艦橋に戻った。

 レオンの顔を見ると、アルテミスが、

「緊急救難信号をキャッチしました」

 と、レオンも救難信号を確認した。

「レアメタルの運搬船が宙賊の襲撃にあっています」

「ここからどのくらいだ?」

「20億km先ですね。1分40秒ほどで到着できます」

「よし、行こう」

 クラリス・ルナは光速跳躍して、信号の発信座標に向かった。


 レオンたちが到着すると、ちょうど宙賊船が運搬船から強奪して離脱するところだった。

 宙賊船は、クラリス・ルナより一回り小さい3万トンクラスだった。

「アルテミス、偽装を解いてくれ」

 クラリス・ルナは深紅の機体から漆黒の機体へ変貌した。

 宙賊船が『キャプテン・ジョーカー』に気が付いたのだろう。

 突然スピードを上げながら、15インチレーザー砲を発射して逃亡を始めた。15インチレーザー砲などで、クラリス・ルナのシールドを破ることはできない。

 逃げているので、光速跳躍はできないはず。クラリス・ルナは通常航行でも、宙賊の3倍以上のスピードが出せる。あっという間に追いつくと、25インチレーザー砲で宙賊船の推進機関を狙い撃ち抜いた。

 宙賊船は自力航行が不能となった。


 レオンはいつもの髑髏の仮面をつけて、宙賊の通信画面に接続した。

「積み荷を放出しろ」

 宙賊は観念したようだ。

「わかった。キャプテン・ジョーカー、降参だ。積み荷は返すから見逃してくれ。俺たちは、運搬船の民間人を殺してはいない」

 宙賊はレアメタルの積み荷を小型船に積載して放出した。

 おそらく、全力で機関部の修理を行っているだろう。このまま航行できなければ、連邦警察が到着して、捕縛されてしまう。

 キャプテン・ジョーカーは宙賊が放出したレアメタルを運搬船に届けるため、反転して機首を運搬船に向けた。

 運搬船の通信画面に接続すると、

「こちらキャプテン・ジョーカー、積み荷のレアメタルを回収した。一部は謝礼としていただく」

 しかし、運搬船からは何の反応もなかった。

「アルテミス、運搬船をスキャンしてくれ」

「生存者なし。レオン、皆、殺されています」

「あいつら!」

「レオン、宙賊船が逃げます」

 機関部の修理が終わったのだろう。光速跳躍を起動しようとしていた。

「アルテミス、撃ち落せ」

 25インチレーザー砲を、収束率をあげて発射した。宙賊船は閃光をあげて消滅した。


 レオンはレディホークに乗り換えて、運搬船に乗り込んだ。

 惨憺たる状況だった。あちこちにビーム銃にやられた死体が散乱していた。

 レオンは、生き残ったものがいないことを確認した。何もできることはない。あとは連邦警察の仕事だ。

 そのまま出ようとすると、ある部屋にコールド・ポッドが設置されているのが見えた。

 中をのぞくと、15,16歳くらいの女の子が眠っている。再起動するまであと10分と表示されていた。目が覚めた後に、この惨状を見せるのも忍びないし、ひとりではここから出られない。レオンは、コールド・ポッドをレディホークに積むと、クラリス・ルナに戻った。

「あらあら、また面倒事を拾ってきたんですね」

「あのままにしておけなかったんでね。もうすぐ再起動して目が覚める。アルテミス、面倒をみてやってくれ」

「わかりました」

「事情を聞いて、家に届けてやろう」


 少女は目が覚めると、いきなり叫んだ。

「殺さないで!何でもします。殺さないで」

 粗末な服を着ていた。顔立ちは整っていたが、うつろな目をして、焦点が合っていなかった。

「薬をちょうだい!薬をくれたら何でもします!」

「レオン、これは重度の麻薬の中毒症状ですね」

「やっかいだな」

 麻薬の中毒は、麻薬を断つことが唯一の治療だが、重度の場合は麻薬の量を減らしながら断つ必要がある。もちろん、この艦には麻薬など積んでいない。さて、どうしたものか?

