13.辺境 その3
こうして、以前領主ガイルが言っていたラビオス山の神殿への貢物を運ぶ日となった。
その日は朝から、大勢の人間が領主の館に集まって準備をした。
貢物は、野菜や果物の他にヤギを一頭まるごと括り付けて持っていくらしい。
生きたまま歩かせて向こうで屠殺すればいいのではと思ったが、神殿の目の前では不敬にあたるらしい。4人の男がヤギを太い木に縛り付けて担いだ。
貢物を携えた20名くらいの一行が領主の館を出発した。貢物のそばには領主がいた。警護のものは剣を帯び、槍や弓を装備していた。
ゼンダとリンガもしっかり弓を持っていた。
アルテミスには輿が用意されたが、歩きますと丁重に断った。
「輿に乗っても良かったのに」
レオンはアルテミスをからかうように言った。
「あまり目立つのも良くないでしょ。それにどちらかといえばレオンと手をつないで歩きたいくらいよ」
「はいはい、女神さま、お先にどうぞ」
と、レオンはアルテミスにお道化て言った。
アルテミスは、もう!と言ってスタスタ歩き始めた。
ラビオス山の中腹の神殿があるようだ。その神殿に貢物をして、日ごろのご加護の感謝をするらしい。
神殿までの参道は広く、よく手入れがしてあった。日ごろからよく通るのだろう。
一行の前に鹿が一頭飛び出してきた。弓矢を持つゼンダが鹿の頭を射抜いた。数日前よりも格段に上手になっている。
その鹿も供物にするらしい。縄で縛り2人がかりで担いでいった。
しばらく進むと、巨大熊グリズリーが現れた。護衛の兵士が弓矢と槍を使い応戦した。レオンは手伝おうとしたが、領主が止めた。これくらいなら我々でも倒すことができます。やがて、たくさんの矢を受けたグリズリーが音を立てて倒れた。警護は歓声を上げた。
そのとき、遠くの空に宇宙船が現れ、ラビオス山の向こう側に消えていった。それを領主が指さして、
「女神さま、あれでございます。あれがたびたび現れるようになりました」
「いつ頃からですか?」
「夏の初めころからです」
まだ秋らしいから2,3か月前か。レオンはその宇宙船を見たことがあった。駆逐艦クラスの宙賊船によく使われる宇宙船だ。電気もない文明のところにこんなものが現れたら、そりゃ驚くよな。しかし何もない土地で、宙賊が何をやっているのか?ちょっと調べる必要があるな。
アルテミスはもっと正確に調べていた。小声で、レオンに向かって、
「REB-21型の1万トンの船です。乗務員は20名程度。15インチのレーザー砲を装備しています。足が速く、よく宙賊が使っています」
「ありがとう。宙賊がこんな辺境で何をやっているのかな」
「中継の基地とかでしょうか?」
「あとで調べてみよう」
アルテミスは領主に向かって、
「山の反対側には、何がありますか?」
「山の反対側には、草原があってそこには黄色い悪魔の花が咲いています。その花の匂いを嗅ぐと、最初は気持ちよくなりますが、その後狂ったように暴れだして、亡くなります」
レオンは首をかしげて、麻薬みたいなものかと思った。
一行はラビオス山の神殿に到着した。
かなり大きな神殿だ。石造りで、柱もしっかりしている。よく見ると増設したところが何か所もあった。
おそらく時代ごとに少しずつ神殿を拡張していったのだろう。
神殿に入ろうとすると、脇の茂みから低い唸り声が聞こえた。
そちらを見ると大きな怪物がのそりと現れた。体躯は獅子と同じで背中に翼がある。
こちらを睨んでいるようだ、口元には鋭い牙が見えた。
一行は後ずさりした。
「女神さま、あれが最近現れた怪物です」
と領主はその怪物を指さした。
アルテミスは小声でレオンに囁いた。
「あれはグリフォンですね。グリフォンはリンドン星系にしか生息しないと聞いています。カシオペア星系のこの辺境にいるのは変ですね」
「とりあえず、倒すか」
兵士たちはグリフォンに向かって弓を射たが、ことごとくはじかれていた。
グリフォンが低く大きな咆哮を上げた。
「みんな下がれ」
とレオンが叫んだ。
レオンはテラでもらった刀をさげて近づいた。グリフォンはまだ低い唸り声をあげている。レオンを敵と認識したようだ。
グリフォンが低空飛行でレオンに襲い掛かるのと、レオンはが猛ダッシュで駆け抜けるのが同時だった。
レオンは目にもとまらぬ速さで、グリフォンの片翼を切り落とした。飛べなくなったグリフォンが音を立てて転がった。
さらにグリフォンは体勢を立て直しレオンと向き合うと、鋭い爪がある前足を振り上げレオンを薙ぎ払おうとしたが、レオンは返す刀でその前足を切り落とした。
