第49話 次なる目的地、黒曜の峰へ
王立アカデミーから戻った俺たちは、早速リリアと合流し、互いの調査結果を共有した。
俺たちがアカデミーで掴んだ情報――『月長石』が黒曜の峰の廃坑道のような危険な場所でしか採れないこと、『夜陰草の露』も採取が極めて困難であること――を話すと、リリアは「ふーん……」と顎に手を当てていた。
「私もね、ギルドでそれっぽい噂、ちょっとだけ聞いたよ!」
リリアが思い出したように言う。
「最近、『黒曜の峰』の近くで、妙なローブの連中を見たって話とか……あと、珍しい鉱石を高値で買い取ってる怪しい商人がいる、とか……」
「!」
俺とエレノアさんは顔を見合わせる。リリアの掴んできた断片的な噂話が、俺たちの調査結果と奇妙に一致する!
「……間違いありませんわね」
エレオノラさんが、確信を込めて言った。
「『月影のギルド』、あるいはサイラスは、これらの希少な材料を、何らかの手段で入手している。そして、その供給源の一つが、『黒曜の峰』である可能性は非常に高い」
黒曜の峰……。街の北方にそびえる険しい山々で、その名の通り、黒曜石が多く産出されることで知られている。だが、同時に、強力な魔物が多く生息し、未踏破の地域も多い危険地帯でもある。廃坑道も、落盤や有毒ガスの危険があり、ギルドでも高ランク冒険者向けの探索エリアだ。
(……そんな場所に、行くってこと……?)
俺は、ゴクリと唾を飲み込む。図書館や、せいぜい裏路地とはワケが違う。本格的な危険地帯だ。
「決まりね!」
リリアが、ぱん!と手を叩いた。その目は、不安よりも好奇心と冒険への期待で輝いている。……こいつ、やっぱり分かってないな!
「黒曜の峰に行って、その怪しいローブの連中か、怪しい商人を捕まえればいいんでしょ!」
「待ちなさい、リリア」
エレオノラさんが、いつものようにリリアを諌める。
「目的は、あくまで『月長石』の供給源に関する情報収集と、可能であれば『月影のギルド』の痕跡を見つけること。戦闘は極力避けます」
「えー、つまんないのー」
「つまらなくありません。相手は、我々が考えている以上に用心深い可能性があります。慎重に行動しませんと」
そして、エレオノラさんは俺を見た。
「……というわけで、カイトさん。また少し、お付き合いいただくことになりますわよ?」
その微笑みは、有無を言わさぬ響きを持っていた。
(……ですよねー……)
俺は、もはや抵抗する気力もなく、力なく頷いた。俺の異世界ライフに、「安全な場所で待機」という選択肢は、どうやらないらしい。諦めの境地、深化!
「行き先は、『黒曜の峰』の中腹にある、比較的安全とされる廃坑道の一つ。まずはそこを調査し、最近人が立ち入った形跡や、不自然な採掘跡などがないか調べましょう」
エレオノラさんが、地図を広げて具体的な計画を立て始める。
「魔物の危険もありますから、装備は万全に。解毒薬や、照明用の魔道具も必要ですわね。それと……念のため、これも」
彼女は、工房からいくつかの強力な防御系の護符と、小型の発信機能付きの魔道具(!)を取り出した。……完全に、危険地帯へ赴く準備だ。
「カイト、今度こそ、私の活躍見ててよね!」
リリアは、武器の手入れを始めながら、意気込んでいる。
「……お、おう。足手ま Tarifiいにならないように、頑張る……」
俺は、エレオノラさんから渡された護符を握りしめ、大量の胃薬(自前)を荷物に詰め込みながら、ただただ無事を祈るしかなかった。
こうして、俺たちの次なる目的地は、危険な魔境『黒曜の峰』に決まった。
王立アカデミーの静寂とは打って変わって、次は本格的な冒険(という名の危険地帯探索)だ。
果たして、廃坑道で俺たちを待つものは、事件解決への手掛かりか、それとも新たな脅威か……?
俺は、これから始まるであろう山登り(と、それに伴う胃痛)を想像し、出発前だというのに、すでに疲労困憊だった。




