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聖女様かと思ったら、パーティーメンバーのお母さん(しかも伝説の魔女)でした ~  作者: さかーん
聖女様かと思ったら、パーティーメンバーのお母さん(しかも伝説の魔女)でした ~
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第54話 嵐の後の凪と、知的好奇心の行方

 エレノラさんがギルドと衛兵に全てを報告してから、数日が経った。

 街は、表面上は何も変わらない。だが、俺の心には、確実に変化があった。……それは、圧倒的なまでの解放感!


 もう、いつ暗殺者に襲われるかとビクビクする必要はない(たぶん)!

 怪しげな裏路地に足を踏み入れる必要もない(はず)!

 訳の分からない評判に頭を悩ませることも……まあ、これはまだ若干残っているが、命の危険に比べれば些細なことだ!


「……ぷはーっ! 空気が美味い!」

 俺は、久しぶりに何の心配もなく街を歩きながら、大きく深呼吸した。ただの街の空気が、こんなにも清々しく感じられるなんて!


「カイト、なんか今日、変だよ? ニヤニヤしてるし」

 隣を歩くリリアが、訝しげな顔で俺を見る。

「変じゃない! これが普通なんだ!」

「ふーん……?」


 俺たちは、数日ぶりに、ごくごく普通の、低ランクの依頼……薬草採取の依頼を受けていた。黒曜の峰や旧水道遺跡に比べれば、ピクニックみたいなものだ。多少、ゴブリンやスライムに遭遇することはあっても、今の俺には(そして隣にはリリアがいる)、なんてことはない! ……はずだ!


(ああ……平和って、素晴らしい……!)

 俺は、薬草を摘みながら、しみじみと幸福を噛み締めていた。


 一方、俺たちの日常が平穏を取り戻しつつある中、エレノラさんは、精力的に『月の雫』の調査を進めていた。

 工房に籠もって文献を漁ったり、時には錬金術師ギルドの知り合いに話を聞きに行ったりしているらしい。俺やリリアにも、「危険のない範囲で」という約束通り、時々手伝いを頼んでくるようになった。


「カイトさん、少しよろしいかしら? この古文書の、この部分の解読を手伝っていただけませんか? 古代エルフ語で書かれていまして……」

「えっ!? お、俺、そんなの読めませんよ!?」

「あら、大丈夫ですわ。わたくしが読み方を教えますから。あなたのその……妙な『勘』が、何かヒントをくれるかもしれませんし」

 ……結局、俺の特殊(?)体質は、こういう形で活用される運命らしい。まあ、命の危険がないなら、いくらでも協力しますけど!


「リリア、あなたはこの薬草のリストを持って、懇意にしている薬草商のところへ行ってきてくださる? 最近、これらの薬草の流通に、何か変わった動きがなかったか、それとなく聞いてきてほしいのです」

「えー、お使い? まあ、いいけどさー」

 リリアは、少し不満そうだったが、それでもエレノラさんの頼みとあっては、素直に従っていた。看病の一件以来、彼女もエレノラさんには少しだけ頭が上がらない(?)のかもしれない。


 俺は、エレノラさんの工房で、彼女に古代エルフ語(基礎の基礎だけ)を教わりながら、古文書の解読を手伝うことになった。内容はちんぷんかんぷんだったが、エレノノラさんの隣で、静かに知的な作業に没頭するのは、なんだか新鮮で……悪くない気分だった。時々、彼女の真剣な横顔に見とれてしまうのは……まあ、仕方ない。(心の声:バレてませんように!)


 そんな穏やかな(?)調査の日々が、さらに数日続いたある日のこと。

 エレノノラさんが、興奮した様子で工房から出てきた。


「分かりましたわ! 『月の雫』の核心に繋がる、重要な情報が!」

 彼女の手には、古びた錬金術の記録簿が握られている。


「本当ですか!?」

 俺と、ちょうどギルドから戻ってきたリリアは、彼女の周りに集まる。


「ええ。この記録によれば、『月の雫』の製造には、『月長石』と『夜陰草の露』の他に、もう一つ……非常に特殊な『触媒』が必要らしいのですわ」

「触媒?」

「はい。それは……『星見の泉』と呼ばれる場所で、特定の周期でしか採取できない、『星の涙』という魔力を帯びた水……」


『星見の泉』……? 聞いたことのない名前だ。


「その泉は、この近辺には……?」

 俺が尋ねると、エレノノラさんは首を横に振った。

「いいえ……。記録によれば、その泉が存在するのは……遥か東方、人跡未踏の『迷いの森』の、さらに奥深く……」


 東方の、迷いの森……。

 それは、地図の上でしか見たことのない、伝説級の秘境の名前だった。


「……そんな場所まで、材料を取りに行ってるってこと……?」

 リリアが、信じられない、という顔で言う。


「あるいは、ギルドがその場所に拠点を築いているか……。いずれにしても、『月影のギルド』が、我々の想像以上に広範囲に、そして深く根を張っている可能性を示唆していますわ」

 エレオノラさんの表情は、再び険しさを増していた。


『月の雫』の謎は、新たな、そしてより広大な謎へと繋がっていった。

 俺たちの手から離れたはずの事件の影は、まだすぐそこにあり、そして、その闇は、俺たちが考えていたよりも、ずっと深いのかもしれない。


(……なんか、とんでもないことになってきたぞ……)


 俺は、遥か東方の秘境に思いを馳せながら、再び込み上げてくる胃の痛みを感じ始めていた。

 束の間の平穏は、どうやら、本当に束の間でしかなかったようだ。


 ーー

 ※一旦、完了いたします。ここまで応援してくださりありがとうございました。応援とても励みになりました。また、気が向いたら?再開いたしますm(__)m

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