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第11話:涙

本日はアピサル視点です!

お楽しみください!

 ━━━━━━━━━━━━━━━

 第11話:涙

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 ――ドスッ



「アピサァァァァァァァル!!!!」



 わらわの愛しい人が叫んでいる。

 わらわだけを見ているその目が愛おしい。

 わらわを心配してくれているその気持ちが愛らしい。

 わらわに向けるその思い全てが愛くるしい。



「ガルド=イグノアの炎よ!魔王を滅せよ!!」



 神の炎が、体の内側から、わらわを焼き焦がしていく。

 全身が炎に包まれる感覚と共に、愛する存在の叫びが大きくなっていく。

 それがうれしい。



(だけれど――)



 思い人が焦ってしまっている現状が憎い。

 愛する人が心配してしまう弱さが憎々しい。

 魂で繋がる未来の旦那様が拒絶される世界が忌ま忌ましい。



(――全てが!我慢ならない!!)


「――アァァァァァァッッ!!」



 わらわは叫ぶ。

 愛する人との邪魔をする全ての存在を否定するように。



「――アァァァァァァッッ!!」



 心臓を貫かれていようが関係ない。

 神に能力を封じられていようが関係ない。

 今まさにこの身の全てが焼き尽くされようとしていようが関係ない。



(わらわの絶望の全てを深淵に変える!)



「【深淵魔法】――≪奈落の領域展開(アビス・ドメイン)≫!!」



 わらわの叫びと共に、世界が塗り替わる。

 灰色だった大地が、漆黒に染まる。

 空が、闇に覆われる。

 視界に映る全てが――

 深淵へと、書き換わっていく。



挿絵(By みてみん)



「な、何だこれは!?」


「地面が...闇に!?」


 聖騎士たちが、動揺の声を上げる。

 その足元から、黒い沼が這い上がっていく。



「高度を維持しろ!黒い部分に触れるな!!」



 わらわに剣を突き立てる愚か者が叫ぶ。



「ガルバード団長も早く離脱を!」



 焦りが伝わってくる


 だが、遅い。

 既に、この空間の全ては――

 わらわの支配下。



「ふふふ...」



 わらわは、心臓を貫く大剣を深淵で包み込む。

 炎が、より激しくこの身を焼く。


 だが、構わない。

 痛みなど、愛する人の心配に比べれば些細なこと。



「貴様...!」



 団長と呼ばれた男、ガルバードが全身から炎を逆噴射の要領で発し、大剣を勢いよく引き抜く。


 そして剣が抜けると同時に噴射の方向を調整し、わらわの首を狙ってくる


 だが――



「この領域では全てが無駄よ」



 ――わらわの首が、深淵に包まれる。


 首と胴を分断するはずの一撃は、何の手ごたえも得ることなくするりと抜けていく

 深淵には、傷も、揺らぎも存在しない


 全ては深い闇に呑まれていく



「くっ...!神よ私に力を!【必中】【聖騎断罪】」



 ガルバードが、この世界の理による補正を受けた攻撃を、繰り出してくる。

 わらわの体を貫いた忌まわしき一撃



「その攻撃は、許さない――」



 神が作る世界において、神が作った理は絶対


 しかしここは、わらわの作った領域


 深淵の女王たるわらわが支配する絶対領域



 ――スッ



 神による理の補正を受けた必中の大剣は深淵を素通りしていく。


 必ず当たるという必中の因果も深淵の最奥に到達する事が出来ない

 剣が生み出す衝撃波、無限に広がる深淵の闇を旅することになる


 全ての概念が存在しない、忌まわしき虚無界を漂っていたわらわのように


 その斬撃は、どこにも到達することが無く、無限の時をかけて永遠に深淵をただようだけ



 ゆえに、この攻撃がわらわに届く事はない。

 世界が塗り替えられたこと、頼みの綱であるリーダーの攻撃が通用しない事

 宙に浮かぶ有象無象が動揺するのが伝わってくる



「セラス!」



 ガルバードが、叫ぶ。



「はっ!【強制コマンド】――【冷静維持】【陣形保持】!」



 女性の声。

 セラスと呼ばれた者の声が発せられると、動揺していた聖騎士たちの目つきが変わる。

 恐怖が消え、冷静さが戻る。



「第一、第三から第六、上空展開!」


「第七から第十二、地上遊撃!」



 セラスの指示が飛ぶ。

 聖騎士たちが、一糸乱れぬ動きで展開する。



(...厄介ね)



