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10.カジノ その3

「とりあえず、マクラーレンおじい様のところに帰ろう。その前にちょっとクラリス・ルナに寄って着替えようか。男性には目に毒だ。その格好じゃおじいさまがびっくりするぞ」

 ナターシャは、走り回ったおかげで服は破け、顔も汚れていた。もともと露出の多い服だったが、ほとんど裸同然になっていた。

 ナターシャは、自分の格好に気が付くと、「きゃあ」と言って両手で隠す仕草をした。

 クラリス・ルナに乗船すると、アルテミスの案内でシャワーを浴びた。

 それから、薄化粧をしてアルテミスのドレスを身に着けた。


 綺麗になったナターシャを見て、レオンは、

「お嬢様らしくなったな。ド派手な格好よりもずっと似あうぜ」

「アラン、助けてくれてありがとう」

 ナターシャはしおらしくお礼を言った。

「私ね、早くおじいさまの役に立つようになりたかったの。私はもう大学生よ。でもおじいさまは、子供扱いをして、カジノのことは何も教えてくれなった。そこに、クロード・バルローさんから『うちのカジノで学べば?』と言われてついていったの」

「なるほど」

「そこで、カジノでは派手な格好で遊ぶのが普通だからと言われて・・・」

「それであんな格好をしてたのか。おじいさまに会ったら、ちゃんとお詫びを言って、それから自分の気持ちをしっかり伝えたほうがいい」

「わかったわ」


 その時、ナターシャのブレスレット型の通信機が鳴った。

「ナターシャ、大丈夫か?」

「クロードさん」

「きみが連れ去られたので、心配している。必ず助けてあげるから。いまどこにいる?」

「クロードさん、私を人質にして、おじい様を脅していたのね。追いかけてきたあなたの部下の会話を聞いたわ」

 クロードはチッっと舌打ちをした。

「バレちゃしょうがない。おいぼれがいい加減席を譲らないから、お前を人質に引退してもらうつもりだったが・・・」

「ひどい!」

「お前がいまいるのは宙港だな?中型の赤い船か?」

 ナターシャの通信機を逆探知したらしい。なかなか性能がいい。

 アルテミスが逆探知を妨害しようとしたが、レオンはそれを制した。

 クロードは、

「その船ごと沈めてやる。後継者のお前がいなくなれば、おいぼれも先は長くないだろう」


「アラン、どうしよう?」

 ナターシャは不安そうな顔をレオンに向けた。

「大丈夫、この船は宇宙一強いから」

 レオンはアルテミスに、宙港へ離陸の許可をもらうように指示した。

 宙港からは「よい旅を」と連絡が入った。

 レオンはナターシャを客室に案内した。

「ナターシャ!これから戦闘になる。この部屋の中で待っていてくれ。すぐに終わるから、いいというまで出てきちゃだめだよ」

 クラリス・ルナはブーンと静かな稼働音を立てて、そのまま浮き上がった。それからまっすぐ上昇した。

「2時の方向に、宙賊艦が2隻」

 スクリーンがクラリス・ルナと同じくらいの大きさの宙賊艦を2隻映し出していた。

「アルテミス、偽装を解け」

 クラリス・ルナが深紅の機体から漆黒の機体へと変化した。

 もちろん、機首には死神のマークが入っている。


 追いかけてきた宙賊艦は、偽装を解いたクラリス・ルナを見て慌てふためいた。

「クロードの旦那、ありゃ相手が悪い」

 クロードは、宙賊艦からの通信を受けて、

「何をしている。あの艦を早く撃墜しろ。マクラーレンの孫娘も、乗っている奴も全員殺してしまえ。こんな時のために、お前たちを雇っているんだからな」

