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四天王の中で俺だけが社畜。脳筋魔族たちの中間管理職になる ~部下達の知能指数が低すぎて、書類仕事が終わりません~  作者: 木村 蒼空


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第3話 現地視察という名の「尻拭い」

 西の最前線、通称『赤土の荒野』

 ここには魔族領と人間領の境界線があり、常に小競り合いが絶えない紛争地帯だ。

「ガハハ! ようこそお越しを、ヴェルト様!」


 出迎えたのは、全身が赤い皮膚で覆われた巨漢のオーガだった。

 名前はガドル。ここの守備隊長であり、四天王No.4ヴォルグの直属の部下だ。

「出迎えご苦労、ガドル。……で、状況は?」

 俺は空中に浮かせたまま移動してきた自分専用の執務机(※便利なので持ってきた)から降り立ち、尋ねた。


「へい! 人間どもはビビって砦に引きこもってやす! 門も開けっ放しで、旗も降ろしてやがる。ありゃあ降伏の合図に違いねぇ!」


 ガドルが指差した先。数百メートル先にある人間族の石造りの砦は、確かに沈黙していた。

 城門は半開き。城壁の上に兵の姿はない。

 静かすぎる。


「……なるほど。で、お前たちはこれからどうするつもりだ?」

「決まってまさぁ! 全軍突撃で、中の食料と酒を奪い尽くす! ヴォルグ様からも『ガンガンいこうぜ』と指令が来てやすんで!」


 ガドルの後ろでは、百体近いオーガたちが斧や棍棒を掲げ、「肉! 酒! 女!」と雄叫びを上げている。

 欲望に忠実すぎる。野生動物かお前らは。


「はぁ……。ガドル、少しは頭を使え。あれが『空城の計』に見えないか?」

「クウジョウ……? なんすか、美味いんすか?」

「……いや、もういい。説明するより見せたほうが早いな」


 俺はメガネの位置を直すと、右手をかざした。

 魔力を薄く、広く展開する。イメージするのは「スキャン」。


 前世で言うところの、建物の非破壊検査だ。

「《広域構造解析エリア・スキャニング》」

 ブンッ、と微かな振動と共に、半径一キロ以内の「熱源」と「空洞」の情報が俺の脳内に表示される。


 ……やはりな。

「ガドル、よく見ろ。砦の地下と、左右の森林地帯だ」

 俺は指先から簡易的なホログラム(幻影魔法)を出し、地形図を空中に投影した。

 赤い点が敵兵の反応だ。


「あ、赤いのがあるっすね」

「砦の中は空っぽだが、地下通路に爆薬が仕掛けられている。お前たちが雪崩れ込んだ瞬間、砦ごと吹き飛ばす気だ。さらに、左右の森には伏兵の弓隊が五百。爆発で混乱したところを十字砲火にする完璧な布陣だぞ」


 俺の説明に、ガドルが目を丸くする。

 しかし、数秒後にはニヤリと笑った。


「へへっ、さすがヴェルト様! 敵の場所がわかりゃこっちのもんだ! なら、森の伏兵から先に潰しに行きやす! 野郎ども、進路変更! 森へ突っ込めぇぇ!」

「うおおおおお!」


 オーガたちが一斉に森へ向かって走り出す。

 ……だめだこいつら。

「まて、止まれ! 森の中は罠だらけだと言ってるだろうが!」

 俺の静止も聞かず、彼らは暴走機関車のように駆けていく。

 森に入れば、地の利は人間にあり、魔族の巨体は格好の的だ。

 わかっていない。

 このままでは損耗率(死亡率)が40%を超える。

 部下が減れば、その補充要請書を書くのは俺だ。

 遺族への補償金計算をするのも俺だ。

 そんな面倒な残業は、断固として拒否する!


「……仕方ない。《強制執行フォース・オーバーライド》」

 俺は懐から一本の杖(ただの指揮棒だが、魔力伝導率は最高級)を取り出し、地面に突き立てた。


「土木工事の時間だ。《地形操作:平地化フラットニング》」


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!

 大地が鳴動した。

 俺の魔力が地面を波打たせ、物理的に地形を書き換える。


「な、なんだぁぁ!?」

 走っていたオーガたちが転倒する。

 そして、彼らの目の前にあった鬱蒼とした森の木々が、まるで沈むように地面に飲み込まれていく。

 同時に、砦の地下空洞も強制的に土で埋め立てられ、爆薬ごと圧殺されていく。

 数秒後。


 そこには、木一本、草一本生えていない、完全な更地が広がっていた。

 隠れていた人間族の兵士たちが、隠れ場所を失い、ポカンとした顔で平原に立っている。


「え……?」

「森が……消えた……?」

「俺たちの伏兵作戦が……」


 人間たちも、魔族たちも、全員が動きを止めた。

 戦場に、気まずい沈黙が流れる。

「これで『隠れる場所』も『罠』もなくなったな」


 俺は杖を払い、淡々と言った。


「さあ、ガドル。今なら正々堂々の平原戦だ。好きなだけ殴り合ってこい。ただし、三十分以内に終わらせろ。俺は帰って日報を書かなきゃならない」

「あ……ああ……」


 ガドルが引きつった顔で俺を見る。


「ヴェ、ヴェルト様……森を消すなんて、そんなデタラメな……」

「消してない。地下に埋めて圧縮しただけだ。後で腐葉土になって土地が肥えるだろう。農業改革の一環だ」

「の、農業……」


 一方、人間族の指揮官らしき男が震えながら叫んだ。

「ば、化け物だ……! 地形を変えるなんて、魔王クラスの魔人がいるぞ! 撤退! 総員撤退だぁぁ!!」


 罠を無効化され、遮蔽物もない平原でオーガと戦うのは自殺行為だ。

 人間軍は蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。


「お、おい待て! ……あーあ、行っちまった」

 ガドルが残念そうに斧を下ろす。

「ヴェルト様ぁ、逃げられちゃいましたよ」

「深追いはするな。こちらの被害はゼロ。砦も(埋まったけど)制圧した。十分な戦果だ」


 俺は懐中時計を確認する。

 到着から十分。よし、これなら定時までに城へ戻れる。

「さて、撤収準備だ。あとガドル、今の地形変化で発生した地盤沈下の調査報告書、明日までに提出しておけよ」

「えっ!? 報告書っすか!? 俺、字が書けねぇっす!」

「なら、書けるようになるまで減給だ」

「そ、そんなぁぁぁ!!」


 西の空に、オーガの悲痛な叫びが響き渡る。

 俺はそれをBGMに、満足げに帰還の魔法陣を展開した。

 とりあえず、今日の業務(トラブル対応)は完了だ。


 だが、この時の俺は知らなかった。

 逃げ帰った人間軍が、「魔王軍に規格外の化け物が現れた」と大騒ぎし、王都から『勇者』が派遣されることになるなんて。

(続く)


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