 わらわは、内心舌打ちする。

 強制コマンドというスキル


 おそらく、部下の精神を操作し、強制的に行動させるスキル。

 恐怖も、動揺も、全て消し去る。



(ランザとやらが暴走したのもこのスキルのせいでしょうね)



「全軍、加護最大出力!魔王を焼き尽くせ!!」



 セラスの命令と共に、12の聖騎士から炎が噴き上がる。

 赤い炎。

 金色の炎。

 蒼い炎。

 スキルと加護の合わせ技による、様々な理を含んだ炎が、わらわを包む。



「――っ!」



 深淵が照らされる。

 わらわの体を覆っていた深淵が、薄くなっていく。



(加護の炎...!)



 わらわを追い詰める神の加護。

 飲み込む深淵と、生み出す炎。

 相性は最悪。


 単純な出力勝負になる


 神による規制を無理やり開放しているわらわと、神の補助を常に受け続ける聖騎士たち

 神が人間に過干渉する世界ではわらわが不利


 しかし負けるわけにはいかない

 深淵女王が、深淵領域で出力勝負に負けるなんてあってはならない



「有象無象が調子に乗るな!」



 わらわは、深淵を解き放つ。

 地面から、黒い沼が溢れ出す。

 空から、黒い槍が降り注ぐ。

 四方八方から、黒い腕が伸びる。



「全隊!命を賭して団長の道を作れ!」



 セラスのスキルによって、わらわの攻撃を、スキルで、その身で受け止めていく聖騎士たち

 深淵で飲み込もうが、その身を削ろうが、加護の炎がその身を再生させていく


 冒険者を飲み込んだ時よりも数段深い深淵で飲み込んでいるというのに、比べ物にならない速度で復活してくる


 完全に屠ろうと思ったら、かなり力を込めた深淵で飲み込まなければならない


 そしてついに、ガルバードの大剣が、再びわらわの首に迫る。



「戦場で散る命を糧に燃え上がれ!!【聖騎断罪】!!」



 ――ズバァッ!



 3度目のスキル

 しかしそれは先ほどまでの威力は別物と呼べる出力を出していた



(ピー助の不屈同様、戦闘継続によって威力が増すタイプ...なんて厄介なの)



 大剣が、わらわの纏う深淵を越え、首を切り裂く。

 痛みが、走る。

 だが――



「――まだよっ!」



 わらわの深淵が団長と呼ばれる男の半身を削り取る



「団長!」



 そのまま全てを飲み込もうとするが、聖騎士たちが発する自爆とも思える加護の炎の激しさに拒まれる



「第三席、壁を!」


「了解!【炎の障壁】!」



 炎の壁が、体勢を立て直すための時間を稼ごうとする。

 だが、団長という精神的支柱を滅ぼさんと、深淵で炎を侵食していく。



「第四席、浄化を!」


「【聖浄の波動】!」



 光の波が、深淵を押し返す。

 だが、わらわは諦めない。

 さらに、さらに深淵を放つ。

 わらわの全てを、この戦いに懸ける。

 その時――



「【爆裂(エクスプロード)衝撃波(インパクト)】!!」



 聖騎士第二席、ディオンの声。

 先日、わらわに敗れた男。

 その恨みを込めた攻撃が、リュウトたちに向かう。



「主様!」



 加護の炎によって、火のモンスターと思えるほど豹変したランザとそのパーティ―メンバーからの猛攻を捌くのに手いっぱいだったマリエルが叫ぶ。



「――っ!」



 わらわは、視線を地上に向ける。

 リュウトが、わらわの愛しい人が、爆風に飲まれようとしている。



「させない!」



 わらわは、深淵でその衝撃を飲み込もうとする。

 だが――



「甘いな、魔王!」



 ガルバードの大剣が、わらわの翼を切り裂く。



「――っぐ!」



 体勢が、崩れる。

 深淵の展開が、一瞬途切れる。

 その隙に――



 ――ドォンッ!



