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四天王の中で俺だけが社畜。脳筋魔族たちの中間管理職になる ~部下達の知能指数が低すぎて、書類仕事が終わりません~  作者: 木村 蒼空


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5/10

第5話 厄介な敵は「身内」にあり

 魔王城の地下深くに設けられた、薄暗い魔導実験室。

 俺、ヴェルトはそこで、妖しく光る魔法陣と向き合っていた。


「……よし。条件式、修正完了。《敵対的熱源》を感知した場合、自動的に《追尾炎弾ホーミング・ファイア》を三連射。その後、三秒間の冷却クールダウンを挟んで再スキャン……」


 ブォン……。

 魔法陣の上に浮かぶ小さな泥人形ゴーレムが、俺の言葉に合わせてキビキビと動き、仮想敵の標的を正確に撃ち抜いた。


「完璧だ」

 俺は満足げに頷いた。

 これは、俺が開発中の『自動迎撃システム』の試作品だ。

 勇者が来ても、いちいち俺が出撃しなくて済むよう、国境線にこれを大量配置する計画である。

 名付けて『無人防衛君一号』。


 前世のプログラミング知識を魔法に応用した、魔界初の自律型兵器だ。


「す、すげぇっすヴェルト様! 人形が勝手に動いてる!」

 横で見ていた部下のゴンブが、目を丸くして感動している。

 ゴンブという名のこのゴブリンは、知能は低いが、俺への忠誠心と体力だけはある。最近は俺の荷物持ち兼、愚痴の聞き役だ。


「ゴンブ、これを量産して西の砦に埋めるぞ。そうすれば、俺たちは城でコーヒーを飲んでいるだけで勇者を撃退できる」

「へぇー! 楽して勝てるなんて、最高っすね!」

「そうだ。楽をするための努力は惜しまない。それが俺の流儀だ」


 これで安眠の日々が守られる。

 そう確信し、俺が伸びをした瞬間だった。


 ウゥゥゥゥゥ――ッ!!


 城内に、甲高い警報音が鳴り響いた。

 敵襲を知らせるサイレンだ。

「なっ!? 勇者か!? まだ防衛君の量産が終わってないぞ!」

 俺は慌てて実験室を飛び出した。

 廊下を走ると、伝令のガーゴイルが飛んでくる。


「報告! 報告ぅ! 南の海岸領にて緊急事態発生! 領土が水没中! 領土が水没中!」

「水没だと? 人間族の水攻めか?」

「否! 海そのものが隆起しております! および、海人族マーマンの軍勢を確認! その数、およそ三千!」


 海人族。

 四種族の中で、最も魔族との関わりが薄い種族だ。

 彼らは海を支配し、陸には干渉しない。不可侵の不文律があったはずだ。


「なぜだ? 人間族と同盟でも組んだか?」

「いえ、それが……現地のリゼット様より、救援要請が入っております!」


 リゼット。四天王No.2のサキュバスだ。

 嫌な予感がした。

 背筋が凍るような、特大のトラブルの予感だ。

 俺は急いで執務室に戻り、通信用の水晶玉を起動した。


「……繋げ。南の領主館だ」

 ブツン、という音と共に、水晶玉に映像が浮かぶ。

 映し出されたのは、優雅なドレスを着た美女、リゼットだった。

 だが、その背景は悲惨だった。

 豪華な家具がプカプカと浮き、窓の外には魚が泳いでいる。部屋の中まで海水が浸水しているのだ。


『あ、ヴェルトちゃーん? ヘルプ〜、お気に入りの絨毯が濡れちゃったぁ』


 緊迫感ゼロの間延びした声。

 俺はこめかみの血管が切れそうになるのを必死に抑えた。


「……リゼット姉さん。状況を説明してください。なぜ海人族が攻めてきたんですか」

『んーとねぇ、ちょっとお肌の手入れ用に『深海のアビス・マッド』が欲しかったのよぉ。あれ、美容に最高じゃない?』

「はぁ。で?」

『だから部下に命じて、沖合の海底を爆破魔法で掘削させたの。ドカーンって』

「……」

『そしたらなんかぁ、そこが海人族のサンゴ礁……っていうか、団地? だったみたいでぇ。すっごい怒っちゃって、「陸を沈めるぞ!」って津波を起こしてきたのよぉ。心が狭いわよねぇ』


 パリン。

 俺の手の中で、持っていた羽ペンがへし折れた。

「……ふざけるなっ!!」


 俺の怒声が執務室に響く。ゴンブがビクッと震えた。


「海底団地を爆破!? それはただのテロ行為ですよ! 向こうが怒るのは当たり前だ!」

『だってぇ、泥が欲しかったんだもーん。ねえヴェルトちゃん、なんとかしてよぉ。私の『魅了チャーム』は海人族には効きにくいのよぉ。あいつら魚くさいし』

「自業自得です! 自分で謝ってきなさい!」

『えー、やだ。あ、窓ガラス割れた。水が入ってきたー。キャー、冷たーい。……じゃ、あとよろしくねん♡』


 プツン。

 通信が切れた。

 後に残されたのは、真っ暗になった水晶玉と、絶望的な顔をした俺だけだ。


「……ヴェ、ヴェルト様……?」


 恐る恐る声をかけてくるゴンブ。

 俺は深く、深く息を吐き出した。

 頭の中で、計算が走る。

 海人族三千。地の利は海。まともに戦えば、水際での防衛戦は魔族軍にとって極めて不利だ。

 放置すれば南の領土は水没し、貴重な農地と港が失われる。

 そして何より、この騒ぎを聞きつけた人間族や勇者が、「魔族と海人族が争っている好機」を見逃すはずがない。


「……行くぞ、ゴンブ」

「えっ、西の砦の『防衛君』の設置は?」

「中止だ。予算も資材も、すべて南の災害復旧に回す」


 俺は机の上の書類――『対勇者防衛計画書』――を乱暴に引き出しに放り込んだ。


「勇者対策? 知るか! 今の俺の敵は、人間でも勇者でもない!」


 俺は立ち上がり、虚空から愛用の杖を取り出した。

「話の通じないアホでバカな先輩だ!!」

 こうして、俺の貴重な「業務改善時間」は藻屑と消え、代わりに理不尽な「尻拭い出張」が始まったのだった。

(続く)


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