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昼飯を食ってから俺達は屋上を後にする。
佐藤は煙草を吸いに行った。
俺は佐藤を見送ってから職場に戻ると早速と言わんばかりに梶原がデスクから立ち上がってやって来た。
それから「美味しかったですか?」と聞いてくる。
俺は遊ぶ前の子猫みたいなその顔に「...あ、ああ」と返事をする。
「良かったです」
「...梶原。お弁当箱は洗って返すから」
「いえいえ。そんな手間をかけさせる訳にはいきません。渡して下さい。自宅で洗ってきます」
「あ、ああ。...でもありがとうな。今日は満足な日になったよ」
「え?これからも作りますよ?」
「これからも!?」
「そうですよ?言いましたよね?私は猛攻を止めませんって」
その言葉に俺は赤面する。
そして「冗談はよせ」と言うが梶原は「マジです」と笑顔になる。
そもそも梶原にそんなに世話になる理由が見つからない。
そう考えながら俺は「取り合えず今日だけで良いって。...お前の心労になるだろ」と言いながら俺は梶原を見る。
梶原は首を振った。
「きつくないんで」
「...」
そして梶原はニコッとしながら俺から弁当箱を受け取る。
それから小さく手を振って去って行った。
俺はその顔を見ながら溜息を吐く。
☆
今日も残業もあり約束していたのに夜遅くになってしまった。
約束の場所で彼女はずっと待つとか言ったが...流石に厳しい気がする。
もう午後9時だし。
考えつつ俺は小走りで公園に行くと墨田さんがベンチに座りそこに居た。
マジかよ。
「遅くなってしまった。すまない」
「お仕事お疲れ様です」
「...待たせたよな?」
「待ってましたけど待ったのは1時間ぐらいですよ」
「え...いや。そんなに。俺を無視して帰ってくれても良かったのに」
墨田さんは首を振る。
それからニコニコした。
「私、待つのはそれなりに得意なので。それに楽しみだったんです」と言いながら俺を見てくる。
目をぱちくりした。
そして俺は墨田さんを見る。
「...すまない」
「お仕事がお忙しいんですから。仕方がないですよ」
「...」
俺は先程コンビニで購入した缶ビールとつまみを取り出す。
すると墨田さんは「あ」と言う。
「?」を浮かべてから俺は墨田さんを見る。
それから「缶ビール同じものです」とニコッとする。
クラフトビールの黒だった。
「あ、ああ。そういうつもりはなかった」
「アハハ。分かってます」
「...」
「じゃあ乾杯しましょうか」
それから墨田さんはお酒を開ける。
黒のクラフト。
つまり黒ビールだ。
クラフトは売り場が限られていて高いけど美味しいんだよなこれ。
そう思いながら俺は缶ビールを開ける。
それから墨田さんと乾杯を交わす。
☆
暫く飲んでいると「そういえば...後輩の女性ですよね。あの女性は...その。...住山さんの管轄の女性なんですか?」と聞いてくる。
俺は「ああ。そうだな。深い意味はないよ」と言う。
墨田さんは「そうなんですね」と柔和な顔をする。
「どういう会社なんですか?」
「企業からホームページの作成を任せられたりとかする会社だ」
「つまり...宣伝とか?」
「ちょっと違うけど合っている部分もある。半分正解で半分不正解かな」
「新しくホームページを作るんですか?」
「そうだな。そんな感じ。新しく起業した会社のとかな」
それからあおっていると墨田さんの顔が赤くなっているのに気が付いた。
「今日はなんだか気分的にお酒が回りやすいです」と言う。
俺はその姿に苦笑しながら時計を見る。
時刻は10時になっていた。
そして「ここまでにしてお開きにしようか」と言う。
「今日こそは送って行くよ。流石に危ない」
「ですか?ありがとうございます」
そして墨田さんを抱えてから歩き出す。
墨田さんは少しだけぐったりしている...鎖骨が見える。
これはいかん。
そう思いながらそういう雰囲気を壊す感じでゴミとか荷物を持って歩きだす。
墨田さんから案内されて行き着いた先はマンションだった。
「ここに住んでいます」
「...そうなんだな。よし」
それから俺は案内されたマンション5階の部屋の前に墨田さんを連れて行く。
オートロックなどを解除した。
そして室内に連れて行った時...だった。
いきなり墨田さんが顔を上げた。
「住山さん」
そしてあろう事か。
いきなり墨田さんは俺の両頬を持ちキスをしてきた。
接吻ともいう。
俺は「!!?」となりながら墨田さんに「ちょ!」と慌てる。
それから墨田さんを見る。
唇をゆっくり離した紅潮している墨田さんは「実は酔いが少し覚めていました。これはお礼です」と笑顔になった。
お礼か...っていやダメだろこれ!?
倫理的に!