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聖女様かと思ったら、パーティーメンバーのお母さん(しかも伝説の魔女)でした ~  作者: さかーん
聖女の娘は最強魔女!? そして母は…魔王になった件について
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第62話 魔王城の内装と、聖女からの手紙

 魔王城(仮)の改築は、控えめに言ってカオスだった。

 俺たちの家は半壊し、ドワーフの棟梁が率いる建築集団が、毎日カンカンと騒々しい音を立てている。そんな中、エレノアは四天王たちに新たな任務を与えていた。


「この新しいリビング…いえ、『玉座の間』の内装デザインを、お二人に任せますわ」


 その一言が、新たな戦いの火種となった。

「無論、威厳に満ちた黒と金を基調とし、壁には我が君の武勇伝を描いたタペストリーを飾るべきだ!」と主張するのはザラキアス。

「無駄だ。床は足腰を鍛えるための砂利敷きに、壁には武器の手入れをするための棚があればいい」と反論するのはゴウガだ。


 議論はあっという間に白熱し、ザラキアスが「貴様のような脳筋に、我が君の崇高な美意識がわかってたまるか!」と叫べば、ゴウガは「軟弱な飾り付けは、いざという時の防御の妨げになる!」と応酬する。しまいには、お互いのデザイン案をプレゼンするために、リビングの壁に直接、魔法でイメージ図を描き始め、壁が半壊した。


「お前ら、壁を壊すな!」

 俺が悲鳴を上げた、まさにその時だった。

 一羽の純白の鳩が、開けっ-放し-の窓から舞い込み、俺の目の前に一通の手紙を落としていった。その封蝋には、見覚えのある大神殿の紋章が刻まれている。

 そして、宛名は「英雄カイト様」となっていた。


 俺は胸のざわめきを覚えながら、封を切った。差出人は、白の聖女セラフィーナ。

 その流麗な文字で綴られていたのは、慈愛に満ちた、あまりにも残酷な言葉だった。


『――英雄カイト様。あなたの苦境、お察しいたします。かつて母であった者のそばで、心を痛めておられることでしょう。

 リリアは、強くあろうと日々、厳しい訓練に耐えております。母を失った悲しみを、世界を救う光に変えようと…。

 もし、あなた様がその闇から逃れたいと願うなら、あるいは、一目リリアの健気な姿をご覧になりたいのなら、大神殿の扉は、あなた様のような英雄をいつでも歓迎いたします――』


 俺は、手紙を強く握りしめた。

 これは、誘いなどではない。宣戦布告だ。俺とエレノアの関係に楔を打ち、リリアを完全に自分たちの手駒にしたという、セラフィーナの勝利宣言だ。

「お可哀想に」という文字が、俺を嘲笑っているように見えた。


 その頃、大神殿の対人訓練場は、静まり返っていた。

 中央には、リリアと、彼女の倍はあろうかという体格の神殿騎士が対峙している。


「はじめ!」


 開始の合図と同時、神殿騎士が猛然と突進する。だが、リリアは一歩も動かない。

 ただ、静かに目を伏せ、指先から一本の光の糸を放った。糸は騎士の足元で複雑な紋様を描き、次の瞬間、無数の光の枷となって騎士の全身を拘束した。騎士は身動き一つ取れずに、その場に崩れ落ちる。


「…勝者、リリア候補生」


 審判役の神官が、呆然としながら告げた。リリアは、表情一つ変えずに一礼すると、静かに訓練場を後にする。周囲の候補生たちが、畏怖と、少しばかりの恐怖が混じった目で見ていることにも気づかない。

 彼女の心は、セラフィーナの教えで満たされていた。

 ――情は、迷い。迷いは、弱さ。弱さは、悪。


 半壊したリビングで、セラフィーナからの手紙を握りしめる俺。

 静まり返った訓練場で、誰にも見せることなく拳を握りしめるリリア。

 俺は、この手紙が、リリアの魂を懸けた戦いのゴングなのだと、悟っていた。そしてその戦いは、俺たちが全く望まない形で始まろうとしていた。

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