 宙賊船のモニターにはクロードのいかめしい顔が映っていた。

「クロードの旦那、何を言ってるんですか!みんな早く逃げろ!」

 宙賊艦は反転し、一目散に逃げだした。

 クロードは驚いて、

「何をしている!」

 と言ったが、宙賊艦の船長は、クロードに向かって、

「ありゃ、キャプテン・ジョーカーだ。死神だ!このままじゃ殺される!」

 このやりとりをアルテミスが盗聴して、クラリス・ルナに流してくれた。

 レオンはそれを聞いてニヤリと笑った。キャプテン・ジョーカーの名は宙賊への抑止力になりつつあるのを実感した。

 クラリス・ルナは、宙賊船のシールドが効かない至近距離にあっという間に跳躍して、ミサイルを一発ずつ撃ち込んだ。

 被弾した宙賊艦は2隻とも大破して、地上へ落ちて行った。


 レオンはマクラーレンに、ナターシャを無事に救出したことを連絡した。

 そして、宙港からハイウェイスターで、ナターシャとともにマクラーレンのもとに向かった。

 ベルナール・マクラーレンの自宅はカジノのビルの最上階のペントハウスだった。

 調度品も豪華で、いかにもカジノ王という住居だった。

 エレベータを降りると、そこにマクラーレンが待っていた。

「おじいさま、ごめんなさい」

 ナターシャは、マクラーレンの顔を見ると抱きついて謝った。

「お前が無事ならいいんだよ」

「私、おじいさまのお手伝いがしたかったの。だからクロードさんにカジノのことを教えてもらおうと・・・」

「わかった。これからお前がカジノや経営について、しっかり学べるように手配してやろう」

「ありがとう、おじいさま」


 レオンはそろそろ帰ろうと、

「不躾ですが、マクラーレンさん。約束は果たしましたよ」

「ああ、わかっておる」

 レオンは、謝礼としての1億クレジットを受け取った。

 そういえば、カジノのチップで2000万使ったから、儲けは8000万か。

「さすが、キャプテン・ジョーカー。ありがとう」

 ナターシャはぎょっとして、レオンを見た。

「キャプテン・ジョーカー?アラン、あなたはキャプテン・ジョーカーなの?」

「そうとも呼ばれている」

「本物?会えてうれしい!宇宙義賊キャプテン・ジョーカー。なんて幸運なの!」

 そう言うと、ナターシャはレオンとしっかり握手をした。

 その光景をみていたマクラーレンは、

「キャプテン・ジョーカー、そのままナターシャと結婚して、うちを継いでくれてもいいぞ。君のような豪傑が跡継ぎなら何も文句はない」

 レオンは頭を掻きながら首を振った。

「遠慮します。オレにはいろいろとやりたいことがあるので」


「ついでにもう一仕事やらんかね?」

「はい?」

「明後日が理事長選挙だ。クロードがまたどんな暴挙に出るかわからん。それまでも護衛をしてほしいのだが・・・」

 確かにクロードはまだあきらめていないだろう。

「あと1億出そう」

 金のためじゃないが、ここで去ってマクラーレンやナターシャが殺されたりすれば、後悔するだろう。

「いいでしょう。引き受けましょう」

「助かるよ」

「では、理事長選挙について、もう少し詳しく教えください」


 理事長選挙は、10人の理事から選ばれることになっている。現在立候補しているのはマクラーレンとクロードの二人だ。10人のうち6人までは、マクラーレンの派閥だった。彼らはマクラーレンの店から暖簾分けした子分だから投票で裏切ることはない。ちゃんと投票が行われれば、マクラーレンが理事長に選出されるのは間違いない。

