表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/75

第6話 始まるって言っただろ?):朝食と、恋の妖精(迷惑)と

「……えーっと、とりあえず、お二人とも、ありがとうございます……?」


俺は、部屋のドアの前で火花を散らす(ように見える)美人母娘を前に、引きつった笑顔を浮かべるしかなかった。


右手にリリアの差し出すほかほかパン(と、期待に満ちたキラキラ瞳)。

左手にエレノアさんの差し出す高級そうなティーカップ(と、優雅だが有無を言わさぬ微笑み)。


どちらを取る? いや、どちらかだけ取るなんて選択肢は、俺には許されていない気がする……!


「あ、あの、せっかくだから、お二人とも、一緒にどうですか……? 俺の部屋、狭いですけど……」


俺がしどろもどろに提案すると、母娘はピタリと動きを止め、顔を見合わせた。


「「……ふふっ」」


え、なんで笑うの!?


「まあ、カイトさんがそう言うなら、仕方ありませんわね?」

「しょーがないなー、カイトのお願いなら!」


結局、俺の狭い安宿の一室で、とんでもなく場違いな(そして豪華な)朝食会が開催されることになった。右隣にリリア(パンをもぐもぐ)、左隣にエレノアさん(優雅にお茶をすする)。俺は真ん中で、生きた心地がしないまま、パンとお茶を交互に口に運ぶ。……味が、よくわからない。


そんなカオスな朝食を終え、俺たちが(なぜか三人で)冒険者ギルドに向かうと、掲示板に新しい依頼が張り出されていた。


『緊急依頼:妖精の森に出没する『恋戯れの妖精ラブ・プランク・ピクシー』の捕獲。被害:森林内の旅行者や商人に対し、一時的な混乱(主に色恋沙汰)を引き起こす花粉を散布。危険度:C(ただし精神的ダメージ大)。報酬:金貨10枚。備考:繊細な捕獲作業が求められるため、腕の良い魔法使い、または手先の器用な冒険者推奨』


「へー、恋の妖精? なんだか面白そうじゃん! ね、カイト、これ受けようよ!」

リリアが目を輝かせて依頼書を指差す。

「いや、精神的ダメージ大って書いてあるぞ……」

「大丈夫だって! 私の火魔法でパーッと……」

「だから、パーッはダメなんだって! 繊細な捕獲作業って書いてあるだろ!」


俺たちがいつものように漫才(?)を繰り広げていると、背後から穏やかな声がかかった。


「まあ、『恋戯れの妖精』ですって? 懐かしいですわね」

振り向くと、やはりエレノアさん。……もはやストーカーでは? いや、偶然、偶然のはずだ。


「母さん、知ってるの?」

「ええ、昔少し研究したことがありますの。あの子たちの花粉は、吸い込むと一時的に理性が飛んで、近くにいる相手に強い好意……というか、まあ、恋心のようなものを抱いてしまうのですよ。効果は数時間で切れますけれど、なかなか厄介ですわ」

「へー……」


(……なんか、ものすごく嫌な予感がするんですけど……!)

俺の第六感が、けたたましく警鐘を鳴らしている!


「報酬も悪くありませんし、カイトさんとリリアだけでは少し心配ですわね。よろしければ、わたくしもご一緒しましょうか? 監督役として」

監督役、という名の保護者(?)。いや、どう考えても事態をややこしくする役にしかならない気が……!


「えー!? 母さんも来るの? 別に私とカイトだけで大丈夫だって!」

リリアが不満げに口を尖らせる。だが、エレノアさんの「あらあら、心配ですわ」という微笑みには逆らえず、結局、この厄介そうな依頼に、俺たち三人で挑むことになってしまった。……ああ、神様。


――数時間後。俺たちは『妖精の森』と呼ばれる場所にいた。

その名の通り、深い霧が立ち込め、幻想的な……悪く言えば、方向感覚を失いやすい森だ。


「うわー、なんかすごい霧……」

「気を付けてくださいまし。こういう場所は、妖精たちの格好の遊び場ですわ」

エレノアさんが注意を促す。


俺たちは慎重に森の奥へと進んでいく。例の妖精は、キラキラした光を放ちながら、気まぐれに姿を現すらしい。


「あ! いた! あそこ!」

リリアが指差す先に、小さな光が数点、飛び交っているのが見えた。手のひらサイズの、可愛らしい妖精だ。だが、その手には……キラキラと輝く粉が入った小さな袋を持っている! あれが例の花粉か!


「よし、捕獲ネットで……!」

俺が特殊なネットを構えた瞬間、妖精たちは素早く散開し、ふわりと例の花粉を撒き散らした!


「「うわっ!?」」


俺は咄嗟に口元を覆ったが、隣にいたリリアとエレノアさんは、避けきれずにキラキラ光る花粉を吸い込んでしまったようだ!


「ゲホッ……! な、なにこれ……?」

リリアが目をしばたかせる。

「あらあら……ふふ、吸ってしまいましたわね……」

エレノアさんは、なぜか少し楽しそうだ。……え?


そして、次の瞬間。

母娘の様子が、明らかにおかしくなった。


「……あれ? カイト……なんだか、すっごく……カッコよく見える……!」

リリアが、頬をピンク色に染め、潤んだ瞳で俺をじーっと見つめてくる。え、なにこの乙女モード!? いつものリリアと違う!


「まあ……! 本当ですわ……カイトさん……今日のあなたは、一段と……素敵……。その困ったお顔も……愛らしいですわ……」

エレノアさんも、普段の余裕のある微笑みではなく、どこか熱っぽい、とろんとした表情で俺を見つめ、ふらふらと近づいてくる。


「「カイト(さん)……!」」


……え? えええええええええええ!?!?


両サイドから、普段とは明らかに違う、熱烈な好意(薬のせい)を向けられ、俺は完全に硬直した!

これが……これが「精神的ダメージ大」の意味かーー!!


「カイト、こっち来て!」

「カイトさん、わたくしのそばに……!」


母と娘、二人の美女(ただし理性蒸発中)が、同時に俺の腕を掴もうと迫ってくる!

背後からは、いたずらっぽく笑う妖精たちの気配!


(だ、誰か……助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!)


俺の悲鳴は、深い霧の中に虚しく響き渡った。

果たして俺は、この恋の(迷惑な)花粉が舞う森から、無事に生還できるのだろうか!?

そして、俺の理性と貞操(?)は守られるのか!?


カイトの受難は、本当に、本当に、終わりが見えない……!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