 爆発が、リュウトたちを襲う。



「主様!!」



 マリエルの悲痛な叫び。

 今すぐにでも助けに行きたいのに、目の前の聖騎士たちが道を阻むように深淵を照らす



「魔王は、異教徒を放っておけないらしい!奴らを背にして戦い、魔王の注意をそらし続けるぞ!」


「「「「はっ!!」」」」



 本当に機転が利く厄介な敵

 目の前の敵に集中しなければいけないのはわかっているのに、どうしても愛しい人の方へと目がいってしまう



「主様!【神聖魔法】――≪障壁≫!!」



 視線の先では、爆風を防ごうとマリエルが、光の壁を展開する。

 天使変身した彼女の力であれば防ぎ切れるはず

 だが――



「ヒヨコの防御以外は警戒に値しねぇ!野郎ども【貫通】で突っ込め!!」



 ディオンの指揮の下、第二師団の聖騎士たちが、爆風の後押しをする可能ように突撃しマ

 リエルの生み出す障壁をあっさりと砕く



「――っ!!聖光魔法――【神聖属性付与】!!」



 障壁を砕かれたことで、手に持つ盾で突撃を受け止めるマリエル

 強化されたマリエルであれば、一人二人の攻撃なら軽く受け止められたであろうが、精鋭による同時着弾攻撃には姿勢を崩さ、吹き飛ばされてしまう



「ピピー!!」



 ピー助が、吹き飛ばされたマリエルの代わりにリュウトを守ろうとスキルを発動し、聖騎士と爆風を全てはじき返す。

 しかし――



「ガァァァァァ!!」



 ――暴走したランザと、そのパーティーメンバーたちを置いての防御の代償はでかかった。


 加護全開の一撃を横っ腹に食らうピー助。


 理性を失い、ただ敵を倒すことだけを考える狂戦士と化したもの達の攻撃がリュウトに迫ろうとする



「ピィィィ!!」



 しかし、吹き飛ばされるほどの衝撃から即座に体勢を切り替えたピー助が、ランザの剣を受け止めようとする


 しかし――



「【ガァァァ】!」



 攻撃が分裂しランザの分身が、四方から襲いかかる。



「――っ!」



 ピー助が、必死に防ごうとするがそれと同時に襲ってくるパーティメンバーの攻撃によって体制を崩され、傷を負っていく。



【不屈の心】。



 諦めない限り、戦闘継続時にステータスが向上するスキル。

 少しずつ、ピー助の動きが速くなっていくが、それでもまだまだ劣勢。


 そもそもの数が違いすぎる。

 復帰したマリエルも、光剣を無数に生み出し、自在に操ることで必死に第二師団を抑える


 光の剣が、聖騎士たちを貫く。

 だが、彼らは加護の炎で復活する。

 何度倒しても、立ち上がる。



(本当に忌ま忌ましい...)



 わらわは、焦る。

 リュウトが、危ない。

 守らなければ。

 だが――



「隙ありっ!」



 ガルバードの大剣が、わらわの背を切り裂く。



「――っぐ!」



 血が、噴き出す。

 深淵で傷を塞ごうとするが――



「【浄化の炎】!」



 聖騎士の炎で深淵が、焼かれる。

 傷が、塞がらない。



「――っ!」



 その瞬間――

 地上から、悲鳴が聞こえた。



「主様!?」



 マリエルの声。

 わらわは、視線を向ける。

 リュウトの腕から、血が流れている。

 ランザの剣が、掠めたのだ。



「――あぁ」



 わらわの中で、何かが切れた。



「――許さない」



 わらわの声が、低く響く。



「――許さない、許さない、許さなぃぃぃ!」



 わらわの愛する人を、傷つけた。

 それだけで――

 全てを、滅ぼす理由になる。



「【深淵魔法】――」



 わらわは、全ての力を解放する。

 封印されていた力。

 システムに制限された力。

 その全てを、無理やり引き出そうとする。



「――ぐっ、あああああああっ!!」



 脳に、激痛が走る。

 本来のレベルを超えた魔法発動をしている最中、さらにギアを上げていく。


 それは、術者自身を蝕む諸刃の剣。

 だが、構わない。

 わらわは、かつて己の技術でレベルMAXまで到達した。

 概念すら操作するに至った魔法。

 その記憶が、わらわの中にある。



(神の枷なんて――外してしまえばいい!)