 しかし、クロードも彼らの切り崩しに躍起になっていると聞く。資金の援助や店舗の増築などをちらつかせて、票の獲得を狙っている。

 レオンはマクラーレンに1つの策を耳打ちした。連邦警察を介入させることだった。

 レオンだけでは、守り切れないこともある。

 マクラーレンは、

「あまりやりたくないが、今回はやむを得ないかもしれんな」

 と答えた。

 また、選挙が終わるまでは、ナターシャは安全を確保するため、レオンがクラリス・ルナで2日間預かることにした。


 クラリス・ルナに戻ってきたレオンの後ろにナターシャがいるのを見て、アルテミスは、

「あら、おじいさまのところに帰ったのでは?」

「理事長選挙が終わるまで、預かることになった」

「アルテミスさん、よろしくお願いします。今度はちゃんと着替えも持ってきました」

 そう言うと、ナターシャはペコリと頭を下げた。

「じゃあ、食事にしましょう」

 アルテミスは、簡単な食事を調理して、食卓に並べた。

 ナターシャは、いつもアルテミスが座る席に腰かけて、

「はい、あ~ん」

 とレオンにスプーンで食事を食べさせようとした。まるで新婚気どりだ。

 アルテミスはそれを横目で見ていた。


 食事が終わって、ナターシャは、

「ねえ、アラン。ちょっと船内を見て回ってもいいかしら?」

「だめだ」

「どうして?」

「見られちゃまずいものがいろいろとあるからだよ」

「将来の旦那さまの船なんだから、一緒に暮らすかもしれないでしょ。いろいろと知っておきたいのよ」

「馬鹿な事を言ってないで、きみはおとなしく客室にいてくれ」

 ナターシャはムスッとしたが、荷物を持って客室に入っていった。

 アルテミスは、レオンを睨みつけて、

「ナターシャと結婚するんですか?」

「まさか?じいさんの戯言を彼女が真に受けてるだけだよ」

 アルテミスはぷいっと食器を片付けに、向こうへ立ち去った。

 アルテミスは怒ってる?


 レオンは変装して出かけた。

 変装といっても、汚れた服を着て、顔に鋭い傷跡のメイクをしてサングラスをかけた程度だった。

 これでも十分人は欺ける。

 その格好で、レオンはひとりマクラーレンのところへ戻った。ナターシャは、アルテミスに頼んできた。彼女がいれば、2,30人の男が襲ってきても対処できる。

 まして、クラリス・ルナの船内だ。問題ないだろう。


 レオンがマクラーレンに会いにいくと、玄関先で止められた。

 苦笑して、キャプテン・ジョーカーだと明かすと、中に入れてくれた。

「どうしたんだ?その格好は?」

 マクラーレンは、レオンの格好見て、驚いた。

「ちょっと敵情視察に行こうと思って。その前にいくつか情報を提供いただきたい」

 元特殊工作員だ。潜入捜査なんて朝飯前だ。クロードが何を考えているかもわかる。

 レオンはマクラーレンと念入りに打ち合わせをした。


 キャプテン・ジョーカーが出て行ってから、3時間後、マクラーレンに緊急の連絡が入った。

 マクラーレンの右腕だったアンドリュース・カジノの支配人のヨゼフが死んだ。

 高速道路での衝突事故だったらしい。

 もちろん、カジノ協会の理事だった。

 事故に見せかけて、クロードに殺されたのは間違いない。

 明日の理事長選挙に向けて、理事全員に身辺に注意するように連絡はしていたが・・・

 これで理事が9人になり、マクラーレンの派閥は5人となった。


 翌日、理事長選挙の日になった。

 選挙はアスケルの商工会の役員会議室で行われる。

 選挙の立ち合い人は、商工会の会頭だ。もう70歳前後の年配の会頭だった。

 マクラーレンが到着すると、すでに9名の理事は到着していた。

 ふと目をやると、ガティ・カジノのベルモンドがクロードと話し込んでいた。

 ベルモンドは寝返ったらしい。

 9名のうち5名がクロードになる

 やれやれマクラーレンはため息をついた。

 キャプテン・ジョーカーからの極秘の連絡がなければ、怒り狂っていただろう。


 商工会の会頭が、席に着くように促した。

「これより、カジノ協会の理事長選挙を開催する」

 歳の割にははっきりとした口調だった。

「理事長選挙は、各理事の投票によって決定する。今回の立候補は、現理事長ベルナール・マクラーレン氏とクロード・バルロー氏の2名となる」

「早く始めろ」

 クロードがドスの効いた声で怒鳴った。

 各理事に投票用の札が配られた。


 その時、会議室の扉が開き、ドヤドヤと3名の人物が雪崩れ込んできた。

「我々は連邦警察だ。ここにクロード・バルローはいるか?」

「私だが」

 とクロードが手を挙げた。

「貴様には逮捕状が出ている。ベルナール・マクラーレンの孫娘、ナターシャ・マクラーレンの誘拐および殺人教唆だ。アンドリュース・カジノの支配人のヨゼフの殺人未遂もある」

