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聖女様かと思ったら、パーティーメンバーのお母さん(しかも伝説の魔女)でした ~  作者: さかーん
聖女の娘は最強魔女!? そして母は…魔王になった件について
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第57話 四天王候補は、まず面接から

 パタン、と閉ざされた扉は、まるで俺たちの家族に引かれた境界線のようだった。

 リビングには、新魔王誕生に興奮冷めやらぬ役人と、なぜか「では、さっそく玉座のカタログを拝見…」なんて言いながら、嬉々として羊皮紙を広げているエレノアが残されている。


 この温度差は何なんだ!

「エレノア! 少しはリリアのことも…!」

「カイト様、魔王様。申し上げにくいのですが、早くも『四天王』への立候補者が一名、門前でお待ちです」


 俺の言葉は、役人の報告によって無情にもかき消された。

 早すぎるだろ! 発表からまだ数時間も経っていないぞ!


「通してちょうだい」というエレノアの涼やかな声に、俺は天を仰いだ。今はそれどころじゃないんだ。

 俺はエレノアと役人をリビングに残し、急いでリリアの部屋へ向かった。ノックもせず、勢いよく扉を開ける。


「リリア!」


 そこにいたのは、クローゼットから自分の服や装備を、カバンに詰め込んでいる娘の姿だった。

 家出は、ただの癇癪じゃなかった。本気だ。


「何する気だ、リリア。落ち着いて話そう」

「話すことなんてないわ」

 作業の手を止めずに、リリアは冷たく言い放つ。

「母様は魔王様になって、世界を救うのでしょう? カイトは魔王の伴侶様として、母様を支えるのよね。立派なことじゃない」


 その言葉には、棘があった。俺の胸がチクリと痛む。

「俺たちは家族だろ。お前も一緒に…」

「私は何?」


 リリアが、初めてこちらを振り向いた。その瞳は、決意と、そして隠しきれない寂しさで揺れている。

「魔王の娘? それとも、魔王軍のその他大勢の兵士? どちらも、私じゃない。私は、私の力で誰かの役に立ちたいの!」


 その時だった。階下から、やけに芝居がかった、朗々とした声が響き渡ってきたのは。


「おお! この荘厳なる魔力、この気高き空気! まさしく我が君、新魔王エレノア様のおわす『魔王城』に相違ない! 我、魔将軍ザラキアス! 四天王の座、いただくために馳せ参じましたぞ!」


 ……誰だよ、ザラキアスって。

 というか、ここを魔王城って言ったぞ、あの男。


 俺は頭痛をこらえながら階下を覗くと、そこにはマントを派手に翻し、恭しく跪く、やたらと顔のいい悪魔族の男がいた。クセが強い、というかクセしかない 。


「まあ、ご苦労さまです。ザラキアスさん」

「『ザラキアス』とお呼びください、我が君! さあ、我が忠誠の証として、この魂、そしてこの肉体! いかようにもお使いください!」

「あらあら、困ったわ。とりあえず、そこのソファにでも座ってお茶でもいかが?」

「ははっ! 魔王様直々のお言葉、光栄の極み! このザラキアス、一生分の栄誉を賜りました!」


 エレノアが、あの調子で完璧に「魔王様ムーブ」をこなしている。穏やかで強い彼女は、どんな状況でも自分のペースを崩さない 。だが、その完璧さが、今はリリアを追い詰めていることに気づいているだろうか。


 俺がザラキアスとかいう男に気を取られている一瞬の隙に、リリアは荷造りを終えていた。

 彼女は俺の横を通り過ぎ、部屋の出口へ向かう。


「待て、リリア! どこへ行くんだ!」

「私の力を、本当に必要としてくれる場所へ」


 そう言い残し、リリアは今度こそ家を出て行ってしまった。追いかけようとした俺の足は、リビングから聞こえてくるエレノアの声に止められる。


「カイト、困ったわ。ザラキアスさんが、四天王になるための『試練』を要求しているのだけれど」


 振り返ると、エレノアは少しだけ、本当に少しだけ、悲しそうに眉を下げていた 。

 強い母の、ほんの一瞬見せた弱い表情。だが、その視線の先にあるのは、家出した娘ではなく、目の前の面倒な四天王候補だった。


 世界を救うという大義。

 魔王という新しい役割。

 そして、暴走する娘の想い。


 絡み合った問題のどれから手をつければいいのかもわからないまま、俺はとりあえず「試練の内容は、まず書類選考からだ」と、目の前のナルシスト悪魔に告げるしかなかった。

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