表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女様かと思ったら、パーティーメンバーのお母さん(しかも伝説の魔女)でした ~  作者: さかーん
聖女の娘は最強魔女!? そして母は…魔王になった件について
61/86

第61話 二人目の四天王と、聖女の涙

 魔王城(仮)での平穏は、常に唐突に破られる。

 俺がザラキアスに「庭の家庭菜園に、勝手に『魔瘴竜の骨粉』とかいうヤバそうな肥料を撒くな」と説教していると、玄関の扉が、凄まじい勢いで吹っ飛んだ。


「ゴアアアアアアアアッ!」


 轟音と共に現れたのは、身の丈3メートルはあろうかという、巨大な獣人だった。筋骨隆々たる肉体は傷だらけで、その目は燃えるような闘志に満ちている。


「我こそは『百戦のゴウガ』! 新たなる魔王に我が牙を試さんと、はるばる参上した! 魔王はどこだ!」

「ああ、扉が…先週、修理したばかりなのに…」

 俺が頭を抱えていると、キッチンからエプロン姿のエレノアがひょっこり顔を出した。

「あら、お客様? ごめんなさいね、今、手が離せないの。カイト、お茶を出しておいてくれる?」

「この状況でお茶!? どう見ても、道場破りだろ!」


 俺のツッコミも虚しく、ゴウガはエレノアの姿を認めると、その巨大な体を震わせた。

「な…なんと…。魔王とは、これほどまでに愛らしいおなごだったのか…。だが、我は容赦せん!」

「待て、ゴウガ殿!」

 割って入ったのは、なぜか胸を張るザラキアスだった。

「我が君に刃を向けるなど、この四天王筆頭ザラキアスが許さぬ! だが、貴殿のその覇気、気に入った! 我が君の配下となるならば、この俺が直々に鍛え上げてやろう!」

「何だと、貴様が四天王…? 面白い、まずは貴様から血祭りにあげてやる!」


 こうして、俺の家のリビングで、四天王(自称)と四天王候補による、熾烈なポジション争いが始まってしまった。俺はもう、何も考えたくなかった。


 その頃、大神殿の最奥にある「祈りの間」で、リリアは膝を突き、一心不乱に祈りを捧げていた。

 彼女の目の前には、巨大な水晶が安置されている。水晶は、微かに黒い靄のようなものを発していた。


「祈るのです、リリア」

 背後から、セラフィーナの鈴を振るような声が響く。

「その水晶は、人々の心に溜まった『淀み』を映し出す魔法具。あなたの祈りで、その淀みを浄化するのです。世界を救う聖女となるための、最初の試練ですわ」


 リリアは、言われた通りに祈りの言葉を紡ぐ。しかし、水晶の黒い靄は、なかなか晴れない。むしろ、彼女の焦りに呼応するかのように、より濃くなっていく気さえした。

「なぜ…届かないの…」

「あなたの祈りには、まだ迷いがあるからです」

 セラフィーナは、リリアの肩にそっと手を置いた。その手は氷のように冷たい。

「あなたの母君…魔王エレノアへの情を、完全に断ち切るのです。彼女はもはや、あなたの知る優しい母ではない。世界を闇に染める、邪悪の根源なのですから」


「母様は…邪悪の根源…」

 その言葉が、鋭い棘となってリリアの胸に突き刺さる。

 脳裏に浮かぶのは、いつも優しく笑っていた母の顔。だが、セラフィーナの言葉が、その記憶を黒く塗りつぶしていく。

 ――世界のため。人々を救うため。

 リリアは奥歯を強く噛み締めた。その瞳から、一筋の涙がこぼれ落ち、祈りの間の冷たい石畳に吸い込まれていく。


「そうです、それでいいのです」

 娘の涙を見て、白の聖女は、恍惚とした笑みを浮かべていた。


 その日の夕方。

 魔王城(仮)では、なぜか意気投合したザラキアスとゴウガが、エレノアの作ったアップルパイを頬張りながら「我が君の作る菓子は宇宙の真理!」「うむ、この甘さが闘争心を癒す…!」などと語り合っていた。

 どうやらゴウガも、四天王(二人目)の座に収まったらしい。


 騒がしい食卓の片隅で、俺は一人、窓の外を見つめていた。

 リリアの涙など知る由もない。ただ、空に浮かぶ月を見て、あいつは今、何を想っているのだろうかと、胸を痛めることしかできなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