「未遂?」

「連邦警察までご同行願おう」

「知らないなあ。証拠があるのかい?いま大事な理事長選挙の最中だ。終わってからにしよう」

 その時、会議室の明かりが消え、モニターに電源が入り、クロードが大きく映っていた。

 そして映像が流れた。


「クロードの旦那、ありゃ相手が悪い」

「何をしている。あの艦を早く撃墜しろ。マクラーレンの孫娘も、乗っている奴も全員殺してしまえ。こんな時のために、お前たちを雇っているんだからな」

「クロードの旦那、何を言ってるんですか!みんな早く逃げろ!」


 宙賊にナターシャが乗っていた赤い船を撃墜するように指示したときの映像だ。

 何でこんなものが残っている?あの時の宙賊船は墜落して、炎上したはずだ。

「これはあなたですね」

 と連邦警察が指さした。

 レオンがアルテミスにこの映像を流すように依頼したのだ。


 その時、マクラーレンがゆっくり口を開き、

「会頭殿、犯罪者は理事長への立候補の資格はありませんでしたよね?」

「左様。クロード・バルロー氏は逮捕とのことで、立候補はできません。よって理事長候補はベルナール・マクラーレンのみとなります。したがって、次期理事長はマクラーレン氏に決定となります」

 クロードの顔が引きつっていた。

「ふざけやがって!」

 クロードが手をあげると、クロードの後ろにいたボディーガードの2名と、クロードの派閥の4名がふところからビーム銃を抜いた。そして、連邦警察3名とマクラーレンに照準を合わせた。

「全員死んでもらう。そうだな、連邦警察に向かって、マクラーレンが発砲し、撃ちあいとなって全員死んだという筋書きにでもするか」


 立会人の商工会の会頭がすくっと立ち上がり、老人とは思えない運動神経で、机の上を飛び上がって、あっという間にクロードの隣に着地し、喉元にナイフを当てていた。

「全員武器を床に置け!」

 会頭とは思えない凛とした口調だった。

 会頭の言葉にクロードのボディーガードと派閥の全員が武器を床に置いた。

 会頭、いや会頭に変装したレオンは、クロードの首に手刀を浴びせて昏倒させた。

 連邦警察がクロードの身柄を拘束した。

「ありがとうございます。ご協力感謝します。あの、ちなみに会頭はおいくつですか?」

 連邦警察は間の抜けた質問をした。


 ベルナール・マクラーレンは自宅に戻ると、レオンに追加の1億を支払った。

「キャプテン・ジョーカー、今回は本当に感謝する」

「これで一件落着ですかね」

「ヨゼフから連絡があったよ。きみに助けられたと。足の骨を折る重傷だが、命に別状はないと」

「助けたかいがあります」

「潜入捜査とやらかね」

 そこへアルテミスに連れられたナターシャが現れた。

「おじいさま、ご無事で」

 そして、ナターシャは、

「キャプテン・ジョーカー、いろいろとありがとうございました。あなたなら本当にお嫁さんになってもいいわよ」

 そう言って抱きついてきた。そのままキスをしそうな勢いだったが、

「ありがとう。もう少し大人の素敵な女性になったら考えるよ」

 とレオンは抱きついていた手をゆっくり振りほどいた。

 ナターシャはあかんべーをした。


 第5惑星アスケルの宙港を飛び立つと、アルテミスはなんだか落ち込んでいるようだった、アンドロイドでもそんなことがあるんだろうか?

「アルテミス、どうした?」

「何でもありません」

「そうは見えないな。言ってごらん」

「ナターシャさんがレオンに抱きついたときに、妙な気持ちになったのです。悲しいような、胸がしめつけられるような・・・」

 嫉妬かな?アルテミスに人間と同じような感情が芽生えているのかもしれない。

「おいで」

 レオンはアルテミスをしっかりと抱きしめた。そしてキスをした。

「なんだか胸がぽかぽかします」

 今度はアルテミスがレオンをぎゅっと抱きしめた。


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