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四天王の中で俺だけが社畜。脳筋魔族たちの中間管理職になる ~部下達の知能指数が低すぎて、書類仕事が終わりません~  作者: 木村 蒼空


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第4話 魔王様による人事考課(パワハラ)

 西の砦での「整地作業」から戻った翌日。

 俺、ヴェルトは執務室で優雅な朝を迎えていた。


 淹れたてのコーヒーの香り。

 完璧に整理整頓された書類の塔。

 部下であるゴンブも、昨日の俺の機嫌の良さを察してか、珍しく静かに仕事をしている。


「素晴らしい……。これぞ理想の職場環境だ」

 昨日の件で西側の人間軍は撤退したため、しばらく前線からの救援要請トラブルはないはずだ。

 今日は溜まっていた領地経営の収支報告書を一気に片付けるとしよう。

 そう思って羽ペンを手に取った、その時だった。


 コンコン。

 扉がノックされる。丁寧だが、有無を言わせない重みのある音だ。

 入ってきたのは、漆黒の鎧に身を包んだ近衛兵団長だった。

「ヴェルト様。魔王陛下がお呼びです。至急、謁見の間へ」

 ……あ〜あ、終わった。

 俺の平穏な午前中が、音を立てて崩れ去った。

 


 魔王城最深部、『謁見の間』。

 深紅の絨毯が敷かれた広大なホールの奥に、その玉座はある。


 座っているのは、この魔界の支配者にして最強の存在――魔王ゼノンだ。

 左右には、No.1のギガント(今日は起きている)と、No.2のリゼット(あくびを噛み殺している)が控えている。

 俺は玉座の前で片膝をつき、頭を垂れた。


「四天王No.3、ヴェルト。参上いたしました」

「うむ。面を上げよ」

 重厚なバリトンボイスが響く。

 顔を上げると、彫りの深い顔立ちをした魔王が、不敵な笑みを浮かべて俺を見下ろしていた。 


「ヴェルトよ。昨日の西の砦での働き、見事であったぞ」

「はっ。恐悦至極に存じます」

「報告によれば、人間軍の『空城の計』を見破り、さらには伏兵が潜む森ごと地形を変え、敵の戦意を完全にへし折ったとか。……相変わらず、派手にやるな」


 魔王が楽しそうに言う。

 だが、俺としては訂正しておきたい。


「陛下。あれは派手な攻撃魔法ではありません。ただの土木魔法による『整地』です。部下のオーガたちが走りやすいよう、バリアフリー化したに過ぎません」

「ククク……『整地』か。相変わらず謙虚だな、貴様は」


 魔王は肩を震わせて笑った。

 違う、謙虚じゃない。事実だ。

 だが、隣に立つギガントが感心したように口を挟んできた。


「いやいやヴェルトよ。ワシも現場を見たが、ありゃ凄まじかったぞ。山が一つ消えとったわ! ガハハ! あんな大規模な質量操作、ワシでも魔力が持たん。貴様こそ真の『魔人』よな!」

「あらぁ、ギガントが人を褒めるなんて珍しい。でもぉ、森を消すなら事前に言ってよねぇ。あそこ、良いハーブが採れる場所だったのに」


 リゼットが文句を言う。

 こいつら、俺の話を聞いていない。


「で、だ。ヴェルトよ」

 魔王が声を一段低くした。

 空気が張り詰める。

「貴様のその『魔人』としての力を見込み、新たな任務を与える」


 嫌な予感しかしない。

 俺は即座に防衛線を張った。

「陛下。私は現在、全軍の兵站管理と予算編成、さらに人事考課の時期も重なっており、手一杯でして――」

「人間どもが、貴様に『二つ名』をつけたぞ」

「……は?」


 俺の言い訳を遮り、魔王が一枚の羊皮紙を投げ渡してきた。

 それは人間界で配られている手配書だった。

 そこには、俺の似顔絵(なぜか三割増しで凶悪な顔になっている)と共に、こう書かれていた。


 【指名手配:Sランク指定】

 【大地を喰らう魔人ランド・イーター・ヴェルト】

 【遭遇した場合は直ちに撤退せよ。地形ごと消滅させられる】


「……なんですか、この食いしん坊みたいな名前は」

「ガハハ! 良いではないか! 人間どもは恐怖し、王都のギルドはパニックになっているそうだ。そこでだ」


 魔王がニヤリと笑う。


「人間側は、この『大地を喰らう魔人』を討伐するため、ついに伝説の『聖剣』の封印を解き、勇者候補を選抜し始めたらしい」

「……へぇ」


 他人事のように相槌を打つ俺。

 聖剣? 勇者? ファンタジーの王道ですね。頑張ってください。

「よって、ヴェルト。貴様を『対勇者・特別防衛司令官』に任命する」

「……はい?」

「貴様の知恵と、その規格外の魔法があれば、勇者など赤子も同然だろう。期待しているぞ」


 魔王は満足げに頷き、玉座の肘掛けにもたれかかった。

 俺は固まった。

 特別防衛司令官?

 それはつまり、勇者が来るたびに出撃し、部下の損害を抑えながら、適度に相手をして追い返すという、一番面倒くさい中間管理職の極みではないか。


「お、お待ちください! それは武闘派であるNo.1のギガント様か、新人のヴォルグの役目では!?」

「ギガントは大雑把すぎて城まで壊すから却下だ。ヴォルグはバカだから勇者の罠にかかって死ぬだけだ。適任は貴様しかおらん」


 正論すぎて反論できない。

 くそっ、これが「有能な社員に仕事が集中する」という法則か!

「給料は弾むぞ? 特別手当として、金貨三割増しだ」

「……休日出勤手当もつきますか?」

「うむ。代休も認めよう」

「……わ、わかりました。謹んでお受けします」

 俺は涙を飲んで承諾した。

 金貨三割増しは魅力的だ。これで老後の資金が貯まる。

 それに、俺が断って他のバカに任せたら、魔王城が陥落して俺の安眠場所がなくなる可能性が高い。


「よし! では励めよ、大地を喰らう魔人ヴェルト!」

「その名前で呼ぶのはやめてください……」


 謁見の間を出た俺の足取りは、鉛のように重かった。

 廊下ですれ違った下級兵士たちが、俺を見てヒソヒソと噂している。


「おい見ろよ、あれが噂の……」

「山を丸呑みしたっていう魔人様だ……」

「こえー……腹減ってるのかな……」


 誰が山を食うか。

 俺が今、一番喰らいたいのは、温かい夕食と睡眠時間だけだ。


 こうして、ただの事務屋志望だった俺は、人間族にとっての「最大の恐怖」として認知され、勇者との泥沼の戦いに巻き込まれていくことになったのだった。

(続く)


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