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聖女様かと思ったら、パーティーメンバーのお母さん(しかも伝説の魔女)でした ~  作者: さかーん
聖女様かと思ったら、パーティーメンバーのお母さん(しかも伝説の魔女)でした ~
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第41話 影の通路へ、そして見えし紋章

 夜。月が空高く昇り、街が寝静まった頃。

 俺たち三人は、再びあの古井戸の前に立っていた。昼間の喧騒が嘘のような静寂の中、井戸の底から吹き上げてくる冷たい空気が、否が応でも緊張感を高める。


「……行きますわよ」

 エレオノラさんが、静かに告げる。俺とリリアは、無言で頷いた。

 ロープを伝って、再び旧水道遺跡の暗闇へと降り立つ。前回よりも、空気はずっと重く、冷たく感じられた。


 松明の明かり(エレオノラさんが特殊な魔法で、煙も匂いもほとんど出ないようにしてくれた)を頼りに、俺たちは記憶を辿って中央貯水槽跡へと向かう。そして、問題の『綺麗な通路』の前に立った。

 昼間見た時よりも、その入り口は、まるで暗黒への入り口のように、不気味に口を開けているように見えた。


「……やはり、張られていますわね。隠蔽と、侵入者を感知する結界が」

 エレオノラさんが、通路の入り口に手をかざし、目を細める。俺が持つ『魔力感知の水晶』も、彼女の言葉を裏付けるかのように、微かに脈打つような光を発し始めた。


「わたくしが、これを一時的に無力化します。リリアは周囲の警戒を。カイトさんは……その水晶で、結界の反応の変化を見ていてください」

 エレオノラさんの指示に従い、俺たちは配置につく。エレオノラさんが、通路の入り口に向かって、静かに呪文を唱え始めた。彼女の指先から、複雑な光の紋様が紡ぎ出され、通路の入り口の空間へと溶け込んでいく。


(すごい……これが、高位の魔法……)

 俺は、エレオノラさんの高度な魔術を目の当たりにして、ゴクリと唾を飲み込む。同時に、水晶の脈動が徐々に弱まっていくのを感じていた。


 数分後。

「……よし、一時的にですが、結界は眠らせましたわ。効果が切れる前に、急ぎましょう」

 エレオノラさんが、額の汗をそっと拭いながら言った。水晶の光も、今は完全に消えている。


「了解! 行くよ、カイト!」

 リリアが、今度は先頭に立ち、音を立てないように慎重に通路へと足を踏み入れる。俺も、エレノノラさんに促され、後に続いた。


 通路の中は、外の遺跡部分とは明らかに空気が違った。湿っぽさが少なく、床も壁も、比較的綺麗に保たれている。そして……驚くほど静かだった。松明の炎が揺れる音すら、壁に吸い込まれていくような、妙な圧迫感がある。


 リリアは、エレオノラさんの指示通り、床や壁に物理的な罠がないか、注意深く確認しながら進んでいく。俺は、水晶を握りしめ、魔力の異常がないか神経を集中させる。(……といっても、ほとんど何も感じ取れないのだが!) エレオノラさんは、最後尾から、俺たちの進む先や周囲に、常に探るような視線を送っている。


 どれくらい進んだだろうか。通路は、緩やかに地下へと下っていく。途中、いくつか横穴もあったが、エレオノラさんの指示で、今は無視して真っ直ぐ進むことにした。


 その時。

「……!」

 俺が持つ水晶が、再び、微かに脈打った!

「エレオノラさん、これ……!」

 俺が小声で報告すると、エレオノラさんはすぐに反応した。

「止まって!」


 俺たちは、その場で動きを止める。エレオノラさんが、慎重に前方の壁に近づき、そっと手を触れた。

「……隠し扉、ですわね。そして、その向こうに、微弱ながらも……人の気配が……複数……」


(人が……!? まさか、サイラス……!? いや、複数って……!?)

 俺の心臓が、ドクン!と大きく跳ねる!


 エレオノラさんは、さらに壁を探り、やがて特定の一点を軽く押した。

 ゴゴゴ……。重い石が擦れるような、低い音が響く。(静かなはずの通路で、やけに大きく聞こえる!)

 壁の一部が、ゆっくりと横にスライドし、その奥に続く、新たな空間が現れた!


 その空間の入り口……床に埋め込まれた石版に、ある紋章が刻まれているのが、松明の明かりに照らし出された。


 それは、欠けた月に、蛇が絡みつくような……不気味で、それでいてどこか洗練されたデザインの紋章だった。


「……『月影のギルド』の……紋章……!」

 エレオノラさんが、確信のこもった声で呟いた。


 間違いない。俺たちは、ついに、彼らの縄張り……その入り口へとたどり着いたのだ。

 そして、この扉の向こうには、複数の『誰か』がいる……。


 俺は、ゴクリと唾を飲み込み、リリアと顔を見合わせる。リリアの顔にも、緊張と、ほんの少しの恐怖が浮かんでいた。


 エレオノラさんが、俺たちに振り返る。その瞳は、これまで以上に真剣だ。

「……ここから先は、本当の『敵地』です。覚悟は、よろしいですわね?」


 その問いに、俺は……震える声で、しかし、確かに頷くしかなかった。

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