 わらわは、魔法のレベルを強制的に引き上げる。



 Lv5。

 Lv8。

 Lv9。


 そして――



「――【深淵魔法Lv10】!!≪絶望(デスペア)()大渦(メイルシュトローム)≫!!」



 深淵に飲まれた世界に一つの点が生まれる


 点は渦になり、全てを飲みこむために吸引をしながら拡大を続ける



「な、何だこれは!?」


「離脱だ!急げ!!」



 聖騎士たちが、混乱し、逃げようとするが既に遅い

 絶望の大渦は一瞬で膨れ上がり聖騎士たちを飲み込んでいく



「――っぐあああああ!!」


「た、助けて――」



 悲鳴が、響く。

 一人、また一人と深淵に飲み込まれ、11の師団のうち、半数が一瞬で、消えた。



「――っ!」


(最高深度の深淵で飲んだ、復活するにしても時間がかかるはず...ここで決めるわ!)



 形勢逆転。わらわは攻勢に出ようと前のめりになる



「【献身の炎】!!」



 その時、何度も浄化で邪魔をしてきた女が叫ぶ。

 その瞬間――


 女の体のいたるところに深淵の大渦の様なねじれが生まれ、体が幾重にも引き裂かれる



「――ぐっ、があああああっ!!」


「ミレイユ!」



 女――ミレイユの体が、無数の傷で覆われる。

 貫かれ、切り裂かれ、噛み砕かれる


 そして彼女が傷を負えば負うほど、消えていったはずの騎士たちが復活していく


 傷の全てが、彼女一人に集約されていく。


 起きたはずの事実が書き換わる



「ミレイユ!!」



 聖騎士たちが、叫ぶ。

 だが、ミレイユは笑う。



「これが...私の、役目...!」



 血を吐きながら、ミレイユは微笑む。



「皆を...守る...!」



 そして――

 消えた聖騎士たちが何事もなかったかのように勢ぞろいしたときには。

 ミレイユと呼ばれた女の存在はどこにもなかった



「――っ!」



 わらわは、舌打ちする。



(あれだけの大技を、たった一人の犠牲で済ませた...!)



 厄介と思うと同時に、先ほどの献身と貢献に少しのまぶしさを覚えてしまう。

 わらわが愛しい人に対しどうあるべきかの回答を見せられたかのような衝撃



「ミレイユの犠牲を無駄にするな!!」



 ガルバードの叫びに、思考を隅に投げ捨てる

 その大剣が、さらに輝きを増す。

 仲間の犠牲が、彼の力を高める。



「【聖騎断罪】!!」



 さらに強化された大剣が、わらわの腕を両断する。



「――ぐっ!」



 深淵で防ごうとするが――

 炎が、深淵を焼く。

 傷が、深い。



(くっ...!)



 わらわは、深淵で傷を塞ぐ。

 だが、その隙に――



「【強制コマンド】【拘束の炎鎖】【遮断結界】【浄化領域】!」



 完璧なタイミングに統一された聖騎士たちのスキルが次々にわらわに迫る

 炎の鎖が、わらわの体を縛る。

 結界が、わらわの魔法を遮断する。

 浄化の領域が、わらわの深淵を弱める。



「――っ!」



 動けない。



(何て連携!あの指示を出す女を仕留めたくても、常に肉壁がそれを防いでいて届かない...大技ももう...!)



 セラスが、全体を統率している。

 各聖騎士のスキルを、最も効率的に使わせている。

 拘束、遮断、浄化。

 そして――



「団長の道を開け!」



 肉壁。

 何人もの聖騎士が、わらわと団長の間に立ちはだかる。

 わらわの攻撃を、体で受け止めるために。



「――っぐ!」



 わらわは、深淵を放つ。

 だが、聖騎士たちが盾となり、団長を守る。



「うおおおおっ!!」



 彼らが、深淵に飲まれる。

 だが、加護の炎で復活する。

 何度倒しても、立ち上がる。

 そして、その隙に――

 ガルバードが、接近する。



「【次撃強化】【聖騎――!!」



 大剣が、わらわの首に迫る。



「――断罪っ!」



 わらわは、深淵で防ぐ。

 だが、炎が深淵を焼く。

 防ぎきれない。



「――あああああっ!!」



 わらわは、さらに深淵を放つ。

 脳に、激痛が走る。

 魔法のレベルを、さらに引き上げる。


 Lv10を超え


 さらに、さらに上の領域、概念すら覆す


 わらわ本来のスキルの領域へ。



「――【深淵魔法LvMAX】!!」



 概念そのものを、塗り替えようとする。

 存在そのものを、否定しようとする。

 だが――



(足りない...!)



