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11.辺境 その1

 レオンとアルテミスはカシオペヤ星系の第9惑星付近に来ていた。このあたりは辺境と呼ばれ、銀河連邦にとっては未開の地だ。

 ちょっと宙賊稼業は休業して、アルテミスとふたりでゆっくりできるところをさがしていたら、銀河星雲の最果てはどんなところだろうという素朴疑問が浮かび、とりあえず行けるところまで行くことにしてみた。

 銀河星雲は直径10万光年と言われている。クラリス・ルナの最大跳躍は100光年なので、端から端まではとても行けないが、1000光年くらいなら10日間ぐらいの跳躍でいくことができる。

 カシオペヤ星系は、ケンタウルス星系から約800光年の距離だった。

 ここから先の宙図はない。


 レオンは10日間、星の海を眺めながらアルテミスとゆったりと過ごした。

 宙賊を追い回すことばかりやってきたレオンにとってはいい休養だ。

 クラリス・ルナのレーダーとは別に電波望遠鏡を搭載していたので、銀河星雲から離れた渦巻星雲や棒状星雲などの美しい姿をみることができた。

 アルテミスは、テラのホテルで音楽を聴いてから、いろいろな音楽を艦内に流すようになった。

 彼女が好きなのは主にJazzだった。それもスローテンポのものが多かった。

「聴いてると、なんとなく気分が落ち着くのよ」

 とアルテミスは言ったが、アンドロイドにも気分があるのだろうか?


「アラン、カシオペヤ星系の第9惑星は大気がありそうです。降りられるかどうか調べますか?」

「そうだな。そろそろ外の空気を吸いたいかな」

「了解です」

 そう言うと、アルテミスは調査を開始した。が、首をかしげて、

「このカシオペヤ星系はまだ宇宙連邦に加入していませんね。情報はほとんどありません」

 と言った。

「そうか、人的生命体がいるかな」

 レオンは冒険を楽しむように言った。

「確かに第9惑星には、生命体の反応があります」

「行ってみようか」

 こうして、クラリス・ルナは第9惑星に向かった。


 着陸許可を申請しようとしたが、まったく反応がない。

 そもそも宇宙とは無縁の世界なのかもしれない。文化程度はわからないが、まだ星間を移動することはないのだろう。

「ネットワークもありませんね。情報は皆無です」

「とりあえず降りてみようか」

 クラリス・ルナは徐々に高度を下げた。

 青い海と緑の大地が見えた。惑星の7割の海のようだ。陸地には緑の植物が生い茂っていた。

「あの山のふもとに降りてくれ」

 クラリス・ルナはゆっくり着陸した。

 この星の大気は、人類が暮らすものと同じ成分だった。レオンはボディスーツをつけず、ジーンズにジャンパーという軽装をして大地に降り立った。アルテミスもワンピースを着て降りてきた。