 それを察したアルテミスが澄ました顔で言った。

「麻薬ならありますよ」

「へ?」

「先ほど回収したレアメタルの積み荷の中に、麻薬がありました」

 ということはさっきの運搬船は密輸船か。だから激しい撃ちあいになったのか。


「とりあえず睡眠薬で眠らせて、医療ポッドに入れますね」

「ああ、頼む」

「麻薬が抜けるまで約3日、あとは禁断症状をどうやって抑えるかですね」

「やっぱり面倒ごとを拾ってしまったな」

「いえいえ、もっと厄介事だと思います」

「どういうことだ?」

「連邦警察の極秘ネットワークの行方不明者のリストにこの少女がありました。リンドン星系の第7惑星アポスの皇帝の第6皇女カトリーヌさまです」

「そりゃまた。確かに面倒ごとを通り越して厄介事だ・・・」

 なんで皇女様が、こんなみすぼらしい格好で麻薬漬けになって密輸船に乗っていたのか?

 アポスの麻薬組織は皇室にまでも広がっているのか?

 麻薬組織を壊滅させようとアポスにやってきたが、かなりの大掃除になりそうだ。


 皇女さまをこのままにしてアポスへは行けないな。まずはこの皇女さまを治療するのが先決だ。

「アルテミス、アポスに行く前にこの子を治したい。どこかいいところはないか?」

「リンドン星系の第6惑星ケアスは自然が豊かな星です」

「じゃあ、いったんそこに向かおう」

 ケアスは、リンドン星系の恒星リンドの惑星で、アポスと同じ周回軌道に位置していた。ちょうど180度の場所に位置して、恒星リンドの反対側になる。つまり、アポスが夏ならケアスは冬といった具合だ。


 ケアスの入国管理局は珍しく人間が対応していた。

 アルテミスがケアスについて調べると、

「この星は電子機器の使用は極力控え、自然と人間の調和をめざしている星となっています。

 クラリス・ルナは深紅の船体に偽装し、レオンはアラン・スコッティという冒険者、アルテミスはその妻イザベルとカトリーヌ皇女は夫妻の娘カリンとして申請した。

「スコッティ夫妻と娘のカリンさんですね。訪問目的は療養ですね。この星には自然と触れ合う場所がいくつもありますので、ゆっくり療養されてください。入国を許可します」

 カトリーヌ皇女の身分証は完全に偽装されているからバレる心配はなかった。もちろんアルテミスがアンドロイドであることも人間にはわかるはずもない。


 宙港でハイウェイスターを借りて、3人は大きな湖の湖畔にある別荘に向かった。1か月の契約でこの別荘を借りた。

 宙港から向かう道路は整備されていて、両脇に緑の草原がどこまでも続いていた。

 カトリーヌ皇女は、医療ポッドから出たあと、激しい麻薬の禁断症状が出たが、泣き叫ぶ彼女をアルテミスが優しく抱きしめて、泣きつかれて眠るまでそうしていた。オレでもアルテミスに抱きしめられたら、全く動くことはできない。

 いまも皇女はアルテミスの腕のなかにしっかり抱えられている。


 湖畔の別荘に到着した。目の前に大きな湖が広がり、遠くに山々がかすんで見えた。

 皇女はハイウェイスターから降りると、

「ママ、空気がおいしい」

 と深呼吸をした。

 カトリーヌ皇女はアルテミスのことを『ママ』とレオンのことを『パパ』とよび呼び懐いていた。

「カリン、ここならゆっくりできそうね、行きましょう」

 そういうとアルテミスはトランクを2つ軽々と持ち上げて、別荘に入っていった。

 皇女はその力強さに一瞬圧倒されたが、ひょこひょこと後ろをついて行った。


 リビングルームに入ると、レオンは中央のソファーにカトリーヌ皇女を座らせ、その前にレオンとアルテミスが跪いて、

「カトリーヌ皇女様、この度は大変な目に合われましたね」

 レオンがそう言うと、それまではしゃいでいた皇女は、キリっとした表情を見せ、

「パパ、私の正体に気が付いていたのですね」

「ええ」

「助けてくれたことに感謝します」

「皇女様、差し支えなければ、事情をお話いただけますでしょうか?」

「冒険者に話しても負担になるだけです」

「私はただの冒険者ではありません。何かお役に立てると思います。私は『キャプテン・ジョーカー』と呼ばれています」

「キャプテン・ジョーカー!あの宇宙義賊の!」

「はい、その通りです」

 カトリーヌ皇女は、キャプテン・ジョーカーの評判は知っていたのだろう。少し表情を崩した。

「わかりました。私にはいまのところ帰る場所もありません。しばらくお世話になるでしょうし、話せる範囲で事情を話しましょう」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