 あと一歩届かない

 今の段階ではどうあがいても発動させることができないと解ってしまう


 わらわの深淵が、炎に負ける。



(深さが...足りない...!)



 世界を呪うほどの絶望によって生まれたわらわの深淵魔法の深さが足りない。

 それは、まるで己の絶望何て大したことがなかったと、世界に言われているようで



「ふざけるなぁぁぁ!」



 わらわは、叫ぶ。

 このままでは――


 リュウトを


 やっとできた心がつながる存在を


 愛し合える最愛の人を



 ――守れない。



「魔王よ、観念しろ!」



 ガルバードの声。

 聖騎士たちが、わらわを包囲する。

 完璧な陣形。

 逃げ場がない。



「貴様の力は、確かに強大だ」



 ガルバードが、大剣を構える。



「だが、神の炎には勝てぬ」



 その言葉に、わらわは――



「――ふざけるな」



 低く、呟く。



「神? 炎?」



 わらわの瞳が、ギラリと光る。



「そんなもので...わらわの愛する人を奪えると思うな!」



 わらわは、決める全てを賭けようと。


 先ほど聖騎士を復活させるために深淵の全てをその身に引き受けたあの女のように


 この命を、この魂を、全てを――

 愛する人のために捧げよう


 この身が完全に消滅しようとも

 守り抜こう



(悠久の時を経て、愛する人とであったのに、その人と解れなければならない子の絶望さえあれば、届く!わらわの深淵は、神をも飲み込む!!)



 決意を固め、魂を燃やそうとした

 その時――



「アピサル!」



 リュウトの声が、響いた。

 わらわは、視線を向ける。

 愛する人が、こちらを見ている。

 傷だらけの体で。

 それでも、真っ直ぐに、わらわを見ている。



「深さが足りないって言うなら!」



 リュウトが、叫ぶ。



「俺が、その後押しをして見せる!!」



 その瞬間――

 リュウトの体が、光に包まれる。

【絆共鳴】。

 リュウトが、わらわとの共鳴を発動した。



「――っ!?」



 わらわの力が、リュウトに流れ込む。

 流れ込んだのは、深淵魔法。


 力が流れ込んだ時に確信した


 絆共鳴でレンタルされるスキルには――



(神の制限がかかっていない!?)