 念のためビーム銃を持ったが、アルテミスがこのような未開の地なら、ジャポニカでもらった刀が役に立つかもしれませんと、刀を持ってきた。

「クラリス・ルナをこんな目立つ場所には置いておけないな」

「少し先に湖があったので、そこに沈めておきましょう」

 アルテミスは両手を上にあげると、クラリス・ルナが反応して、離陸し湖へ移動して湖の中に消えた。

 ここからは歩きだ。ネットワークがないので、地図もない。探知用のレーダーだけが頼りだ。

 しかし、レオンはどんな人的生命体がいるのかわくわくしていた。


 森のような道なき道を刀で切り開きながら、しばらく進むと、

「キャー」

 という声が聞こえた。

 二人が声の方向に駆け寄ると、30歳くらいの女性と10歳くらいの男の子が巨大な熊に襲われているところに出くわした。

 おそらく親子だろう。母親は息子をかばってうずくまっていた。

 レオンはとっさに近くに落ちていた石を拾うと、ものすごいスピードで巨大な熊に向かって投げた。

 石は熊の後頭部を直撃した。

 熊は振り返り、レオンを睨んだ。それから、大きな咆哮をあげてレオンに向かって突進してきた。

 レオンは刀をすらりと抜いた。切れ味はジャポニカで確認済みだ。

 レオンは八相に構えると、熊とすれ違いざまに思い切り刀を薙ぎ払った。熊は腹から上下に真っ二つに切り裂かれていた。見事に背骨まで切れている。さすがの切れ味だ。


 熊がレオンを襲っている隙に、アルテミスは親子に駆け寄った。母親はアルテミスに介抱されていた。見たところ転んだときの擦り傷くらいで、大したケガはしていない。

「大丈夫かい?」

 とレオンが声をかけたが、

「XXXXXXXXXXX,XXXXXX」

 全く知らない言語だった。どうやらお礼を言っているようだ。

 アルテミスが、その言葉を聞いて、

「古代のアッカド語に似てますね」

 と解析した。そして、その言葉で、

「ケガはありませんか?」

 と尋ねた。母親は立ち上がりながら、

「はい、おかげさまで大丈夫です。女神さま」

 アルテミスのことは女神と思ったらしい。確かにワンピースがヒラヒラして、女神っぽい。そして、体型や顔もそう見えても不思議がないくらい整っている。

 親子を見ると大きな布を巻きつけたような服装だった。

「この近くに私たちの街があります。大したおもてなしはできませんが、ぜひお越しください。従者の方もごいっしょにどうぞ」

 アルテミスは吹き出しそうになりながら、

「レオンは私の従者と思われたみたいですよ」

「面白い。しばらくはその設定でいこうか」

 親子に向かって、アルテミスは『アテナ』、レオンは『ジャン』と名乗った。


 森を抜けると道の先に石塀で囲われた都市が見えた。入り口には大きな門があった。

 門をくぐると、石造りの街並みが広がっていた。

 人々は親子と同じような布を巻きつけた格好をしていた。

 道路は舗装されていなくて、砂利を敷き詰めたような感じだった。

 もちろん車はなく、おそらく電気もまだないような文明だろう。

 レオンとアルテミスの服装が珍しいのか、近くにいた人たちが集まってきた。

 母親はこの二人が巨大熊を倒してくれたと報告していた。

 アルテミスは女神、レオンはその従者だと説明したようだ。

 やがて、役人と思われる男がやってきて、アルテミスに向かって深々とお辞儀をした、それにつられて他の人たちもお辞儀をした。

「あのグリズリーという巨大な熊は、6人もの命を奪った悪い奴だと言っています。倒してくれて心から感謝するとのことです」

「そうか。それは良かった。我々が泊まれるところがあるかどうか聞いてくれ」

 アルテミスは今日どこかに泊まれるところはあるかと尋ねた。

「宿屋があるそうです。案内してくれるようです」


 役人は宿屋まで案内してくれた。宿屋に着くと、アルテミスは広い部屋に、レオンはその隣の小部屋に案内された。

 アルテミスが部屋を交換しましょうというと、

「しばらくは女神さまの役をやってくれ。別に寝るのに不自由な部屋じゃないからこのままでいい」

 少し休憩すると、二人は街なかを見物に外に出た。

 宿屋の目の前の通りが市場になっていて、色とりどりの野菜や果物が並んでいた。

 アルテミスが先を歩き、レオンは従者のようにその後ろを歩いた。

 街の人はアルテミスをみると、目を留めそしてお辞儀をした。

「私がお辞儀をされるなんて、なんか変な感じです」

 二人は日用品の店に入ったが、やはり電化製品はまったく見当たらなかった。

 つぎに武器屋に入った。武器をみるとその星の文明度合いがわかる。

 並んでいた武器は剣や槍、盾などだった。銃の類はまったくなかった。店主がアルテミスに話しかけてきた。

「従者の方がお持ちの剣を見せていただけますか?」

 レオンは手にしていた刀を渡した。店主はスラリと抜くと丹念に調べていた。

「これはすばらしい。これをどこで手に入れたのでしょうか」

「これは、別の国でもらったものです」

 店主は譲ってほしいという表情をしていたが、これは女神を守るためのものだから、手放すことはできないと丁重に断った。

 二人が宿屋にもどると、役人が来ていた。

「恐れ入りますが、領主が会いたいとのことです。同行願えますか?」

 馬車が迎えにきていたので、二人は領主のもとに行くことにした。


 領主の館はレンガ造りの大きな建物だった。前庭は木々が剪定されたいた。

 二人が館に入ると客間に案内された。そしてアルテミスは上座に座わらせられた。女神として遇しているのだろう。レオンは従者としてアルテミスの後ろに控えて立っていた。

 下座に控えた領主は膝をついて、

「女神アテナ様、この度はようこそいらっしゃいました」

 と領主が挨拶をした。領主はガイルと名乗った。アルテミスはアルテミスは笑顔でそれに答えた。

女神の役もだんだん慣れてきたようだ。

「お立ちください。そこまで畏まる必要はありません。少しの間お世話になります」

 領主は立ち上がって、ありがとうございますとお辞儀をした。

「この度は、巨大熊グリズリーを退治していただきありがとうございました。大変助かりました」

「困っている人を助けられて何よりです。他に困ったことがありますか?」

「よくぞ聞いてくれました。実は神聖なるラビオス山がに異変が起きています。麓に怪物が現れて、時々山に貢物を持って入ったものが襲われるという事件が起きています」

「怪物?」

「獅子に翼が生えた大きな怪物です。その怪物が現れてから、他の動物も狂暴になりました」

 アルテミスはレオンを振り返り、どうしますかという目で尋ねた。レオンは静かに頷いた。

「それだけではないのです。空飛ぶ大きな塊が何回も目撃されています。今日もネスカ湖のほうに飛んでいきました」

 それは、クラリス・ルナだな。驚かしてしまったな。

「女神さま、なんとかこの異変を沈めてもらえますか?」

「わかりました。できる限りのことはしましょう」


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