表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/101

第94話 影の門と、不協和音の突撃

 王都の正門があった場所は、もはや門と呼べるものではなかった。それは、まるで悪夢の口だ。脈動する『影』が、巨大なアーチを形作り、その奥からは、ひんやりとした絶望の匂いと、微かな悲鳴が漏れ聞こえてくる。城壁を覆う『影』は、石材そのものを黒く変質させ、その機能を奪い去っていた。


「…ひるむな! 全軍、突入!」  老将軍が、抜き放った剣を『影』の門に向け、張り裂けんばかりの声を上げた。 「先遣隊、続け! 聖なる光で、あの闇を切り払え!」


「「「おおおっ!!」」」 S S  神殿騎士を中心とした先遣隊が、聖なる力を武器に込め、光の矢となって『影』の門へと突撃していく。彼らの勇気は本物だ。だが…


「ぐわあああっ!?」 「だめだ! 剣が…すり抜ける!」 「光が…影に、飲まれる…っ!」


 悲鳴は、突撃した兵士たちから上がった。彼らの聖なる光を宿した剣は、まるで濃い霧を斬るかのように、『影』に何の抵抗もなくすり抜ける。そして、触れた者から順に、『影』がまるで粘液のようにまとわりつき、鎧ごと体力を奪い取っていくのだ。先遣隊は、ものの数秒で混乱に陥り、後退を余儀なくされた。


「くそっ…! 報告通りか!」  老将軍が、苦々しく吐き捨てる。後続の兵士たちも、目の前の異様な光景に完全に足を止め、恐怖の色を浮かべていた。士気が、目に見えて下がっていく。


「…将軍閣下」  エレノアが、静かに一歩前に出た。 「ただの『影』ではありませんわね。あれは、この世界の物理法則が、半分『死んで』いる空間。言うなれば、異次元との『穴』そのものよ」 「魔女め…! 解説はいい! 貴様らなら、どうにかできるのではないのか!」  老将軍は、もはやプライドもかなぐり捨て、俺たちに助けを求めるように叫んだ。


「まあ、専門分野ですわ」  エレノアは、その言葉を待っていたかのように、にっこりと微笑んだ。その余裕の態度に、将軍はさらに顔を歪ませる。 「ゴウガ」 「うむ」 「あのアーチ、物理的に『こじ開け』られますか?」 「…硬そうだ。だが、やれと言われれば、やる」 「結構よ。ザラキアス」 「はっ! 我が君!」 「ゴウガが道を開ける瞬間、影が彼を蝕むのを防ぎなさい。あなたの得意な、派手な魔法で、ね」 「ふははは! お任せを! 我が究極の輝きにて、あの忌まわしき闇を、一瞬たりとも我がゴウガに触れさせはしませぬ!」


 友…? お前ら、いつの間にそんな仲に…! 俺の内心のツッコミをよそに、二人は完璧な連携で前に出た。


「リリア」エレノアは、娘に向き直る。「あなたには、彼らの援護を。あなたの聖なる力は、影を払うことはできなくとも、私たちの『存在』を守る盾にはなるはず。結界を張って」 「…はい!」  リリアは、迷いを振り払い、強く頷いた。彼女は杖を構え、俺たち魔王軍全員を包む、温かな光の障壁を展開し始める。


「じゃあ、俺は?」 「カイト、あなたは」エレノアは、俺の目をまっすぐに見つめた。「連合軍の兵士たちを見ていて」 「兵士たち?」 「ええ。彼らが、恐怖で我々を『敵』と誤認しないように。あなたの力で、この場の『調和』を保ちなさい。…私たち全員の、背中を任せますわ」


 その、絶対的な信頼を込めた言葉。 「…了解だ」  俺は、短く応え、意識を連合軍全体へと広げる。恐怖、混乱、魔王軍への不信感…様々な負の感情が渦巻いているのが分かる。俺は、その全てを包み込むように、静かに『調停の権能』を発動させた。 (落ち着け…敵は、あそこだ…!)


「行くぞ、ゴウガァァァッ!」 「詠唱、開始! 天の怒りよ、我が声に応え、聖なる鉄槌となれ! 『破邪の光槍ジャッジメント・ランス』!」  ザラキアスの、いつもの大げさな魔法とは違う、純粋な光属性の攻撃魔法が放たれた! 紫電ではなく、白く輝く無数の槍が、『影』の門の一点に集中し、その侵食を一時的に焼き払う! 「今だ!」


「ゴオオオオオオオッ!!」  ゴウガが、獣のような雄叫びを上げ、その光がこじ開けた『穴』に向かって突進。そして、脈動する『影』そのものではなく、その土台となっている、変質した『城壁の石材』に、その巨大な拳を叩き込んだ!  ズウウウウウウウン!!!  大地が揺れるほどの、凄まじい一撃!  『影』ごと、城壁の一部が物理的に砕け散り、ついに王都内部への、新たな『道』がこじ開けられた!


「道が開いたぞ!」老将軍が叫ぶ。「続け! 魔王軍に遅れを取るな!」  騎士たちが、リリアの張った結界に守られながら、俺たちと共にその穴へと殺到する。


 俺は、混乱する兵士たちの心を鎮めながら、最後にその穴へと飛び込んだ。  王都の内部は、静かだった。  不気味なほどに。  人々は、まるで時間が止められたかのように、恐怖の表情のまま、黒い『影』の糸に絡め取られ、石像のように固まっていた。  そして、王城へと続く大通りの、その遥か先。  王城のバルコニーに、彼女は立っていた。  純白の衣装を風になびかせ、この世の終わりのような光景を、静かに見下ろす、白の聖女セラフィーナの姿が。


「…待ち構えていたか」  俺は、ゴクリと唾を飲んだ。  本当の戦いは、今、まさに始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