 ――つまり、創成級の力がたった一人の人間の器に流れ込もうとしている



「だめぇぇぇ!」



 わらわは、叫ぶ。

 最高位の肉体。

 最高位の精神。

 それらによって、初めて制御できる力。

 だが、リュウトは――

 ただの人間。



「――っぐああああああっ!!」



 リュウトの体が、深淵に飲まれ始める。

 身体が内側に向かって飲み込まれていく。



「ガアアァァッ――!」


「やめて! わらわの力を使わないで!!」



 わらわは、叫ぶ。

 だが、リュウトは――

 笑っていた。



「大丈夫...アピサル...」



 血を吐きながら、それでも。



「お前を...守るから...」



 その言葉と共に――

 リュウトの体が、完全に深淵に飲まれた。



「――リュウトォォォォォォ!!」



 わらわの悲痛な叫びが、戦場に響き渡る。



「リュウト!!」



 わらわは、叫び続ける。

 深淵の中に消えた、愛する人。

 わらわの力が、彼を飲み込んだ。

 わらわが、彼を殺した。



「――嫌、嫌、嫌!!」



 わらわの心が、砕ける。

 またなのか。

 また、愛した者を失うのか。

 深淵界で、何度も繰り返した悲劇。

 信じた者に裏切られ、愛した者に去られ、大切な者を失い続けた日々。

 その全てが、蘇る。



「――もう、嫌...」



 わらわの力が、揺らぐ。

 深淵の領域が、縮小し始める。



「――やめて...リュウト...」



 涙が、溢れる。

 深淵女王として、無数の命を支配してきたわらわ。

 その瞳から、透明な雫が零れ落ちる。



「今だ総攻撃!!」



 ガルバードの声。

 わらわの隙を、見逃さない。

 大剣が、光を纏う。

 これまでで最大の一撃。

 全ての力を込めた、必殺の斬撃。

 それが――

 わらわの首に、迫る。



「――どうでもいい」



 わらわは、呟く。

 愛する人が死んだなら。

 わらわが生きている意味など、ない。



「――せめて、一緒に...」



 わらわは、目を閉じる。

 大剣が、首に触れる。

 その瞬間――



「――アピサル」



 声が、聞こえた。

 わらわが愛する人の、声。



「――っ!?」



 わらわは、目を開ける。

 そこには――

 両腕を飲まれ距離を取ろうとするガルバードの姿と


 わらわの肩に乗りながら聖騎士に向かって手を伸ばすリュウトの姿

 だが、その姿は――



「そなた...?」



 彼の体は、深淵に侵食されていた。

 右腕が、黒く染まっている。

 胸元から、黒い霧が漏れている。

 瞳の一部が、深淵の色に変わっている。



「ごめん...アピサル...」



 リュウトが、苦しそうに笑う。



「力が思ったより凄くて、ちょっと手間取っちゃった...」



 血が、口から溢れる。

 体が、深淵に蝕まれている。

 このままでは――



「リュウト! やめて! 絆共鳴を解除して!!」



 わらわは、叫ぶ。

 だが、リュウトは首を振る。



「大丈夫...だよ...アピサル」



 リュウトが、前を向く。

 その瞳に、確かな意志が宿っている。



「この力は、俺とアピサルの絆の証なんだから...」



 リュウトの右腕――深淵に染まった腕が、動く。



「【深淵魔法】――」



 リュウトの口から、わらわの魔法が紡がれる。

 だが、その声は掠れ、体は震えている。



(駄目! やめて! そんなことしたら――)



