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第98話 階段(ステージ)の上の武装解除(ロマンス)

 大階段の踊り場に立つ、セラフィーナ。その眼下には、『影』に操られた王城近衛騎士団が、完璧な陣形で俺たちの前に立ちはだかっていた。その数、およそ三十。一人一人が、並の冒険者を遥かに凌駕するであろう、選りすぐりの精鋭たちだ。彼らが、虚ろな瞳で、一斉に剣を抜き放つ。カシャリ、という金属音が、大理石のホールに冷たく響き渡った。


「…さあ、どうします?」  セラフィーナが、バルコニーの上から、まるで観劇でもするように楽しげに問いかける。 「彼らは、王都の民とは違います。国に誓いを立てた『騎士』。あなた方がどれだけ足掻こうと、わたくしの命令の下、その命が尽きるまで、あなた方を排除し続けるでしょう」


「くそっ…! 最悪だ…!」  俺は、棍棒を握りしめながら悪態をついた。相手は操られているだけ。だが、その手には本物の剣が握られ、その動きには一切の躊躇がない。どうやって、これを…!?


「カイト殿、案ずるな!」  俺の隣で、ザラキアスが芝居がかった仕草で、すっと胸に手を当てた。 「こういう、数の多い、しかし魂を失った哀れな子羊たちを導くのは、我が最も得意とするところ!」 「うむ」ゴウガも、巨大な拳をゴキリと鳴らす。「俺が、全員、殴る。優しく」 「だから殴るな! 優しく殴っても、お前の『優しく』は頭蓋骨が砕けるレベルだろうが!」


 俺がツッコミを入れている間にも、騎士団はゆっくりと、完璧な歩調で階段を降りてくる。ジリジリと、包囲網が狭まっていく!


「こうなったら…!」ザラキアスが、何かを決意したように叫んだ。「我が『優しき夜の抱擁テンダーナイト・ハグ』にて、彼らの身ぐるみ全てを剥ぎ取り、羞恥心によって戦意を喪失させる!」 「やめろ、変態! そんな破廉恥な魔法、リリアの前で使うな!」 「むぅ! では、どうしろと!?」 「武器だけだ! 武器だけをどうにかしろ!」


 俺がヤケクソ気味に叫んだ、その時だった。 「――お喋りは、そこまでですわ」  セラフィーナの冷たい声が響き、騎士団の動きが、ピタリと止まる。そして、次の瞬間、階段の最前列にいた騎士たちが、一斉に床を蹴った!


「来るぞ!」  リリアが叫ぶ! 「もう、どうにでもなーれ! ザラキアス、やれ!」 「御意! 我が芸術、とくとご覧あれ! 『麗しき武装解除アンアームド・ロマンス』!」


 ザラキアスの指が、タクトを振るう指揮者のように、優雅な軌跡を描く。  次の瞬間、突撃してきた騎士たちの手から、剣が、槍が、そして盾が、ふわりと宙を舞った! まるで、見えない手によって、丁寧に抜き取られたかのように。  それだけではなかった。なぜか、彼らが被っていたかぶとと、履いていたブーツまでもが、一斉に脱げ、カランカランと音を立てながら、階段の隅に、まるで現代アートのように積み上がっていく!


「…………」  俺は、言葉を失った。  武器は取り上げた。だが、なぜ兜とブーツまで? 「むぅ…! 美しくなかったもので、つい…!」  ザラキアスが、何かをやり遂げた顔で胸を張る。


 しかし、騎士団は止まらない!  武器と兜とブーツを失い、なんとも言えない間抜けな姿になった騎士たちが、それでも虚ろな目で、素手のまま、俺たちに殴りかかってくる!


「中途半端だよ! お前の魔法!」  俺の悲鳴が、ホールに響き渡る!


「――今だ!」  その混乱を待っていたかのように、ゴウガが動いた。  彼は、階段の脇に設置されていた、装飾用の巨大な大理石の手すりを、バリバリという轟音と共に、引っこ抜いた。 「なっ…!?」騎士団の動きが、一瞬だけ止まる。 「ふんっ!」


 ゴウガは、その大理石の手すりを巨大な棍棒のように構えると、迫り来る騎士団に向かって、渾身の力で横薙ぎに振るった! 「リリア!」 「分かってる! 『聖光の護り(ホーリー・クッション)』!」


 ゴウガの攻撃が当たる、まさにその寸前。リリアが、騎士たちの前面に、分厚い光のクッションを展開する!  ボフンッ! という、間の抜けた音。  騎士団は、ゴウガの圧倒的なパワーと、リリアのクッションの反発力によって、一切のダメージなく、まるでボーリングのピンのように、次々と階段の上へと吹き飛ばされていった!


 数秒後。  踊り場には、武器も兜もブーツもない騎士たちが、セラフィーナの足元に、折り重なるように積み上がっていた。


「…………」  セラフィーナが、唖然とした表情で、自分の足元に「返送」されてきた手駒たちを見下ろしている。彼女の完璧な計画が、理解不能な連携(?)によって、ゴミのように処理されてしまったのだ。


「あらあら、まあ」  エレノアが、楽しそうに手を叩く。 「綺麗に片付きましたわね。まるで、お掃除みたい」 「掃除って…!」


 道は、開いた。  セラフィーナは、ようやく我に返ると、その美しい顔を、今度こそ本物の憎悪に歪ませた。 「…よくも…よくも、わたくしの騎士たちを…!」


「お喋りが過ぎたな、セラフィーナ!」  俺は、大階段を駆け上がりながら叫んだ。 「もう、あんたの歪んだ『秩序』ごっこは、終わりだ!」


 俺とエレノアが先頭に立ち、リリア、ザラキアス、ゴウガがそれに続く。  五人の、不協和音だらけの、しかし最強の家族(+α)が、ついにラスボス(たぶん)の待つ、最後のステージへと、その足を踏み入れた。

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