大量の血が飛び散った。
グリフォンは後ずさりをして逃げようとした。しかし、レオンはあっという間に近づき、眉間に刀を突きさしてとどめをさした。
グリフォンはぐったりして動かなくなった。
成り行きをみていた兵士たちから歓声があがった。
領主ガイルがレオンとアルテミスに感謝の言葉を述べた。
「ありがとうございました。さすが、女神さまの従者さまですね。これで以前のように神々に貢ものを捧げることができます」
レオンは領主に向かって尋ねた。
「この化け物は、昔からいましたか?」
「いえ、こんな化け物は今回初めて見ました」
「おそらく山の向こう側の黒い塊が関係していると思います。私は女神さまと一緒に山の向こう側に行ってその正体を調べてまいります」
「大丈夫でしょうか?何人かうちの兵士も護衛に付けます」
「私たちだけで大丈夫です」
レオンはそういうと、アルテミスにクラリス・ルナをここへ呼ぶように言った。
アルテミスは両手を空に向かって大きく広げた。
湖から浮上したクラリス・ルナは神殿の前に深紅の船体を現した。
一行はその大きさにどよめき、何が起きたのかわからないという顔をした。
レオンとアルテミスは、領主一行に別れを告げて、クラリス・ルナに乗り込むと山の向こう側に向かった。
山の向こう側に回ると、レオンはクラリス・ルナの偽装を解いた。漆黒の船体に死神のマークが入ったキャプテン・ジョーカーのほうが、宙賊には効果的だ。
山の裏側には、草原が広がっていた。草原は一面黄色だった。おそらく領主が言う悪魔の花がさいているのだろう。
草原の向こうに2隻の宙賊船が停留していた。
2隻とも駆逐艦クラスの宙賊船で、何やら荷を積み込んでいるように見えた。
クラリス・ルナは2隻の宙賊船の機関部を狙ってレーザー砲を発射した。
「キャプテン・ジョーカーだ。死神が現れた」
宙賊たちはあわてて離陸しようとたが、機関部をやられて全く動くことができない。
「畜生、動かねえぞ」
レオンは、髑髏の仮面をつけて、一人でクラリス・ルナから降りると、宙賊船に乗り込んだ。
中にいた宙賊は必死の抵抗をして、ビーム銃を撃ち込んできた。レオンは、ビーム銃で応戦した。
元特殊工作員のレオンに敵うはずがない。あっという間に5人の宙賊を倒した。
後に残ったのはこの船のリーダーらしい男だった。
「助けてくれ」
「ここで何をしていた?」
「うっ」
「言わなければお前を殺して、隣の船に聞く」
「密輸だ。麻薬の」
「あの黄色い花か?」
「そうだ、あの花からは純度の高い麻薬が精製できる」
「どこへ持っていくつもりだ?」
「リンドン星系の惑星アポスだ」
「そうか、麻薬取引はそこでおこなわれているんだな。取引の合言葉を教えろ」
レオンは一通り麻薬の取引について、聞き出すとその男を撃ち殺した。助ける気はもともとない。お前のせいで何人もの人間が麻薬患者となって苦しんでいる。地獄で詫びろ。
以前の特殊工作員時代に麻薬取引にも関わったことがあった。麻薬組織に潜入し、その組織を壊滅させる任務だった。そのとき一人の少女が麻薬漬けにされ、目の前でなぶり者にされ、挙句の果てに殺された。その時の少女の目が助けてとレオンに向けられていたが、任務を優先してその少女を助けることができなかった。それ以来レオンは、麻薬を目の敵にしてきた。麻薬は人を狂わせる。今回の麻薬組織も必ず潰す。
レオンはクラリス・ルナに戻ると、2隻の宙賊船を破壊した。そして、アルテミスに悪魔の花をすべて焼き払うように言った。嫌な臭いが広がり、どす黒い煙がもくもくと上がった。
レオンはアルテミスに、
「次のターゲットが決まった。リンドン星系の第7惑星アポスだ」
「了解。ここから450光年の距離だわ。5日くらいかしら」
「あいつらは1か月くらいかけて来たんだぜ」
「そんなに?」
「知ってるかアルテミス、麻薬の末端価格は1gで1万クレジットするんだぞ」
「あら、じゃあ焼き払ったのはもったいなかったわね」
「オレは麻薬は反吐が出るくらい嫌いだ」
「覚えておくわ」
それから二人は普通の食事をとった。
「手づかみには驚いたわ」
「1週間、楽しかったな」
「そうね、ゆっくり休養できたわ」
「最後に嫌なものを見ちまったけどな」
「領主様にご挨拶しなかったけど、良かったのかしら?」
「あの星にとっては、女神が降りてきて、また街を救ったという伝説が1つ増えただけだよ」
レオンは、オレの女神さまであるアルテミスを見つめた。
アルテミスはどうしたの?という笑顔を見せた。