 リュウトの体が、完全に崩壊する。

 深淵魔法LvMAXを超えた力。

 それは、人間の器には耐えられない。



「――【絶望の――」



 リュウトが、続ける。

 その体から、黒い霧が噴き出す。

 肌が裂け、血が噴き出す。

 骨が軋む音が、聞こえる。



「やめて! リュウト!!」



 わらわは、必死に叫ぶ。



「わらわは! そなたを失いたくない!!」



 だが、リュウトは――



「俺も...だ」



 微笑んだ。



「だから...お前を...守る...!」



 その言葉と共に――



「――【奈落(アビス)】!!」



 リュウトの体から、膨大な深淵が溢れ出す。

 それは、わらわの深淵を遥かに超える。

 いや――

 正確には、わらわの深淵が、リュウトを通して解放されたのだ。

 システムの制限。

 封印の枷。

 その全てを、リュウトの意志が打ち破った。



「――っ!?」



 ガルバードが、ランザが、聖騎士が深淵に飲まれる。



「何だこれは!?」


「団長! 下がってください!!」



 聖騎士たちが、叫ぶ。

 だが、遅い。

 深淵が、全てを飲み込む。

 地が。

 空が。

 そして――

 聖騎士たちが、次々と深淵に沈んでいく。



「――ぐああああっ!!」


「た、助けて――」



 厄介だった指示を出す女も

 リベンジに燃える槍使いも

 主の因縁の親友も

 加護の炎すら、深淵に侵食され身体を徐々に飲み込んでいく。

 あれだけやっかいだった復活が、追いついていない。



「セラス!撤退だ!!」



 ガルバードが、叫ぶ。



「【強制コマンド】――≪神殿転送≫!!」



 その命令と共に、その場にいた聖騎士やランザたちの姿が消える。



 ――静寂



 今の今まで激戦を繰り広げていた場所は、一瞬で無音の世界へと変わった

 だが――



「――っぐ、あ、ああああああっ!!」



 リュウトが、膝をつく。

 深淵の放出が、止まる。



「リュウト!?」



 わらわは、彼の元へ飛ぶ。

 リュウトの体は――

 ボロボロだった。

 全身から血を流し、肌は裂け、骨が見えている。

 右腕は完全に深淵に侵食され、黒く染まっている。



「――はは...やっぱ、無理...だったか...」



 リュウトが、力なく笑う。



「アピサル...ごめん...」


「何を謝るの!?」



 わらわは、リュウトを抱きしめる。



「そなたは...わらわを守ってくれたのに...!」



 涙が、止まらない。



「だから...だから、もう...!」


「ごめん...でも...」



 リュウトが、わらわを見上げる。

 その瞳は、優しかった。



「お前が...無事で...よかった...」



 その言葉と共に――

 リュウトの意識が、途切れた。



「リュウト!? リュウト!!」



 わらわは、叫ぶ。

 だが、返事はない。



「――っぐ...うっ...」



 わらわは、泣いた。

 声を上げて、泣いた。

 深淵女王として、誰にも涙を見せなかったわらわが。

 今、愛する人を抱きしめて、泣いている。



「主様!!」



 マリエルが、駆けつける。



「リュウト様! 今、治療を――」



 マリエルが、聖光魔法を放つ。

 だが――



「――っ!? 治らない...!?」



 マリエルの表情が、青ざめる。



「神聖魔法より高次元の魔法で出来た傷...私の魔法では...」


「そんな...」



 わらわは、絶望する。

 リュウトの傷は、深淵によるもの。

 わらわの力が、彼を蝕んでいる。



「主様...主様...!」



 マリエルも、泣いている。



「ピィ...ピィィ...」



 ピー助も、リュウトの傍で鳴いている。

 皆が、リュウトを心配している。

 だが――

 誰も、彼を救えない。



「――そなた」



 わらわは、リュウトの顔を見つめる。



「わらわは...わらわは...!」



 わらわが、彼を傷つけた。

 わらわの力が、彼を殺そうとしている。



「――やはり、わらわには...」



 愛する資格など、ないのか。

 深淵に堕ちた、元天使。

 裏切られ続け、愛を束縛に変えた、女王。

 そんなわらわに――

 誰かを愛する資格など。



「――ない...の...?」



 わらわの涙が、リュウトの頬に落ちる。

 その時――

 リュウトの体が、微かに光った。



「――っ!?」



 わらわは、目を見開く。

 リュウトの胸元から、温かな光が溢れ出す。

 そしてそれは一本の光となり、わらわの胸と繋がる


 これは――



「絆の...光」



 マリエルが、呟く。

 絆共鳴の力を通して、わらわの持つ深淵への耐性や生命力が流れていくのを感じる



「絆が...主様を...」



 光が、リュウトの傷を包む。

 深淵に侵食された右腕が、少しずつ元に戻っていく。

 裂けた肌が、塞がっていく。



「――リュウト」



 わらわは、彼の手を握る。



「そなた...生きて...」



 頼むから。

 わらわを、一人にしないで。

 その祈りが――

 届いたのか。

 リュウトの瞳が、薄く開いた。



「――アピサル...?」



 掠れた声。

 だが、確かに聞こえた。



「リュウト!!」



 わらわは、彼に顔を寄せる。



「よかった...よかった...!」


「あ、痛い...痛いって...」



 リュウトが、苦笑する。

 その声を聞いて――

 わらわは、また泣いた。

 だが、今度は――


 生涯において、はじめて経験する



 嬉し涙だった...



「――そなた」



 わらわは、リュウトに語りかける。



「わらわは...強くなる」



 何度でも。

 誰が相手でも。



「強くなって、今度こそ其方を守りきる。わらわの全てを賭けて」



 その決意を、胸に刻む。

 戦いは――

 まだ、始まったばかりだった。


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 第11話 了

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ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


第11話、いかがでしたでしょうか。

今回は初のアピサル視点での戦闘回でした。


「愛しい」「愛おしい」「愛らしい」「愛くるしい」

アピサルの独特な感情表現、伝わりましたでしょうか。


そして――


リュウトが絆共鳴でアピサルの力を使った代償と絆

いかがだったでしょうか?


もし楽しんでいただけたなら、

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次回もお楽しみに!

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