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聖女様かと思ったら、パーティーメンバーのお母さん(しかも伝説の魔女)でした ~  作者: さかーん
聖女様かと思ったら、パーティーメンバーのお母さん(しかも伝説の魔女)でした ~
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第43話 迫る足音、そして決死の(?)脱出劇

(ヤバいヤバいヤバいヤバい!! 見つかる!!!)


 俺の頭の中は、警報が鳴り響いていた! 部屋の奥から近づいてくる複数の足音! 間違いなく、俺たちの気配、あるいはさっきの物音に気づいたのだ!


 壁に張り付いたまま、俺は完全にフリーズしていた。心臓が口から飛び出しそうだ。隣のエレノアさんは……驚くほど冷静だった。いや、その瞳の奥には、強い警戒と、わずかな焦りの色が見える。


『――退却します! リリアと合流して! 急いで!』


 エレノラさんの、普段よりずっと切迫したテレパシーが、俺の脳内に直接響く!

 彼女は、俺の腕をぐっと掴むと、音もなく通路を引き返し始めた。同時に、彼女の周囲から、ふわりと濃い影のようなものが広がり、俺たちの姿をさらに深く闇に溶け込ませていくのが分かった。強化された隠蔽魔法か!


(に、逃げる!? でも、追いつかれたら……!)


 恐怖で足がすくみそうになるのを、エレノラさんの引っ張る力と、必死の気力でなんとか堪える! 音を立てないように、それでいて可能な限り速く! 後ろは見ない! 見る余裕なんてない!


 俺たちが角を曲がってすぐ、部屋から出てきたらしい複数の人影が、俺たちがさっきまでいた場所で立ち止まる気配がした。


「……おかしいな。確かに、何か……」

「気のせいじゃないか? ネズミか何かだろう」

「……いや、妙な魔力の残滓が……。念のため、周囲を調べてみるか」


 彼らの話し声が、壁越しに微かに聞こえてくる! ヤバい! 疑われている!


 俺とエレノラさんは、通路を駆け抜け(音はエレノアさんの魔法で消されている、はず!)、リリアが待機しているはずの、最初の部屋へと転がり込んだ。


 リリアは、俺たちのただならぬ様子を察して、すでに剣を抜き、臨戦態勢に入っていた!


『――リリア、退却よ! 追手が来るかもしれない!』

 エレノオラさんが、素早く指示を出す。

 リリアは、一瞬悔しそうな顔をしたが、すぐに状況を理解し、頷く。


 俺たち三人は、再び息を殺し、今度は隠し扉から外の遺跡通路へと滑り出た。エレノアさんが、素早く扉を閉め、さらに何重かの偽装魔法を施していく。


「急ぎますわよ!」

 今度は、テレパシーではなく、小声で指示が飛ぶ。俺たちは、もはや転がるようにして、元来た道を中央貯水槽跡へと引き返した!


 途中、俺が持つ『魔力感知の水晶』が、後方で微かに反応を示した! 追ってきているのか!?

「エレオノラさん!」

「分かっています! このまま、一気に地上へ!」


 幸い、追手は本格的な追跡には至らなかったのか、あるいはエレオノラさんの偽装魔法が効いたのか、俺たちが中央貯水槽跡にたどり着く頃には、水晶の反応は消えていた。


 だが、安心はできない! 俺たちは、休む間もなく、ロープが垂れている古井戸へと急いだ。

 リリアが先に登り、次に俺、最後にエレオノラさんが続く。


 地上に出た瞬間、ひんやりとした夜風が火照った体に心地よかった。俺は、その場にへたり込み、荒い息を繰り返す。

「はぁ……はぁ……助かった……!」

 心臓が、まだバクバクと音を立てている。


「……ったく、もう少しで戦闘になるところだったじゃない!」

 リリアが、興奮冷めやらぬ様子で、しかし安堵の表情を浮かべている。

「……申し訳ありません。わたくしの隠蔽魔法も、完璧ではなかったようですわね……」

 エレオノラさんは、さすがに少し疲れた様子で、肩で息をしていた。彼女ほどの魔女でも、あれだけの魔法を連続で使うのは、負担が大きいのだろう。


「い、いえ! エレノラさんのおかげで助かりました! ありがとうございます!」

 俺は、心の底から礼を言う。彼女がいなければ、今頃俺たちは……。


「……ですが、敵にこちらの存在を感づかれたのは確かですわ。おそらく、あのアジトの警戒は、さらに厳重になるでしょう」

 エレオノラさんは、厳しい表情で付け加える。


「……それじゃあ、もう、あそこには……?」

 俺が尋ねると、彼女は静かに首を横に振った。

「ええ。少なくとも、しばらくは近づけませんわね……」


 俺たちは、なんとか危機を脱した。そして、『サイラス』が『星屑の砂時計』を既に『納品』したこと、彼らが俺たち(特にエレノラさん)を警戒していること、『月の雫』という謎の言葉……それらの重要な情報を得ることもできた。


 だが、代償も大きかった。敵にこちらの動きを察知され、おそらくはアジトの場所も(俺たちが特定したと)気づかれただろう。


 俺は、先ほど拾ったロックピックを、ポケットの中で強く握りしめた。

 この小さな金属片と、盗み聞きした断片的な情報だけを頼りに、俺たちはこれから、さらに用心深くなった暗殺ギルドと対峙していかなければならないのだ。


(……マジで、どうすんだよ、これから……)


 俺は、夜空を見上げ、深くて、重い、そして全く出口の見えないため息をつくのだった。

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